ちょっと肩に力が入ったレポが多かったと思うので、ここいらで“昔くせー”レポを一発。
おもわず、チャリ馬鹿トリオ愛唱歌である『マイナーマンのテーマ』が脳内リフレインするほどにマイナーな、新潟県内のある県道不通区間の探索である。
道は、新潟県一般県道の178号、路線名「山ノ相川下条停車場線」である。
「そんな道しらねーよ」という声がいまにも聞こえてきそうである。
…あ、マジ聞こえてきた。家の猫が言ったよ、いま。
この道、今時「山ノ相川下条」ってググってもたった2頁しかヒットしないほど、マイナーであり、知られていない。
無論、私も知らなかったし、そう力んで近付いていったわけでもなかった。
ただ、なんとなくね。不通みたいに地図で描かれていたんで、チャリ旅の途中に寄ったわけよ。
で、この道についてレポる前に、何だか妙にカラフルチックな上のMAPを見て欲しい。
カラフルなのは、狭い範囲に県道や国道がひしめいているからなのだが、これ、何か凄いよ。
よーく見ると、不通と思しき県道がどんなにか有るよ?!
というか、ちゃんと通じているのは国道だけじゃねーかと言うくらい、ダメだ。
不通県道マニアの私は、この辺りの地図を見ると息苦しさを感じさえする。 有り過ぎも良くない。
何でこんなに不通ばっかりなのかといえば…、おそらくは政治の問題なのだ。
秋田県内だったら、そもそも絶対県道指定できなさそうな、「ちょっと…」な道も、かなり指定されている。新潟県ではね。
まず、それは置いといて、そんな無数にある不通県道のうちのたった一本、県道178号線、ご開帳〜〜!
何だかやる気無さそうな道
新潟県十日町市より、東へ
この県道は、路線名の通りJR飯山線下条(げじょう)駅が終点となっている。
が、実質的にはその近くの国道117号とのT字路から始まる。
そこから、魚沼丘陵北部地帯を東進約5kmにて市域の端、二子集落に至る。
地図上では、その先北魚沼郡川口町との境となる無名の峠まで道が描かれているが、その川口町側に道はなく、不通区間となっている。
空白を挟み、反対の川口町側にも1km程度の羊腸の道が描かれているものの、力及ばず峠にたどり着けていない、といった感じを地図上からは受ける。
直線で不通区間を結んだとしたら、その距離は僅か350mほどでしかない。
この距離は、いくら何でも短すぎる距離だ。なにか、特殊な事情でもない限り、実は繋がっていると言うことを大いに期待して良いだろう。
経験上そう考えた私は、この日の山チャリの中で、傲慢にもこの峠をルートに組み入れた。
峠まで行って、実は通り抜けられないとなってはかなり深刻だが…
これは、 行けるはず!!
県道の路線を終点から起点へ向けて辿る旅である。
現在地点は、終点である下条から東へ3.3kmの漉野(すくの)地区、十日町の市域だ。
ここで、一般県道506号「岩沢中条線」が左に分岐する。
この岩沢中条線もまた、北に接する小千谷市との市界より先は不通区間として描かれおり、“魚沼丘陵不通ファミリー”の一員である。
(ちなみに、実踏の結果、市道経由で通行は可能だった。悪路だが。)
今回はこれを、直進する。
立派な青看は不通区間があるせいか、路線上の終点である「川口」ないし「山ノ相川」ではなく、目の前の集落である「漉野」を表示していた。
午前7時34分、不通区間へ向けて出発。
比較的最近に拡幅された雰囲気が漂う県道。
漉野は、とりたてて目立つものもない静かな山間集落だが、緩斜面に猫の額ほどの田んぼを器用に耕している景色が、印象的だった。
また、鉄筋コンクリート造りの小学校が集落の中心にあり、面目躍如たるものを感じた。
少し、空元気っぽいけどね…。
変なもの 発見?
“めご”は、おそらく“めんこい子”。
こちらの方言で、可愛い子供のことだろうか?
