道路レポート  
八久和林道  その5
2004.8.12


月山あさひ湖大橋 
2004.7.22 11:52


 すぐそこに捉えた水没隧道を攻略できなかった失意と、苛立ちを感じたまま、私はここを後にした。
既に時刻は正午に迫っていた。
僅か半径3km程度の円内で、もう2時間近く探索を続けていた。
予めその存在を想定していた探索対象ばかりではあったが、思うように捗らず、時間を余計に要してしまった。
まだ行く先は遠大であり、どうもバランスの悪い計画になってしまったか、或いは、時間配分を誤ったかと、プレッシャーに苦しんだ。
旅の限られた時間内で多くの成果と上げようと焦り、そして苦しむのは、最近の私の悪い傾向だ。

少し頭を冷やすべく、また、直前の失敗を振り切らんと、ペースを上げて漕いだ。
素晴らしいダム沿いの道は、ひとたびその気になれば、どんどんと私を上流へと誘った。



 和尚峠から、1700m。
あさひ月山湖に架かる橋としては最も巨大な、あさひ月山湖大橋(まんまネーミング!)が現れた。
長さ400mにも及ぶ長大な橋だが、奇をてらったような装飾はなく、シンプルに美しい。
まさに機能美というべきか。
橋の対岸は、そのまま“ノコト沢”トンネルに突入していく。


 せっかく快適な橋で気持ちが上向いてきたというのに、またもブルーにさせられる発見だ。
なんと、橋の直下には湖から這い上がってくる旧道筋が見えるではないか。
そこには、倒れ伏した警告標識なども見える。

行きたい。

行きたいが、かなりの遠回りを強いられる上に、この比高。
肉体的にも、一度下りてまた登ってくるのは、かなりの負担になりそうだ。



 橋上から湖岸に見る旧道の有様。

ぐわーッ。

なんか、この時はもの凄く悔しかったのを、レポしてる今も忘れられない。
向こうに行きたい。
でも、時間がない。

私の旅はいつも時間に猶予がない。
自転車と電車の組み合わせで、まさに綱渡りのようなスケジューリングで、何とか日帰りを達成しているのだ。
帰りの電車に間に合わなそうになって、後半はスケジュールをキャンセルした上に、延々30kmくらい、汗だく息も絶え絶えチャリを前傾姿勢で漕いでる私の姿は、各地方都市の夕暮れに良く目撃されている。
そして、駅に到着するやいなや、チャリを破壊せん勢いで分解し、滑り込むように列車に乗り込み、そして死んだように寝る。

ああ、あわただしい。

…馬鹿だと思うでしょ。
自分でも、もっとゆったり心に余裕を持って旅を出来たらどんなに素敵かと思うけど、実際そうはいかない理由がある。



 私は、このサイトをご覧頂いている皆様の多くと恐らく一緒。
会社に勤めていて、家族もいるし、彼女もいる、そんな26歳。
会社では、チャリ好きとは思われているけど、まさかこんな事をしているとは、知られていないと思う。
そんな、平凡な社会人が山へ入り、命懸けというは易いが、とにかく日常よりも危険な事をしている。
それも、シーズン中はほぼ毎週のように。

私にとっては、隣県各地を旅往くのは、世間一般の感覚の「旅行」ではなく、日常の一つとなりつつある。
でも、私は世間の歯車の一部であるし、それがそこそこ居心地良いと思える。
だから、両立させたいと思う。
旅をしつつ、でも、フツーの社会人でもいたい。

私が人並みにゆっくりと旅をしたいと思うのなら、毎週毎週のように、仕事を休ませて貰って山へ行くことになるが、そんな馬鹿は出来ない。
私にとって、旅は日常であり生活の一部だから、体を休めたいとか、のんびりしたい、リフレッシュしたいといった理由を持ち込む場所ではないのだ。

