男鹿林道は、男鹿半島の最高峰である本山の山頂に至る、全長13Kmのピストン林道である。
日中の最高気温が36度と予報されたその日、4度目の攻略に挑んだ私であった。
快適な舗装路のヒルクライムが終わり、道は次第に、その本性を、現し始めた…。
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自衛隊専用道路の告示された先は、まもなくダートになる。 しかし、3年前に来たときと異なり、舗装工事が進められている様子であった。 写真でも、道の両脇に、工事用の挿木が立てられているのがお分かりいただけるだろう。 杉の植林地の中を、非常に緩やかな坂道が続いてゆく。 ダートは、これ以上なく良く締まり、走り心地が良い。 敢えて舗装する必要性を感じさせないほどだ。 | |
この道特有の景色をお見せしよう。 この写真の標識だが、これ自体珍しい『その他の警告』の標識の下についてる、補助標識をご覧いただきたい。 “マンホールあり”である。 「だからどうした」 っていう感じなのだが、なぜかこの道では、マンホールのある度にわざわざこの標識が教えてくれる。 そのために、このレアな筈の『その他の警告』の標識が、数えたわけではないが、全線中に50以上は有る。 多分、ここは日本で一番、密集してこの標識がある場所ではなかろうか? ちなみに、補助標識にはバリエーションとして“水抜きドレンあり”(←少し違った気がする)も2箇所に発見した。 |
道端に現れた『9000M』との表示。 前回の表示からは、1500m減った。 写真の通り、この表示の先には、本線一発目と言ってよい、急な登りが待っている。 この登りも、これから徐々に増してゆく勾配の、ほんの、序章に過ぎないのだが。 あせらず、じっくりと攻略する事が、肝要である。 さて、恒例の(?)自分撮りである。 → まだまだ、余裕の表情? |
周りの木々が杉から松主体に代わり、それに伴い、見晴らしが改善する。 ここに、沿線で最奥の集落となる丸菊があるが、見たところ、世帯は1戸だけのようだ。 道は、いよいよ、山登りを意識させるものへと変わる。 平坦な部分は殆ど消え、進めども進めども、上り坂。 緩急を繰り返すうちに、しだい次第に、急な部分が増えてゆく。 付近の海抜は約120m。 あと、高低差は600mだ。 | |
振り返ると、灼熱の一日の準備として、真っ白に輝きだした太陽の逆光が強烈。 それでも、段々になって続く田んぼと、彼方には寒風山の山影が確認できる。 |
再び道は森へ。 まるで、ラリーのコースのように幅広でフラットなダート。 広い男鹿三山東側の裾野の景色は、いつか見た、富士の裾野のミニチュアのようだ。(自衛隊つながり?) どこか、東北離れした景色で、忘れ難い。 さて、写真に写る標識は、全線中でもここにしか発見できなかった『追い越し禁止』であるが、1車線のダートにあるのは驚き。 意外でない? でも、ほんとに、ラリーしちゃう奴とかいるのかもナ。 |
男鹿三山の中で、唯一車道の通じていないのが、標高的には最も低い真山(571m)である。 しかし、古くから続く山岳信仰登山“お山かけ”においては、真山こそが主役である。 真山麓の真山神社こそが、その出発地であり、また、半島のシンボル“なまはげ”発祥の地でもある。 真山神社一帯は、近年、(ほどほどの)キャンプ場やら(小さな)スキー場やら、次第に拓けて来てはいるものの、未だ隠れた男鹿の名勝と言えよう。 で、その真山方面に繋がるのが、ここで別れる林道である。 特に名称はないようだが、私は一応、真山林道とよんでいる。 狭い未舗装路、約5kmで真山神社に至る。 |
平成に入って築造された小滝ダムは灌漑用の小さなダムのようだが、そちらへ分かれる分岐である。 ダムまでは軽快な舗装の下りなのだが、ダムの下流は酷い廃道で、よたよたの泥まみれになって三ツ森におりた事もある。 現在は改良されているかもしれないが。 | |
それよりも、ダム湖上端で目立たない林道(釜谷沢林道と立て札あり)に入り、そのままダーティな林道を長々と約8kmで、一気に男鹿市中心部にほど近い増川に抜けるコースあり。 ちなみに、途中の峠の先は増川林道と言うようだ。 これは意外な抜け道である。活用するべし。 (左の写真は、分岐点から撮影。ダムへと降りる道は舗装されている。) そして、目立たないが、ここに”7000M”の距離表示あり。 (左上の写真にも、左側にうっすら写っている) すっかり逆光で、その表情は窺い知れないが、そこには、ヤラセ一切なしのリアルな表情があったに違いない!! |
「営林署小屋」と書かれた標識が道の脇に立っているが、始めてここに来た5年くらいも前から、ここにそれらしい小屋があった記憶はない。 かつては、あったのだろう。 標高は約200m。 小滝ダムとの分岐点以降、登りの質が変わる。 それまでの、緩急をつけた、しかし全体的に見たらまだまだ緩やかな登りから、登り一辺倒に変わるのだ。 すでに、男鹿林道の恐怖は…始まっている…。 | |
3年前にはなかったと思われる標識を発見。 写真に写る、白い大きな看板のようなものだが、拡大写真 ↓ 見ての通りの、道路情報板であった。 特に、警告などはないようでほっとしたが、地名がチンプンカンプン(地図にもない名だ)なんで、安心はできない。 (たぶん“下三叉路”とは、のことではないかと思う。) |
既に、男鹿三山の山腹に深く入り込み、山頂までの高度差だけが異様に強調されて感じられるようになってくる。 山頂を特定するのはたやすい。 最も高い本山山頂レーダー施設の巨大ドームが、かなり遠くからでも確認できるためだ。 ここから見ると、どっしりした、ずんぐりむっくりな山容に見えるのだが…。 | |
