廃線レポート  
森吉森林鉄道 その4
2003.10.17



 廃止後30年余りを経過した軌道跡は、既に森と同化しており大変な藪と化していた。
わずかな距離に一時間以上を掛け、何とか突破。
だが、これはまだ始まりに過ぎなかった。
目指す隧道群は、更なる奥地なのだ。


小滝集落
2003.10.8 10:42


 空き地と空き家ばかりの集落を過ぎると、やっと対岸の県道と合流するための橋が現れた。
これを渡って後は楽に県道を進もうと思っていたが、どうせここまできたのならさらに軌道跡を極めたいという気持ちも出てきた。
地図上では、この橋を渡らずに後3kmほどがんばれば、一本の橋があって、県道へと脱出できそうなのだ。
もし橋がなければ大変なタイムロスとなるが、ここは一発賭けに出ることにした。


ちなみに、橋を渡って県道に合流する地点には見慣れないこんな標識があった。
赤字に白で「一旦停止」、補助標識には「左右確認」の文字。
心持ち通常の標識よりも小さい気がするが、オリジナルの標識だと思う。



軌道跡の林道
11:01

 意を決してさらに右岸を進むことにした。
そこは、意外なことにちゃんとした林道のようであり、いくらか車通りがあるようだった。
まっすぐ続く石垣は、かつて軌道があった当時のものと思われる。
この調子なら、意外に楽に通り抜けられそうだ。



 1km進み、2km進み、順調だ。
だが、進むにつれて、途中何度か左手に林道が分岐していた。
そして、その分岐を過ぎる度に、本線の轍は弱々しくなっていった。
嫌な予感を感じさせる展開だ。

もし、行き止まりだったら、嫌だなー。


そして道は潰えた…
11:14


 3km来た。
そこで、道は終わっていた。
その先に続いていたのは、ご覧の“道”。

って、これって道なのだろうか?
しっかりと下草が払われており通ることは出来るのだが、まったく轍などが無い。
ただ草刈をして、そのままの様な感じだ。
何のために草が刈られているのかが分からない。
そもそも、これは軌道跡なのか??

よく分からないが、引き返したくないのでこの道にすがってみる。
でも、橋はあるのだろうか…ものすごく不安なのだが。





 100mほど進むと、前方になにやらコンクリートの物体が見えてきた。
小さな小屋のようなあれは何?
そして、なんで道の真ん中にあるの??

接近。



 正面に回りこんでみると、なんと地下へ続く入り口ではないか!!

入り口は簡単に閉じられているが、入る気なら、入れないことも無い。
薄暗い内部の様子を見てみよう。


 地下へと続く梯子の底には水が見える。
そこは、どうやら水路らしい。
右手から流れる水は、左へと消えている。
水量は余り多くないが、さすがに降りてみようという気にはならなかった。
これは推測だが、小又川流域の各発電所を結ぶ地下水路ではないだろうか?
そして、ここまでの道らしからぬ草刈は、ちょうど水路の真上と思われた。
これは、この水路が現役で稼動している証だろう。
傾斜した道
11:18


 さらに進むこと100m、道(明らかにこれは“道”ではないが、ここではそう呼ぶ)は、小又川の清流に突き当たる。
川幅は20mほど、対岸には県道のガードレールが見えている。
ここで、恐れていたことが現実になったことを知る。
なんと、橋が無いのだ。
上流と下流を見渡してみても、無い。
痕跡すら見当たらない。

やむを得ず地図を開き、迂回路を模索する。
といっても、考えられるのは、この道を行けるだけ行ってみるしかない。
5kmほど上流には湯ノ沢温泉があり、ここには橋もあるはずだ。
が、大丈夫なのかこれ以上進んで…。



 道は、傾斜していた。
それは、勾配ではなく…写真のとおりである。
下草が刈られているから道を見失うことは無いのだが、ここをチャリ同伴で通行するのは、凄く辛かった。
ちょっと、説明しても分かって頂きにくいと思うが、斜度は最大50%くらいあって、滑りにくい足場に救われ川に落ちることは無かったものの、とにかく、足が疲れた。
どう見ても、ここは人が通る場所では無い気がした。
そして、言うまでも無いが、軌道とはまったく関係ないはずだ…。

この苦行は、距離にして500mほど続くことになる。
一時は、もしこれがずっと5kmも続いたらどうしようと底知れぬ恐怖におびえたが、幸いにして、救いの手が差し伸べられたのである。


取水施設 
11:28


 いつ果てるとも知れぬ苦行の道に絶望し始めた私の前に、なにやら建物が現れた。
見えてきてから実際にたどり着くまでの長かったことを鮮明に覚えている。
はっきり言って、この小滝・女木内間の行程は、反省点が多い。
軌道跡を辿るという目的があるにもかかわらず、いつのまにか「引き返したくないから、進む」と、意固地になってしまっていた。
おかげで、必要に薄い危険を冒してしまった。
また、探索の時間効率という点でも反省点は多い。
探険家として、未熟さを露呈してしまった。  いつものことだが。

今回は、たまたま、対岸に渡れる施設が現れたからよかったものの。



 ひとつだけ、収穫があった。

草が刈られた地面に半ば埋もれる一条のレールである。
もっとも、これはもともと設置されていたレールではなく、取り外されここに投棄されたものであろう。
しかし、今回の軌道探索で初めて、軌道の物的証拠といえるレールを発見できた意義は、小さくない。

考えてみれば、この急な河岸のどこを軌道は通っていたのであろうか?
結局、軌道跡は発見できなかった。


 そこにあったのは、小又川の水を取水し先ほどの地下水路へと分流させる施設のようであった。
小屋があったが、無人稼動らしい。
幸いにも、先に見えるあの橋で県道へと戻れそうだ。



 人道橋へとつながる階段のまえ。
こんな場所にチャリを持ち込んだのは、後にも先にも、私だけに違いないだろう。

馬鹿らし。

といいつつ、ひそかに興奮する私がいた。


 川をせき止めるダムと一体的に設けられた古ぼけた人道橋。
小さいながらも立派なトラス構造を見せる。
ちょっと、オーバースペックでは??

この橋に至り、久々にチャリを漕いで進むことが出来た。
あー、楽チンだ。



 で、対岸の県道に合流。
しばし軌道跡とはお別れだ。
さすがに、これ以上ここで軌道と戯れていては、肝心の太平湖に行く前に日が暮れてしまう。
それ以前に、取水施設より上流の右岸には軌道はおろか、獣道ひとつ発見できなかったのだが。
やはり、時期が悪すぎたのだろうか。

まあよい。
久々に快適なアスファルトに出会い、チャリも喜んでいるぞ。


いよいよ次回、太平湖に続く軌道跡へと進入開始!

はたして、私は何処まで行けたのか?!

その5へ

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