なんとなく地域の愛情を感じさせる、いい標語だ。
更に少し進むと、またしても県道の分岐するT字路がある。
そして、この路線番号も506、さっき左からぶつかってきた道が、短い重複区間を経て、今度は右に出ていくのだ。
行く先は、国道252号沿いにある同市内轟木(とどろき)地区だ。
今度は不通ではないようだ。
今度不通なのは、いよいよ直進である我らが178号なのであるが、往生際が悪く? 「二子」という最奥の地名を掲げ、それを見破られまいとしているようだ。
ここまで来て思う。
どうやら、本当に抜けていないっぽいな。 と。
だが、大丈夫なはずだ。
丘陵地帯の、たかだか350m。
藪を掻き分けでもどうにでもなる。
この、少し強がりの混じった私の推測は、ある部分では正鵠を得ていたが、思いがけない部分で裏切られることになるのである。
不通との遭遇
県道分岐を過ぎると、すぐに道は小さな峠を越える。
そして、その先では思いのほか爽快な下りが待っていた。
鋪装も真新しい感じがして、一瞬私は勘違いしそうになった。
いま越えてしまった峠が不通区間の始まりで、この新しげな道が、最近開通した不通ならざる道なのではないかと。
まして、対向の乗用車が数台すれ違うに至り、やはり通じているのかと、確信めいたものさえ生まれたのだ。
が。
違う違う。
そんなはずはない。
下りきった先に現れた二子という集落にて、道は再び上りに転じたのである。
地図を見直してみても、やはりここは不通区間の手前、直前である。
むしろ、不通なのはこの集落を過ぎ、いま目の前に始まったこの上りの頂点から先のはずである。
だが、先ほどすれ違った車が引っかかる。
二子の集落に至っても、別段これといって通行不可能という標識もなく、2車線の道が坦々と続いてるのだ。
不通なんて、そもそも存在しないんじゃ?
根拠は不明だが、「楽しく愉快な」と某国民的一家のようなキャッチコピーが掲げられている。
だが、その立て札の隣に立つのは、生々しい廃屋……。
シュールだ。
あば! あばあばあば!!
途端に怪しくなったぞ!!
こ、この鋪装の草臥れぶり!
くっ 来るぞこれは、 来る!!
ダメだこりゃ。
白線が消えかかっている鋪装という時点で、不通がほぼ確定したようなもんだが、見えてきた上り坂のてっぺんから先に、緑色しか見えない!
あんまり地図通りなので、逆に感心してしまった。
十日町市側は満足に道が完成しているというのに…、川口町側は……。
不通っす!
それにしても、やる気感じねーなー。これ。
曲がりなりにも、県道の不通区間ですよ。
それなのに、ここまでただの一度も告知は無し、峠に来たらいきなりコレって。
まあ、まだ一応道らしきものがあるので、少しほっとしたけどね…。
立ち入り禁止とさえ書いていない、鉄パイプ製の簡易ゲートを、通過。
地図中には描かれていない区間に、入る。
ここから先は、北魚沼郡川口町域だ。時刻は、午前8時ちょうど。
不通との戯れ
なかなか“不通区間ハンター”を自称する私を喜ばせる、“粋な”道がトボトボと続いている。
稜線を左に感じながら、緩やかに下っていく。
路面には砂利が敷かれているが、轍は非常に薄く、それでもまだ草生していないのは、道が作られてから余り経っていないから?
路肩の崩壊に目を瞑れば、なんとか軽自動車くらいは通れそうな道が続く。
もしや、私が最も好む激ショボ道でもって、不通区間を攻略できるのか?!
個人的に、お宝発見かも?!
ま、
「実は通れましたよ。」となっても、
世の体制には全く影響し無さそうだが(爆)
ヤバイ。
悪あがきもここまでか?!
行く手に現れたいかにも崩れ易そうな崖に、ショボ道が吸い込まれるように消えていく様を目の当たりにして、現実の厳しさという奴を思い知った気になる。
「たかだか350mくらいどうにでも…」 などと粋がっていたものの、周辺の青々と生い茂る里山らしい密林と、意外に急峻な地形を見るに付け、残りはもう200mくらいの距離になっていたとしてもチャリと共に道無き道を…というのは、かなり困難なのではないかと、自覚する。
もう、手遅れか…。
ちょっとピンチ。
おおっ。
諦めるには早かったか?!
思いのほかしぶとく、道は掘り抜けていた。
せ、セーフだ。 ギリギリセーフ!
