道路レポート  
八久和林道  その6
2004.8.12


 

 単一の林道のレポとしては、異例の長さとなりつつある八久和林道。
その訳は、林道らしからぬ多彩なネタを持つことによる。
この道で、これまでに発見・紹介したネタとしては、廃隧道4本(1本水没)、トンネル内分岐に、橋上分岐、苛烈な崩壊地や、朝日山地の自然美、次々とネタが現れ、私を引き留める道なのだった。

時間に追われながらも徐々にその先へと進んだ私は、遂に、その核心部へと迫った。

八久和林道の正体。

それは、


それは、おぞましい廃道だ。






紅葉橋 
2004.7.22 12:30


 八久和川をただ一度だけ渡る八久和林道。
それが、起点から8km地点の、この紅葉橋だ。
地図上では、道はここから先八久和川右岸に移り、約4km上流の八久和ダムに至る。
平然と、その様に描かれている。

私が紅葉橋に近づくと、橋の上に車が一台停車している。
しかも、人が橋の上で三脚を立てて写真を撮っているのが見える。

おいおい、坑道の真ん中でなにしてんの?
邪魔にならないのかよ。

思えば、この景色から、この道はおかしくなり出したといえる。


 舗装から、ダートになり、通行止の簡易なバリケードが現れ、そして、ご覧のようなガレた路面になるまで、本当に一瞬だった。
そして、この道の「退化」は、これで仕舞いではなかった。



 紅葉橋の姿。

私が、一介の林道を走るために、わざわざ山チャリ一日を捧げたには、それなりの理由があった。
はっきり言って、廃隧道や水没隧道などの“ネタ”は序盤に集中しており、通常の私のプランからだと、八久和林道の終点まで行く理由も薄いと思われた。
八久和林道の終点というのは、もの凄く特殊な場所であり、まあそれは追って説明するとしても、この先に進めば、本当に今日はこれ以外になにをする時間もなくなるだろうと思われた。

ズバリ言おう。
八久和林道を語るのに、へなり氏の主催する『ORRの道路調査報告書』は欠かせない。
私がここへ来た理由も、そこに尽きる。
“彼”がこの道をレポートしているのか?
…そうではない。

“彼”は、レポート以上に衝撃的な方法で、彼のサイトでこの道を紹介している。

これは、挑戦であった。
“彼”がこの道でなにをしたのかは、私は知らない。
だが、“彼”をして“あのように”紹介せしめた道を、試さない訳にはいかない。

これは、私にとって大変に興味深い道だったと言える。



 “彼”が紹介した紅葉橋のただ一枚の写真とは、大分状況は変わっていた。
“彼”が、いつここを訪れたのかも、分からない。
だが、橋はかつて鉄パイプのバリケードで完全に封鎖されていたと言うが、それはなくなっている。
橋上にも、車が進入しており、ここまでは普通の林道に見えた。

しかし、バリケードなど無いのに、橋の対岸の道は、いきなり轍が消えかけている。

私は、バリケードがないのを見たときに、内心「しまった!」と思った。
もう、“彼”が体験した八久和は味わえないのかと思った。
月山ダムの工事に伴って、橋は改築され、その先の廃道も復旧させられたのかとも、思った。




 しかし、現実は私を裏切らなかった。

というか、いきなり弱気にさせた。

地図上で道はあと5kmあるのに、橋の先5mで、訳が分からない荒れ方をしていた。

廃道になってどれだけ放置され続ければ、こんなになるのか?
この道が、もはや大概の地図からも削除されたような旧道や、古道の類なら、納得できるだろう。
もっと酷い道も見てきた。

でも、現実に地図に載っている。
約束する。
貴方の地図にも載っている。

何の変哲もない、ダムと下流の町を繋ぐ林道。

何があったのか?
八久和林道に、何があったのか?
そして、私に何が起きるのか?!




八久和林道の不通とされる区間
12:32

 私が想像していた廃道の姿とも、全く異なっていた。
もっと、岩がゴロゴロして、ガレた路面。
主に崩落によって不通となった道を想像してきた。

しかし、紅葉橋の先に現れた景色は、藪だった。
それも、まるで湿地帯、或いは葦原。
昨日までの記録的な大雨のせいもあるのだと思うが、路面代わりの草むらは、沼だった。
既に靴も足もびしょ濡れだったから、まあそれは良いんだけど、なんか、まさに廃道だ。
ながーく、使われていないムード。
一過性の崩壊による放置などでは、ない。



 だが、道の痕跡が全くないのでもない。
山側から激しく水が流れ、路肩の石垣から八久和川に滝となって落ちている。
そんな場所が、無数にあった。
そして、かつて路面にあった側溝が激しい流れの底に見えていた。
もはや、水流のある場所以外の路面は、堆積物が覆い尽くし、そこ新規の植生が定着している。
水流のある場所だけが、かつての路面を僅かに見せる。





 写真は、路傍の様子。

ではなくて、道だ。

これが、道ダー。


はあ、やばいな。

私は覚悟した。

この調子では、5km進み通せる自信がない。
ここまでの200mほどは、おそらく時速1kmも出せていない。
いまはもう正午過ぎだから…、いくら体力は続いても…、時間的に難しい。

嫌だなー。

やっぱ、“彼”の紹介する道は、私には到底及ばない世界という結論で終わるのか…。
「チャリでは無理でした」で、おわっちまうのか?




