道路レポート 岩手県主要地方道葛巻安代線 黒森峠  <第三回/全四回>
公開日 2005.7.31


 絶語的峠道  …あ、ありえん!
 2005.4.27 11:12

5−1 絶語的下り そのはじまりは澄んでいた


 いま、私の体は、愛車と共に笹藪に埋もれている。

だが、振り返ればすぐそこに、県道である砂利道がある。
まだ、容易に戻れる。

しかし、

これから私が進もうとしている道もまた、県道なのだ。

紛れもなく、主要地方道30号、葛巻安代線。
黒森峠の安代側下りである。
そして、あともう2kmだけ下れば、そこは県道の終点である、国道281号線との合流地点である。
しかも、下りなのだ。
勢いだけで、なんとかなるか! も!




 峠の稜線の南に繋がる黒森山の頂。

景色的にも想像付くかも知れないけど、なんか音が聞こえてきそうでしょ?
寒空をわたる、天風の響めきが。

…いや、イメージだけでなく、本当に聞こえてたんでヨロシクっ!
さ、寒い。
こんな峠でチャリごと遭難したら、寒すぎる…。

ざわざわ
 ざわざわ…。


行ってきまーす!
 

 
 実は、タイトルに“絶語的”などといっておきながら、しっかり実況をしていたお茶目な私。
いやむしろ、これが最後の旅になったときのために、辞世の句のつもりで語っているわけだが、ともかく、ちょっと容量が大きいのだが、敢えて圧縮せずにそのままにしてある。
この臨場感を、そして、道の凄まじさを、体感して欲しい。

音を、風を、空気を感じて欲しい!

(左の画像をクリックし、ダウンロードしてお楽しみ下さい。
動画はavi形式ですが、QuickTimeにて再生できると思います。WindowsMediaPlayerの場合は、コーデック次第で再生可能です。)
 



 片手でカメラを構え、もう片手でなんとかグリップを支えながら、重力に任せて笹藪を蹴散らしてくると、あっと言う間に峠は遠ざかってしまった。

 しかし、意外に愉快である。
というのも、一見密度のある笹藪だが、細く背丈が低いために、チャリの重さでも突き進めるのである。
無論、かなりの急勾配であることも、功を奏している。
そして足元の土は痩山のため堅く、まるで路面のように、チャリを支えてくれた。

こいつは、思いのほかに、楽しい。

※右は振り返って撮影した写真。
 写真の上にカーソルを合わせると、峠の位置を表示します。



 しかし、なんという雄大な眺めだろうか。

 眼前に広がる山並みが、みな己よりも低く感じられる。
自分の足元が急激に落ち込んでいる事から来る錯覚もあるのだろう。
真向かいに盾状に座するのは平庭高原で、野田街道もやはり、この黒森峠の次は、あの山を越えていた。
その遙か向こうには太平洋があるはずだ。

 私は、ここで再び「廃道の実況者」となった。
そのVTRは左下の動画であるが、我ながら良いものが撮れたと思う。
私のボイスは悪ノリし過ぎなんで無視していただくとして、背景の音、木々の揺らめき、空気の透明感、そして、その走りを、堪能して欲しい。
この峠、口でどうこう言うよりも、見ていただく方が、一番だと思う。

 すごいところへ、きてしまった…。


 

 
  左の画像をクリックし、動画をダウンロードしてお楽しみ下さい。

動画はavi形式で、QuickTimeにて再生できると思います。
WindowsMediaPlayerの場合は、コーデック次第で再生可能です。
 





 峠から100mほど下った地点。


 左の地点から振り返って撮影。



 さらに100mほど下ると、笹藪は姿を消す。


 そして、伝説が始まる…


5−2  四十八曲の難所…どころのさわぎじゃない!


 さて、ここまで二つの動画と、幾つもの写真を見てきた方なら、もうこの峠が、車道としてどうこうというれう゛ぇるではないことが、おわかり頂けたと思う。
確かにこの下りは、舗装でもしていない限り普通乗用車が通れたようには、思えない。
 だが、
なんと轍があるのである。
轍とは言っても、おそらくは造林用のブルとか、そんな車輌のものだとは思われるが…、いずれにしても、何らかの車が通過していた過去がありそう。
或いは、強力なオフロード車なら、通れたか…?!