そんなわけで、私の旅は、いつも・・・・ 昼のレジでの接客のように、あわただしく、忙しい。



 自分で稼いだお金の一部を、こうして山チャリに充てている。
一回につき、5千〜1万円くらいだ。
チャリの故障とか、要らぬ出費がなければ、私の出費はほぼ全て山チャリだ。
…彼女からねだられたり、簡単な食事代とかは、別に掛かったりもするけど…節約している方だとは思う。
というか、せこくてけちだ。(良く言われている)
働いていても、将来のこともあるし、お金は潤沢ではない。
だから、旅は本気だ。
1万円分の収穫を得たいという欲求は当然ある。
そんな旅は邪道だと思うかも知れないが、先も言ったとおり、私にとって旅は、ただの余暇の使い道ではなく、目的なのだ。
働いている目的、稼いでいる目的、生存の目的。

ガツガツ旅をする私の姿は、皆様には奇異に映ると思うけど、そんな少し歪んだ視点から、私は皆様に情報をお伝えしていたのだと言うことを、ちょっとお伝えしたくて書きました。


さて、レポへ戻ろう。



 このあさひ月山湖大橋は、ただ長くて高いだけではなく、変わったところが一つある。
それは、橋の丁度真ん中、弓なりになった頂点の辺りで、まったく別の橋が直角に合流してくると言うことだ。
ぶつかってくる橋の名は、「弘法物見橋」。
朝日村道の橋で、橋を渡ってしばらく行くと国道112号線の旧道に田麦俣で合流するようだ。

上の写真が、その合流点であった。
右の写真は、合流点を振り返り、下流方向を見る。




 そして、橋を渡ればそのままノコト沢トンネルへ。
しかし、このままトンネルへ入ってしまえば、何か悔しい。
さきほど眼下に見た旧道は、丁度このトンネルの上を地形に沿って迂回しており、旧道へと登る砂利道が、トンネルの脇に延びていた。
私は、迷わずここから旧道へと入った。
時間を使う探索は自粛したいので、さっき見た旧道部分は諦めて、このトンネルを迂回してゆく部分を走ってみることにした。

こういうことを、心理学では「代償」というらしい。


 旧道から見るあさひ月山大橋の勇姿。
橋脚が不自然に多く見えるのは心霊写真ではなく、重なるようにして弘法物見橋があるからだ。
ちなみに、ずっと背後に見えるコンクリの大きな法面は、国道112号線の月山道路手前の物である。
 


 ノコト沢トンネルを迂回して谷間を進む区間は、僅か300mほど。
そして、この僅かな区間に、強烈な崩壊が起きていた。
崩壊は真新しく、辺りには重機がスタンバっていた。
今は昼時、恐らく作業は昼休みなのだ。
こんな役目の無さそうな旧道の復旧に予算が付いているのも意外だが、とにかく通るなら今しかない。

別に通らなくても良さそうな物だが、ムシャクシャしている気分には、一発ガツンとスリルが良いのだ。
まあ、ほぼ滑落の心配はないと思われる見通しが立ったからこそ、突入する訳であり、私の探索を長く見て来てくれた読者様なら、最近の私が決して無理な賭けをしていないことは、分かってくれていると思う。

己の判断に任せ、行けると思ったら行くというのが、アツイ山のルールだ。





 この代償行為が心理にプラスに働き、これ以降、「水没隧道での撤退」と「旧道の逸失」という負を、忘れることが出来た。

それはアツイ突破劇だったが、一瞬の出来事だったので、良く覚えてはいないというか、口に出来ない。

写真は、法面の保護ネットに絡まりながら、辛うじて滑落を免れているチャリの様子
…ではなくて、
このネットを利用して、チャリを断崖から引き上げることで、晴れて突破となったのだった。

時刻は12時05分。
先を急ごう。




 去り際に、もう一度橋の勇姿を。

これを最後に、急速に人工物は先細りとなって行く。

八久和の大秘境は、すぐそこだった。



終点の紅葉橋へ
12:08

 旧道はノコト沢トンネルから脱してきた現道に間もなく吸収されて消えた。
合流点は広大な駐車場として造成されており、一体何を企んでいるのか??
こんな何もない場所に、何か集客のあてはあるのだろうか?

