道路レポート  
秋田県一般県道312号線 長岡冬師城内線 その3
2003.7.30



 鳥海高原へと至る一般県道312号線最大の難所が標高差300m以上を一気に上り詰める、横森から冬師に至る区間だ。
しかし、現県道はまだよい。
急な登りとはいえ、しっかりした2車線の舗装路であるから。
廃止された油田を縫うように走る旧道は、登りの最中に突如廃道化。
私を残したまま、道は霧の中に覆い隠されてしまった。

先の見えない叢に、急速に疲弊する精神力。
限界すれすれで、やっと開けた視界の先に、

 …道など、なかった…。


   

閉ざされし道
2003.6.26 9:45
 この光景には、月並みな表現だが、我が目を疑った。

恐れていたことであるが、背丈ほどもある藪を漕いでいるうちに、正規のルートを外れ行き止まりに来てしまったのかと思った。
しかし、僅かに赦された視界の向こうに見えるのは、確かにこれまで同様叢と化してはいたが、道のようである。
ここは、路肩はおろか、道の全てが崩落し消失してしまったらしい。
いまだかつて、これほどの廃道で、これほど壊滅的な崩落に出会ったことはなかった。

どうすれば良い。

一心不乱に歩みを進めてきた我が足が、一歩も動かなくなった。

どうすれば、良い?


 考えられる方法は二つ。
もと来た藪に引き返すか。
この崩落を攻略するかだ。

出来ることなら、もちろん攻略して先へと進みたい。
こんなときは、いつも愛車が邪魔に感じる。
身軽ならば、かつては道の脇の叢だっただろう崖際を、豊富な草木を足がかりに乗り越えることも出来るかもしれない。
しかし、これまでいくら叢とはいえ、それでもかつては道だった場所だけに、足元にはかすかな隙間があって、チャリを押して進むことも出来た。
だが、元々が道でもなんでもない場所は、見た目同じでも、その植生の密度が違う。
チャリなど、とても押して歩けそうにない。
弾き返されるだろうし、一歩間違えば、そのまま崖下に蹴落とされる恐れさえある。

怖すぎる。

 これまでの全ての経験を総動員して、この箇所の攻略の可能性を探った。
既に、この場所に達してから5分が経っていた。
ルートを何度も頭の中に計算した。
欠陥だらけの我が山チャリ計算機が、やっと答えをはじき出した。

―結果、
前進は可能。

 あとは、行動あるのみだった。
崖際の叢に進路をとって、ウィリーするようにして前輪を持ち上げると叢に押し込んだ。
チャリの重みを利用して、50cmずつ、道を切り開いていった。
セオリーどおり、チャリは崖側に、自身を山側に。
崩落の延長は、20mほど。

その、最も深く抉られた場所に到達。
はじめは出来るだけ崖から離れた進路を取っていたが、この場所だけはどうしてもチャリが宙ぶらりんになった。
思い出されるのは、松ノ木の悪夢ばかり。
崖下に見えるのは、どこまでも緑ばかりの斜面、その端は白い世界に没している。
落ちれば戻って来れ無いだろう。

あくまでも冷静だった。
チャリを片手に抱えると、大またの一歩を踏み出し、最難所を 超えた。

 廃道すらもかわいく思える猛烈なブッシュ。
これこそが、元々道でない場所を切り開くと言う困難なのだと実感した。
最後の手段にして、禁断としたい業だ。


私は、何しに入山しているのかと、ふと笑いがこみ上げてきた。
これが、山チャリなのかと、自問自答。
―答は、出なかった。


束の間の平穏
9:53
 戦いに勝利し、その先の道へとたどり着いた。
そこには、僅かだが路面が顔を覗かせていて、私の労をねぎらってくれた。
愛車の下半身には、至るところに千切れた葉やツタが絡みつき、取り除かねばとても自走できなかった。
押して歩くにも車輪が回らぬほどであったから。

束の間の休息。

 再び呑まれ
9:55
 しかし数十m進むと、再び道は深いブッシュに呑み込まれた。
もう、いい加減に泣きたい。
この先どれほど続くか分からない廃道を突き進むのは、肉体的な疲労以上に精神的に参る。
万が一の先へ進めなくなったら、今まで切り抜けてきた難所を戻る羽目になるが、それはもう、遠い世界の出来事のように現実感がない…、正確には思考がそこを逃避したくなるほど、嫌な事態であった。
しかし、時に現実は残酷なのを知っている。

はたして、この叢に先に、私の未来はあるのか?!

