道路レポート  
国道343号旧線 笹ノ田峠 最終回
2004.10.9


 

 長かった笹ノ田峠の旧道探索もいよいよ最終場面。

“第5区間”だ。



 現道の様子
2004.5.19 13:42


 峠から、二度の現道による切り取りの危機を乗り越え辿り着いた分岐点。
どちらの道も下草が存分に蔓延っており、間違った選択をした場合のリスクは大きそうだ。

私はここで悩んだ。
地図を確認すると、旧道と現道の合流点は、恐らくここだ。
そのことが決め手となり、私は左の道を選んだのである。

目指すJR大船渡線摺沢駅の帰りの電車時間が近づいていたことも、その決断を後押しした。
いつ途切れるかと危うさを感じさる旧道と早く縁を切りたいという心理が働いていたことも否めないだろう。



 急な下り坂は一直線に現道を目指し、わずか50mほどで立派な舗装路にぶつかった。
現道に合流したのは、地点以来であり、1時間18分ぶりということになる。

正直、あっけない幕切れであった。
あの分岐を、右に行けばもっと旧道が麓まで続いていたのではないかという疑念が、生じたのも事実だ。

だが、いくら下りとはいえ、時間に限りがある中で、これ以上藪漕ぎを続けることは、しんどかった。
それに、もう峠を越えて久しいし、藪も深くなるばかりで、これ以上残された遺構はないと思われた。




 私は、そんなふうに自分に言い聞かせながら、この決着を納得しようと努力した。
さっきの選択に後悔もあったが、今から戻ることは、時間的ロスも少なくない。
つぎの電車に乗り遅れてしまうことは、乗り換えを3度もこなして帰らねばならない中、どうしても避けたかった。

なお、写真は現道との合流点を振り返り撮影。
正面の橋の左が、旧道への分岐点である。
見えている橋は銘板によれば「1972年」の竣工であり、想像以上に古くからこの峠の改良は進められていたことが分かる。

後ろ髪を引かれる思いで、現道の心地よい下りに身を任せる私であった。


 麓へ向けて下る国道は直線と橋梁を連続させた素晴らしいもので、築30年を越えている事を感じさせない。
しかし、この道の立派さは、「まだ旧道は続いていた」ことを、決定的に私に示した。

やはり、私の選択は、旧道を完全にトレースするという目的の前で、失敗であったことが明らかとなった。
素直に引き返して、あの分岐を「右」に入り直すことを考えたが、考えている一刻一刻にも、快調にチャリは麓を目指しており、引き返しへの精神的・肉体的なハードルは高くなる一方であった。

もう、その流れには抗えないと、自分自身に諦めをした。






 そして 
13:52

 10分後、私は汗だくで分岐点に戻っていた。

「やり残しを残したくない」という一心で、舞い戻ったのである。
分岐におけるタイムロスは、きっかり10分。

この先の旧道に、全てを委ねる決断をした。
だが、電車には遅れないよう、出来る限りの努力をしよう。

今度は躊躇いなく、右へ、突入した!




第五区間  藪 
13:52

 これまでで最も苛烈な藪が、私と愛車のあらゆる可動部を阻止せんと、現れた。

この状況でも、なお路面には一定の堅さがあり、かつては土煙を巻き上げながらトラックやバスも往来していたであろうことを想像させた。
しかし、その植生の密度は、愛車を押し戻そうと立ちはだかる。
私は漕ぎ足に力を込めて、力の限り藪を押し切った。
下りの勾配も、ここまで麓に近づくと大分緩まり、自重だけで下っていける状況にはない。

のんびりと草木と戯れている猶予はないのだ。
全力で攻略せよ!




 私がムキになって突き進むと、まもなく3度目の現道切り取りに見舞われた。
峠前も含めれば、もう4度目だ。

今度こそ、道路敷きは僅かも残っておらず、沢山ある手がかりの木々で全身と愛車を支えつつ、短い路面欠損を突破した。
正直、この写真を見ても私も良く思い出せない。
とにかく、急いで突破した、その印象だけだ。
引き返しなど考えなかった。




 現道が沢の上に見えた。
山肌に沿って蛇行を繰り返し、ときおり現道によってその路盤を切り取られてしまっている旧道。
現道は直線的な橋と切り取りで、峠と麓を短絡している。

この先、どこまでこんな劣悪な道が続くのだろう。
いつでも、「こんなに酷い道はないかも」と思いながら廃道をゆく私だが、ここも距離こそ短かったが、相当に悪かった。
現道切り取りに苦しめられる所などは、我が最悪道5本の指に入る「主寝坂峠旧道」に似ている。
もし登りでこの旧道を使わされれば、より嫌な印象は強まったことだろう。
ホント、今思えば陸前高田側の道はよかった。


 マント群落だ。

ツタを主体にした背の低い藪。

経験上、笹藪に次いで難解な藪である。
たとえ全くな平坦地であったとしても、10mに1分を要する様な藪だ。


え〜 まじで〜?!

