ルートレポート 国道345号線笹川流れ 今川 
2003.3.18



   <廃隧 砂の穴>

 根込隧道を後にしてまもなく、JRの駅もある今川集落が現れた。
この辺りの集落はどこも険しい山々を背にしており、南北に貫く国道と鉄道のみが他の地域への交通手段となる。
こういった場所に暮らすことの苦労は、想像を越えるものがあるのだろう。

 
新潟県山北町 脇川集落内
2003.3.6 11:46
 今川集落の南の端、再び見慣れた景色が現れた。
こんどは、どんなトンネルなのか、ワクワクしながら近付く。
弘法トンネル
 この笹川流れの国道345号線では数少ない“隧道”ではなく、“トンネル”を冠した弘法トンネル。
やや洒落た坑門の造りからも分かるように、一帯のトンネルでは最も新しい1983年の竣工であり、延長も266mと最長である。

 怪しい。
ここは怪しいぞ。
これまでの傾向から言って、ここには、旧道がありそうな気がする…。

 やはり旧道があった。
 労することなく、海際に使われていない道を発見した。
意外に広く取られた路面には、まだかすかに白線のペイントが残っており、比較的新しい旧道であることを感じさせた。
まっすぐ、岬の突端のほうへと伸びてゆく。
この先、私の期待するモノがあるのだろうか?

 あった 穴ぽこだ
 岬の突端近く、それまでの、現道と大差無い立派な道が嘘だったかのように、いきなり、ソレは現われた。
やばい。
この穴は、本物だ。


ついに、
ついに、“穴ぽこ”が現われてしまった。
現役時代には20年遅れはしたものの、来たぞ、俺。

 すぐさま、入り口を塞ぐ木のバリケードに迫った!
どういうわけか、私を誘うかのように、乗り越えるためのスペースが空いていた。
視覚がそれを捉えると同時に、脳を経ず、直接両腕へと「チャリを持ち上げろ」という指示が出ていたいた。
 『これが「反射」だな。』
そう気が付くのは、すっかりチャリが柵を乗り越えた後だった。

…じゃ、誰が写真を撮ったのか?
という突っ込みは、無しでお願いします。

 内部は、意外にも綺麗です。
とはいっても、もともと完璧な素掘り&未舗装な為、崩れてはいないという事実のみが、綺麗と判断される原因だったのですが。
足元は、未舗装というか、砂地です。
まるで砂浜のように柔らかく、チャリを漕ぐのもしんどいです。
そんな私を察してか、写真にも写る通り、地面の一部にコンクリートの帯が敷かれています。
多分これは、比較的最近に敷かれた気がするので、水道管か何かではないのでしょうか?


 この隧道は、帰宅後にその名を知りました。
「アジリキ隧道」

なんとも、味のあるいい名じゃありませんか。
で、驚いたことに、 なんと…。


いや、絶対信じられませんよ。

 脱出!
 出口側には、何の障害物もありません。
しかし、それもそのはず、その先には、もう一本の隧道が待っていたのです。
隧道と隧道の間は、僅か50mほど。
写真はアジリキ隧道を振り返って撮影したものですが、なんかもう、未開国の国道のよう…(失礼)。

 塩害によるものか、海側のガードレールは信じられないほどに錆付き腐食しておりました。



 で、さっき、驚いたとか言って、そのままでしたね。
なんと、このアジリキ隧道と、次にくぐる「天王沢隧道」。
そろいもそろって…、昭和生まれだというではないですか。
さらに言うと、
 アジリキ隧道 延長:78m 竣工:昭和40年
 天王沢隧道  延長:71m 竣工:昭和41年

 昭和40年というと、1965年ですね。
さすがに私は生まれてませんが、まさか新規に素掘り隧道が竣工されていたとは…。
その当時は国道345号線ではなく、主要地方道「村上温海線」だったのでしょうが、それにしても驚きました。
大正時代に竣工された隧道たちに混じって、なんら違和感が無かったであろうこの2本。
そして、これら2本の隧道は、1983年竣工の弘法トンネルによって廃止されているわけで、その短命たるや、僅か18年。

 天王沢隧道
 おんなじ場所から、今度は天王沢隧道を撮影。
延長から格好まで、大変良く似た双子のような隧道です。
しかし、この隧道と隧道を結ぶ僅かな区間だけでも、どうして舗装されていないのでしょう?
今や日本のどこにも無いかもしれない“砂の国道”が、ほんの20年前まで、ここにあったのかも。

 あなたも、ここで少し思いを巡らせてみて下さい。

    …

 山北と村上の間、どうして国道7号線は、険しい山越えしてまで内陸に迂回しているのか?
当時の技術力では、到底ここを街道として整備することは、叶わなかったのではないでしょうか?

 それほどに困難な土地の、浜と浜を、集落と集落を、細い糸のように繋いだこの道。
明治・大正時代から、近年に至るまで、地道に、人力に頼って多くの隧道を拓き。
未だ、このように取り残された景色を残す道。
ここは、やっぱり私にとって、一つの聖地かもしれない…。

 サイコー!!!


 天王沢隧道の内部。
廃隧道ではあるのだが、素掘りという割には、先ほども述べたとおりに新しい為か、恐怖感はない。
隧道の外のほうがむしろ、朽ち果てている感じである。
さすがに、素掘り隧道にこんなことを言うのも変かもしれないが、はっきり言って、
『現役稼動可能』と思われた。

 この隧道の出口は、しっかりと木のバリケードが設置されており、ここを乗り越える際に、誤ってサイクルコンピュータをリセットしてしまった。
外に出てみると、そこは現道の脇であり、タイムスリップしたかのような違和感があった。

板貝峠へ

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