その44 | 国道46号旧線 “へぐりの難所” | 2003.11.5撮影 雫石町橋場
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国道46号線の難所といえば、誰もがまず仙岩峠と答えるところだろうが、そのそばに小さくとも厳しい難所があった。
その名を、“へぐりの難所”と言った。
国道46号線を秋田から盛岡へと進み、仙岩峠を越えて進むこと10kmほど。
久々の集落である橋場に差し掛かる直前、峠から寄り添ってきた竜川の両岸に蒼蒼とした崖が迫る。
この先が、かつては“ヘグリの難所”と畏れられた道だが、現在の国道はここを避けるように二度、矢継ぎ早に竜川を渡る。
旧道は、真新しいガードレールで無造作に封鎖されている。
引き寄せられるようにして、ガードレールをチャリごと跨ぎ進むと、間もなく「びっくりマーク」が現れる。
仙岩峠の旧国道には、まるでシンボルマークのように点在する同標識だが、やや離れたこの地にも存在していたのだ。
ここで想定された「その他の危険」とはいったい何であったのだろうか?
補助標識もなく計り知れないが、その奥には「落石注意」もあり、何を警戒せよと言うのか分からない。
ただ、実際にこの先は危険な道だったらしい。
いずれにしても、ここが廃止されてしまったことにより、仙岩峠越えの現道からびっくりマークはすべて消えてしまった。
現在の新道は、2002年の12月に開通したばかりであり、開通後は全く利用されなくなった旧道もまだ現役のように見える。
しかし、いよいよ竜川と崖に挟まれると、もうこれ以上進めなくなる。
厳重に入り口を封鎖された落石覆いが、行く手を遮っているのだ。
傍に寄ってみる。
ご覧の通り、車道、歩道とも厳重に封鎖されている。
その様子からは、もう二度と解放する気はないようだ。
歩道をも塞ぐ高い鉄製の扉。
南京錠でしっかりと施錠されている。
扉の向こうには、約100mほどの落石覆いが続いている。
ここからではよく見えないが、出口側も同様に閉鎖されている。
崖下を洗う竜川は穏やかな流れに見えるが、国道が開通する以前には沢山の旅人たちを呑み込んできた。
ここは、恐ろしい雪崩の多発地帯でもあったのだ。
チャリを諦め、単身フェンスを乗り越えた。
内部には恐ろしく殺風景な廃道の姿があった。
ガードレールの外に歩道があり洞門内は2車線が確保されているが、現役当時には痛ましい事故が多発した。
自動車を運転しない者にとっては特別に危険な道には見えないが、この灰色の圧迫感が、正面衝突という最悪の事故を誘発していたのか。
あるいは、死んだ者達の…。
「へぐり」とは、「へつり」(崖に張り付くような道、或いはそのような歩き方)が転じた名で、他にも同様の地名が報告されている。
(奈良の“平群(へぐり)”とは、由来が別だ)
旧道にはこの落石覆い以外には特別な構造物はなく、じき現道に合流する。
新道は2本の橋でここを対岸に迂回しており、橋上からは旧道をよく見渡すことが出来る。
如何に崖と一体化したような道だったかが分かる。
落石覆いの竣工年度は不明だが、一般的な物よりも遙かに頑丈そうなコンクリート製である。
まだまだ耐用出来そうだが、棄てられている。
反対側から、封鎖された道を振り返る。
やはりこちら側も、まだまだ現役の道に見える。
しかし、ヘグリの難所もじき、人々の記憶から消え去るのだろう。
2004.2.20作成