2007/9/1 13:26 【現在地:道の末端】
道は消えたが、踏み跡らしきものがある以上、先へ進もう。
話は脱線するが、ここで私が普段使っているデジカメについて。
なぜかいきなりそんな話をするかと言えば、左の写真を見て欲しい。暗すぎて、殆ど映像を結んでいない。これではレポにならない。
悪天候や薄暮時の廃道歩きで使いたいデジカメには、幾つか必須と思える機能が存在し、それをここで明らかにすることによって誰かの役には立つかも知れないと思ったのだ。(今回「第3回」は、県道踏査的には特に見るべき内容はありませんので…涙)
普段使用しているカメラは、「LUMIX DMC-FX01」という06年春に発売されたコンパクトデジカメだ。以前はFinePixシリーズを愛用していたが、最近はこれを2台続けて使っている。(1台は某所での転倒時に壊れました)
予備としては、何度もレポでも名前を出している「デジタル現場監督DG-5W」を使っているのだが、本来このカメラの方が余程堅牢だし、なにより防水強度が高い。(LUMIXは非防水)
となれば、黙って現場監督だけでも良さそうなものだが、そうも行かない理由が幾つかある。一つはその重さゆえ首からの常時携行に疲れると言うこと、二つは発色がレジャー向けのカメラと違って淡すぎると言うこと、そして最大の理由が、少しでも暗い場所での撮影は三脚が必須であるという「欠点」である。
左上の写真にカーソルを合わせると、一気に画像が明るくなって状況が分かるようになる。
これはPCで画像処理を施したのではなく、LUMIXに搭載された「高感度モード」をONにして撮影したものである。(画像処理ではここまで鮮明にならない)
高感度モードでは細部のディテールは失われるが、発色や明るさはむしろ肉眼で見たものに近くなる。(現実的に考えてここまで暗ければ探索が出来ないだろう)
何を言いたいのか。
まとめると、廃道向きのカメラとは、「防水」「堅牢」「コンパクト」「手ぶれ補正」「高感度」(あと私の場合「安価」)という多数の要素を満たすものだと言うことだ。(藪蚊や虻に集られながらもじっくりと三脚で狙いを定められる堪え性が私にはないので、「高感度」に加え「手ぶれ補正」もぜひ欲しい)
LUMIXは、上記要件のうち3つめ以降を全て満たしている。そして、現場監督は前者の2つのみを満たしているのだ。
もし全てを満たすカメラがあるならば、いずれは買い換えたいものだが。
本題に戻る。
現在地は相模川の河床から約100mの高度、城山の北側斜面が相模川の侵食によって削り取られつつある、その最も活発なる部分。
現在は津久井湖他多数のダムが本流支流に完成し、神奈川県最大の河川である相模川の水量も安定的に減ったが、等高線が極めて密に描かれた斜面からは、かつての暴れ川っぷりが目に浮かぶようだ。
そして問題の県道は、この斜面を横断するようにして指定されている。
単純計算でも、この斜面の斜度は50%を超えている。
そこに幅7mの普通の車道を開削するとなれば、これが地上なら大変なことである。現実的な土工量に納めるなら幅3mくらいの道が関の山だろう。むしろ、今日ならば真っ先にトンネル攻略が検討される斜面だろう。
しかし私には、この非現実な予定線であっても、地上を行くより道がない。
腐葉土がたっぷりと乗っかった急斜面。
初めのうちは、それでも踏み跡が続いていた。
先ほどまでの幅広の道をそのまま追従するような、ほぼ水平に刻まれた踏み跡。
だが、安心してはいけない。
私はつい先日ある山を一日歩き回り、そこで関東地方の雑木林に無数に刻まれた踏跡は、実は野生の動物たちが刻んだ獣道にその大半を占められているのではないかと、そう強く感じたばかりなのだ。
具体的には、イノシシがこのような道の主であることが多いと考えている。(彼らは列を成して山野を水平方向に疾走するので、人間の踏み跡と良く似たものが出来る)彼らは東北において殆ど生息しないので、私は自然に踏跡=山菜採り(=人間)のものだという固定観念を持っていた。
