今回は、船岡森林軌道にある、ただ一つの隧道を紹介したい。
通称:船岡森林軌道だが、正式には「大曲営林署宮田又沢林道船岡支線」であり、宮田又沢林道の中間地点である協和町滝ノ沢から分岐して淀川上流を目指す路線として、大正7年から翌年にかけてに建設された。
同14年にはさらに延伸され、淀川源流部の朝日又沢にまで伸び、全盛期には全長14823mの2級路線だった。
廃止は、他の森林鉄道同様に昭和40年代初頭である。
この路線に確認されている隧道は一つであり、それも、意外なことに山深い終点付近ではなく、人里近い宇津野地区に存在する。
名称は仮に「宇津野隧道」と呼ぶことにして、その様子を紹介しよう。
2004年3月24日、午前7時半過ぎ。
秋田市街地の雪は完全に消えていたが、二つ隣町の協和町の山寄りとなれば、まだ冬の装いだった。
ちょっと来るのが早かったかと後悔したが、まあ目的地は人家からそう遠くないので、何とかなるだろう。
とりあえず、チャリで近寄れるだけは近寄ろう。
場所は、一般県道唐松宇津野線の宇津野を過ぎて、次の芋台集落のバイパスにて右に分かれる林道沢内水沢線に入ってすぐだ。
一帯は顕著な河岸段丘地形を示しており、林道に入るとまず段丘崖を急な坂で登る。
しかし、それも一瞬で、すぐに広大な水田が広がるのである。
林道はさらに水田を突っ切り、20kmを越える山岳道路でもって国道46号線の水沢に続いている。
…が、無論、冬季通行不能だ。
林道と林鉄跡は一度ぶつかっているはずなので、そこまでチャリで行けるかと期待したが、水田の端で道は深い雪に閉ざされてしまった。
まあ、チャリを置いて歩いてもすぐだろうが、どうせ歩くならつまらない林道は避けて、直接軌道跡に向かいたい。
雪深い田圃を勝手に横断し、隧道があるだろう方向の山際に迫った。
すると、山肌に築堤のような切り立った道が見えるではないか。
林道ではないし、造林作業路にしては立派な土留めだ。
近づいてみる。
造林された何の変哲もない杉林のようだが、土留めの斜面の一部には、確かに石垣が覗いている。
この石垣、そしてその上部の平坦な部分。
決まりだ。
かなり急な杉葉の積もった斜面に組み付いた。
足場が無くしんどかったが、何とかこれを登り切ると、そこに現れたのは。
期待通りの築堤だ。
まず林鉄筋に間違いないだろう。
この道は私が登ってきた築堤の両側に続いているが、結果的に隧道は右側(西)だった。
はじめ、深く考えずに左へと歩いたら、5分ほど杉林の小道を進んだ後、林道にぶつかってしまった。
この間には目立った遺構はなく、、築堤と浅い切り通し、あとは鬱蒼と茂る植林地だった。
ぐるっと回って、もう一度ここへと来た私は、今度こそ隧道を目指して進路を取った。
斜面に沿って蛇行を繰り返す林鉄跡の道は、造林作業路として利用された時期もあったらしく、杉林の中では比較的道の痕跡を留めている。
しかし、雑木林の中では、その至る所に新たな幹が生じ、とても歩きづらい。
時期が早く、雑草は全くないのだが、それでもペースは上がらなかった。
無論、雪上をかんじき装備で歩いているのだから、何も障害がなくとも速度に大差ないだろうが。
夏場では決して望めないことだろうが、淀川を挟んで対岸の段丘上にある宇津野の集落が木々の間に見える。
まだ朝だというのに、山々に谺するほどの大声量の選挙カーが、無遠慮に叫び散らしている。
しかも一人ではなく、複数の選挙カーが互いを鼓舞し合うような建前の挨拶を交わしている。
もう、いい加減にしろよなー。
こっちは、隧道探してるって言うのに(?)。
日の届きにくい杉の林にはかなりの雪が残っていた。
狭い築堤の上には、中華まんのようにこんもりとした形で雪が残っており、しかも木の幹周りだけは深い穴になっていたりと、まず歩きにくい。