 幾度目かの流れに足を沈め、いまの自分の状況を冷静に考えた。

この先、道の状況が改善する可能性もある。
それに期待して、あと1時間は進んでみようと決めた。

そして、なぜこれほどに荒れたのかも考えてみた。






 よーく観察すると、道自体の地形は比較的留めている場所が多いことが分かる。
めちゃくちゃに崩れているとか、そう言うことではない。

私の想像では、この道をここまで変えてしまったのは、まさにこの日のような、路面を覆い尽くす流水ではなかったかと思う。
深い谷底を通る林道は、大雨の度に大量の流水を通すのだろう。
それら流水は、道をえぐり取るばかりではなく、流れの穏やかな場所には、肥沃な土を堆積させる。
そして、そこには新しい植生が発生する。
ここまでの数百メートルには、ほとんど元々の砂利の路面が現れている場所はなかった。
一面が、写真のような湿地か、ススキなどの陽性の草地だった。

八久和林道は、“あるきっかけ”によって通行する者が居なくなり、深い谷底を通る道には大量の土砂が流入してしまった。
そして、一面の草地に姿を変えてしまったのだと思う。

もしかしたら、そのきっかけは、橋を塞いだ鉄パイプのバリケードだったのかも知れない。



 流石に昨日の大雨のあとだ。
路面には轍は一切無い。

ぬかるみの連続となった道は、勾配こそ緩やかだが、チャリに跨がれない。
この写真の場所などは、比較的道の痕跡が残っていると言える。
蛙の大合唱に迎えられながらの、いつ果てるとも知らない廃道とのバトル。

正直、楽しい物ではない。

辛い。

いまだから、笑えるのだ。





 ここまでは、チャリを押して進むことを邪魔するような障害は少なかった。
例えば、八甲田などでは私を散々苦しめた灌木や笹藪だ。
これは、まだ道が廃道となってから経過した時間が、木が育つほどではないことを意味している。
一見派手な廃道だが、まだまだ、我が山チャリにとっては進めない程ではない。
むしろ、見た目よりも走りやすい。

あくまでも、見た目より。 だが。
一向にペースは上がらない。




廃道は続く
12:39

 紅葉橋から廃道に苦しむこと9分。
初めて、轍(?)というか、はっきりした踏跡が現れた。
しかし、まだ油断は出来ない。
八久和ダム側から入り込んだと思われる新しい轍が現れるまでは、先に何があるか分からないのだ。
いまののころ、日影故にたまたま植生が弱いだけの場所かも知れない。
しかし、ホッとしたのは、確かだ。

確かに、酷い廃林道である。
そんな風に、既に終わった道のように総括する余裕が出てきた。



 ごめんなさい。
まだ油を断つには全然早かったみたいです。

それどころか、地形的には意外に穏やかだった谷底が、ムキになりはじめた感じ。

行く手の八久和渓谷の谷は、絵に描いたようなV字峡。
そこに、こんな道の居場所なんて、あるのか?
いよいよ路肩にも注意を払わねばならなくなってきた。
いつの間にか、沢の音はかなり下の方に消えていたから。

もう、引き返したくはない激藪を背後に背負ってしまった私の、孤独な闘いが続く。





 あっつー!

路傍に標識の残骸。
しかも、廃道にありがちな“黄色”じゃあない。
かなり傷んでいるが、盤面から読み取れるのは二桁の数字。

   1 4


おいおい、「14」って、制限速度14km/h?!
んな馬鹿な。

もしかして…
消去法で行くと、この「14」って、
『14トンの重量制限』だよな。

随分… 大きく出たな。
現在の道の様子からは全く信じがたいが、この大きめの制限重量を見る限りは、やはり上流の八久和ダム工事にも利用された道だったのだろう。



 道の廃振りは目まぐるしく変化した。
一つの道で、こんなに多くの廃シーンを体験できる道は、少ないかも。

藪から湿地、湿地から藪。
そして、また湿地。

って、こう書けば湿地と藪だけじゃねーか。
書いてて虚しくなってきた。
とにかく、廃道が続くと、ネタが尽きてくるんだよな。
同業者の皆様ならば、この気持ち分かってくれると思うが…。

草臭さにまみれ、蜘蛛の巣と虻にまみれ、チャリに怪しい蔦や葉っぱを絡みつけまくり、ふと肩に気配を感ずれば…緑の尺取り虫、びよーーん。





 ふと水しぶきを含んだ冷たい風が頬に当たる。
その方を見れば、小さいが雄々しく吹き出す滝の姿。
そして、こんな時決まって、道は大変なことになっている。

この先、こういう景色を何度見ただろうか。



 道は、沢によって悉く蹂躙され、大量の岩石と倒木を抱えている。
もはや、ただの渓流のようになってしまった道。
チャリを抱えてこんな所を渉っていると、

ファイト一ぱぁーつ!!

というかけ声が、なんか頭の中にグルグル回る。

ただし、あのCMと決定的に違うのは、私は独りだ。
もし足を踏み外しても、手を差し伸べてくれる朋は無い。
乾いた叫びと共に、数十メートルも下の水面に吸い込まれて消えるのみだろう。





 良い感じの写真が撮れた。

道がこれだけの出水にもえぐり取られないで、踏ん張っているのはエライ。
よく見ると、路肩は石垣とコンクリのハイブリットでちゃんと固められている。
造りは新しくないが、やはり「14トン」という重量制限が示すように、それなりにしっかりと施工された道なのだ。

これだけ至る所で出水に見舞われながら、完全に道形を失っている場所がないのは、意外なことだ。
それだけに、引き返しどころが無いとも言える。


廃道は続くよどこまでも。

でも、次回は最終回。







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