確かにこの斜面には人が残したゴミが無いのはもちろん、登山のルートでもないし、地図にも描かれていない道だ。
賢明な関東人が、ここまで山菜採りに夢中になるとも思えない。
余談だが、私が思いついた両者の見分け方として、道を跨ぐ倒木から見極める方法を伝授したい(←偉そう)。
イノシシの獣道= 有効地上高50cm程度の倒木の下に踏み跡が続く。
人間の踏跡道= 有効地上高50cm程度の倒木の下に踏み跡が無く、倒木の上に踏み跡(傷)あり。
この道は…、サンプルが少ないが前者と思われた。
あ あ あ…。
そのまま水平に50mほど進んだところで、遂に木も生えぬほど急な斜面が現れてしまった。
何度も繰り返すが、谷底からは100mもあるから、下を見ても水面が見えるわけでもないし、ただ茶色の斜面が森に吸い込まれるように見えているだけだ。
だから、何となく「怖くない」のだが、万一落ちでもしたらどこまで落ちるか分からない。
濡れた岩場の上に腐葉土や落ち葉が薄く乗った状態で、間違いなく滑りやすいはずだ。
どうしようか。
今ならまだ、容易に引き返せる。
しかし、私は前進することを選んでしまった。
こんな靴で。
20mほどの斜面を高巻き気味に横断成功。
しかし、良くなかった。
靴がすり減った上履きみたいなものだったから、全然地面を噛まず、一歩進むのも這うような有様だった。
主に手の力で進んだ感があった。
この日の私はとにかくグダグダだった。
引き返すのがめんどくさかったからか、或いは里山に対する傲りか、「なんとかなるさ」でぐいぐい進んだ。
しかし、ちゃんとした装備ならば余裕を持って進める筈の場所で、必要以上に危険に感じる状態だった。
また、危険を冒して突破してしまったことにより、引き返すことのハードルがさらに高くなってしまった。
何故そこまで愚かになってしまったかと言えば、おそらくこの景色が良くなかった。
斜面を進んでいると、ときおり見えるのだ。
目的地たる“迎えの道”が。
このことが、私の心へ及ぼした影響は計り知れなかった。
高いところから見ているせいもあって、今がどんなに険しくても、最後はどうにかなる気がした。
最悪水平移動が出来なくなったら、或いは道を完全に見失ってしまったら、眼下の全く水の流れていない相模川へと降りて川原を歩けばよいと、そう楽観的に考えていた。
引き返すよりは、とにかく突破してしまいたい。
もう、あの蜘蛛の巣地獄を掻き分けるのは嫌だという、そんな気持ちが常時勝っていた。
馬鹿者であった。
なお獣道は続いていた。
しかし、先ほどの崩壊斜面を越えて以来、それまでの一本筋の通った獣道が、散り散りに解れた糸のようになってしまった。
斜面のどこが、肝心の「描かれた道」なのかが分からない。
ただ山の中を彷徨っているに過ぎない状況となってきた。
遊歩道もある憩いの山、城山。その知られざる北壁の、なんと険しいことか。
まるで地底のように暗い森の底。
濡れた岩場や朽ち木さえも手掛かりにして、進んでいた。
既に道はおろか踏み跡も無く、獣道さえ見失った。
ただ、僅かに進めそうなラインを見出しては、そこを突いて進んだ。
水平方向に進んでいる時間よりも、巻くための上下移動の時間が増してきて、いよいよ訳が分からない。
この状況に至ってようやく私は、県道予定線の正面突破は不可能だと自覚した。
世の中にこれを描く地図がある以上、何かしら道があるはずと信じていたし、生来負けず嫌いの私は撤退を恐れた。
しかし、無いものは無いのだった。
次に考えたのは、「どうやって向こう側の道へ辿り着くか」だった。
出来れば引き返すことなく、向こう側へと辿り着きたい。
その為にはどうするべきか、いずこに進路をとるべきか、頭の中では色々なアイディアが浮かびはするが、結局、そんなものは空論なのだった。
遂に、前進を諦めざるを得ない決定的な光景が現れる。
行く手に45°以上に傾斜した岩場が現れた。
