道路レポート  
国道343号旧線 笹ノ田峠 その2
2004.10.2


 

 下小黒山にて旧道は、現道に先駆けて峠の登りに入る。
ここから峠まで、しばし旧道は現道の上を行く。
現道には、高度を一気に詰める秘策があるのである。
それは、旧道を進めば見えてくる。



旧道 第一の区間 
2004.5.19 11:52


 敷かれているアスファルト、路肩のガードレール、カーブの度に現れる標識達。
それらは、かつてこの道に相応の重要度があったことを感じさせる。
現国道は、峠区間全線を別線として開設する大工事であったが、その工事は昭和50年代前半から段階的に平成初年度頃に掛けて行われた。
工事は主に大東町側の登りの改良から始まり、次いで峠にトンネル、そして陸山高田市側にはループ橋が施工された、ループ橋よりも下部の今私がいる辺りは、もっとも後に新築・旧線放棄された部分である。
結果的に言うと、このような廃態を示す序盤ですら、この峠の長い旧道の中では、もっとも与しやすい部分であったのだ。

比較的緩やかな勾配で、中平川の左岸の山林を蛇行しながら登っていく。



 路上に山側から大量の土砂が流入している部分があり、舗装が土砂に隠されている。
その様な部分では、早速草地化が進んでおり、チャリから降りて進まねばならないこともあった。
だが、まだこの段階では、ほとんどチャリに跨って進むことが出来る。
不安は感じていたが、「思いがけず良いネタになりそうだな」という嬉しさも感じた。
まだまだ、気持ちに余裕があった。



 総じて日向の部分は藪が路上にも浸食し、蜘蛛の巣や障害物も少なくない。
一方、写真の場所のような日陰では、降り積もった落ち葉によって路面は良く保存されており、ややぬかるみはするが、走行しやすい。
視界も良好である。

それほど急勾配という感じはないが、既に1kmほどの登りを経ており、崖下の集落は遠のいている。
見えていた集落はまだ下小黒山の一部だろう。
最奥の上小黒山は、まだもう少し先だ。


 同じ様な景色〜雑木林に囲まれた落ち葉の右カーブ、標識あり〜が繰り返される。
数多く残る標識類は、撤去された気配がなく、現役当時のままに残存しているようだが、“おにぎり”の発見はなかった。

陸前高田・水沢間の国道343号線は、この笹ノ田峠のみならず、大東町と東山町の間にも、ほとんど不通扱いの鳶ヶ森峠を有しており、県内でも整備が遅れた国道だったという印象がある。
今ではいずれの峠も快適にスルーできるが。




 上り詰めると、視界が開けた。
松や低木の茂るおそらくは伐採したまま放置されたような場所だ。
路面のアスファルトは、決して粗悪なものではなく、まだまだ罅なども少ない。
草を刈れば現役の道に戻れそうな様子だ。

この景色を過ぎれば、まもなく2km足らずの『第一区間』が終わる。
このまま峠まで孤りではなくて、幾度か現道にぶつかるのだ。



 杉の新しい植林地が前方に現れてくる。
下方から、車の走行音が届くようになる。
反対側から入ったらしい車の新しめの轍を見る。
現道が近いことが、分かる。

写真のような赤茶けた「警笛ならせ」は、この道では腐るほど見ることが出来る。
残っている標識は多いが、この「警笛鳴らせ」と「グネグネ」ばかりで、変化には乏しい。


 現道に一旦合流する。
出口は路上作業車の休憩スペースになっており、車内のオヤジに怪しむ目つきをもらった。
何も悪いことはしていないぞ。
少なくとも、この区間には一度も封鎖ゲートはなかったし、通行止とも書かれていなかった。
ただ、自然的に通行疎となり、荒れ果てただけだ。



 尼堤トンネルの旧道
12:08

 さて、ここでやや分かりづらい旧道の道筋を確認しておこう。
現在地は、図の右端から「第一区間」から左に進み、「第二区間」に切り替わる、その直前。
奇妙な線形を見せる現道に、初めてぶつかる地点である。
何度見ても特徴的な現道の峠の道形であるが、旧道は至って平凡なルート選定である。
峠までは、中平川の源流部支沢が浸食した深い山襞に沿って高度を稼ぎ、峠の先は坦々と山腹を縫って高度を下げている。
平凡だが、地形の険しさを感ずにはいられない線形でもある。
なによりも、現道に、旧道を改良して利用する区間がないというのが、いかに旧道が「困った道」であったかを表してはいまいか。

現在地が把握できれば、この先の道がまだまだ長いこともお分かり頂けただろう。
さて、続きだ。

 


