上品濃トンネル(未成)

所在地 神奈川県横浜市戸塚区
探索日 2008. 6.27
公開日 2008. 7.22

mixiの山行がコミュを通じてKubodi氏によってもたらされた情報をもとに、探索を行った。

横浜市戸塚区の上品濃(かみしなの)というところに、未完成のまま長年放置されたままになっていると思われるトンネルがあるとのことだ。

下調べもそこそこに、早速現地へ向かってみた。

その場所は、ここだ。【所在地】




高級マンション群が見下ろす 未供用のトンネル

 東戸塚駅から徒歩7分のトワイライトゾーン


2008/6/27 16:54

横浜市といえば、私が小学6年生までの幼少を過ごした思い出深い街である。
住んでいたのは鶴見区だったが、この戸塚区からはそう離れていない。
だが、東京移住から1年半を経っているのに、いまだ鶴見区には行ってない。
だからなんだといわれると返答に困るが、ともかく、土地勘はないが愛着は感じる。そんな状況での探索であった。

問題の場所は、JR横須賀線東戸塚駅から北西に1kmほど丘を登ったところで、地名は上品濃という。品のあるいい名前である。
周りには夏草の緑が目立つが、既に開発の手が一度は舐め尽くした後のよう。
まあ、都市を囲む住宅地のさらに外縁部にありがちな風景といえば、そんな感じだ。

写真に矢印を示した部分が、未成トンネルがあるという、未成の道路である。




未成道路との交差点から、東側を撮影。
横浜都心方向だ。

存在する道は1車線だが、その両側に広い空き地があり、本来は4車線の豪壮な道を作ろうとしていることが分かる。

この道の正体については後述するが、探索中に知ることはなかった。





同交差点から西側を撮影。

自分の、都会を表現する語彙の少ないことが悔やまれるが、ハイソな高級マンション群である。
ニョッキニョキである。

そして情報の通り、お目当てのものもしっかりあった。

隧道…じゃなくて、トンネル。




完全な4車線断面。開削式で作られただろう、矩形断面の立派なトンネルだ。

情報では「長い間放置」ということで、実際にいつ頃からこの状況なのかは不明だが、周りにマンション群が出来たのはここ数年である。
それらから見れば古びている感じもする。

さて、ここから見ていても仕方がない。
一歩前へ。そして中へ。

しかし、フェンスは高く、その上フェンスの前はバスの待ち合わせ場所になっているという悪条件。
まだ幸いにして未経験だが…、「不審者を住民が通報」なんていう立地は、こういう場所を言うんだろうなぁ…。

山中の廃道とはまた違うドキドキが、30の少年心に絡みつく。




人間の姿のままではさすがに目立ちすぎるので、猫にフォームチェンジして先へ進む。

フェンスから坑口までは100mほど。
カールルイスでもない私にとってこの距離はリスキー。

三方を取り囲む高層マンションや病院の無数にある窓に、動くものは見えない。
だが、私が気づかぬだけで数十、数百の視線がないとは限らない状態。
草むらや壁際を選んで進んだが、見られていない保証はない。

都会人の「無関心」に期待する。




いよいよ坑口前に。

ここまで来ると外界から私の動きはほとんど見えないはず。
少なくとも、周辺の道からは見えなくなった。

そして、坑口を塞ぐ第二のバリケード。


ここも猫大活躍!  んーお。
(↑↑かなりの悪ニャンコですよ↑↑)




画竜点睛を欠く。

未成トンネルに扁額がないのは定番の光景。

遠くで聞こえるボーリングマシンの打設音、電車の走行音、都会の地声。

あと一歩で、私は別世界の住人になる。





 筺もの 


むむッ!!

 なんじゃこりゃ!

  こんな場所に来た憶えはないぞ?!


