主要地方道31号 浪江国見線 霊山不通区 第5回

公開日 2006.05.09
探索日 2006.04.24

真の点線県道

命の泉

06/04/24
15:05

 この写真の分岐を右折すれば、そこからは登山道を離れ、麓の登山案内板には「徒歩のみ」と注意書きが記されていた、県道の自動車不通区間の始まりである。
海抜は既に600mを余裕で超えており、霊山の山頂さえ手の届きそうな標高にある。
この約1時間半前に県道316号線からこの道へ入り、そこからどうにかこうにか3kmの激しい登り道を耐えてきたが、その過程で想像以上に疲労し、また多くの水分を消費してしまっていた。
所持している飲料水が残り僅かであることが、私にとって最大の悩みとなっていたのである。



 県が指定する通行不能区間4.2kmのうち、霊山閣から1.4kmほどは登山道として健在だったが、残り3分の2であるこの先は、入口を見るからにもう廃道である。
そもそも、一度として自動車道として開通した事はないというではないか。
これは、私の嗜好から言うと、そんなにそそらない。
いや、むしろ萎えーだ。
大人しく引き下がっても、おそらく誰も文句は言わないと思うのだが、とりあえず、道筋は明確に見えているだけに、引っ込みが付きにくい気持になってしまった。
(疲労と、水不足のため、私は何かと言い訳を探していた。引き返しの言い訳を)



   さて、言い訳はこれくらいにして、実際にこの区間へチャリに跨り進入した私の体験を、これからご覧頂こう。

 まず、最初に目に付いたのは、斜面に多数盛り上がった巨石である。
昔、畑でジャガイモを掘った時の光景を思い出させられる。
写真左のほうには、なんだかイソギンチャクみたいな形の木が、岩を抱きかかえるように生えているが、通り一遍ではない何やら不思議な森の景観である。
天気も良く、水さえ潤沢にあればそれなりに気持ちよく走れそうな気もしてきた。



 水、水、水。

 そんなことを考えながら、前方に開けた稜線にノコギリ歯のような岩峰を多数見るに付け、おそらくこの山にはそんな場所はないなー。
あーあ、水がないことを理由に引き返したなんて、レポするのに恥ずかしいな〜、没かなー……。

 なお諦めきれずに進んでいくと……。



 うふっ、 水補給完了!

 痩せた涸れ沢のようなところに、一筋の水がチョロチョロと流れていたのだ。

 一般に、山で沢水を補給するときには、水量がある程度多い場所を選ぶのが鉄則で、湧き水でもない限りは、チョロチョロ流れている水は煮沸無しに飲むべきではないとされる。

 ……が、ここはもう行くっきゃないっしょ。
ここで補給しなければもう、いつ補給できるか分からないし。はらぁ壊したら、それもまたいいネタよの。

 意を決して、私は汲んだ。
ここぞとばかりに、持っているペットボトル全てになみなみと。
そして、がぶ飲んだ。(真似しないように。)

 霊山水でふぁいといっぱーつ。
よし、とりあえず最大の煩いは解消したぞ。



 これは珍しい。
片洞門になりたかったけどなれなかった。そんな感じか?
 なんでも、県道に指定される前のもっと前、明治とかそんな頃には物資輸送の重要な道として、人や牛が多く往来していたらしい。
そのような歴史的事実があって初めて、今日の広域交通網としてはまったく無駄にしか思えないこのルートが、いまなお主要地方道に指定されているのだろうと思う。
 貴重な情報を惜しげもなくご自身のサイトで公開してくれたsunnypanda氏に感謝すると共に、私は山チャリストとして、彼が期待を残しこの地を去った「点線区間の解明」を成し遂げたいと思った。



 今のところ、思いのほか順調で、さすがにチャリに乗れる場所とそうでない場所とは五分くらいだが、いいペースで進んでいる。
もっとも、もう時刻は午後3時を大きく過ぎているし、6時頃まで陽はあるとはいえ、帰り道のことも考えれば5時には下山したいものである。
すると、最大限前進しても、午後4時前までということになるだろうか。


   しかし、それにしても思いのほか道がいいな。
明らかに車道サイズではないし轍もないのだけれど、十分に踏み固められており、最近は忘れかけていたMTBを操る楽しみを思い出させられる。
もちろん、調子に乗って斜面に落ちたりしたら大変なので、怪しげなところは押して歩いたが。
 唯一気がかりなのが、この不通区間の出口であるはずの、霊山庵側で一切の道を見つけられていないことだ。
地図が間違っていてくれて、どっかべつのところに出られるのならイイのだが、進むうちに道が無くなってしまうのだとしたら、嫌だなぁ。
もしそうなるなら、早めに決着してほしいと思った。



   景色的には、淡々とした雑木林の急斜面が続く。
期待するだけ無駄なのだが、当然のように一切の道路構造物(橋や隧道、石垣など)はみられず、しごく丁寧馬鹿丁寧に、細やかな地形の起伏をなぞって続く。
この区間に入って15分が経過したが、ここまで景色の変化は殆ど無く、地図上に自分の位置を確信できるようなものも何もない。
普通なら飽きる様な展開だが、私は、おそらく先細っていくであろう道に、夕暮れ間近になって踏み込んでいくという、いやーな緊張感が解れず、結局ずっと神経使って走っていた。
一人旅だからこその、すり切れそうな緊張感。 こわ気持ちいい?!



   あややや、ちょっと怪しくなってきたか。

 なんだか、徐々にだが、路面は心許なくなってきていた。
凄く神経質に路面状況を見つめながら走っていたので、その変化には敏感だった。

 自分がどれほどの距離を進めているのかも分からないというのは、不安なものだ。
経過時間と、大体の時速は自分で分かっているので、そこから想像するしかない。
たった2.8kmの廃道であるが、その道路状況によっては僅か10mが突破できないという事も有り得るから、これは決して短いものでない。



 




 うそ? 



 まじかよ。
まじかよー!

 正直、私は震えた。
やっぱり… ここも県道だったんだ。 現役の……。

 この場面で私は本当に絶叫した。
興奮の余り。

 そのリアクションが理解できない人は、普通の人だ。
ヨッキという人間にとっては、この場面でのこの発見は、もう、何と言っていいか。
もう、何が何でも次の「42kmポスト」、そして「41kmポスト」を見なければ帰れないという、強烈な強迫観念に駆られた。

 県道ポストさえなければ、なければ……!


            (まだ続きます)