2007/9/3 7:18 【駒ヶ滝隧道 東口】
衝撃的な狭さと、見たこともない信号機で私を出迎えてくれた、国道140号駒ヶ滝隧道であるが、今回はいよいよその内部を通り抜けたい。
たかだか現役の隧道を通り抜けるだけなのに、この異様な高揚感は何だろう。
ともかく、坑口への接近シーンを軽くおさらいしつつ、内部へ進もう。
運転免許を持っている方は、自分の愛車での進入をイメージしながら読み進めて欲しい。
…トンネル専用信号機と停止線が近づいてきた。
直進にも道はあるが、国道は右折である。当然青信号を待たねばならない。
それにしても、赤のままなかなか変わらない信号である。
測った人の話では、5分間置きに青信号になるらしい。
そりゃ普通の信号に慣れた体には、長く感じるわけである。
雁坂トンネル開通の後の半年間には酷いときには秩父市内まで、延々40km近くも渋滞の列が延びたと言うことを、前回レポート後に教えてくれた読者さんがいた。その時、この信号機はどれだけ秩父の山々に余計な排気ガスをまき散らさせたのだろう…。
ドライバーのいらだちを理解してか、信号機傍には右のような看板が設置されていた。
奥の看板には「トンネル信号につき待ち時間が長くなっています」とある。
また、手前の看板にはもっともらしいことが書いてあるが、実際には注意しようにも、カーブした洞内は見通せないのだからどうすることもできない。
ちなみに、この交差点を真っ直ぐ進むとどうなるかと言えば、国道が駒ヶ滝隧道へ迂回する秩父ダムの堤体へと、直接進むことが出来る遊歩道になっている。
入口には「二瀬ダム周辺遊歩道」と、古びたアーチ看板が建っているので間違いないが、生憎改修工事の最中らしく、一切立ち入り出来なくなっていた。
しかし、30mほど奥には極小さな隧道が見えた。目をこらして扁額を読むと「二瀬隧道」とある。
ここから向こうの出口まで見えるくらいだから、全長は10mそこらだろうか。
実は、本来の駒ヶ滝隧道は自動車専用であり、歩行者(自転車は不明)はこの通路を通る仕組みになっているようだ。
しかし、今は工事中と言うことで、ハイカーも車に混ざって駒ヶ滝隧道を通らざるを得ない。
さて、信号が青に変わったと仮定しよう。
あなたは、ソロソロと停止線の先へ進み、と同時に右にハンドルを切ることになる。
すると、曲がった先には唐突にこの景色だ。
はたして、初めて見てこれに驚かない人がいるだろうか。
曲がりなりにも、ここまでは山道とはいえ、ずっと2車線だった国道である。
そこに、突然こんな穴がボコッと口を開けているのだから、タマラナイ。
そもそも、高さと幅の制限(それぞれ3.4m、2.5m)があるのにもかかわらず、ここまでその予告が一切無いというのは、どういう了見か。
廃止された林鉄の替わりに、材木を満載したトラックが長年往来してきたに違いないのだが…。
しかしこの入口はインパクトが強すぎる。
制限の数字と自分の車のサイズとを見比べて、行けるか行けないかを真剣に考えさせられた大型ドライバーが、少なからずいただろう。
中には、そのまま引き返さざるを得なかった車もあったかも知れない。
坑口の前が直角カーブだというのが、ここの“ミソ”だと思うわけである。
ある意味、出発前のジェットコースターのようである。
動き出すまで先が見えず、動き出したらすぎ、恐ろしい景色が待っている。
おっと、のんびり坑口前をチェキっていたら、もう信号が変わってしまった。
対向車が飛び出してきた。
信号待ち(5分)のあいだ、周辺の標識などをくまなく見て回った。
坑口前の青看には、しっかりと「トンネル内分岐点」だと書いてある。
それにしても、坑口の雰囲気が独特だ。
岩山に直接円い穴が開いているような風貌。周りを分厚くツタが茂っており不気味さを演出している。
そして、トンネル内分岐について青看がこれだけ完備されているにもかかわらず、トンネル自体の名前を示す標識は無い。
ツタに隠されて扁額があるかも知れないが、少なくとも、それをドライバーが見ることは出来ない。何キロも手前から名前付きで予告されてきた隧道なのに、矛盾している気がする。
…暇な時間が長いので色々考えてしまうが、例えば深夜とか、みんな信号を守って通行しているものだろうか…。
…余計なお世話だよね。
さあ、待ちきれないので、入るぞッ! (←オイィ待てい)
信号が変わって入洞。
余りのろのろしてると対向車が来ることになるので、侮れない。
狭い隧道は、その断面がほぼ円形であり、よりよく地圧に抵抗する形状となっている。
オレンジ色の照明がポツポツと続く洞内は薄暗く、滴る地下水で全体的に濡れている。とても涼しい。
壁はコンクリートの吹きつけで、僅かに凹凸が見られた。
駒ヶ滝隧道は、その内部も個性的だった。
隧道内分岐があることは事前情報済だが、それだけではないのだ。
坑口から30mほど真っ直ぐの隧道が続いたが、その行き着く先は左カーブだった。
しかも、普通のカーブではない。
緩和曲線などというものを全く組み込まない、極めて鋭角的な印象のカーブだ。
そして、カーブは90°にも達するかという勢いでその角度を極めていく。
思い出して欲しい。
わざわざ直角カーブで隧道へ進入したことを。
それなのに、洞内に入ってから再び元の方向へ向き直るかのような、急カーブである。
敢えて断崖絶壁の地上を避け、地中に迂回する道を選んだかのような線形である。(おそらく実際にそうなのだろう)
この短く急なカーブの先に、また次の直線が待っている。子供がプラレールで作ったような、単純な線形の道だ。
カーブが急すぎて、坑口に入るのでやっとな大型車などは、壁に接触することが確実である。
それでは困るわけで、カーブの部分だけ断面が倍くらいに拡張されている。
おまえ… なんでもありだなッ!
