道路レポート  
国道13号線旧線 主寝坂峠 その2
2004.1.3



主寝坂隧道
2003.12.19 15:35


 昭和34年竣工の主寝坂隧道。
その延長は、808m。幅6.5m、高さ4.5m。(『山形の廃道』より)
この隧道は、現在国道13号線で供用されているトンネルの中で、最古のものである。
次いで、及位隧道(昭和35年竣工。改良済み)と、猿羽根隧道(昭和36年竣工。自専道バイパスあり)などが、やはり同じ山形県内で現役だが、前後の峠部分の線形を含め、ここ主寝坂隧道の難所ぶりは突出している。

大理石と思える立派な扁額には、達筆な文字で「主寝坂隧道 昭和34年3月竣工」と陰刻されてある。
もっとも、ドライバーの目に入ってくるのはこの扁額ではなく、すぐ脇に取り付けられた、今風の白看だと思う。


 隧道は埃にまみれてはいるが、竣工当時の原型を良くとどめている。
付近に迂回路が無いことから、長期間の通行止めを余儀なくされる断面拡張などの工事が受けられなかったのだろうが、本当に二車線いっぱいいっぱいの幅しかなく、主要国道のトンネルとしては、違和感がありまくりだ。
それと、もう一つの違和感の原因は、奇妙な内照灯の配列にある。
妙に中央によってナトリウムライトが2列配置されており、窮屈そうな印象を受ける。
通常の位置に設置すると、地上高の大きな車に接触すると考えたのだろうか?



 個人的に、私はこの主寝坂隧道の及位側坑門が大好きだ。
その理由は、多分、「雑多さ」にあると思う。
古色蒼然とした重厚な石組の坑門に、ごてごてと後付された近代的装備。
美しくないと感じる人も多いと思うが、私はこの「必死さ」が大好きだ。
竣工半世紀近い古隧道が、国道13号線という膨大な交通の要求に応えるべく、出来る限りの装備に身を固め、耐えているのだ。

それにしても、坑門上部に並ぶ白い反射板のようなものはなんだろうか?
ほかの隧道で見かけような記憶は、ない。


 坑門へ向かって左側、電話ボックスなどが設置されている裏に、今なお水を通す水路が刻まれている。
石組の隧道で時折見られる坑門脇の水路が、この主寝坂にも存在することを今回はじめて知った。
他の実装例としては、栗子隧道福島側坑門や、岩手県閉伊郡の雄鹿戸隧道などがある。



 さて、時間も限られているので、いよいよ隧道を潜ろうかと思った矢先、後ろから来た特大のトラックが、おもむろに坑門の前で停まった。
その後続車があっという間に列を成す。
私の見ているほんの10秒ほどの間に、車5台ほどによるプチ渋滞が発生してしまった。
大型車は、全く動こうとしない。
後続車も、静かに待っている。

長い。
この停車が、隧道の狭き故、対向車の通行を待っているのだということは分かっていたが、想像以上に長い。
延長800mの隧道を時速60kmで通り過ぎるのに要する時間は、約50秒。
つまりは、たった二台の大型車によって、この隧道では最大50秒の渋滞が発生しているのだ。

そんな計算をしているうちにやっと、轟音を纏って銀の車体が飛び出してきた。
迫力あるホーンの応酬。
長大な体を捻るようにして隧道へ進入する大型車。
ノロノロとそれに続く車の列。
私の脇を次第に速度を上げながら通り過ぎてゆく車列は、10台くらいに増えていた。

平日午後でこんな状態なのだ…。
流石に、この隧道の限界を感じた出来事だった。


 主寝坂隧道内部。
埃っぽい808mに十分な防災設備は無く、ひとたびトンネル内火災が発生したら大惨事は免れまい。
直線の隧道は及位側から金山側に下る片勾配となっている。
下る私の自転車はぐんぐんと速度を増し、出口では車列の速度に近いほどになり、飛び出した。



 金山町へ脱出。
国道はそのまま、先の見通せる長い右カーブで下っていくが、「金山町」の白看の左に伸びるわき道が目指すものだ。


 金山側坑門。
こちら側にも、まるで坑門に設置される標識の見本市のように、様々な標識がある。
きつい延命処置を受ける隧道も、現在この直下にてシールドマシーンの唸りと共に生まれつつある新主寝坂トンネル(仮称)の完成を待って、一線を退くと思われる。
ただし、3000m近い新トンネルを供する主寝坂道路は自動車専用道路として建設されており、将来に亘って、私の通り道はこの老兵に委ねられるものと思う。

辛いだろうけど、もう少しの辛抱だ。がんばれ、主寝坂隧道。



旧道の登り
15:40
 何の案内もないわき道だが、これが旧国道である。
昭和34年までは間違いなく利用されていたと思うが、舗装はすぐに途切れ、砂利道となる。


 入り口の段階で、この橋が見えている。
小さな橋を渡り、主寝坂隧道の上部へ巻き込んで登る。
この橋には銘板も無く、造りも平凡である。
足元の沢には砂防ダムがあり、河川工事によって現役時代の橋は架け替えられたように思う。



 幅の広い砂利道が、坑門の真上を通っている。
写真の左端に写る白いものは、坑門上部の謎の白い板に他ならない。



 現道を見下ろす。
丁度私が旧道に入ったとき、一台のRV車とすれ違った。
その車はそのまま国道を山形方向へと下っていったが、どんな目的でこの旧道へと踏み込んできたのだろうか?
まさか、私と同じ??

