道路レポート  
清水沢林道 前編
2004.2.8



 今回紹介するのは、清水沢林道。

「えっ、いまどき林道なの?」

というのは、“山行が”利用者としては、正しいリアクションだと思う。
確かに、最近の山行がでは、林道ネタは長くご無沙汰だったし、直近の2004年1月度アンケートにおいても、皆様の期待するネタの中に、林道というのはほとんど皆無だった。
だが、今回私は敢えて、ただ一本の林道を紹介したい。
多くの地図でこの道は、途中に腺の引かれていない区間がある…つまりは繋がっていない林道のように描かれている。
しかしその実は、県内でもほとんど無名の、マニアックな峠越え林道である。

楽しい道だった。
ぜひ、お見せしたい。
これぞ、『元祖 山さ行がねが』のネタである。

 出羽丘陵が太平山地としてひときわ高く厚い山塊を形成し、これが奥羽山脈と連結する稜線上に本林道は位置している。
国道105号線大覚野峠が阿仁町と西木村、県北と県南、米代水系と雄物水系とを分かつが、林道はこの峠から分岐し、稜線の頂点である大森(海抜856m)の山頂付近に接近、下りに転じると、いずれ志渕内沢の峡谷へ至り、比立内付近で県道に合流する。
左図の通り、林道は本格的な峠越えの線形を擁しており、国道大覚野峠も長く点線国道と呼ばれていたが、それ以上に険しい場所を通行している。

私は、この道を大覚野峠から、志渕内沢へ向けて走行した。
本林道は荒れており、チャリでの通行には適さなかったことを、始めに断っておく。


西木・阿仁行政界 国道105号大覚野峠
2003.9.11 11:44


 この日は2003年の山チャリの中では異色の林道ばかりの行程を選んだ。
正確に言えば、森がジャングルと化す9月というのは、最も廃道や勿論林鉄跡などの探索には向かない時期であり、自ずから山チャリの舞台も限られてくるのだ。
それで、肉体を鍛える意味も兼ねて、この一体の林道を数本探索したのである。
林道走破というのは、足を鍛えるだけでなく、精神面も鍛えられるので、大変に有意義なのだ。
つまり、辛いと言う事だ。



 好きな国道峠の一つである大覚野峠のピークは雪国らしいスノーシェードであり、ひんやりした内部はヒートアップした体を冷ますと同時に、峠の達成感を噛みしめることが出来る。
しかし、この日はこれからが始まりなのだ。
林道は、ここが起点なのだから。

スノーシェードの峠から阿仁側に進むとすぐに兵治沢橋を渡り、国道は強烈で長いダウンヒルの始まりを告げる。
林道へは、その阿仁側の袂から右に入る。
速度が出ていればあっけなく見落としてしまいがちだが、この日は橋の塗装工事の為、林道に白い車が停車している。



 林道の入り口には、新旧二代分と思われる、二本の白い標柱が立っている。
いずれも、清水沢林道と記されている。
それ以外には、特に林道の行く先などの案内は無く、見ての通り、どこかへ通じている道と言うよりかは、その辺ですぐに行き止まってもおかしくは無い雰囲気で始まる。
進入を抑制するようなものも特に設置されてはいない。



 林道に入ると、まずは今渡ってきた兵治沢橋が目に飛び込んでくる。

今では「あって当たり前」のような存在の大覚野峠の車道だが、開通は昭和49年(1974年)のことであり、当時はまだ国道341号線も開通していなかったから、仙北と北秋田の両郡を車で行き来するには、たった一つの山を越える道がないが為に、はるばる秋田市を経由すると言う、100kmにも及ぶ遠回りを余儀なくされていたのである。
これはもちろん、鉄道についても同様であった。(秋田内陸線開通は1989年)