せいぜい在ると言えば、対岸の大断崖。
通称「アオクラ」「アカクラ」だけであるが。
超マニアックなロッククライマー以外は、とてもとてもた踏み込めまい。



 アオクラ・アカクラから少し離れた場所に、やはり対岸なのだが、名も無き断崖が在った。
何か人工的とも思えるような造形を見せている場所があるが、まさかな。
おそらくは、月山の氷河地形の一部なのであろう。
しかし、本当に不思議な形をしている。
なぜこの様な凹みが生じたのであろうか。

近寄ったら、どんな景観なのか?

私とは完全に違う畑だが、これだけ目立っているのだから、恐らく行った人間もいるだろう。
話を聞いてみたいものだ。




 湖は細くなり、遂に渓流となった。
この辺りの谷底には、「弘法物見岩」といわれる、巨大な一枚岩があると言うが、道からは見えないようだ。
詳しくは、路傍の丁寧な案内板を参照されたい。

そろそろ、ダム湖畔の公園の中では最上流に位置する「ノコトブナの森」である。




 ノコトブナの森を過ぎると、遂にと言うべきが、通行量から言えばとっくにこれでも十分だったのだが、道は1車線となった。
だが、いつでも2車線に改築出来る程度の余裕は左右に取られており、「何を企んでいるんだ」と、思ってしまう。
見て欲しい、いよいよV字が深くなってきた谷を、行く手の切れ込みを。

この先、少なくとも一般的には行き止まりなのに…。
私は一般的ではない攻め方で、この先を極めんとしてやって来たのだ。







 12時23分。
とうとう道は未舗装に。
2車線でなくなってからは、あれよあれよという間にここまで落ちてきてしまった。
落ちると言えば、ダム湖が消えると同時に、道は急速に谷間へ下り始めている。
この先紅葉橋までには、折角いままで稼いだ高度が全て木阿弥となる定めだ。



 げっ!!

一瞬もう廃道かと焦ったが、直前のダート化点で左に折れた脇道が、どうやら本線であったらしく、引き返す。
分岐からこの終点までは、わずか50m程であった。
将来的には、このまま真っ直ぐ道を作る計画なのか?
形的には、そんな感じに見える。




 砂利道となった途端、今度は通行止の簡易なバリケードが置かれていた。
何の案内もなく、不親切な上に、麓の地図にはこの先の「紅葉橋」が終点のように描かれていたが。

さらりと脇をすり抜け、先へ進む。
下草は刈られており、舗装さえすれば立派な1.5車線が確保できそうである。
ガードレールは環境色のつもりなのか、茶色だ。
どうも私はこの茶色のガードレールが嫌いなのである。
チョコレートみたいで不気味だし、見えづらくて危ないし、やっぱ山道のガードレールは、古き良きガードロープが最高だと思うのである。
最近は、ガードロープって新設されているの見ないな… 絶滅?




 それまでの高規格な道ではなく、ただ無理矢理広げられた様な林道である。
ただ、途中2箇所ほどの橋は、橋だけは架け替えられたのか、真新しい。
しかし、何となくちぐはぐな印象を覚える。
この写真の橋なども、橋の右側には普通に平らな部分があり(恐らく旧道敷き?)、橋が必要だったのか謎である。

何となくかみ合っていない道は、長くは続かなかった。






 行く手に、紅葉橋が見えた。
八久和川に沿った八久和林道、上名川の起点から八久和ダムのある終点までの全長14kmほどで、ただ一カ所だけ八久和川を跨ぐのが、この紅葉橋だ。
起点からは、約9kmの地点である。
橋へと向かってさらに谷底まで下っていく道が、向かって右側(左岸だ)の崖に続いている。
目指す八久和ダムは、まだ5kmほど上流である。

あの橋の先には八久和林道の真の姿が、待っている。










その6へ

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