間に合わないよー。
この道、ヤバイよ。
クソつまらね!



 うーおー

再び現道による切り取りです。

もう、いい加減に許ちて…

もう、脱出させて…。

もう、下手をして滑り落ちて現道に転がり出た方が楽なんじゃないかと思ったほど。

しかし、現実にはこの斜面は難所であり、転がり落ちれば怪我しかねない。

崖の上に生えた木々の幹がちょうどつり革のように手がかりになってくれたんで、なんとかここも突破。
突破して時計を見ると、14時01分。

さっき、黙って峠を駆け下っていれば、もう今ごろは麓に着いていたはず…。
自分で選んだ道とはいえ、ここでタイムリミットになったら、めちゃくちゃ悔しい。
たいして面白みもない激藪でタイムアウトって、サイテーだろ。




 斜面を越えると、再び旧道敷きだっただろう平坦部が現れ、しかも、今度は視界も開けた。
いきなり正面に現れたのは、プレハブ小屋。

なんだなんだ。
もう集落なのか??
脱出?!

どう見ても道の真ん中を遮るように建っている小屋の正面に回り込む。
ここの藪もススキが多くて難儀だった。
だが、景色の変化が嬉しかった。




 小屋は、使われてはいなかったが、かといって廃墟と言うほど古くも無さそうだった。
営林署の文字が見られたので、林業関連の飯場らしい。

堂々と旧道敷きの真ん中に建っているところからも、旧道敷きは正式に廃道とされ、営林署に払い下げられたようである。
まあ、これだけ何度も現道によって遮られている旧道など、もはや道としての価値など無いだろうからな。





 よっしゃ!

なんとかなりそうだ。
この先は、程度の良い草道となっている。
ここまで一面緑の道というのも、なかなかに新鮮な眺めである。
その路面は予想外に堅く、今までの憂さを晴らすように、そして失われた時間を取り戻すため、一挙に駆け下る私だった。

脱出は近いのか?!




 現道から久々に距離を置いた。
大きく切れ込んだ沢を迂回するために、山際に入り込んだためだ。
そして、急なヘアピンカーブで沢を渡ると、そこは一面に杉の枯れ枝が敷き詰められた広場だった。
ここまでは今でも車が入っているようだった。

ここの異様な道の広さは、県道時代の名残なのか、違うのか。
峠の両側で、同じ旧道なのにこれだけ印象の異なる道も珍しいかも知れない。

景色も変化に富んでいて面白い陸前高田側と、高度感のない藪の中を延々とカーブして下る大東側。




 今越えてきた沢には、振り返って見て初めて、そこにコンクリート橋のあったことに気が付いた。
欄干も親柱も何も残っておらず、橋上からはただの暗渠だと思った。

そして、この名の知れぬ廃橋が、笹ノ田峠探索最後の遺構であった。





フィナーレ 
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 営林署の旗が通行止のロープゲートにくくりつけられた最終合流点。
この先には、目立った旧道敷きは見あたらず、今度こそ、旧道の終わりだった。

ここからは、旧道を線形改良したらしい緩やかなカーブの連続する下りを1.8kmほどで、大東側最初の集落である松ノ木田に出る。
さらに田園を2.5kmほどで大東町の中心地である大原地区。
さらに国道343号線に従って小さな峠を一つ越えると、約8kmで摺沢駅のある、摺沢に到着する。
私の旅もあと、13kmほどで終わりである。

助かった。




 写真は、松ノ木田を通過中。

思えば笹の田峠旧道。
標高450mのわりに、前後のアプローチ区間の長さといい、旧道がほぼ全区間に存在するという点といい、攻略し甲斐のある峠であった。
はっきり言って、大東側はオススメしないが、陸前高田側はかなりお気に入りの旧道ともなった。
やはり、あのループが眼下に現れた時の衝撃は忘れられない。

レポの便宜上、攻略した順序に陸前高田側から第1〜第5区間と区切ったが、概ね旧道から現道への改築工事もこの逆順に、大東側から一区間ずつ行われていったらしく、総じて1〜5の数字が道の荒れ方に対応、そのまま攻略難易度にもなってしまったと思う。
例外的に、区間の途中にループ橋の展望台のある第2区間は第1区間よりも易かったが。




 一つの峠の終わりとして、この大原の交差点が相応しかろう。

私はこの後も、汗かきながら飛ばし、なんとか電車には間に合った。
体力をほぼ使い果たしてしまったらしく、車内での記憶はない。
乗り換え3回もして、帰宅は夜だったが、ほとんど寝っぱなしだった。

どうでもいいけど、北上線の夕方の列車の閑散ぶりは、やばくないか…。



とりとめもなく終了。

やっぱ、三桁国道の旧道は、楽させてはくれなかったです。

それと、今回のレポは、書き進めるうちから、どしどしと誤記のご指摘を頂戴してしまいました。
校正にご協力頂きました皆様。誠にありがとうございます。
久々の旧国道ネタで、舞い上がりすぎた?!







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