ガードレール
9:56
 再び長い藪を覚悟したが、その終焉は意外にあっけなく訪れた。
数m進むと、一段低い場所にガードレールが現れたではないか。
一瞬、他の道に出たのかとも思ったが、どうやら、路面上に積もった崩土の上を乗り越えただけらしい。
霧の中に孤立した、妙に新しいガードレールは異様であり、現実離れした景観を形成している。
しかし何はともあれ、これまでよりはだいぶマシな道となりそうで、心底ホッとした。

転げ落ちる落石のように、或いは草むらから飛び出してきたイノシシのように、私と愛車はそこへ脱出した。



 今来た道を振り返り、達成感に自己陶酔。
ヤッタよ。
また一つ、失われた道に、その轍を刻みつけたよ!

私の歓喜の絶叫は、誰の耳にも留まることもなく濃霧の山中に消散した。

 ここはどんな荒野かと思ったが、なんと“バリ3”!
ケータイは使えるみたいです、まったく問題なく。

あ、待ち受け画面に突っ込みは無用ですよ。
 海抜の高まりと共にますます深くなる霧。
びしょ濡れの全身は、機能停止しそうなほど寒い。

ガードレールだけが目立つ幅の広い路面は薄く満遍なく草生し、いずれは叢の海に呑み込まれてしまうのだろう。
再び道が消えぬことを祈りつつ、先へと進む。
崩落地と広場
10:03
 またも現れた大規模な路肩崩れ。
幸い元の道幅が広い分、今度は容易に通行できた。
しかし、基礎を宙に浮かせたままのガードレールが、ここが廃道であることを強烈にアピールしている。
一体、この新しそうなガードレールの設置にはどんな意味があったのだろうか?
ゆくゆくは全線を改良する予定があるのだろうか。
一応は「新・奥の細道」と言う遊歩道に指定されている区間だけに、永久に不通というわけにも行かないと思うのだ。
だがしかし、遊歩道としては距離が長いし冗長な気もする。
改良しても人気が出ることは、なさそうだ…。


 崩落地の先は砂利もしっかりしており、何度か自動車の往来した形跡がある。
久々に方向を転換するような大きな右カーブが現れたかと思うと、そこは広場のようになっていた。
現在の車道終点は、この広場と言うことだろう。
谷側には見たところ遮る物は何もなく、麓を一望できる景観地なのかもしれない。
地図を確認すると、現道もすぐ傍まで迫っており、合流地点も近い。
しかし、霧はそれら全てを断絶し、私に小さな世界しか見せようとしない。
通行止めの看板
10:10
 広場のあるカーブの先、再びまっすぐな登りを少し経て、進行方向に向けられた看板があった。
先へ進み、振り返ってみてみると、それは『工事中につき通り抜け出来ません』と言う案内であった。
通り抜けできないと言うのは正解だが、工事などされてはいなかった。
中途半端な改良振りは、工事中のまま放棄されているようにも思えるが。
いずれにしても、無期限に通り抜け不能な状況に変わりはなさそうだ。
 長かった登りは終わり、ここはもう仁賀保高原の一角である。
多数の池が複雑な地形を形成している上、高原と言うイメージに反して木々が生い茂り、地図なくしては道を誤るだろう。
旧道が現道に戻る部分は他の道も入り組んでおり、難解。
まあ、現道との間に距離はなく、適当に走っていても広い道に出さえすれば何とかなるとは思うが。
現道合流 
10:16
 しばらくぶりに、現道(一般県道312号線)に戻った。
立派な2車線の舗装路も、寒々とした霧雨の中通る車もまばらで、寂しげ。
わたしはそれでも、心からホッとした。
芯から来る寒さは深刻になっていたが…。
ああ、ローソン。
…コンビニが欲しい、あったかいジュースが、飲みたいなー。

 標高473mと記された標識が長いスノーシェードの入り口にポツンとあった。
これをくぐれば、久々に集落があるはず。

その先は、謎多き最終区間が待ち受ける。

その4へ

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