<廃隧 砂の穴>
根込隧道を後にしてまもなく、JRの駅もある今川集落が現れた。
この辺りの集落はどこも険しい山々を背にしており、南北に貫く国道と鉄道のみが他の地域への交通手段となる。
こういった場所に暮らすことの苦労は、想像を越えるものがあるのだろう。
今川集落の南の端、再び見慣れた景色が現れた。 こんどは、どんなトンネルなのか、ワクワクしながら近付く。 |
この笹川流れの国道345号線では数少ない“隧道”ではなく、“トンネル”を冠した弘法トンネル。 やや洒落た坑門の造りからも分かるように、一帯のトンネルでは最も新しい1983年の竣工であり、延長も266mと最長である。 怪しい。 ここは怪しいぞ。 これまでの傾向から言って、ここには、旧道がありそうな気がする…。 |
労することなく、海際に使われていない道を発見した。 意外に広く取られた路面には、まだかすかに白線のペイントが残っており、比較的新しい旧道であることを感じさせた。 まっすぐ、岬の突端のほうへと伸びてゆく。 この先、私の期待するモノがあるのだろうか? |
岬の突端近く、それまでの、現道と大差無い立派な道が嘘だったかのように、いきなり、ソレは現われた。 やばい。 この穴は、本物だ。 ついに、 ついに、“穴ぽこ”が現われてしまった。 現役時代には20年遅れはしたものの、来たぞ、俺。 | |
すぐさま、入り口を塞ぐ木のバリケードに迫った! どういうわけか、私を誘うかのように、乗り越えるためのスペースが空いていた。 視覚がそれを捉えると同時に、脳を経ず、直接両腕へと「チャリを持ち上げろ」という指示が出ていたいた。 『これが「反射」だな。』 そう気が付くのは、すっかりチャリが柵を乗り越えた後だった。 …じゃ、誰が写真を撮ったのか? という突っ込みは、無しでお願いします。 | |
内部は、意外にも綺麗です。 とはいっても、もともと完璧な素掘り&未舗装な為、崩れてはいないという事実のみが、綺麗と判断される原因だったのですが。 足元は、未舗装というか、砂地です。 まるで砂浜のように柔らかく、チャリを漕ぐのもしんどいです。 そんな私を察してか、写真にも写る通り、地面の一部にコンクリートの帯が敷かれています。 多分これは、比較的最近に敷かれた気がするので、水道管か何かではないのでしょうか? この隧道は、帰宅後にその名を知りました。 「アジリキ隧道」 なんとも、味のあるいい名じゃありませんか。 で、驚いたことに、 なんと…。 いや、絶対信じられませんよ。 |
出口側には、何の障害物もありません。 しかし、それもそのはず、その先には、もう一本の隧道が待っていたのです。 隧道と隧道の間は、僅か50mほど。 写真はアジリキ隧道を振り返って撮影したものですが、なんかもう、未開国の国道のよう…(失礼)。 塩害によるものか、海側のガードレールは信じられないほどに錆付き腐食しておりました。 で、さっき、驚いたとか言って、そのままでしたね。 なんと、このアジリキ隧道と、次にくぐる「天王沢隧道」。 そろいもそろって…、昭和生まれだというではないですか。 さらに言うと、
アジリキ隧道 延長:78m 竣工:昭和40年
天王沢隧道 延長:71m 竣工:昭和41年 昭和40年というと、1965年ですね。 さすがに私は生まれてませんが、まさか新規に素掘り隧道が竣工されていたとは…。 その当時は国道345号線ではなく、主要地方道「村上温海線」だったのでしょうが、それにしても驚きました。 大正時代に竣工された隧道たちに混じって、なんら違和感が無かったであろうこの2本。 そして、これら2本の隧道は、1983年竣工の弘法トンネルによって廃止されているわけで、その短命たるや、僅か18年。 |
おんなじ場所から、今度は天王沢隧道を撮影。 延長から格好まで、大変良く似た双子のような隧道です。 しかし、この隧道と隧道を結ぶ僅かな区間だけでも、どうして舗装されていないのでしょう? 今や日本のどこにも無いかもしれない“砂の国道”が、ほんの20年前まで、ここにあったのかも。 あなたも、ここで少し思いを巡らせてみて下さい。 … 山北と村上の間、どうして国道7号線は、険しい山越えしてまで内陸に迂回しているのか? 当時の技術力では、到底ここを街道として整備することは、叶わなかったのではないでしょうか? それほどに困難な土地の、浜と浜を、集落と集落を、細い糸のように繋いだこの道。 明治・大正時代から、近年に至るまで、地道に、人力に頼って多くの隧道を拓き。 未だ、このように取り残された景色を残す道。 ここは、やっぱり私にとって、一つの聖地かもしれない…。 サイコー!!! | |
天王沢隧道の内部。 廃隧道ではあるのだが、素掘りという割には、先ほども述べたとおりに新しい為か、恐怖感はない。 隧道の外のほうがむしろ、朽ち果てている感じである。 さすがに、素掘り隧道にこんなことを言うのも変かもしれないが、はっきり言って、 『現役稼動可能』と思われた。 この隧道の出口は、しっかりと木のバリケードが設置されており、ここを乗り越える際に、誤ってサイクルコンピュータをリセットしてしまった。 外に出てみると、そこは現道の脇であり、タイムスリップしたかのような違和感があった。 |
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