道路レポート  
秋田県一般県道102号 大館鷹巣線  その3
2004.4.26



 不通区間と思われていた県道102号線、鷹巣町田沢から大館市までの山越えだが、なんとそこには道があった。
しかし、それは建設途中で放棄されたらしい、何とも意味深な道であった。
果たして、こんな道が何処まで続くというのだろうか?
現在、二つの小さな峠を越え、なおも進行中!


第二の峠から先
2004.4.21 13:04


 切り通しの峠の先に広がる景色に、全身の血液が沸騰するようなアツイ興奮を覚えた。
大陸的というか、なんというか、ダイナミックな景色である。
最終的には、さらに掘り下げるつもりは有ったのだと思うが、この峠から次の沢底へと降りる道は、尋常ならざらん急勾配である。
斜面のようである。
眼前の山肌は盛大に伐採され、一部は植林されているものの、それがまたワイルドな景色に映る。


 振り返ると、やはり荒削りな切り通しである。
チベットあたりの峠道っぽい…?




 転倒しないように慎重に、僅か50mばかりではあるが、ゲレンデのような急な下りを降りるとそこは広場だった。
そして、そこからは道が二本延びていた。
一本は、左の川下方向へと降りていく林道らしい道。
そして、正面へと続く、築堤上の道である。
当然、我らが県道は直進だろう。
もう、なんかこの県道に感情移入してしまった。
走っていてワクワクが止まらない。
もしかしたら、こんな調子で大館まで突破しちゃったりして?!
そんなささやかな期待が、漕ぎ足に力をみなぎらせる。

写真は、広場から振り返って撮影。
どうやら、ここまでの区間が最も古くから放置されている部分らしく、荒れ方も相応だった。
一応、鷹巣町田沢と、この田代町外川原(の上流端)とを結んでいる貫通県道なのだが、この様子ではまるっきり利用されていないし、通じているとも知られていなそう。
やはり、平行する大摩当林道の存在が大きいか。



 沢底と低い稜線の上とを行ったり来たりするうちに、意外と高度も稼いでいたのかも知れない。
大館市ではなく、このまま田代町の早口付近に脱出してしまうのではないかと思えるほどに北上が続いているが、それでも大館市との間を隔てる主稜線との高低差は、意外なほど小さくなりつつある。

いや、よく考えてみると、道が登っているのではなく、北上するにつれ稜線の高さが衰えてきているのだ。
主峰である摩当山からは、もう4kmほど北方に来た。
県道は、大館市との最短経路を捨て、迂回してでも容易な突破口を求めるかのように、迷走している。
私は思った。
こんな消極的な経路だから、予算が付かない=工事がなかなか進まないんじゃないかと。
どーんと行こうぜ!長大トンネルで!!(無責任です)


 先ほどまでよりも、確かな轍が残る築堤上を進むこと数百メートルで、なんと築堤を潜る道が現れたではないか。
これって、もしかして暗渠?
高速道路なんかでは、よく見かける立体交差である。
しかし、こんな放置県道に、わざわざ暗渠が?

興奮して、思わずチャリを置き、下の道へと降りてみた!

 本当に、暗渠だった。

しかも、現状の車道である1車線幅の盛り土は、二段階に幅を狭める盛り土の上端部であり、さらなる土木工事によってフルスペックの道幅が実現できる状態にあることが分かった。
暗渠は、完全にフルスペック対応の巨大なものである。

辺りには人家はおろか人の姿もなく、一帯いつ頃から放置されているのかは分からなかったが、やはり本県道は相当に大きな工事を経てきたのだ。

ならば、なぜ現状はこうなのだろうか?
その答えは、未だに分かっていない。
今現在も、県へとメールにて問い合わせ中であるが…。




謎だらけの道であるが、この巨大な土木工事の施工者は後ほど明らかになる。



暗渠から先
13:11


 一時よりもだいぶマシとはいえ、相変わらず轍の浅い放置道路が続く。
しかし、林間を通る部分は少なく、全体的に土地が痩せている気がする。
行きすぎた伐採のせいではないだろうか。
路傍のススキが目立つせいで、余計にそう思うのかも知れないが、辺りに巨木といえるような老樹が一本も見あたらないのだ。
やはり、皆伐されし地なのだろう。


