鬼怒川温泉の廃観光道路 第1回

所在地 栃木県日光市鬼怒川温泉
公開日 2008.01.01
探索日 2007.12. 7


 例年、その年の一番始めに書くレポートを何にするかで悩む。
やはり一年の始まり、自分自身の士気を高める上でも、あまりしょうもないレポで明けたくないし、また、多くの読者様の「廃道初め」になるのかも知れないと思うと、そう軽々とネタを決定できないものだ。

 そんな中で、今年はわりかしすんなりと決定した。
表題は仮称なのだが、正式な道路名がまだ判明しないので、やむを得ない。
しかし、この道の状況をよく現すタイトルにはなったと思っている。


 華やぐ温泉郷の片隅に… 忘れられた観光道路

 絶景楯岩の秘められたルート?


 「東京の奥座敷」と呼ばれ、箱根と共に関東を代表する温泉場である栃木県日光市の鬼怒川温泉。 そこに廃道があるとの情報を手にしたのは、平成18年の夏頃だった。
情報提供者は、『険道と標識のページ』を運営する春日氏である。
どうもその廃道の途中には一本の隧道があるらしく、それより先は訳あって未調査だという。私は彼からその調査を託された形となって、いざ訪問の機会を覗っていた。

 そして、12月になってようやくチャンスが巡ってきた。
仙台に所用があり車で向かう途中、ここに立ち寄ったのである。(仕事で出張するときは必ず廃道に寄っていくというダメ人間の倹約術…)


 まずは下調べだが、鬼怒川温泉の場所はこちらを見ていただきたい。<マピオン
そして、最新の2.5万分の1地形図では右の通りである。

 少し説明しよう。
鬼怒川の温泉街は鬼怒川左岸に細長く広がっており、そこを国道121号が縦断している。
これに対して、国道のバイパスは平坦な土地の殆ど無い右岸を選んで開発され、その一部は「鬼怒川有料道路」として開通している。
有料道路が弧形のトンネルで貫く右岸の500mほどは、鬼怒川が特に鋭く山肌を削っており、そこには楯岩と呼ばれる奇岩が水面上100mまで一気に迫り立っている。
これは対岸から良く望まれ、観光ガイドにも載る景勝地である。

 そして、問題の隧道がある廃道というのは、有料道路が長いトンネルで貫く区間を、律儀にも地上にて通過しているのだ。
地図を一目見ただけでも、嶮しい地形が目に浮かぶようであった。



2007/12/7 12:18 

 地図上から想定される廃道の距離は7〜800m程度で、相当に荒れていたとしてもさほど時間はかかるまい。
あとは、例の隧道がどのような物であるか。
そこに注目であろう。

…私は、そう考えていた。

だが、その考えは甘かった。
隧道に辿り着くまでにも、なかなかに激しい展開が待ち受けていたのだ。




 町中の適当な駐車場に車を置き、チャリを下ろして廃道の入口があるという鬼怒川対岸の元町地区へと向かう。
この辺りでは国道121号が鬼怒川の両岸に、それぞれ現道とバイパスとして平行して存在する。
このうち右岸のバイパスは、この鬼怒川温泉にある「鬼怒川有料道路」と、もう少し北にある「竜王峡ライン」の二箇所が、栃木県管理の有料道路になっているので、お金を払いたくない多くのドライバーがこれらの区間だけ避けて現道へと出入りする。
そのために現道とバイパスとを接続する通りもしっかり国道に指定されているので、鬼怒川温泉街には国道121号ばかり縦横に走っている。

 写真は国道が鬼怒川を渡る「立岩橋」。
平日の真っ昼間だというのに、あまり広くない歩道にはおみやげ袋を手にしたおばちゃん軍団が、横いっぱいに広がって歩いていたので、私はその後を、気付かれないくらい間隔を空けてのんびりとついていった。
こんな光景も、全国区の温泉場ならではといった感じで微笑ましいのだ。(というか、普段から遭遇していたらいらついていたかもな)




 立岩橋から下流を眺めると、そこにはこれから向かうべき右岸の大断崖が見えていた。

妙にクリームがかった水の色に何となく腑に落ちないものを感じるが、取りあえず紅葉の混ざった峡谷の景色は美しいという言葉で括っても良いだろうか。
今ひとつピンと来なかったのは、まだ断崖が遠いと言うことと、逆光が激しすぎてよく見えなかったこと。

 そしてなにより、
全く道が見えないので実感が湧かなかった。




 右の画像は、立岩橋付近に数枚設置してある青看だ。
橋を渡った先にあるループ型の交差点用のものだが、目指す廃道の入口は、書き足した赤い矢印の所にある。
こちらから行くと、まずは鬼怒川有料道路の陸橋を潜って、すぐに左だ。




 実際にはこのような場所である。
特に特徴もなければ当然行き先の案内もない、ここを左奥へと進む。

 さあ、鬼が出るか蛇が出るか。




12:20 (0.0km地点)

 ここは温泉街のはずれで、近くに国道のループが幅をきかせているせいか、逆に人気が無い。

そんな場所が、この楯岩越えの道のスタートであった。
路幅は早速狭い。



 まもなく鬼怒川有料道路の陸橋の下を潜る。
橋の断面が変わっていて、まるで波のような曲線形を持っている。
ちょうどここの左に工場があって、この道は工場へのアクセスルートとして利用されていた。

 だが、これより先はもうゲートアウト…。

早速にして、立入禁止である。
古びたゲートが閉じていた。




 うーーむ。

  イイ感じだ…。


 このうら寂れた雰囲気…。
まさに、忘れられた道の匂いがプンプンする。
山奥ではなく、栄えた観光地の片隅にあるというのが、またいいのだ。

一本のバーゲートで容易に閉ざされてしまう細い道が、その向こう、杉の林の中に消えている。
もう何年も車が入っていないような気配がする。
この閉じたゲートの醸し出す雰囲気は、私のストライクゾーンど真ん中。
廃道の入口とはこうあって欲しいという、そんな欲望に忠実である。




 まずは左の看板。
もう何年も置かれたままのようで、下の方から錆が進んでいる。

通行止の理由は、落石などの危険とのこと。
一般車輌のみでなく、歩行者まで立入禁止と敢えて明記しているのは、同じ県内の塩那道路を思い出させるが、いずれにしても念の入ったことである。
また、管理主体は町であった(町道)らしく、この「藤原町」はつい先だって日光市の広域合併に組み込まれて消えてしまったが、鬼怒川や川治温泉を擁する、関東人には結構馴染みの深い名称だったと思う。

 だが、私にとって興味深かったのはむしろ、現役当時のものと思われるこちらの標識だ。(→)

一方通行により
一般車両通行止
15〜18

 現役当時には、時間帯ごとの片側通行が敷かれていたらしい。
このような道は、町中や狭い温泉場の路地などで見られるが、この先にあるのは人家など在るはずもない山岳道路だ。
それだけでも意外に思われるのだが、15〜18時という時間帯の設定も意味がよく分からない。
日光・今市方面から鬼怒川温泉中心部方面へ流入してくる夕方のラッシュが、かつてこの道を通っていたとでもいうのか。

 よく分からない。
だが、少なくともこの標識から言えることがひとつある。

かつて交通整理を要するほど利用されていた ということだ。






個人的な好みにズガンと突き刺さる始まりの景色。


そして期待に違わず出現する、白熱の廃道!


次回、刮目せよ!!