まさかな。




 現道が見えなくなっても、暫くは騒音が届いてきた。
砂利道は次第によく締まった土の道になり、まだそれほど登っていないにもかかわらず、道路上に雪が現れだした。
積雪は5cmくらいだが、自転車での行動を制限するには十分な量だ。

幸い、いくらかの通行量があるらしく轍の部分に細く地肌が除いていたので、この登りで雪に苦しめられることは、無かった。
轍がいつ消えるかと、ヒヤヒヤしたが。




 入り口から300mほどで、急なカーブが、いきなり急になった勾配と共に現れた。
写真は登った先から振り返って撮影したものだが、大型車だったらスイッチバックでもしなければ通り抜けられ無そうだ。
このカーブの外側の斜面には湧き水がビニール管から勢い良く流れ出していて、夏場だったらきっとお世話になっただろう。
あいにく、寒い寒い、しかも雪もあり、更には夕暮れ迫るこの場面では、全く興味は湧かなかったが。


峠目指して
15:48
 複雑なカーブに方向感覚を揺さぶられながらも、勾配はほぼ一定で、着実に峠へと近づいていく。
積雪は見る見る増え、日陰では10cmくらいある。
辺りの森は雑木が多く、余り利用されている感じはない。

道のつくりに着目すれば、 うーん、平凡。
という感じ。
特に道路構造物(標識・ガードレールはもちろん、コンクリートや石垣)も見当らず、まったりとした森の道だ。
いろいろと必要とするほど地形が急峻じゃないのかもしれない。
少なくとも、ここまでは。

ただし、道幅の広さだけは、林道とは一線を画している。


 安定感のある旧道だ。
このまま、何の問題も無く峠に立ち、そして下っていけるような気がする。
舗装さえすれば、まだまだ現役で通用するに違いない道だ。
もちろん、国道13号線としては不可だが、歴史の道として整備すれば、多少の交通量も見込まれよう。

峠名の由来に肖って、HOTEL「笹のベッド」なんて言うのも、受けるかも知れない(絶対無い)



 すっかり葉を落としすっきりした森の中に、白い建物が現れた。
これは、主寝坂雨量観測所である。
この観測所で一時間あたり150mmを越える降雨を観測すれば、主寝坂峠は通行止めになるのだろう。
このような大切な設備があるのだから、ここまでの道がそれなりに整備されていたのも、頷ける。

では、この先の道は、どうなのか?



 地形を最大限に利用した道造りは、感心できる。
おかげで、走っていてもワンパターンでなく楽しい。
次から次と、新しい形のカーブが現れるのだから。

雨量観測所を過ぎても、道の様子に変化は無かった。
見上げる鞍部はいよいよ近づき、峠も遠くはあるまい。

こんなに楽で、いいの?




 直線が現れると、峠はすぐそこだ。
峠は切り通しではなく、天然の鞍部を越えている。
向こう側には、まるで柵のようにそそり立つ杉の影。
普段なら、峠に立って安堵となる所だが、今回は何と無くそうならない。

事前情報として、下り側は「車で入れない状態」と聞いていたからだというのもあるが、一目見たときに、「この先辛そう」という予感が…。




 峠は土の広場になっており、車のターンした痕跡がある。
まっさらな雪に覆われた道は、まっすぐと森の中へ続いており、これが下りなのは間違いない。
進むべき道は判明したが、本当に峠から先は全く車の入った痕跡が無かったので、ちょっと、ゾッとした。
無論、これから先が本番だと言うことは分かっている。
このために、チャリできたのだ。

今回の拘り。
それは、
チャリと共に走破するということ。
近年は、チャリに拘らずに探索することも多くなったが、今回は「元車道」の探索である。
松ノ木にしかり、万世大路にしかり、元車道については自転車をもって走破するというのが、私のポリシーなのだ。
歩くのは、最後の最後の手段としたい。



 これから進むべき暗ーい下りを背にして、峠を振り返る。
左へと勢い良く登っていく道は、里からも見えた電波塔へのアクセス道らしい。
この施設のために、ここまでの旧道は現役であり続けたのかもしれない。
もし峠の両側から廃道だったら、探索は更に困難かつ、エキサイティングなものになっただろう。
ただし、それは私の手には、負えなかったに違いない。

なぜならば、
この先の下りだけで、
私の全てを捧げねば、生きて抜けられなかったから。




 次回、史上最悪の旧国道へ…。






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