第二のバリケードは、都会と、隠されたビオトープを隔てる壁であった。




街路樹でも、植栽でも、庭木でもない。

そんな緑が、坑口とバリケードと高い法面に取り囲まれた狭い一角で、すくすくと育っていた。

植物にしても、決して育ち心地は良く無さそうだ。
水捌けが全くなく、澱んだ水溜まりにはボウフラが沢山いそう。現にここは蚊が多い。
分解されない枯れ草が、オイルの幕を水面に作っている。

いつの日かこの場所が道路に戻るとき、緑はなにを残すだろう。
おそらくなにも残しはしない。土壌もろとも全てが掃除されて終わる。
貸し主:人間、借り主:自然。 哀れな都会のビオトープだった。

それゆえ、深い。




洞内へ入るためには、どうやってもこの沼地を越えねばならない。

犠牲を要する。

足回りの健康状態が、著しく害される。




間もなく上陸だ。 大袈裟に言えば、洞内上陸。

サイケデリックな落書きの主も沼の中でスプレーを振るったわけではないだろう。坑門前が今のようになったのは結構最近なのかも知れない。




それにしても、味気のないコンクリートの筺(はこ)だ。

冒険心の昂揚も、挑戦心の滾りも、湧き上がって来るものはなにもない。
ただ、闇の先になにがあるのかを自問する、恒常風のような好奇心だけが私を押した。

内心つまらないと思っていたのかも知れないが、好奇心は私を支配する最強の魔物だった。
生半可な抑制で抑えきれるものではない。多少つまらなかろうと進まされる。




洞内には乾いた空気が停滞している。
廃隧道にありがちな土臭さや黴臭さはない。
落書きも坑口付近だけで、奥に進むと空き缶一つ見られなくなった。
一方、壁面にはご覧のような「準備施設」がいろいろと見られた。
消火器や、避難口のサインや、配電盤など、様々な設備が都市トンネルには配備される。

既にこのトンネルの完成形が設計者の頭の中にはあるのだろう。
我々が普段目にするものは全てが整った完成形であり、廃止された姿を目にすることも稀であれば、完成前の姿はさらに稀な遭遇といえるだろう。
希少性の割にさほどの興奮がないのは、全てが整いすぎているからか。




結末が判明した。

坑口から約100m地点。
ここまで緩やかに左へカーブし続けたトンネルが行き着いたのは、出口ではなかった。

閉塞壁は、まるで映画館のスクリーンだ。
心を持たない白い亡霊たちの姿が、私の照明によって浮き上がる。

気がつけば、洞床にも大量の白い結晶物が散乱しており、踏むとパリパリと砕けた。
これもまた、亡霊たちの片割れだ。




閉塞壁の発見とほぼ同時に、左の壁に横穴を見つけた。

横穴の先には闇があり、ライトの光を吸収して、どこも照らすことがない。
そして、おそらく向こうからこちらを見ても同じはず。

しばし忘れていたが、このトンネルは2本並んでいるのだった。
横穴の行き先は、当然となりのトンネル。
ゆくゆくは下り線になるトンネルだ。





これが、仮名「上品濃トンネル」の閉塞地点。

このような開削工法(簡単に説明すると、地面を切り開いてトンネルを作ってから埋め戻す工法のこと。一般に地山の浅い部分で行われ、断面は矩形をとることがほとんど)のトンネルが、未完成のため途中で閉塞しているというのは、初めて見るケースだ。

初めて見る割に驚きが少なかったのは、普通に考えても思いつくような“終わり方”をしていたからだが、もの凄い量のコンクリート鍾乳石には別の意味で驚いた。
この壁の向こうには乳白色の薬液が充満しているのではないか…なんて、変な想像をしてしまう。

実際、内壁を見まわしても、閉塞壁以外からはこのような流出は見られず、いずれ工事を再開するときには不要な壁と言うことで、脆いコンクリートを使っているのかも知れない。
(ただし、多くのダム突っ込みトンネルでも閉塞部の壁は同様の白化を見せており、なぜトンネルを塞ぐ壁が極端に白化するのか、私には不思議である。)




