道路レポート  
八久和林道  その4
2004.8.12


水没の旧林道 
2004.7.22 11:16


 和尚峠の石碑の在る地点で湖岸に見つけた隧道に近づくため、立派な舗装路で二つほど橋を渡って進む。
何の変哲のない小沢に「仏沢」というたいそうな名前が付いているが、伝説では弘法大師が大日如来の啓示を受けた場所だとされている。
明治になるまで、実際にこの沢と八久和川の出合いの場所に「仏沢万宝院」という立派な寺院があったというが、いつしか廃れ、ついにはダム湖底に消えている。
和尚峠の名も、この寺院に由来するという。

そんな伝説の地を過ぎると、すぐに左に別れる舗装路がゲート封鎖されている。
明らかにここから下りれる。


 急な下り坂は、あっという間に先ほど見えた小隧道へと私を誘った。
ちょうど隧道のある高さが設計上の喫水上限となるのか、コンクリート舗装に切り替えられている。
また、周囲の草木も刈り払われ、地形が良く見渡せる。
僅か20m程度の小隧道の先にも、さらにコンクリート舗装路が見えている。

進んでみよう。


 扁額はなく、非常に素朴な坑門。
路面、壁面ともにコンクリに覆われているが、かなり汚れや漏水が目立ち、八久和林道建設当時からこの姿なのかも知れない。
ダムより下流で見た2隧道が完全なる素堀であったことを踏まえれば、ダム工事によって急ぎ覆工された可能性も捨てきれないが。



 現在ならば、間違いなく切り崩されていただろう僅かな地山に、丁寧にも隧道が穿たれている。
写真は、上流側の坑門の様子。
湖面までは意外に高度があり、ここまで喫水するとなると、凄まじい増水に思われる。

名も無き隧道を後に、さらに先へと進んでみる。




 隧道を抜けると道は急激に狭くなり、ガードレールもない危険な道となる。
湖面へは比高20m、路肩のコンクリの下には明かな空洞が見えており、路上にトンネルからの湧水による流水があることも含め、滑走滑落に恐怖する。
地形に合わせ蛇行しつつ緩やかに下る。




 頭上には、崖に迫り出して走る現道の桟橋。
ダム工事が与えた地形の改変や環境荒廃はご覧の通り凄烈だが、交通の便の大幅な改善が副産物となっている。
この様な例は、各地の新設ダムに見られることだ。
皮肉なのは、この月山ダムの場合、上流に集落一つ無い上に、いずれ行き止まりとなる点だ。
オーバースペックとも思われる2車線の舗装路は、本当は誰のためのものだったのか?




 隧道から200mほどで、道は終わる。
前方に見える半島部にて、舗装が途切れ、後は草地となってそのままなだらかな湖面に吸い込まれる。



 行く手を阻む水面の先には、広大な植樹地があり、現在は公園として整備されている。
そこに、足元から続く旧道敷きらしきものは見えなかった。
おそらくは、この沢を渡る橋は橋台もろとも撤去されてしまっている。
先の隧道も、一応はこの場所に来るためのアクセス路なのだろうが、途中の路肩の状況はどう見ても危うく、このまま廃道となるに違いない。

湖面を渡る風に清涼感はなく、刻一刻と経過していく時間に焦りを感じた私は、すぐに引き返しに掛かった。
地図に描かれた二本の隧道のうち、一本は先ほどの隧道で間違いないであろうが、もう一本、あの和尚峠の直下を貫いているはずの隧道が、見えない。


 引き返しに掛かった私は見た。

穴を。

湖面に吸い込まれるような、か細い穴の姿を。

微妙だ。

どう見ても、喫水している。

入れるのか?
 


 隧道内に戻ってみれば、なんといとも容易く「その隧道」が見えるではないか!
焦りが視野を狭めたのだとしか言いようがない。

しかし、心はもう、その水没隧道に向かっている。
果たして、どうやって辿り着くべきなのか。
思っていたよりも、遠いぞ。






 見れば見るほど、困難な隧道に思えてきた。
充分に接近方法を検討せねば、恐らく行き詰まる。
それと、たとえ坑門まで辿り着いたとしても、その水深が私を通すかどうかは未知数だ。
相当に困難な攻略対象であることが、見れば見るほど感じられてくるのだ。
燃えるが、焦りも同時に感じた。

「見えました」だけでは、終わりたくない!



 行きがたい場所へと、どうやって辿り着くか。

それは、私がチャリを捨てて探索することを厭わなくなって以来、新たに見つけた楽しみである。
私は、「ルートファインディング」と、この楽しみを密かに呼んでいる。
ルートファインディングは「計画」と「実行」からなり、状況と情報、自身の能力を検案してアプローチングルートを決定するのは、推理の面白さがある。
そして、その計画にのっとり、己の体一つで山肌にぶつかるのは、スリリングな答え合わせである。
計画が外れれば、アドリブに切り替えざる得なくなるが、しかし山肌に取り付いた状況からは行動に制限が大きく、客観視できる位置から計画を立てることの重要性は大きい。

あなたなら、左図に描いた「赤」と「黄」の線のどちらを選びますか?(カーソルを画像に乗せてください。)
赤は、確実に坑口へと近づけそうだが、如何せん地形が険しく、戻れるかも不安だ。喫水線以下は手掛かりが少なそうなのもマイナス材料である。
黄は、写真の範囲については容易に見えるが、現道から下りる場所が無く、その点が解消できず没となった。
かといって、赤もリスクが大きすぎる…。

決断は、両方とも却下!