 しかし、景色の良い斜面を撫で切りにするような下りは、この峠にとって序の口でしかなかった。

峠から300m地点、

ここから始まる、伝説の下り。
南部牛方達が、四十八曲とおそれた道である。(←マジで)

※写真の上にカーソルを合わせると、道の位置をマーカーで表示します。
 キミの予想は、当たったかな?



 一つめのヘアピンカーブのあたりは、日当たりが良く、笹藪の代わりに一面の薄藪となっている。
おそらく、早春の時期を選ばねば大変な難行となるばかりでなく、路面が見えずカーブを見失って道をロストする恐れが高い。
この道の刈り払いなど、期待できないはずだ。

 ここまでは、下っていく心細さに興奮が勝っていたのだが、このすり鉢の底に落ちるような尋常ならざる下りを前に、再び恐怖心が。

途中で道がなかったりしたら、どうしよう。
実は行き止まりの造林道路だったりしたら…。


※写真の上にカーソルを合わせると、道の位置をマーカーで表示します。



 二つめのヘアピンカーブから、一つめのカーブを振り返る。

いや、「見上げる」と言った方がしっくり来る。

その勾配たるや、15%以上が確定。
九十九折りというゆったりしたイメージではなく、斜面のジグザグ道だ。

※写真の上にカーソルを合わせると、道の位置をマーカーで表示します。



 もう、マーカーは要らないよね。
おそらく読者の皆様の鍛えられた“廃道眼”ならば、ここまでのいくつかの景色で、道の傾向を掴み、あとは自然と道を見つけていけるはずだ。
この峠道では、そう言う能力が必要とされる。
視界が悪くなる早春以外の時期であるなら尚更だろう。

 この九十九折りには、最初のカーブから数え、8つの180度カーブが犇めいている。
いずれも曲率半径が2m程度(目測による)という、凄まじいばかりの急カーブである。
まさに、斜面を落ちるように下る!



 下る下る!

道幅が少し広い場所もある。

これから下っていく先である沢が真っ正面に切れ込んでいるが、近いようでかなり沢底はかなり遠い。
なお海抜は800mあり、目的地との比高は400mもある。



 下る下る下る!


 ところで、チラ見して、この写真を一枚撮っただけで通り過ぎてしまったのだが、

足元の20mほど下方に見える、良く切り取られた段は、この道と繋がっては いない?!

ひとしきり下ったあとになって、その事に気がついたのだが…、このブル道らしき下りは、あの段を無視して、さらに下に行ってしまったのだ。
何だったんだろう、あの段は?

そして、その謎の段の異変に気がついたのは、帰宅後に写真を確認したときだった。

震えが、走ったのを覚えている。




 拡大写真。

その、繋がっていない段の路肩って…

石垣?!

なんていうことだー! ダムダム…(←床を叩く音)
なんと重要な遺構をスルーしてきてしまったのか!!
この段こそが、県道として一応の車路を設けようとした名残なのかも知れないし、或いは、本来の黒森峠の道なのかも知れない。
それとも単に、斜面を保持するための施工かも知れないが、いずれにしても、かなり大規模な土木工事が、この山腹斜面で行われていた痕跡がある。

 トホホ、このお宝の全容を、誰か確認しに行ってくださいませんか…。
ちょっと私はもう、一人ではもう…。


 下る下る… 下りたいけど、 笹藪が!


ガサガサ ガサガサ…

道を見失いなわないよう、目を猫のようにして探す。



 下る中にも、比較的最近(とはいっても、ここ数十年の間か)に設置されたような、境界標?が埋められていた。
これは道に沿って何箇所もあり、一応はこの道も地籍か何かには役立っているようである。
まさか、県道予定線の表示ではあるまいな…。

ここにチャリで下っている輩はいるが、とても車輌交通が出来る有様ではないぞ。
 

 下る下る下る下る!

 ブレーキ常に全開!
整備不良のブレーキシューが、みるみる内に片減りして、ブレーキの効きが落ちてくる。
冗談でなく、本当にどんどんブレーキが効かなくなってくるし!

 狂ったようにヘアピンカーブが連続する。
もう見上げても、峠など見えない。
斜面のまっただ中だ!
 


 神経すり減らしまくり、ブレーキすり減らしすぎで、

何とか一段落。


今までが嘘のように穏やかな道が、現れた…。

私は、遂に下の車道に降りたのだと、そう思ったが、

実はまだ、中盤戦が始まったばかりだった。




 セカンドステージは

さらに凶悪化して、

俺を苦しめた。


 中途半端だけど、
 飯食うから…

 以下、次回。








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