そして、このあたりからは、右側の沢を挟んで対岸に「航空自衛隊加茂分屯地」の建物が見下ろせる。 基地と言うには小さく、小学校くらいの建物群のように見えるが、実態は、近づいたわけではないので不明。 ただ、機密の場所なのかと言うと、しきりに基地祭のポスターが道なりに飾られていた事からも、そういう印象はあまり受けない。 祭りの日でもない時に用もなく近づくのは、やはり気が引けるので、この日も接近は試みなかったのだが。 また、あえて拡大写真は公開しない事にする(笑)。 |
男鹿林道第一の難所と言ってよいのが、この区間。 基地を右下方に望む上り坂は、ぐねぐねと蛇行しながら、急斜面に沿って、ぐいぐいと高度を上げてゆく。 こんな説明では何のことやら分からないと思うが、とにかく、急な登りが長く続くのだ。 この500mの平均勾配は、8%くらいはあろう。 一帯のダートは、砂のように目が細かく、深い場所では思うように力が入らず、大変不快である。 早く舗装してほしい!(その工事は下から徐々に進んでいるようだが) 写真右は、ここから、最も視界が開ける北側の景色を望んだ。 全線中でも、この方角の景色を見れるのは、このあたりに限られる。 写真ではかすんでしまっているが、若美町八竜町の美しい弓なりの海岸線のはるか向こうには、まるで世界の果てのように、白神の峰峰が見えていた。 ここは、絶景ポイントである。 |
この時間の気温は、サイクルコンピュータによると、既に30℃に到達。 日影の空気はひんやり涼しいのだが、激しい登りによる発熱が体の隅々まで充満してゆく。 そんなとき、道の両側に、ともすれば見逃してしまいそうな“なにか”が立っているのに気が付いた。 道路を挟んで、高さ1m太さ20cmくらいの円柱の物体が、向かい合って立っている。 一見すると、通行止めゲートの支柱のようだが…。 しかし、良く見ると、こげ茶色の一部は金属ではなく同じ色のアクリルか何か、少し透明な物体でできているではないか。 その半透明な面は、向き合っている。 これは、きっと、何らかの…センサーではなかろうか? 確信はないが、この道が「自衛隊専用道路」である事を考えると、不自然ではない。 多分ここで、通る者をモニタリング、さらに記録までしているのではなかろうか? ここからモニタリングがされているという事を、確信させるに十分な出来事に、遭遇した事もあったし…。 |
ここまで、林道入り口から、約7km。 終点までの推定延長は、あと5500m。 標高は、約270m。終点までの高度差は、まだ、400m以上有る。 これらの数字から、この先の道の難渋さが、思いやられる。 この分岐点を右折すると、先ほどまで見えていた「加茂分屯地」に至る激しい下り道だ。(入った事はないが、そうであろう。) とくに、ゲートのようなものは見えなかった。 左が、本線である。 そして、正面に立っている白い棒は、どう見てもあからさまに、監視カメラとスピーカーである。 かつて、このスピーカーに声をかけられ、マジあせった私は訳も分からず逃げるようにここを立ち去った(先に進もうとした)ら、まもなく自衛隊員の乗ったジープに追いつかれ、止めさせられ、なだめられ(…。)、引き返させられた事がある。 それは、3年前の2月ごろ(雪の道を登ろうとした!)の事であった。 忘れられない、チャリ馬鹿の自慢話だ…。 | |
分岐に立つ案内標識。 見難いが、左の行き先には『本山地区』とある。 気になるのは、地名の下に括弧書きで記されている、ローマ字の羅列であるが、意味不明だった。 しかし、本レポート公開後、現役の自衛官の方を含め(!)多くの方から情報をご提供いただいた! それによると、“CMP”とは、駐屯地・分屯地のことで、ここでは加茂分屯地と指すのだろう。 特に難解だと思った“OPS・TX・RX”であるが、まず“OPS”は管制塔やそれに類する物を指し、この場合は山頂のレーダーサイトのことであるそうだ。 さらに、“TX”が送信、“RX”が受信と言う意味で、対空通信設備を指すそうだ。 山頂のレーダーサイトでは日夜、日本海中北部を飛行する航空機を監視し、必要に応じて交信をしているそうだ。 …す…すごい、なんか、スパイみたいでカッコいいなぁ。 | |
本山山頂部を望む。 まだかなりの距離があるように見える。 気温が本格的に暑くなってきたので、さっさと攻略して帰りたい。 ところで、からずっとここまで続いてきた舗装工事用と思われる立杭も、ここで終わりであった。 |
意を決して、左に折れる。 とたんに現れるのが、それまでの何処よりも急な坂。 そう、私は知っている。 ここからが、真の男鹿林道なのだと。 かつて、保土ヶ谷を立ち上がれぬほどにほどまで痛めつけたみち。 彼だけでない、 私も、ホリプロも、トリオの全員が、 朦朧となった意識の中で、あまりの辛さを呪ったみち。 苛烈の二文字こそがふさわしい、地獄の登り。 山頂に至るそのときまで、決して終わらない、生きるか死ぬかの登り、いま、牙をむく。 |
幅の広い砂利道が、容赦なく登る。 言葉ではどうにも表現しがたいのだが、 はじめて、この登りを見た時にはきっと、 なんというか… 目の前に、坂…いや、 壁が現れたっ! というような、異様な、すごく異様な、圧迫感が押し寄せてくるのを感じるだろう。 心配は要らない。 すぐに慣れる。 なんせ、この先は、こんな景色しかないのだ。 | |
この先は、本当に辛かった。 これほど、頻繁に地に足をつける(悔しいけど、休息)羽目になるような道は、なかなか、ない。 |
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