※左の写真にカーソルを合わせると、私が比較検討した二つのアプローチが表示されます。


執念の探索
11:35

 ルートファインディングには、計画が重要だと偉そうに説いたばかりだが、ここでの私の行動はマズかった。
和尚峠まで現道を戻り、反対側の坑門にターゲットを移したのは良かったのだが、の2枚目の写真の真っ直ぐ湖畔を進んだ先に在りそうだと分かったにもかかわらず、大きく距離を戻ることを嫌って、直接護岸を下りる決断を下してしまったのだ。

右の写真の藪を越え、下に見えるコンクリの護岸を下った。





 無事に下れはしたものの、無駄に疲れた。

チャリのみに拘っていた時代では絶対に選択しなかった行動だと思った。

良くも悪くも、私の山チャリは変容を続けている。




 そして、護岸を下りた先は、やはりの先だった。
もう少しよく地図を確認していれば、先に気が付けていたかも知れないと思ったが、背後にある隧道坑口を見て、それもなかったかもと思い直した。

果たしてどんな坑門があったのかといえば…。




 こんなである。

接近には成功したが、これ以上といえば…。

「む、無念」と、思わずひとりごつ。

私が想像していたよりも水は深く、その上、前日までの大雨のせいか濁りも酷く、水深は推し量れない。
たが、岸辺の様子から言って浅くはないだろう。
隧道には道が続いていたはずだが、取り壊されたものか、それとも沈んでいて分からないだけなのか、見つけられない。
坑門に立ちたいという、せめてそれだけの要求にも応えようとしやがらない、ムカツク隧道である。(本音かよ)

どうしよう。

水深不明の湖面に身を付ける気には、流石になれない。

悔しくて、駄目と知りつつも、崖にへばり付いてもっと坑門の側まで行った。





 これが最大まで寄って撮影した坑門の様子だ。
悔しいことに、内部が貫通しているのか、それとも閉塞なのかはここからも分からない。
ここまで寄ってみて分かったことは、恐らく内部も素堀にコンクリを吹き付けたままの状態であろうということだ。
延長は、地図上では100m程度と見られたが、それよりは少し短いかも知れない。

やはり、隧道に繋がる水面も一様に濁り、そこにあると思われるコンクリの路面は見えない。
恐らく水深は、1mも無いようなのだが…。
半身を浸けても良いと思ったが、緩やかに湖水に降りれる場所もない。
岸辺は険しく、もし湖底に足がかりがなかったような場合、戻れなくなる恐れを感じて、断念した。




 しかし、私は執念深いと自分でも思う。

此方側からはこれ以上隧道に近づけず、また湖面に降りることも出来なかったが、坑門上を巻いて対岸に立てれば、そこからは湖面に降りれるように見えたのだ。
独自のルート分析の結果、上部は手掛かりが豊富で、巻けると判断。

この計画を実行に移したのである。





 木々は伐採され、時には喫水するのか、小さな草しか生えていない痩せた斜面だ。
当初手がかりとして期待していた岩盤は亀裂が目立ち、非常にガレていた。
幸いにして、写真の草地がしっかりと足を保持してくれたので、計画通り坑門上を対岸の僅かなスペースに移動することが出来た。
既に、本隧道を発見してから15分を経過しており、今後の旅程を考えると、これ以上ここに固執してはいられない。
このチャレンジが駄目ならば、水位が下がった時期に再訪するしかなくなる。




 目指す地点から湖面に入水。
冷たさは思っていたほどでなく、やや生ぬるい。
足元の感触は、ゴツゴツした岩肌で、期待していた路面ではない。
しかも、隧道方向へと岸に沿って一歩進もうとして、足を付けられる深さになんの足がかりのないことに驚いた。
少なくとも、腰よりも深い水であることが、傍にあった枯れ枝による水深探査によって判明した。
枝も底には付かず、濁りの酷さもあって湖底の様子はようとして知れない。






 そのうえ、洞内や出口の様子が見通せると思われたが、期待はずれで全然見えない。
この写真の景色が、精一杯腰まで水に浸かっての撮影である。
想像以上に、隧道は内高があるのかもしれない。

決断。


 撤収!




精一杯やったつもりだが、水深と濁りに阻まれこれ以上の進入を断念した。
しかし、八久和林道旧道に残る4本の隧道が確認され、これは私が地図などで知り得た全数に一致した。
惜しむらくは“3号隧道”の探索断念であるが、いつか全容を解明できると信じている。

私は、下半身から水を落としながら、強引に和尚峠の急崖にへばり付き、そのまま石碑のある現道ピークまで登って戻った。



 八久和林道の冒険は一旦、これより上流へ6km、紅葉橋まで移動となる。

その先に待ち受ける、八久和林道の真の姿。

以下、次回。






その5へ /  どうしても内部が気になる!

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