岩場は周囲に比べ相対的に低く、地図にもない小さな谷であるようだった。
ガレ場か涸れ沢と言うべきか。
適当な用語が登山の世界にはありそうだが、道を範疇とするオブローディングに、こういう場面は想定されないはずだが…。
危険な濡れ苔の岩場を伝わり、なんとか沢の中へ降りる。
斜面を無理な靴で横断し続けた結果、不自然に曲がったままで体重を支えていた右足踵の骨が痛くなってきた。
向こう見ずに前進した愚かさが、いよいよダメージとなって表れてきたのだ。
しかし、私にはほんの少しも気の休まる時はなかった。
本来なら、この美しい緑の谷間は格好の休憩所の筈であり、じっくりとこれからの対応を検討する落ち着いた会議室の筈だった。
だが、この谷底は、今思い出してもぞっとする… 蚊どもの巣窟だった。
殆ど水量のないこの日影の谷底は、彼らにとって格好の産卵場所なのだろう。
そこで彼らは際限なく発生し、四方の山林へと飛散しているのだ。
しかも本能に素直な彼らは、久々の大型哺乳動物の進入と見るや狂ったように集ってきた。
私も堪らず雨合羽のフードを目深に被り、顎紐をきつく締め直した。腕まくりもやめて、全身で顔面と手の先だけ以外は一切肌を出さない格好になる。
熱すぎて死にそうだが、ここで肌を10秒露出していれば、10カ所は刺されるに違いない。失血死さえするかも知れぬ。
折角辿り着いた貴重な谷の写真を撮ろうと身構える私だが、シャッターを切る寸刻だけで、もう指先には奴らが何匹もとまるという有様だった。
私も必死で体を動かし、あくまで抵抗した。
そうして撮影された数枚の写真のうち、上は下流方向、右上は上流方向である。
極めて条件の悪い状況だが、私も意地を張って辺りの状況を見て回った。
谷を伝って上下に移動することが出来たから、もしここへ来る途中で見失った道があるなら、その道が谷を横断する場面に出会えると踏んだのだ。
上方には30mほど、下方にも20mほどを、非常に急な沢ではあるが、少しも立ち止まらず飛び跳ねるようにして動いた。汗で視界が曇った。
結果、この谷よりも先へは進めないと言うことを理解した。
左の写真は、谷の右岸の傾斜である。
左岸はここまでの崖ではなく、故に私は谷底へ降りることも出来たのだが、対岸はとんでもない断崖絶壁で切れ落ちていたのだ。
地形図には崖は描かれておらず、ただの等高線の密な部分に過ぎない。そもそも、谷自体が全く描かれていない。
空中写真から地形を描き出す現在の地形図では、空を森に覆われたこの谷など存在しないも同様なのだろう。
そこに、道路台帳を元にしたというK氏提供の地図では、ほぼ水平に道が横断している。無論、地図にないこの谷など意に介さぬ様子で、真っ直ぐ進んでいる。
完敗。
道は実在しない。
ここまでをまとめると、国道413号上の幻の起点から、遊歩道として始まる県道511号の序盤の内訳としては、
遊歩道 300m
激藪道 400m
獣道&道無し 200m
ここまで来て断念だ。
K氏の地図によればなおも道は続き、次に地形図に描かれた道に重なるのは、もう600mくらい先でのことである。
途中には微妙なカーブを描き城山の尾根を上り下りする様子が読み取れるのだが、この様子では、まず道は存在しないだろう。
高圧鉄塔の下を潜るあたりでは、或いは鉄塔の管理歩道が存在するかも知れないが、探索を終えた現時点でも把握されていない。
このあと、私はチャリを回収し、残る下流側の県道へと向かった。
チャリ回収までの間、正直、ここまでとは比べものにならないほどの危機的状況に陥ったのだが( やめればいいものを谷底に下る事をしまして、結局ダム直下の岩場で九死に一生を得ました…トホホ )、あんまりにも恥ずかしいのと、そもそも本道とも関係ないのでレポートはしない。失敗として胸の内に仕舞っておくことにする。
次回は大幅に危険度を縮小し、のんびり下流側を散策して、最終回とする。
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