2008/2/25 14:04
この穴は、とても微妙な高さに口を開けている。
地面から2mほどの高さで、手を伸ばせば届くけれど、踏み込むのはちょっと大変。
もしもう1m上にあったら、梯子でもなければ入りようが無かっただろう。
私は、しゃがみジャンプでこの穴に入り込んだ。
穴は、初めの1mほどが極端に狭かった。
まさに、匍匐前進である。
しかしそこを抜けると、しゃがんで歩けるくらいのサイズに広がる。
私の興奮も、広がる!
WIDE!
明らかに、上にある道路の路幅よりも奥は深い。
これは、来ちゃったか?!
ある“地下構造物”の存在が、思い当たる。
入口から5mほど進むと、出てきたよ…
煉瓦の山が…。
その山には、たくさんのペットボトルが散乱している。
人が来たのか? …いや違う。
波のしわざに違いない。
…決まりだな。
この穴の素性がはっきり読めた。
煉瓦の出現で、はっきりと。
煉瓦の山の向こう側は、さらに広い空洞だ。
この写真は、煉瓦巻きの部分に入ったところで振り返って撮影。
車道の真下の部分だけ断面が小さくなっていることが分かる。また、出口がさらに狭いということも。
今さら種明かしも必要ないだろうが、この煉瓦の横穴はJR東海道本線の石部隧道へと続くものである。
煉瓦を利用していることから明治期の石部隧道、すなわち明治22年の初代石部隧道開通時か、或いはその複線化工事である明治44年に作られた構造物なのだろう。
それが、後の道路工事によって干渉を受けながらも、今日まで辛うじて坑口を地上へ見せていたのである。
何というものを見つけてしまったのかと、この時ばかりは自分の“オブ運”を、天性のもののように感じた。
カタコンブ…みたいだ。
カタコンブとは、主に西欧に見られる地下の共同墓地のことである。
最近はテレビで取り扱うには不謹慎だと考えられるのか見ることがめっきり減ったが、私が子供の頃はオカルト系の番組などで良く採り上げられていた。
当時から隧道や洞窟に興味のあった私は、食い入るように画面を見つめていたものだ。
だから、カタコンブなんていうマイナーな言葉を覚えている。
それは、人間のしゃれこうべが何千何万と並べられた… こんな狭い煉瓦のダンジョンだった…。
この横穴のイメージは、幼き日に見たカタコンブにそっくりだ。
もちろん遺骨は無いし、あったら大変なんだけど…。
本坑ではないのに、煉瓦の施工に手抜きは感じられない。
イギリス積みで寸分の隙間無く仕上げられている。
それなりに煤煙の汚れはあるが、表面を覆う湿気が所々に水滴を結び、光を反射して美しい。
波が運んできたらしい石片が落ちていたりするが、ここまで波が入る事があるならば、本線もただでは済まないのでは無かろうか。
そんななか、波の運び込みでは有り得ないものが落ちていた。
私が忍び込んだ坑口のサイズよりも明らかに大きな、“サッシのようなモノ”である。
可能性としては鉄道側から持ち込まれたのか、もっと坑口が大きかった頃に運び込まれたのか。
どちらにしても、明治のモノでは有り得ない。
14:08
入洞から4分後…、洞道は密閉された壁に終わった。
残念ながら、本坑には今一歩及ばなかった。
しかし、こういう穴があることを知っただけでも、十分に面白かったと思う。
ちなみに4分もかかっているが、総延長は30mほどに過ぎない。
本当に陸に近いところに隧道はあるらしい。
壁は、木筋コンクリートだった。
しっかりと密閉されているようで、風の出入りもない。
それでも、壁を押したり叩いたりするのは遠慮しておいた。
万が一にも、壁が向こう側に倒れ、そこに本坑があったりしたら大変なことになる。
一応こんな私でも、東海道本線を停めてしまったら人生終わることを自覚している。
いや、男鹿線だって停めたらまずいだろうけど…。
何もすることのない終点。
名残惜しいのに、戻るより無い。
仕方なしに帰ろうとしていると、来るモノが来た。
慌ててカメラを動画モードに切り替えたが、まごついてしまったので、実際には列車が通り過ぎる最後の方の少しだけ、撮影できた。
録音できたというべきか。
<現在線の隧道を疾駆する鉄道音が聞こえる動画>
なお、動画ではかなりボリュームを引き上げているが、実際にもはっきり分かるくらいの振動音があった。
やはり、この壁の向こうはすぐに現在線だと思う
カタコンブから 生還。