振り返ると、そこにはいまにも砂山に押しつぶされそうな、いかにも弱々しい掘り割り。
だが、まだ辛うじて通行を許す。
無論、4輪はもうダメだが。
どうもこの道、抜ける気があるのかも知れないぞ。
わくわく。 わくわく。
私の見立てではこの道、ここ数年の間に建設された、県道新設のための「パイロット道路」といったところでは無かろうか。
こんな道幅ではたとえ鋪装しても満足に使えるわけもないし。
この不通県道は、まだ延長の望みを絶たれてはいないと言うことか。
そうやって見ると、鋪装の砂利の余りの手抜きぶりや、路肩のあって無きが如きの腑抜けぶりも、納得がいく。
こんな状態の道で「開通」なんてやられた日には、それこそ恐ろしい事になりそうだ。
いまはまだ法面にどっしりと根を張って、薄暗い森にきりりと睨みをきかせる杉の巨木も、やがて排除されてしまう定めなのか。
哀れを感じるが、いまはそう言う場合ではない。
まだ、油断は出来ぬ。
少なくとも、反対側からの轍が現れるまでは。
にょきにょき!
淡い期待を見事に裏切る、プッツリ感。
小さな砂利敷きの広場で、道は、消滅。
午前8時05分、不通広場に遭遇。
そう簡単に諦めるわけにも行かず、周囲の草藪をよく観察する。
四方のどこかに、道が延びてはいまいか?!
不通との決着
よっしゃ! 抜け道らしきものを発見!!
思いのほか、全てが上手くいっている。
行き止まりと思えた広場の片隅には刈り払いの道が一条、急な下り口を開けていた。
車はもう無理。
でも、チャリならば全く問題なし!
これは、もらったか?!
斜面にねじり込むようなきついヘアピンカーブ。
だが、そこからふと開けた視界の先に、“お迎え”らしき道の姿が見えた!
よっしゃ!
午前8時07分、不通区間のもう一方の端である県道に脱出!
地図にない道の存在にも助けられ、薮を漕ぐこともなく、不通区間約400mを突破したのである。
後はもう、この足元の砂利道を下って行きさえすれば、起点である山ノ相川までは2km足らずと行ったところだろう。
建設が途中で放棄されたような、見るからに寂しい道がそこにはあった。
砂利敷きは2車線幅もありそうだが、法面から薮が雪崩のように押し寄せつつある。
側溝もあるにはあるが、草木に埋もれていて見えない。
私が脱した地点は、下から迎えに来た県道の途中らしいので、こちら側の工事終点を確認すべしと、起点とは逆に上り坂を進んでみた。
しかし、その結末も思いのほか、早かった。
ほんの100mも行かぬうちに、道は今度こそ終わっていた。
一面のススキの向こうに、もはや平坦な場所はなく、工事がここで中止になったのだと思われた。
不通区間には高低差があり、これを克服するために、スパンの大きなつづら折れを設ける計画なのか。
終点は、先ほどのパイロット道路らしい終点とは、全く別の方向に機首を向けていた。
そのとき、風が鳴った。地が轟いた。
冷たい空気が、いま越えてきたばかりの尾根から、猛烈に吹き込んできた。
稜線に目を遣ると、ギョッとするほどに薄暗く、シルエットしか見えなかった。
さっきまで、蒸し暑くて堪らなかった日差しは、もう全く見えなかった。
今し方の轟音が雷鳴だったと気付くのに、時間は要さなかった。
灰の濃淡だけになった空を、大きな枯葉が次々横切って飛んだ。
目が回るような早さで、雲が流れていた。
峠は越えた。
だが、嵐が追いかけてきていた。
道に夢中になっていた私は、ぜんっぜん気付いていなかった。
もはや逃れる術はなかった。
私は、次の瞬間に起きるだろう事を予測できた。
いや、誰だって同じ事を考えるに違いない。
猛雨が襲ってくる。
咄嗟に私はいつものデジカメを急いで仕舞い、代わりにタフがウリの“現場監督”(防水デジカメ)を構えた。
そして、間髪いれず、来た。
横殴りのシャワー。
猛烈な降り。
1分でパンツまでグッショリする降り方。
私は、腹を据え、雷雲の過ぎるまで、この土砂降りの中で探索を続けることにした。
これはもう、どうすることも出来ない。
だが、私の生還を脅かすのものは、それだけではなかった!
想像を遙かに超える未曾有の困難が、この先に待ち受けていた!!!
後編へ
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