海岸線から見上げる位置に、
それはあった!
まるで、砲弾でもぶち込まれたような穴が!
海岸線から見上げる位置に、
それはあった!
まるで、砲弾でもぶち込まれたような穴が!
2008/2/25 14:26
空手で無理矢理崖をよじ登った。
そして、私は見事に坑口へと辿り着いた。
今度の穴は、先ほどのものとは比べものにならないほどに狭かった。
いきなり、匍匐前進を強いられる…。
洞床は、モルタルを少し配合したような白っぽくて硬い土だった。
ドロドロしていたら、這い蹲って進むのは大変だったが、救われた。
周囲の壁は一枚岩の岩盤なので、洞床は人工的に運び込まれた土砂と見るべきだろう。
行く手には、まだ闇しか見えない。
照明を右手に携え、デジカメを左手に構えたまま、両肘を推進力にして進んでいく。
この狭さは、精神的にかなり苦しいものがある。
風もないし…。
いや〜ん…
這う地面に、白いエビちゃんが…たくさんいゆー…。
…カラカラにひからびたそれは、フナムシの死骸? それとも脱皮した殻?
どっちにしても、いやーーん!
見たところ、生きた個体は見あたらないが…産卵場所なのか。
まあ、出来るだけ何も見ないようにして薄目で進んだので、実際にはどのくらい“いる”のか分からないが。
…想像してくれ、両肘と、続いて下半身で、思いっきりこの白いものをスリコギながら進む事を。
虫は特段苦手ではないけれど、 これは…嫌だ。
入口から10mほどが最も狭く、その先は徐々に床が下っていって内空は高くなってくる。
匍匐からしゃがみ歩きに切り替えて、湿っぽくなった洞床を間一髪かわした。
そんな洞床に、茶碗か皿のひとかけらを見つけた。
なぜこんな場所に…、しかも破片だけひとつっきり…。
おおよそ人が忍び込みそうもない場所であるのに。
何となく気持ちの悪いものを感じながら、なおも進むと…。
14:30
さらに洞床が低くなり、ようやく立てるくらいの空洞が現れた。
だが平坦な場所はほとんど無く、今度はすぐに煉瓦の破片が積まれて山となり、間髪入れずコンクリートの垂直な壁に突き当たって、…終わっていた。
行き止まりの直前だけだが、煉瓦の端正なアーチが現れている。
これも間違いなく、東海道本線旧石部隧道の横坑の一つであろう。
煤煙がこびり付いた煉瓦の内壁。
この3本目の横坑は、現存延長15m程度である。
この、密閉された壁の向こう。
どうなっているんだろうか。
先ほどのように列車の走行音が聞こえてくることはなかったが、長居しなかったのでたまたまタイミングがずれただけかも知れない。
地形図から想像する限り、この地点(旧石部隧道全長912mの中間付近)は新旧石部隧道の洞内分岐点よりも、僅かに西寄り。
すなわち、旧石部の廃線隧道がこの壁の向こうにはあると思われるのだが…。
透視能力でもない限り、これ以上はムリ…。
終点から振り返る、洞口。
また、白エビちゃんたちのスリコギをするのね…。
それも嫌だけど、もっと心配なことが…ひとつ。
──ちゃんと降りられるだろうな、 俺。
む……。
やっぱり、普通には降りられなかった…。
ちゃんとしたからだの運び方が、プロの連中にはあるんだと思う。
でも崖素人の私には、崖を抱きかかえるようにへばり付いたこの状態から、
全然つま先が見えない状態で、さらにその下の見えない足場に体重を移す事が出来ない。
…ムリだ。へばり付いているだけで、体力を激しく消耗する。
しかも悪いことには、穴の真下はちょうどゴツゴツした岩場で、そこへ落ちたら…
足から行ったとしても骨折するかも…。
砂浜は、もう2mほど離れていた。
あそこ(砂浜)まで、足からジャンプするより、降りる方法が無い…。
こうなるような気、してたんだよな… 最初から。
今日、初めてじゃないよな。
登ってから簡単に降りられなくなったの。
…いい加減にしろよな、自分。
14:32
幸いにして、ジャンプは成功。
ごく軽い痛みをこのあと半日ほど感じたが、問題にはならなかった。
着地後しばらくは心臓がドキドキしていたが、妙に清々しい気持ちでもあった。
未発見の横坑を見事に二つクリアしたのだから、多少無鉄砲な行為があったにしても、今回は許してやろう>自分。
だが、ワクワクの火薬庫みたいだった大崩海岸のオブローディングも、これで今度こそ、本当に終わった。
まだ夕暮れには少し早かったから、一抹の寂しさも感じた。
結局、旧石部隧道の下り線(明治44年竣工)には、ほぼ等間隔に3本もの横坑が存在していたことが分かった。
いずれも人が一人ずつ通れる程度の幅でしかなく、また外へ出た先も例外なく崖であって、通路として使っていたものとは考えにくい。
煙抜きの換気坑か水抜き坑か、それとも別の何かなのか… もっと踏み込んだ資料調査をしないと、これ以上は分からない。
チャリを回収し、国道へ戻る。
そして、今度は一通行人として石部海上橋をすんなり渡る。