 ついに、今までみなかった本格的な登りに直面した。
この景色から言えば、あの稜線さえ越えればそこはもう大館市ではないだろうか。

最後の登りも、また何ともダイナミックな直登である。
特撮のヒーロー戦隊ものの撮影なんかに使えそうな、広大な荒れ地である。
時代劇の決闘シーンにも良いかもしれない。
幸い、付近には視界を害する鉄塔などもなく、空はあくまで青い。

うん、気持ちいいー!
登っていて気持ちの良い峠だ。
このままにしておいて欲しいくらいだ。


 登るにつれ、現役の伐採地が右手に広がるようになり、道も現役のようになった。
ブルで強引に均されたダートである。

稜線が迫ってきた。
勾配もキツく、汗が額を伝う。
けっして、路面も良くはない。
アツいぜ。

本当に、アツイ。
もしや、点線県道を突破しちまえるのではないだろうか?!
初めはすぐに行き止まりを覚悟したし、中途半端に長い事も危惧した。
しかし、進むにつれ期待感がムクムクと大きくなってきた。
男だったら、誰もがそれを成すんとチャリに跨る(←大げさ)『点線道路の突破』を、この地元秋田の地で、思いがけず達成するのだろうか!
思えば長い道のりだった。

あれは主要地方道28号線の悪名高い協和不通区。
何年前だろう。
私は僅か50mの不通区間に嵌り、命までも失いかけたのだった。
訳も分からず谷間へと吸い込まれた我が愛車と、私。
膝まで水につかって、薄暗い沢をチャリと共に進んだ。
もう決して引き返せぬ滝や、急流を幾つも落ちて進む、命掛けの非常行動。
生きて脱出することだけが、いつの間にか目的に代わっていた。

結局、生還は果たしたが、全く見当違いな山間へと私は居た。
点線道路の恐ろしさを、私はその一件で体に刻んだ。

これほど危険だった体験は、後にも先にも、松の木とこの一件の他には、数えるほどしかない…。


 いよいよ切り通しの峠が間近に迫ると、道が二手に分かれた。
最初、右の道へ行ったが、これはすぐに作業道となったので引き返した。
正解は、左だった。
そして、この峠直下の広場には、場違いな石碑が一基。

最初見た時には、一体何だろうかと思った。
まさか、こんな場所に墓?とも思ったし、「開通記念」だったりしたらお笑いだな、と思った。

実はこの石碑は…。


 

  平成二年十月九日

陸上自衛隊
受託土木工事完成記念

  秋田県知事
  佐々木喜久治


工事受託者 陸上自衛隊東北方面総監 森野安弘
工事実施部隊 陸上自衛隊東北方面軍 第二施設団第十一施設群  第三四七施設中隊
工事名 道路改良工事
路線名 県道大館鷹巣線
工事場所 北秋田郡鷹巣町栄地内
大館市板沢地内
工事期間 昭和六十二年七月二十日
平成二年十月 九日
道路延長 四〇〇〇メートル
道路幅員 五 メートル
土工量 一一九七〇五立方メートル


 一挙に、多数の謎が氷解した。
そして、これで完全に、この未成線が県道であったことも確定した。
平成に入ってからは、殆どずっと放置されてきたのだ。
自衛隊に受託するほどの難工事だったと言うことだろうが、主な土木工事が完了したにもかかわらず放置された理由だけは不明だ。
それと、設計上の幅員が、わずか5mというのも、言葉が悪いが、片手落ちというか、今更そんな林道並みの幅で道を造る意味が分からない。
途中の暗渠などを見る限りは、二車線化はも視野には入っているのだろうが。



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