 現道にぶつかると、そのまま立派な道を行きたくなるが、この峠の旧道トレースではいささかも現道を走ることを許さない。
そのまま現道を突っ切り、反対側に怪しい上り坂を見つけて、登っていくことになる。
まあ、そっちは後回しで、このトンネルが少し変わっているので紹介しよう。
新旧道の交差点の間近に見えるこのトンネルは、笹の田峠に7つあるトンネルの、陸前高田側から数えて2番目のものだ。
延長は二番目に長く、245mある。
延長は短いのだが、その短いトンネルの線形は、稀に見る大屈曲である。
手前の道路標識が、『トンネル急カーブ』と警告している。(英語で"Curve ahead"とも記されている)
図はちょっとオーバーなんじゃないのかと思いきや、本当に180度ターンなので、驚く。
ちなみに、このトンネルの名は尼堤トンネルという。




 


 尼堤トンネルも楽しいが、旧道も忘れてはいけない。
これが、旧道の入り口だ。
なかなか、気が付けない。
私も、地図があるにも関わらず、発見に苦労した。




 舗装はあるが、先ほどまでよりもさらに荒れている。
しかも、猛烈に急な、登りである。
顎を打つような(少しオーバーだな)急登坂で喘ぐと、すぐに登りは落ち着く。
こんな道が続けば、体が持たないところだった。
これでも旧国道だから、恐れ入る。



 向こうに見えるのは、尼堤トンネルを出たばかりの現道である。
イメージして欲しい。
写真を撮る私の背後、右手後方、今登ってきた急坂の下に一方の坑門があるのだ。
そして、他方の坑門は、前方右手にある。
トンネルがどれほどカーブし、どれほど登っているかが、想像つくだろう。
ループ橋にばかり目が行くが、ループに至るまでの高度稼ぎも重要であり、それを成し遂げたのが、3本のトンネルを纏う延長1500mにも及ぶ大ヘアピンである。
この大ヘアピンカーブの頂点が、尼堤トンネルなのだ。
このカーブ一つで、高度は一気に50m上乗せされる。



 嫌がらせのような盛り土が行く手を阻む。
現道の建設に伴い旧道を埋めたのだろうか?
別にそんなことをしてくれる意味が分からないが、約10mほど、旧道は地中に消えた。

しかし、チャリの機動力を生かしここを突破。
突破すればすぐに、現道に再接続となる。
あくまでも私の便宜上の命名だが、『第一区間』がここで終わり、『第二区間』に舞台は移る。
おそらくは、この先は今までの区間よりも古くに廃止されている。





 これが、第二区間の入り口である。
第一区間の終わりと同一の地点、現国道の反対側である。
登っていった旧道が、現道の3番目のトンネルである「高山トンネル(L=81m)」の坑門上部を巻いている。



第二区間 
12:14

 現道からは旧道ならではの急勾配で再び高度的優位に立つ。
新旧道が並走する場面では、いつも私は“高さ比べ”をしながら進む。
いずれ峠の高さは旧道の方が高いのだから、勝負の結果は見えているとは言え、実直に淡々と斜面に張り付く旧道に比べ、現道が最奥の集落を拾いつつも、さっきの大ヘアピンなどの近代的土木パワーをもって追い上げてくる様は、興味深い。

写真は、高山トンネル直上から、その先の高山橋を俯瞰する。
現道はかくも素晴らしいドライブコースである。
一方旧道は…。



 なにやらしょぼくれている。

これが、本来の山道の姿であろう。


いやいや、舗装されておりガードレール完備など、これでも山行が的には高規格か?
私がチャリで走って楽しいのは、無論こんな道である。
現道は、チャリの速度では飽きるだろう。
下りはいいだろうけどね…。



 しかし、今度の区間は恐れていたほど荒れていない。
急な登攀で一気に木々の中をすり抜け、崖を豪快に削った場所に脱した。
まだ峠には遠いが、尾根を越えていく海風は、私の火照った体に涼味を運んでくれる。
正面のもったりとした山は室根山(海抜895m)といい、浸食の進む北上高地の山々の中でも、形の美しい山である。





 路肩のガードレールの下は、現道がある。
その高度差は、はやくも20mにも及ばんとしている。
さらに、ほとんど真下のように見える谷底の集落は、上小黒山である。
そこに見えるアスファルトの広い道と、すぐ下に見える道とは、共に現国道である。
折り重なるような峠道というのは、こういう景色か?
峠越えのダイナミズム。



 朽ちて支柱だけになったカーブミラー。
高度のわりに荒涼たる景色は、風雨から遮る物のない断崖故か。
現道を意に関せずというか、とにかく一人峠を目指そうという心意気か、勾配は緩まらない。
ますます現道との高度差は広がるばかりだ。

そんな中、遂に現道の「奥の手」が出る。
いやー。
見た瞬間は、流石に言葉を失いました。

− 道路って、本当に良いものですね。






ルぅーーーーぅプ!






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