そんな事実を知ると、現在では通年通行できる比較的穏やかに見える峠も、また違った姿に見えてくる。



峠への登り
9:52

 早速にして登りが始まる。
標高300mの西木村南端の集落戸沢から、国道を大覚野峠標高450mまで登り、更にここから林道の最高点である無名の峠までは、プラス350mものアップとなる。
峠から、更にその2倍以上も登らされると言うのは、生半可な気持ちで臨むとキツイだろう。
まあ、そんなのはチャリ乗りだけの孤独な感想だと思うが。

起点付近には、一応「専用林道に付き一般車立ち入り禁止」の表示があった。



 林道はありがちな造林地ではなく、自然林の中をうねうねと登っていく。
砂利がしっかりと敷かれてはいるが、轍の外にはぎりぎりまで雑草が生えており、決して通行量のある林道ではないことが分かる。

私この探索時に、本林道が峰越で続いていることを森林局発行の特別な地図(本来の使用目的とはかけ離れた使い方をしているので、あえて曖昧に…笑)によって知っていたが、そうで無ければ、大概の道路地図が示すとおり、行き止まりの道だと思ったことだろう。



 急な登りが続くが、景色の変化があって飽きない。

つづらの登りをこなすと間も無く、広い山々を見渡せる外向きの斜面に出る。
ここから先が、本林道の見所の一つ、大パノラマゾーンだ。



 この日は天候に恵まれなかったが、南側の視界は峠まで暫く良好であり、180度のパノラマを楽しめるポイントが随所にある。

写真は、国道が下っている繋沢を隔てた反対側の山々、すなわち太平山系の主要な峰の一つ大仏岳を頂点に、行政界を成す稜線の峯峰である。
藩政時代に阿仁鉱山を支えた街道は、大覚野峠を現在の国道よりも3kmほど南の山中に置いたが、現在は廃道になって久しい。
古き峠を抱いた山々は静かに秋を迎えつつあった。




 また別の場所から今度は、南東方向を遠望する。

…だったと思うのだが、ちょっと自信が無い。
遠くに見える特徴的な高峰から、山人ならそれがなんという山なのか分かりそうだが、ちょっと私では勉強不足だ。

天気が良かったら、さらにすばらしい眺めを得られるだろう。
ここは、車で来れる隠れた一大眺望地である。


 切通が不意に現れたりして、一瞬峠を予感させるが、フェイクだった。

そんな場所が、この後も何度かある。

決して楽な登りではないが、景色のすばらしさから疲れは感じにくい。



 次第に斜面が穏やかになってくると、いよいよ本当の峠も近い。
林道が存在するわけだから、その目的である筈の林業地もある。
山上に広大な若い造林地が拓かれており、過酷な風雪に耐えながら成木を目指している。



海抜800m 無名の峠
12:08

 造林地もあるが、それでも沿線のほとんどがご覧のような自然林であり、嬉しくなる。



 何度と無く林道はこのように空に向かってカーブを描く。
その度に、私はその先にどんな景色があるのかを期待する。
峠があるのか、更に登りが続くのか、どんな見晴らしがそこにあるのか?

林道に限らず、山岳道路を走る楽しみは、私の場合はこんな所にある。
積極的にチャリならではの「鈍さ」を楽しむ気持ちでなければ、あえて辛いチャリでこんな山道へ分け入る理由はないだろう。



 長い林道だが途中に目立った分岐も無く、ただただ独り、大きな森に挑む。
私のチャリは、勾配にもよるが、約時速7kmでノロノロと峠を目指す。
額に浮いた汗を、山上を渡る風が優しくなでる。
微かな空腹感と喉の渇きを感じるが、先を見たいという気持ちが先立って、漕ぎ足は止まらない。

優れた道は、まるで優れた物語のようである。

先を知りたくて、止められない。



 起点から約4km。
海抜約800mの峠に到達する。
時刻は12時25分、約40分の心地よいトレーニングとなった。


喉を潤し、菓子を少し口に含み、一礼をして峠を後にする。





 下り、 景色は一転した。




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