2008/2/25 15:07
旧国道から見下ろすと、海と山に取り囲まれた小集落のような小浜(字平)も、立ってみると意外に広く、似たような立地で東北各地に見られるような“寒村”のイメージではない。今風な民家やら民宿が、なかなかに密集している。
地形的には険しくても、ここは焼津市と静岡市のどちらとも等しく近い通勤便利な土地であるから、人が離れていかないのも頷ける気はする。
バスも通っていることだし。
だが、このような人家の密集は、古いものを掘り返して探し当てるオブローディングにとって、不都合なことの方が多い。
先ほど聞き取りをした横坑への道案内も、なにやら人様の庭先を通るような感じであった…。
集落内に何本も立っている、急傾斜地の看板。
ここに描かれた住宅地図並みの大縮尺図が、口頭だけだった道案内(むしろ直接案内して貰わない方が嬉しい事情が私にはあるが)を正しく再現するための、重要な手掛かりとなった。
曰く、
「公民館のところを左に入って」「奥へ奥へと進んで」「突き当たりまで行くといまは人の住んでない家があって」「その先に溝があって」「一番奥まで行ったところに」「今も残っていると思う」
まずは、「公民館」だ…。
集落の中程に、それらしい建物があった。
「小浜集会所」と壁に書いてある。
…公民館じゃないが、多分これのことだろう。
ちょうど、ここから左の山手に入る道も分かれていることだし。
左折すると、またすぐに道が二手に分かれた。
もう地形図にも載っていない道だし、おじさんもこの分かれ道のことは何も言ってなかった気がする。
仕方ないので、さっき撮影した「急傾斜地」の地図のメモリ画像を見ながら判断する。
より奥深くまで谷が続いている、右の道へ進むことにした。
おじさんも、「奥へ奥へ」「どんづまりにある」ということを強調していたので。
おわ。狭い。
これはちっとばかし気まずい展開。
でも、谷の奥へ進むにはこの軒先を通り抜けて裏に回り込むより無い。
ここは、何食わぬ顔をしてささっと通過する。
軒道の先には集落を土砂崩れから守る大きなコンクリートの擁壁があった。
隙間からその裏手に回り込むと、そこには一棟の廃屋が。
おじさんの言っていた景色が再現されている。
廃屋を過ぎると自然な勾配が増して、山裾に取り付く形となる。
谷筋に沿って、石で舗装された狭い歩道が続いている。
もう、どこに目指す横坑の口が開いていても、不思議のない地形である。
私の期待感は、最高潮に。
そして、おばさんが補足するように言っていた「溝」のようなものも、現れた。
もう、この谷筋で間違いないと思われた。
だが、私の期待をよそに、なかなか穴は現れない。
間もなく石畳の道は、石がそのまま階段代わりの急な上り坂になってしまった。
しかも、先ほどから「モノラック」という、この地方ではよく見られる資材運搬用モノレールの、錆び付いたレールまでが併走するようになった。
溝も相変わらず続いているが、おじさんが言っていた「奥の奥」「どんづまり」というのは、もっと奥のことなのだろうか?
これでは、横坑ではなく“斜坑”になるような気がする。
想定される地下の隧道は海抜20mほどの位置にあるが、既に40mも50mも登ってきてしまったと思うのだ。
もうこんなに…
完全に集落を眼下に見下ろすところまで登っていた。
勾配はますます厳しくなっており、段々の石垣で区画されたミカン畑や空き地も、狭くなる一方だ。
まだ大分上の方だが、旧国道の路肩のガードレールさえ見えている。
どうやら、道を間違えたようだ。
「公民館」⇒「奥の奥」⇒「廃屋」⇒「溝」⇒???
話の通り来た私は思っていたのだが、どっかで食い違ってしまっていた。
さすがに疲労の度合いを増してきた私の足。
不安定な石段の下り坂で、何度かつんのめった。
このまま見つけられずに終わったらどうしよう。
そんな焦りが、いやらしく鎌首をもたげ私を睨み付ける。
歓喜に打ち震えるはずだった私の心が、心細さに震えた。
15:16
道を間違えた可能性があるとしたら、ここか…。
公民館から先で一本道じゃないのは、この最初の分岐だけだったし。
今度は、ここを真っ直ぐの方へ進んでみることにした。こちらの谷は、先ほどのものより大分小さいようだが…。
真っ直ぐに道へ入ると、すぐにある民家の庭先に入ってしまう。
それでもめげずに奥へ進んでいくと、瓦屋根の平屋の建物が見えてきた。
この建物は山を背後にしており、雨戸を全て閉ざしている…使われていない…感じがする。
なんとこっちの道も、おじさんの“道案内”を再現し始めた。
使われていない家の裏手に回り込む。
なおも平坦な道が真っ直ぐ続いているが、残りは僅かに違いない。
もう少し進めば、嫌でも険しい斜面に突き当たるはずだ。
…おそらく、 そこで“答え”が出るはず。
白梅が咲く左手の斜面には、日陰となった墓地が広がっている。
活気ある集落内とは、明らかに雰囲気の異なるエリアへ立ち入っている。
さらに数メートル前進。
篠竹が密生したその場所は… 溝・・・。
これこそが、おばさんの言っていた「溝」じゃあないのか!
それは想像していた農業水路的な物ではなくて、もっと大きな、まるで掘り割り道路のような溝である。
そして道は溝の縁に沿って、さらに続いている。
溝にはたまり水も流水もない。
それどころか、いかにも酸っぱそうな柑橘系の果物をたわわに実らせた木が、何本も生えている。
溝の中にだけ生えているのだ。
ミカン畑? いや、ミカンにしては色合いが薄いし、堅そうだ。
でも、ミカンマニアの私には溜まらぬ香りが溝の中に充満している。
溝の中に入ってみた。
この写真は振り返って撮影。
溝がかなりの大規模であることが分かるだろう。
幅5mほどで、両側は乱積みにされた石垣が垂直になっている。
溝の中はほとんど平坦であるが、周りの地形は山脚に向かって傾斜しているので、徐々に両側の石垣は高くならざるを得ない。
こんな構造物の最後に予感されるモノは、もう…一つしかない。