現地では気づかなかったのだが、この汚れは手形のように見えて気持ち悪い。

このトンネルのすぐ上には病院があるので、スピリチュアルな現象を語るにはうってつけの状況といえる。

現地でこの模様に気がつかなかったことを幸いとしたい。
はっきり言って、これを独り暗い洞内で見るのは、かなり嫌だったはずだ。

コメントしている最中にも本格的に気持ち悪いと思っているが、…まあ、気にするな。
汚れだよ。汚れ。




閉塞壁の白化ぶりも凄いのだが、それは洞床にも白い堆積層を作っている。

その厚みは、閉塞壁に近い部分では数センチにも達していると思われ、一箇所にあるコンクリート鍾乳石の質量としては、これまで見た中で最大と思われる。
どうやらその成長の度合いというのは、単純に経年によるものばかりではないようだ。
地表に近いため、酸性雨の影響をとくに受けているのかも知れない。

まあ、この壁がいくら白くなって、もし崩れたとしても、公のニュースになることはないだろう。




振り返って撮影。

このトンネルが最終的にどれほどの長さで計画されているのかは分からないが、ここで工事が終わっている理由は想像が付く。
この地点よりも先では、開削工法ではなく、山岳工法で建設する予定なのではないだろうか。
この開削工法の部分は、地上の造成・分譲の計画と合わせて、予め「はこもの」を埋める施工が成されたのではないだろうか。
ありがちな予算不足とか計画変更による工事中断ではないと思われる(現場が整然とし過ぎている)。

いずれ道路全体の計画が動けば、この場所からトンネル工事も再開すると思われる。



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 下り線トンネルへ 


閉塞壁から20mほど戻り、上下線トンネルを繋ぐ横穴へ。

トンネル内にあまりこのような通路があるのを見たことはないが、完成時には非常用通路になると思われる。

そして、その傍らにあるもう一つの凄く小さな穴は、猫用。

…ではないだろうな。

普通に考えれば、配線用か。




となりも全く同じ形をした殺風景なトンネル。

もしかしたらもっと先まで掘られているかも知れないと期待したが、それは無駄に終わった。
2本のトンネルは、全く同じ位置で行き止まりになっているようだ。




そして、同じようにコンクリート鍾乳石の閉塞壁。

映画の撮影なんかには使えそうなシチュエーションである。
核シェルターみたいな感じに映せそうだ。




この写真だけだったら、本物の鍾乳洞で撮影した物と区別が付かないだろう。

いまどき、ここまで真っ白な鍾乳石は、観光化された洞窟では滅多に見られるものではない。
純白に近いが、光が当たったところは気持ちレモン色に見える。
バニラのケーキが食べたくなったよ。





鍾乳洞にもありそうな光景 2。

小さな水溜まりの中に、白い毬藻のような塊がいくつも転がっている。
何とも幻想的な光景である。
おそらくこれは、自然界の河川で見られる甌穴と同じ現象が起きているのだろう。




トンネル内部の状況を確認し終えたので、外へ戻る。

また沼地に入らねばならないが、問題はそれよりもバリケードの先で制服の人たちが待っていたりしないかということである。



17:13 

無事にノーリスクエリアへ脱出。

またしても都会のアスファルトに、きまって夕暮れ時に現れる謎の染みが出現した。

地元ミニコミ誌が「カッパ出没」などと騒いだという話は聞こえてこないが、大概こういうのはオブローダーのしわざだ。
気にしないで欲しい。






この地図は横浜市のサイトで見ることが出来る都市計画図だ。
赤と青の部分は私が加筆した。

このようにトンネルを挟んでL字型の道が作られようとしている。
左下の範囲は既成であり、4車線の道が途中でブツッと終わっている光景が見られる。

この図から想定されるトンネルの全長は300mほどで、既成部分は約半分くらいだ。
反対側の坑口があるのではないかと探してみたが、坑口どころか、道を作っている気配もまだなかった。



そして、このトンネルを含む道の正体だが、都市計画道路「権太坂和泉線」が該当する。

図のように、横浜市中心部から西へ放射する全長10km弱のルートである。
(図中の青破線は既成部、赤破線は未成部となっている)
これは、市が整備目標として現在掲げている「横浜3環状10放射道路ネットワーク」のうちの一本であり、全線4車線での整備が見込まれている。

計画はかなり堅いもので、実際に工事も進められており、いまから頓挫する可能性は低いと思う。
上品濃トンネルも、やがては重要な幹線として活躍する日が来るのだろう。