その61-2上小阿仁林鉄 不動羅橋2004.7.7撮影
秋田県北秋田郡上小阿仁村 南沢



 小阿仁林鉄の末端である軌道線、小阿仁森林軌道は、県内の林鉄網の中でも比較的早く現れた路線である。
前回紹介した「南沢橋」は、その起点間近にある集落からも明るい橋であったが、そこから僅か500m上流に存在した「不動羅橋」となると、もはや奥地の趣である。

紹介しよう。




 南沢橋の袂を通る林道は、堀内林道といって約10kmの道のりで阿仁町との境をなす山嶺に極まる。
無理をすればさらに林道を乗り繋ぎ、姫ヶ岳峰越林道に抜けることも出来る。
この林道は萩形へ向かう道ではないことに注意。

さて、その林道を遡ること500mほどで、昭和43年竣工の不動羅橋が現れる。
時期的には、廃止された林鉄の代わりに登場した橋なのだろうが、既に古橋のムードである。
この橋で小阿仁川の右岸に至る。




 すぐに道は上りになるが、このまま登らず、上り始めの左に踏跡(一応轍あり)があるので、分け入る。
泥濘で車は無理である。




 30m程進むと、造林地の中の広場で行き止まりとなるが、ここからは道無き山林を、「当たりを付けて」歩くことになる。
もっとも、“当たり”さえ間違ってなければ、ものの2分くらいで橋へ到達できる。
問題は、私の探索したような初夏頃は、とにかくヤブ蚊が多いことである。
その多さといえば、私に山林を走らせたほどだ。
並みの殺虫スプレーでは焼け石に水だ。
恐らくもう少し後には、虻地獄だろう。




 小阿仁川の小さな右支沢である不動羅沢に着けば、そのやや上手に巨大なコンクリの函が二つ屹立しているのに出会うだろう。
これが、不動羅橋の橋脚である。
橋桁は消えている。
橋台2基橋脚2基は、かなり原形を留めており、ゆっくり観察したかったが、それを許さない猛烈な蚊シャワーであった。





 不動羅沢の様子。
水量は少なく、容易に渡渉可能。
小阿仁川との出合いまでは50mほど。
橋の上流はすぐに滝の岩壁に阻まれ遡上できないが、1kmほど上流の岸辺には縄文時代中期の遺跡が遺されているという。
また、そこへ至る道も先ほどの林道から分かれ、付近は近年まで人が住まう集落であったというが、現在は廃村と思われる。




 おおよそ長居はしたくない状況であったが、思わぬ橋脚の立派さに突き動かされ、南沢橋側(下流側)の橋台によじ登ってみた。
斜面は土で、手がかりは豊富だが、落ち葉が積もり滑りやすい。
比高は約10m。
長さのわりに高い橋である。

写真は対岸の橋脚。
橋脚はどっしりとしており、狭軌の軌道を支えるに充分な強度があったと思われる。
木橋にありがちな支え木(斜めの支柱)を閊える部分は見あたらず、コンクリートの橋桁だったのかも?



 せっせとよじ登ると、橋台と橋脚との間にはまだコンクリートの橋桁が残っているのを知った。
全体が蔦や枝に覆われて、視界が利かないが、橋桁は欠けもなく良好な保存状態のようだ。
橋脚で橋桁は途切れ、沢を渡る部分は中空である。
沢には散乱物はないので、持ち出されたのか?
木橋だったとしたら、流出してとっくに消えてしまったものか?

南沢橋といい、こちらといい、想像していた以上に、立派な遺構が残っている。
かつては終点付近の萩形部落の住人も足として利用していただろうから、ある程度の整備がなされていたと見るべきなのか?
森林鉄道ならば分かるが、軌道としては立派な部類だろう。



 よじ登っては見たものの、期待はずれなほど軌道跡は不鮮明であった。
とてもじゃあないが、この時期に辿れる感じはなかった。
まあ、半分は蚊にやられたようなものだが。リュックを谷に置いてきた事もあり、引き返しを決定した。
腕ほどの太さの木々が捻れ遮る軌道跡は、山側からの落石や崩土に半ば形を失っており、たとえ500mといえども、林道とは対岸となる軌道跡を進むのは憚られたのである。
地形図上は、この間に橋梁などの遺構は無さそうであり、現在の土地利用状況としては、概ね植林地のようだ。


 橋を振り返ると、残った橋桁には枕木が残っていた。
その朽ち方は猛烈で、コンクリという自然に相容れぬものだけを残し、あとは全て消化されんとしている。
土砂が流出し、その基礎を露わにしている橋台だが、中途半端なものではなく、それ自体は非常に大掛かりなものであることが分かる。
それほどに古い施工にも見えないというのが本音なのだが、一応路線の開通は昭和初期と言うことになる。





 狭軌の幅を今に伝える橋桁。

歩けるのは1mほどで、その先は地上との比高が飛躍的に増すうえ、枝葉や蔦木に邪魔をされ、進めない。
突き破って突端に立ちたい欲求はあったが、足元も悪いし、蚊のせいで集中力を欠いていると言うことで、これも棄権した。
もっとも、突端といえども藪を完全に脱してはいないようだが。

探索終了を宣言すると、私は転げるように(事実滑り降りたわけだが)沢に戻ると、水辺からリュックを引きはがし、来た時以上のスピードで森を駆け戻ったのである。

なお、これより上流は一切が未探索である。
堀内林道自体も、小阿仁森林軌道の支線を概ねトレースしているようだが、肝心の本線は県道とは対岸を通る距離が長く、この橋の様子を見るに付け、容易には挑めないぞと言い聞かせる次第である。





2004.9.7作成
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