汗をかいてしまった。
林道から軌道跡を歩けば800mほど。
私の場合は、途中から軌道敷きに登っていたが、この場合は400mほどで、正面に立ちはだかる稜線が見えてくる。
いよいよ隧道が出現するのかと、興奮した。
足を雪に取られながらも、ちょっと足早に、先へと進む。
徐々に深くなる掘り割りの先、急激に迫り上がる斜面に観念したように、真っ暗な穴が口を開けていた。
期待通り、そこに隧道があった。
景色的に、険しというものは余りなく、いかにも里山の風景だ。
遠目には、現役の林道隧道のようでもあるし、周囲の杉林はちゃんと人の手が入っている様子なので、山仕事をする人たちにはお馴染みとなっている隧道なのかも知れない。
今まで林鉄隧道といえば、人知れぬ山中にひっそりと、というイメージだったが、ここはちょっとイメージが違う。
目立つ存在ではないから、むしろ私が紹介せねば、永遠に山人たちだけのものだったかも知れないが。
さあ、接近だ。
隧道から流出している地下水が、軌道上を流れており、通路状に雪が融けている。
私は、長靴を装備すると、この水路に入り、坑門に迫った。
ふと、まばゆい光が目に入り、一瞬視界に色が消えた。
目の前の杉林の向こうに、金色の朝日が昇り、木々に遮られることで生じた光線が、私に目に入ったのだった。
冬の朝ならではの、澄み切った空気を感じた。
万能なる太陽も、人が掘ったささやかな隧道に光をもたらす事はない。
接近してやっとその細部が判明した隧道は、遠目に見るよりも遙かに… 朽ちていた。
しかし、林鉄の隧道としては、かなり本格的な造りだ。
坑門は、丸石を積み上げて間にコンクリと流したもので、橋台や石垣にはよく見られる施工だが、坑門に使っているのは余り見ない。
内壁に繋がる部分は風化の目立つコンクリ巻きで、内部も素堀ではないようだ。
扁額はなく質素ながらも、確かな存在感を持つ。
坑門上部に地形に合わせた切り欠きがあるのも、丁寧で面白い。
進入するに当たって、気がかりは二つ。
ひとつ、坑門からの水流は少ないが、内部の水量は多そうであること。
もうひとつ、推定100m程度の隧道だと思われたが、出口の明かりが見えないこと。
坑門脇の斜面に登って撮影。
淀んだ水が溜まった内部も、坑門も、コンクリを使っているとは思えないほどの傷みぶりだ。
ちょっと、鬼気迫るものがある。
これが北側坑門で、地形的な要因もあり、特に日照が少ない場所なのだろう。
不気味という言葉が、しっくりとくる。
…うわー、 こえー。
ちょっと、霊感ある人、なんか感じます?
感じませんか??
ならいいけど。
内壁、めちゃくちゃ“くの字”なんですけど、まさか崩れてきませんよね…。
水、かなり深いんですけど、私の長靴、25cmが限界ですけど…。
なんか、淀んでるし…。
あなた!
なんか勘違いしてませんか?!
山行がでは、隧道があれば必ず入る。
ヨッキれんは必ず入って、内部をレポートするのだと。
勘弁して下さいよ…。
あなた、入りますか、これ。
水温はきっと5度以下ですよー。
きっと、この水溜まりに入れば、泥があったりなんだりで、多分私の長靴は浸水するでしょう。
さらに、なんか予感する。
閉塞の予感が。
…率直に言って、入りたい気がしない。
反対側の坑門へと、山を越えて行ってみようかな…。
そうすれば、閉塞かどうか分かるかも知れないし。
どうしよう。
なんか、いつも私が隧道に突入していくときの「テンション」にならない。
何でかといわれれば、私のやる気を高める要素が、希薄なんだよね。この隧道。
…発見しただけじゃあ、 だめ??
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