その16 | 旧 天王跨線橋 | 2003.3撮影 秋田県天王町追分 |
学生時代、私は秋田市から20km離れた天王町に住んでいた。
秋田市のベッドタウンとして比較的開発の進んだ町であるが、日本海と八郎潟に挟まれた細長い町域の隅っこの隅、ちょこっとだけ国道7号線か通っている。
その部分にある天王跨線橋は、目立った川の無い天王町にあり、町の中心地区からは遠いものの唯一町名を冠した橋である。
天王町には愛着があり、この橋にも、思い入れがある。
トリオ結成当時、ホリプロが住まう追分に行くとき、敢えて遠回りしてこの橋を渡ったことも多かった。
そして今回、今までは漠然と「あるなー」程度の認識であった旧道の痕跡を辿ってみた。
国道7号線を土崎から南下する。
数キロも続く長い直線は昭和40年代に竣工した飯島バイパスである。
その直線が緩やかな上りと共に終わりを迎え、男鹿方面との古くからの街道分岐点である追分三叉路に至る。
ここは、秋田市から長らく4車線だった国道が、再び2車線に戻る地点でもある。
この三叉路を中心に発達した追分地区の多くは天王町の町域であるが、秋田市との境界線は暫く国道に重なる。
そして、JR追分駅付近を過ぎると、間もなく登坂と共に跨線橋が見えてくる。
左が現道である。
明らかに不自然なスペースが、現道に沿って右側に残っている。
相当に痛んでおり砂利道と区別が付きにくいが、かすかにアスファルト舗装の痕跡がある。
車止めが設置されており、車輌は奥には進めない。
一帯は住宅地であり、もし開放しておればたちまち不法駐車の巣窟となるのだろう。
現道が跨線橋に差し掛かる少し手前で、旧道は若い雑木林に阻まれる。
どうやら、廃道後に茂ったものらしい。
タラボも幾らか見受けられる雑木林の向こうには、使われていない橋台が見えているが、今回は敢えて接近を試みた。
これは接近して撮影したものだ。
数秒後、難なく接近できたが、夏場は大変な草地と化しそうだ。
複線の線路を隔てて立つ一対の橋台が、かつてここに跨線橋があったことを伝えている。
前夜の雨にそぼ濡れた朽ちた橋台。
跨線橋の廃止というのは余り例が無いのか、これまではじめて見る光景である。
さて、今度は対岸の調査である。
一旦現道に戻り、天王跨線橋を渡る。
まもなく、足元に旧道が見えてきた。
写真は、旧道を見下ろしたもので、跨線橋に続く様子が見て取れよう。
旧道は、一軒の民家の生活路として利用されており、現道から乗り入れることが出来る。
しかし、跨線橋に近付くとご覧の通り、いかにも廃道らしくなる。
この写真は、行き止まりから振り返って撮影したものだ。
つまり、背後は跨線橋である。
追分側よりも幾分路面の残存状況は良いが、それでもかなり痛んでいる。
かすかにオレンジのセンターラインの痕跡も残っていた。
なんとも運の良いことに(?)、この僅か100mほどの廃道区間に、一本の距離標が残されていた。
そこには、まだ十分に判別可能な文字で、新潟からの距離「288」が刻まれていた。
これが、この廃止区間での道路遺構としては、クライマックスといえるものかもしれない。
私自身も、自宅に近く、また市街地である為油断して、このような隠れた好物件を今まで見過ごしてしまっていた。
反対側は橋台が孤立してしまっていたが、こちらはかつて跨線橋のあった場所まで道が続いている。
そして、このようにフェンスで封鎖されている。
先に道は無い。
奥には、朝のラッシュに沸く現道の姿。
この旧橋を利用してでも、せめて大久保まで4車線にしてくれていたらよかったのに…、そう思う秋田市民も多いのでは?
さらに、これが旧橋からみた、現天王跨線橋。
現橋は、旧橋に比べ長い。
将来、足元の奥羽本線の複線化(現状は奥羽本線と男鹿線の平行単線区間である)を考慮して設計されているのだろうが、一時期騒がれた男鹿線の天王町新駅や電化の噂同様、一向に実現の気配はない。
この複線だって、一方はこの少し北で奥羽本線と分かれるる男鹿線専用なのである。
これは、本来の複線とはいえないのではないか?
取材中疾走していった男鹿線普通列車。
秋田市に通学する高校生をすし詰めに満載している光景が目に浮かぶ。
っていうか、以前私もあの中の一人であった。
当時、男鹿線朝のラッシュは山手線に並びうるとさえ言われていた、かは定かではないが、とにかく殺人的であったと記憶している。
止む終えず車掌室で通勤したこと数知れず。
とまあ、秋田市以北から通勤・通学する全ての(電車通、車通を問わず)人たちにとってお馴染みの天王跨線橋だが、秋田市のの衛星都市と化した無個性な天王町の名がそうさせるのか、特徴の無い橋である。
みな、一瞬で通り過ぎてゆく。
しかし、今回じっくりと観察し、はじめて、このような短いながらも味わい深い旧道を知った。
都会のエアポケットのような天王跨線橋だが、注目してみると、意外な発見があるものだ。
2003.4.9作成