道路レポート  
仙岩国道 工事用道路 その4
2004.3.28



板谷トンネル
2003.11.14 8:59


 主な工事用道路は二本あり、今私が登ってきた板谷工事道路と、この先、仙岩トンネルの袂から、やはり生保内沢へと降り立つ山紫工事用道路だ。
私は、このまま国道を仙岩トンネルまで歩き、そこから山紫工事用道路でチャリの元まで戻ろうという計画を立てた。

そうときまれば、しばし国道をハイキングだ。



 私が国道にたどり着いたのが樹海橋の秋田側袂で、そのまま橋を渡るとすぐに、板谷トンネル(149m)にさしかかる。
これは短いトンネルだが、その先には既に次の生保内トンネルが控えており、チャリならば快速のトンネル連続地帯も、歩きとなると退屈だ。
ただ、余り歩くような人もない国道を歩くというのもまた、それなりのワクワク感はある。
普段では見過ごしてしまうような発見に期待して、時速4kmの旅を続ける。


 板谷トンネルを出るとそこは板谷橋の上だ。
この短いけどものすごく深い谷を渡り、対岸に控えるのが、生保内トンネル(588m)で、これは仙岩道路で二番目に長いトンネルである。
この生保内トンネルの秋田側坑門の左には、先ほど工事用道路で目の当たりにしてきたコンクリートの吹き付けが国道とは関係なさそうな遠くまで成されている。
じつは、これも工事用道路の名残で、距離がない割に余りに状況が悪いため踏破しなかったものの、この板谷橋を迂回するように崖に沿った道があった。
板谷橋は、昭和46年の完成であり、この工事用道路が破棄されたのはその直前だろうか。



 これが、板谷橋上から、工事用道路が崖沿いに通っていたはずの部分を見た写真である。
たしかに、正面には人工的にひらかれたようにも見える岩肌が覗いているものの、殆ど滝のようになった沢を渡る橋もなく、とてもとても、工事車両が通行できた道があったようには見えない。
あるいは、人夫が通えるだけの杣道のようなものがあっただけなのだろうか?
先ほどまでの工事用道路が、廃道とはいえそれなりの施工の痕跡があったのに比して、あまりにも、何もない。
たしかに、事業地図上には工事用道路が描かれているのだが…。





 苦心して、可能な限り橋の遠くまで歩いて撮影したもの。
藪の向こうに見える方杖ラーメン橋が、現道の板谷橋だ。
こうして現道から一歩離れてみると、仙岩道路がどんなに険しい場所に拓かれた道であるかを再確認することが出来る。


 さて、私は生保内トンネルを歩き通した。
チャリでも短くはない588mは、徒歩だと本当にだるい。
歩道など無いし、大型車はバンバン通るし、空気は悪いしと、トンネルの三重苦だ。

生保内トンネルと、次の大平トンネルの間は、700mほどの明かり区間である。
そして、この区間には木滝沢橋、熊見橋、山紫橋の三つの橋が連続し、いよいよ仙岩トンネル突入に向け、高度と方向の調整に入る。
 

 熊見橋と、その先の仙岩第三受電所。
この受電所の背後から、現在ではガードレールで封鎖されているものの、山紫工事用道路が延びている。
私は、これを下っていく予定だが、その前に仙岩トンネルまで行っておきたい。
ここまで来れば、あとは大平トンネル一つ潜れば仙岩トンネルとなる。

眼前に聳え立つものも、いよいよ県境の稜線のみだ。



 山紫橋から大平トンネル(470m)。
ここでの注目はやはり、トンネルの左右へと意味深に続くコンクリートの吹き付けだ。

もちろん、あれも、工事用道路である。
そして、この工事用道路は、大平トンネルを迂回して、この先の仙岩トンネルの袂まで続いている。
仙岩トンネルまで一旦は進もうという私の魂胆は、もうお分かりだろう。



 お楽しみの工事用道路へと再侵入する前に、再び戦場のようなトンネルとの戦いだ。
下手したら、廃隧道よりも不快だぞ。
この現役隧道。

そんな不満をぶつくさ唱えながら歩く私に、奇妙な明かりが見えた。
トンネルの側壁から、白い光が漏れているぞ?!
まさか。出口?



 おおぅ。
不快なトンネルから私を救い出す為、天が下ろした蜘蛛の糸のごとき外界への扉。
こんな場所に脱出口があることなど、今まで知らなかった。
というか、以前通った時には、ちゃんと鉄の扉があって、外の光など漏れてはいなかったと思う。
よく見ると、扉の錆びた残骸が、辺りに散らかっている。
これは、徒歩ならではの発見かもしれない。

迷わず、脱出だ!
楽しくなってきたぞ。


大平トンネルの隠し出口
9:32

 なにやら残骸が散乱する脱出口。
扉というか、既に溶接されて封印されていたのかもしれない。
扉らしい造りではない。
邪魔な横棒の間を、錆で怪我しないように慎重に潜り抜ける。
後ろでは、ビュインビュインと車が往来している。
よもや、こんな場所に尻だけ星人がいるとは思うまい。

なんか、楽しい。



 脱出しても、眼前には秋の林と険しい崖の景色がひろがるのみ。

これ以上進むような道もなければ、足場もない。

そう諦めかけた時、なにやら足場を発見。

この梯子の先には、一体何が?

なんとなく、探索の目的から離れつつあるのを感じていたが、とりあえず行くしかないっしょ(笑)



 なんともテキトーな造りの梯子。
ただ、鉄筋の切れ端を溶接してつなげただけで、形はまちまちだし、登っていても不安になる。
実際、怪しく揺れるし。

今登っているこれは、トンネルの外壁なのだが、なぜ外壁が露出しているのだろう。
いままで一本だと思っていた大平トンネルは、実は、このコンクリートシェルターで連接された二本のトンネルだったのか?



 絡みついたツタに苦労しながらも、竹輪状の外壁の上部にたどり着いた。
まさに、トンネルは二本であり、その間には僅かばかりだが、コンクリートのシェルターで繋がれた区間が存在していたのだ。
一般的には、『へぇー(語尾下がる)』という程度の発見だと思われるが、仙岩峠には、そしてトンネルというもの自体にも格別の思い入れがあるわたしにとっては、『へぇー(語尾上げる)』といった程度の発見である。
とにかく、誰も知らないっぽい、仙岩道路の一面を発見出来て嬉しかった。

ただ、これ以上の発展は無理だった。
周囲は崖に囲まれ、期待していた工事用道路との接続も無かった。



 大平沢の幽谷を隔て、対岸には県境の座の一つ地森(海抜991m)が、驚くほど近い。
もう、山はいつでも冬景色を迎えそうな色だ。
麓ではまだ紅葉の盛りだが。

後から気が付いたのだが、この写真の左下に僅かに写る灰色の部分。
これは、この後歩くことになった工事用道路の法面であろうと思われる。




 登ってきた梯子を下りて、現道へと戻る。

高所恐怖症の人は、きっと●●がすぅすぅすることだろう。

ちなみに、写真は片目をつむって見ると、多少立体感が増すので、暇なら試してみて欲しい。



 再び面白みのないトンネル行脚をこなし、脱出。

この橋は、上平沢橋。
秋田側、最後の橋である。




 次回は、いよいよフィニッシュに向けて、お待ちかね(?)の「工事用道路を往く」第二弾です。




その5へ

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