錦秋湖畔の水没廃線の探索を開始して、既に2時間半余りが経過していた。
今回は遂に、廃線の水没の現状をお伝えしたい。
いよいよ、レポートも佳境を迎える。
湖畔の水位は、年間を通じて一定ではなく、その変動は非常に大きい。 そのせいで、湖畔の砂利は相当に浸食を受けており、角のない小さな石ばかりである。 そして、急な斜面になっている部分では、砂山を歩いているかのように深く足が沈み、下手をすれば砂利ごと水中へ落ちそうになる。 これは、想像以上の危険な湖畔である。 しかも、スニーカーでは歩くにくいことこの上ない。 忍耐強く無理せず一歩一歩踏みしめて先へと進んだ。 |
思うように進めない中、やっと旧線の痕跡が現れた。 私の文才ではうまく表現できないのが悔しいのだが、写真で見る以上に、ここまでの道程は険しく、しんどかった。 チャリを置いての長時間の探索によって心細くなっていたこともあるし、なによりも、錦秋湖のこちら岸には全くといってよいほど人の気配がない。 厚くたちこめた雲の下、いつ湖に落ちてもおかしくないような岸辺の独行は、自分で思っている以上に精神的な疲弊をもたらしたのだろう。 想像以上の水位の高さゆえ、全てが水没していたらどうしようかと心配させられたものの、こうして一部だけとはいえ旧線の痕跡が現れたことは、本当に嬉しかった。 | |
このロックシェードは後補の物であり、残念ながら名称は不明である。 ここでは便宜的に大荒沢ロックシェード(RS)と呼ばせてもらうことにする。 大荒沢RSの北上側坑門は、このとき殆ど水中に没しており、内部の様子は分からなかった。 ここを探索した先人の記事によれば、このRS全体が水上に現れていることもあるというから、今回はやはり、水位は低くないらしい。 何はともあれ、この先の旧線は概ね高度を上げるばかりなので、何とか水上の探索が通用するかもしれない。 ちなみに、この大荒沢RSは対岸を通る国道からも良く見え、水没した横黒線の象徴的な光景とされている。 | |
私が坑門に見入っていると、けたたましいモーターの唸りと共に、RSの背後から猛スピードで現れたものがあった。 水上をはねるように疾駆するモーターボートであった。 こんな不安定な湖畔の斜面に張り付くようにしている私の姿には気が付かなかったとは思うが、私としては、万が一水中に滑落したときの保険として、心強い存在に見えた。 ま、気休めだが。 さあ、それではさらに先へと進むとしよう。 | |
RS内部は水没しており通れないので、仕方なしに上を迂回することにした。 上部に立つと、かなり先まで見渡すことが出来る。 地形に沿って緩やかに蛇行するRSは、ここから見るとまるで、ただのコンクリートの護岸のようである。 | |
ここは歩きやすいが、危険度は依然マックスレベルにある。 なんせ足元は人が歩く為の護岸ではない、RS上部などというのはもともと、石が積もらないように、容易に滑り落ちるようにと設計されているのだ。 とうぜん、私が石の代わりに滑落することは十分にありえる。 しかも、一度落ちたら、水深は何メートルあるのかも分からない(RSが設置されていることからも、崖下は相当の断崖と考えられる…)し、水面からは垂直に切り立ったコンクリートを登ってこれる自信は無い。 要するに、落ちたら死ぬだろうなということ。 そして、ここは落ちやすい構造だということ。 危険極まりない廃線探索である。 | |
しかも、先に進むにつれ、このように岸辺の植物が大きく湖面に張り出している部分が続いている。 慎重に、極めて慎重に、かき分けて進むわけだが、この緊張感はまさしく、命がけのそれである。 恐怖で冷や汗をかいたのは、久々である。 | |
そうこうしつつも、進んでいくうちに湖面からの距離は少しずつ開いてきた。 確実に旧線が湖上に姿を現しつつあるのだ。 緊張感が途切れれば、きっと滑落するだろう。 しかし長いRSだ。 怖い。 |
RSの全長は、約100mほどであったが、通過には7分近くを要した。 しかし、たどり着いた西側の坑門は、更なる衝撃と興奮を私に与えてくれた。 まさしく、水没遺構である。 微妙な水位が、このRSの廃美を最大限に強調しているように思える。 もう1m水位が高ければ、十分に堪能できないだろうし、その逆であっても、つまらない景色であったかもしれない。 再び私は興奮に包まれた。 砂利を雪崩のように体と一緒に滑らせながら、坑門に下り立つ私。 | |
半分水没したロックシェード…。 普通は見られない景色が見られるというのも、廃道探索の面白みの一つだ。 それだけに、元の道に色々な道路構造物があった方が、何倍も面白くなるのだ。 光が入らない廃隧道の鬼気迫るような情景も好きだが、この湖面と一体化したRSの美しさは特筆ものだ。 しかも、ここには「音」がある。 | |
風によって水面に発生した小さな波が、複雑な形をした内壁や横穴にぶつかり、独特な音響を奏でている。 これまで聞いたことの無い様な、奇妙な音である。 カオスに支配された、自然のメロディー。 薄暗い洞内に、まるで合わせ鏡の世界のように規則的に続く光。 そして、そこにこだまする、不規則な音。 この対比の妙は、半分水没という極めて特殊な状況によって生み出された、芸術である。 | |
何となくオリエンタルな香りのする眺めである。 水深は坑門よりすぐの場所ですら30cm以上あり、これは奥に進むにつれ深くなってゆく。 100mほど先の反対側の坑門では、天井付近の僅か30cmほどを残し、あとは全て水中なのだ。 想像するだけで圧迫感を感じてしまう。 しかし、いつまでも居たいと思わせてくれる眺めには違いない。 | |
無数にある横穴の一つ。 色々な角度から楽しめる、なんとも秀逸な廃物件である。 国道から対岸に見える同RSは、湖面に辛うじて顔を出すか細い存在に過ぎないが、実際に足を踏み入れて、初めてその素顔を知ることができた。 水深にもよると思うが、ボートでも無ければ容易にはたどり着けない旧線跡。 苦労してでも訪れてみる価値がここにはある。 ただし、くれぐれも気をつけて!!! 次回は、横黒線の廃隧道3本のうち、唯一完全に水没してしまうことがある真性の水没隧道をご紹介しよう。 その名は、本内隧道…。 そこには、内部を歩いたものにのみ許される驚愕の眺めが存在していた。 |
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