旅を続けていると、思いがけぬ体験をすることもある。
例えば、見知らぬ街の夕暮れに、
何か、目に見えぬ気配を感じることはないか。
このお話は、
私の不思議な体験と、それにまつわる数枚の写真である。
山形県庄内地方の某町、古くから霊山と崇められし峰の麓に位置するその町の片隅に、幾つもの坂が点在する地区がある。
坂は、広大な水田と山上の里を結んでおり、坂の両側に集落があれば、それは峠となる。
このお話は、そんな峠に始まる。
−いま、日が暮れた。
坂道をひとしきり登ると、
その頂は、隧道だった。
押し黙ったままの森のなか、
明らかに異質な赤が、煌々と漏れている。
戦後間もなくに建設された、
綱 取 隧 道 。
坑口の正面上部には、立派な扁額が。
右脇には、竣功年度が刻まれている。
昭和二十六年四月竣功
と、そうあった。
いま、ここにいるのは私一人。
家路に急ぐ誰かが通りかかることもない。
ナトリウムの燃える化学反応が、
生き物の胎内のように、洞内を赤く染めている。
歩行者一人分だけの、狭く土埃にまみれた歩道がある。
しかし、明るいのは出入り口だけで、長い洞内は、殆ど真っ暗だった。
私のチャリを漕ぐ金切り音だけが、闇に響いた。
隧道を抜けると、そこは一面の緑の原野だった。
しかし、よく見るとそこかしこには、
放棄された畜舎が、あった。
どこからか現れた二匹の野犬が、
まるで憑かれたかのように、私に吠えかかり、追い立てた。
私は、何か嫌なものを感じ、立ち去った。
宵の明星が、光の失われ行く空に、残り香のような光芒を点す。
人のいない道が、下りに転じて続いていく。
主なき民家が建ち並ぶ一角。
茂る夏草の影に何かが潜んでいたとしても、
ときに、それが、「妖怪」と呼ばれてきたモノだとしても、
あるいは、ありかもしれない。
私の、 遭遇 は、刻一刻と近づいていた。
失われた陽の幽かな残照を、
遠くに灯る、街の灯りが送る。
人の刻は おわり
その主役を、 夜の住人 に
いま あけわたす。
“W坂” とよばれる 道。
齢経りし櫻の並木道。
その先に、
私は何か光るモノを見た。
それは、
眼。
一目見て、人の眼ではなかった。
で
た
|
それは、
明らかに人ではない 何か たちの姿だった。
いまだかつて、こんなにいるのは
見たことがない!
なんということか!
もふっ もふっ もふっ
もふっ もふっ もふっ
もふっ もふっ もふっ
もふっ もふっ もふっ…
(注)掲載した写真は、御払い済みです。