橋の先にはもう、物々しい落石覆いが現れることもない。
300mほど進むと右の海は防波堤と一緒に離れはじめ、左の崖も低くなる。
間もなく道と海岸の間に出来た敷地に大きな高層マンションが現れると、大崩海岸は終わる。
気付けばもう、静岡市の市街地だった。駿河区用宗(もちむね)という。
東海道本線石部隧道の静岡側坑口は、ここにある。
線路脇の高い金網越しに覗き見る石部隧道の静岡側坑口。
正面から見ると、三本の矩形坑門が左から順に奥-奥-手前と遠近差を付けて並んでいるように見えるのだが、写真に写っているのは左寄りの二つの坑口である。
このうち、最も左寄りの坑口が下り線で、全長2188mある。
次の真ん中の坑口はダミーで、右寄りの坑口が上り線となる。
上り・下りとも近代的な坑口になってはいるが、元を正せば明治時代の旧石部隧道の坑口をそれぞれ改良したに過ぎない。
当時から、上りと下りの坑口はやや離れていたのだ。
いまも下り線隧道の脇には石造の翼壁が残っている。(写真)
異次元的な姿で砂浜に散乱している“有名な”焼津側の坑門とは、本来表裏一体のものだが、現在その繋がりを示すものは、洞内を埋める土砂の隙間から流れ出るほんの少しの風だけである。
私はこの日、車をここから10km弱離れた宇津ノ谷峠の道の駅に停めていた。
どのルートで道の駅まで戻ろうかと地図を見ていた私の頭に、あるひとつの考えが起こった。
“閃き”というほど鋭くはない。
むしろ、気付き …というべきか。
旧石部隧道には、思いがけず3つも横坑があったが…
ひょっとして、旧磯浜隧道にも横坑があったり……?
東海道本線には、明治に造られた石部と磯浜の2本の隧道があった。
昭和19年には一旦別の線路が供用されて廃止されたが、同35年になってこのルートの利用が再開された。
だがこの時に防災上の理由から、2本の旧隧道を直接新たな隧道で結ぶ工事がなされ、全長約2200mの一本の「石部隧道」へ生まれ変わった。
(詳細はこちら復習)
このような経緯のある一連の旧線のうち、私は今回、「旧石部隧道」について内部解明を含むいくつかの成果を挙げた。
その一方、「旧磯浜隧道」については目立った成果がない。
それもやむを得ないことで、旧磯浜の西口は旧石部の東口同様の現役坑口であるから侵入が不可能だし、廃止された東口は産廃処分場の地下に奇麗さっぱり消えている。
地底に、全長900mを越える出口無き隧道の姿を想像するのはとても魅惑的だが、想像だけでは興奮にも限界がある。
しかしもし、旧磯浜隧道にも、旧石部のように横坑があったとしたら…。
私が地図から求めた横坑捜索地は、焼津市小浜字平地区!
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半日かけてじっくり走った海岸の道を、チャリを漕いで大急ぎ戻る。
一度は静岡市街の端っこまで下っていたのに、また海抜200m近い焼津市境の峠を越えねばならない。
上り坂は苦しいが、でも探索出来るのは明るいうちだけだ。
いま急がなくて、いつ急ぐのか。
旧石部隧道西口へのアプローチである駐車場前を通ったとき、例の洞内生活者と目される人物が、ちょうどチャリいっぱいに荷物を括り付けて戻ってきた場面に鉢合わせた。
上り坂で息を切らせている私に対し、「ニイサン体つきイイもの」と笑顔でエールを送ってくれた。
私も振り返り愛嬌で応えたが、さすがに「あなたの留守中にお宅を勝手に散策しました」とは言い出せなかった。
急いでいたので、私はすぐに立ち去ってしまった。
旧磯浜隧道を殺した産廃処分場を見下ろしながら進んでいくと、意外に早く峠に到達。
「たけのこ岩隧道」西口にある小浜海岸への分岐までは、もう下る一方だ。
写真は峠付近から見下ろした海岸線。
旧磯浜隧道はこの地下を通っているが、もしこの辺りの海岸線に横坑が存在していたとしても、残念ながら訪問は不可能だ。
海岸線には、少しも歩行できる余地がない。とんでもない断崖絶壁だ。
明治時代にはまだ砂浜が残っていて、そこを通る「静浜街道」があったというが、信じられないくらい。
15:02
小浜集落への下り坂へ初めて立ち入る。
反転方向に左折し1.5車線の舗装路を下っていくと、いま通ったばかりの国道がもう斜面のずっと上に見えた。
擂り鉢を半分に割ったような底に、円弧を描く市道を中心に家並みと畑が広がる。小浜字平の集落だ。
こうして実際に立ってみると、意外に集落は広い。擂り鉢の斜面も広大だ。
有るか無いかも分からない横坑を、ただ闇雲に探していては日が暮れる。
あ! 畑作業中の老夫婦を発見!
「お仕事中スミマセン。旧東海道線の隧道へ続く横穴はありませんか?」
「 ああ あるよ。」
!
なんと言うことだ。
マジで、有るらしいぞ。
場所も、大体教えて貰えた。
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