道路レポート  
秋田県一般県道102号 大館鷹巣線  その2
2004.4.25



 いよいよ鷹巣町から大館市にいたる山越えが始まった。
この区間、古い地図から現在に至るまで、車道が通じている様子はない。
だが、比較的新しい地図には、確かに建設予定線が点線で示されていたりもする。

どうやら、私が今から踏み込もうとしている道は、この建設予定線とぴったり重なるようなのだが…。
はたして、何処まで通じているのか?


鷹巣町から田代町へ
2004.4.21 12:48


 風化の進む切り通しは、まさに掘りっぱなしと言った様相である。
幅も些か狭く、2車線の道路を敷くには足りないように思える。
約30mに亘り、この白い切り通しが続く。
その先に道はないことを覚悟したが、予想に反して、なおも道が続く。



 しかし、それはまさしく廃道の姿であった。
かつて、重機によって踏み固められたはずの路盤こそ堅さを保っているが、それでも枯れたススキが幾層にも折り重なるように倒れており、容易には進めない。
探索の時期を誤れば、さらなる困難が待っているはずだ。
そして、切り通し部分こそ緩やかな登りであったものの、今は下っている。
とても、摩当山を越えていくという感じではない。

やはり、県道とは見当違いの道なのか?
下れば下るほど、不安が増していく。


 切り通しの先は、地図によれば田代町である。
田代町と言えば、白神山地の南東の一角を占める山間の町であり、米代川の北側というイメージがある。
実際に大部分の町域がその通りなのであるが、この摩当山北麓域に限り、米代川を越えて町域が広がっている。
鷹巣町から田代町へと静かに舞台が移っても、道の様子に改善は見られない。
いや、早々に行き止まると思ってただけに、これでも意外だった。
右に浅い沢を見つつ、まだ下りは続く。




田代町外河原
12:54


 余りにも放置されているために気付きにくいが、この場所など、かなり大規模な土木工事によって生み出された道なのではないかと思わせる。
沢を横断するために、100mほどに亘り土盛りがなされ、真っ直ぐ突っ切っている。
幅は、やはり2車線には狭いと思える。
この道とほぼ並行して、やや西寄りには先ほど分かれた広域基幹林道が並走しており、あちらの道が現役であることも本路線の必要性を下げている気がする。
確かに、この築堤の様子を見れば、しっかりと工事をやり遂げて完成させれば、林道よりも遙かに利用は見込めると思えるのだが、まだ基礎的な土木工事が終わっただけの状態で、放置されている。


 さらに進むと、道の脇の雑木林に一枚の看板が埋もれているのを発見した。
木々の生えていない僅かな道路中央部分からは、5mくらい隅に寄った場所であり、この様子を見るに、最終的な道路幅としては、やはりフルスペック(片側歩道付き2車線)を想定していたのかとも思える。


 そして、この看板を掘り起こしたところ、ここまでは半信半疑で進んできた私に、決定的な情報を与えた。

一部が深く埋もれており、全体を掘り起こすことは出来なかったのだが、読めない部分も補完すると、次のような文章が書かれていたと思われる。

   立 入 禁 止

関係者以外の立入を禁ずる
   この先通行不能

  北秋田土木事務所

決定打である。
ここは、間違いなく県道なのだ。
しかも、かつてある時期までは、ここへ車道が通じていたのだろう。
今超えてきた区間が通行不能なのか、それとも、この先の区間が通行止なのかは、分からない。
だが、かつて人の目に晒す目的で、ここに通行止の看板が設置されていたことは間違いがない。


 看板のあった辺りから、今来た道を振り返る。

奥へ見えるのが、初めに越えた切り通しである、まだ500m程度しか進んではいない。
しかしこの区間、夏場など歩くことすら難しい草むらと化していそうだ。

先へと進む。


 小さな沢の上端部を再び短い築堤で越えると、また道は登り始める。
この景色は、また私に衝撃を与えた。
なんとも言えぬ廃なるムードが漂っている。

しかしその質は、これまでに感じてきた寂しさなどとはまた異なるものだ。
むしろ、「未成線」のような、無念さが感じられる。
実際に、この道は一旦は建設されながらもなぜか放置が続く、未成線に近い存在なのだと思う。

広い築堤が平行する沢を埋め、真っ直ぐと前方の稜線へと続いている。
しかし、その築堤にも木々が生え、車1台分のスペースだけがまだ辛うじて残っている。
そこにも、新しい轍はない。


 築堤に沿った沢の底には、多分道の下を潜らせるための水路暗渠と思われる構造物があった。
やはり、相当に大規模な土木工事がかつて、この場所であったのだ。
かつて、工事に従事した人も決して少ない人数ではなかったはずである。
仕事として道を造っている人たちに、自分の仕事の後、道がどう利用されているかなどと言うことへの興味があるのか分からないが、この様子を見たら悲しむだろうと言う気はする。

せっかく作ったのに、誰も利用していない。
殆どの地図にすら、道はないことになっているし、建設中の点線を信じて立ち入る者がいたとしても、ここに待っているのは、重機のけたたましい唸りではなく、沈黙だ。



 「林間新道」と、思わずそういう言葉が浮かんだ。
ここは、いまも“新道”なのだ。
旧来の徒歩によってのみなし得た峠越えを棄て、快適な自動車交通を約束するために、新たに築かれた道。

無念の空気が漂う。


写真は、振り返って撮影。

 進むほどの勾配が増し、林道的な道となってきた。
しかし、元来は道幅の広い直登を想定していたのだろう。
日当たりの良い場所ほど植生の浸食は進んでおり、急勾配のため堅い路盤にも深い水路が抉れている。
いくらか轍がはっきりしてきたような気もするが、なおも乗用車が通行できるような状況にはない。

この道は、いままで人々の興味からかなり反れ続けてきたのだろう。
なぜならば、一帯には興味本位で立ち入った人たちがよく残すもの…ゴミ…が全くと言うほど見られない。
不謹慎かも知れないが、こんなことからも、この道が必要とされているのかどうかが分かるというものだ…。


 そして、再び峠だ。
ここまで、初めの切り通しから1.5kmほどだろうか。
この峠が大館市へと通じるものではないことは、行く手にさらに高い壁が見えていることからも明らかだ。

道は何処へと行こうとしているのか?
全く予想外の大健闘である。




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