いちおう「道路構造令」というものがあって、国道を始め公道の全てはその規格が政令で定められているのだが、この駒ヶ滝隧道のごときは異端児もいいところだ。
隧道の内部で断面を変更してもいいとは構造令には書いていないし(駄目とも書いていないが…)、そもそもこんな極端なカーブ自体イレギュラーだ。
写真は、カーブ拡張部にて坑口を振り返って撮影。
この強引すぎる断面の擦り付けを見よ! (昔のポリゴンみたいだ…)
流石に速度を出しようがないので壁に接触するお馬鹿さんはいないだろうが、このまま坑口まで拡幅することを何故実施しないのだろう(笑)。
たった30mほどなのだが…。
この破天荒な拡張部だが、洞内で万一対向車に対面した場合の離合スペースにもなっているのだろう。
思い出して欲しい。坑口前にあった看板を。「待ち時間内に通り抜けが出来ない場合が…云々」というやつがあっただろう。
しかし、坑口からは内部の見通しが30mばかりしか利かないのだから、洞内で対向車に鉢合わせとなるケースが、きっとあるはずだ。
そんなとき、ドライバー同士は協力し合い、この狭い壁にボディーを擦るギリギリまで寄せて、離合するのだろう。
…それが大型車だったり、或いは2台3台とあった場合のことは…、同じ車を運転するものとして考えたくもないが…。
本隧道の特徴の一つが、この特殊な線形にある。
そのことを、地図で確認していただきたい。
小縮尺の道路地図では普通にダム脇の真っ直ぐなトンネルに描かれていたりするが、実際にはこんな形をしている。
秩父側から来ると、直角カーブで入洞し、洞内ですぐさま左急カーブ(現在地)、その後本坑といえる直線部となるが、その中間に問題の洞内分岐はある。そして、出口の手前にもまた急な左カーブが待ち受けており、さらに外へ出た途端またも直角カーブである。この間約300m。
隧道全体ではカタカナの“コ”に近い形で、前後の道の形を合わせると、まさに“シケイン”である。
完全に交通上の隘路、難点、弱点、ボトルネックといえる、極めつけの悪線形だ。
設計者が悪霊にでも憑かれてしまったような、そんな異様な隧道だが、生まれを知れば納得せざるを得ない。
実はこの駒ヶ滝隧道は、はじめダムの工事用道路だった。
それを、あまつさえ天下の公道たる国道の一部として、現在に至るまで利用し続けているのだ。
そもそも、この隧道が生まれるきっかけとなった二瀬ダムは、昭和25年に計画決定され、同36年までに建設された。
そして、偶然にもこの昭和25年という年は、雁坂峠に全長6kmを越えるトンネルを貫こうという壮大な構想が発表された年と一致する。
だが、当時の国道熊谷甲府線は、ようやくダム下流の二瀬まで狭い砂利道を通じていたのみで、峠のトンネルどころか、その麓にさえ辿り着けなかった。
ダム完成後、それはあらかじめ想定されていたのかは不明だが、本来ダム工事用だったはずの隧道が、ウルトラCで国道への昇格を果たす。
そして、初めて雁坂峠へと挑む“下地”が出来たのである。
実際に雁坂トンネルが開通する、半世紀近くも前のことである。
入口から50m地点。
ここから再び直線が始まるが、先ほどの地図でも予告したとおり、この直線の途中にお待ちかねの洞内分岐はある。
そして、直線の先も急カーブだから、出口の光は見えない。
断面は再び元の狭さに戻り、リアカー同士くらいしか離合できなくなる。
ここから、中盤戦。
【オマケ動画:洞内カーブを通過するトラック】
7:26
じわじわ…
き た 。
こ、これぞまさしく…
キ─タ──!!
洞 内 分 岐 !!
右は国道140号 出口まで約150mある。
左は埼玉県道278号 出口まで約50mだ。
ちなみに、入口からここまでは約180m。
「隧道リスト」などに記録されていた本隧道の延長394mとは、分岐の分も合わせたものだったのだ。
このように、分岐地点にも青看は設置されている。
しかも、ゴチャゴチャと。
上にも書いたが、左折すると一般県道278号、別名「秩父多摩甲斐国立公園三峰線」という大変長い名の県道に入る。
おそらくこの県道の起点はこの場所で、すなわち隧道内が起点という、全国に他例があるか分からないが珍しい路線である。
直進は国道だが、どちらの隧道も断面的には大小の差が無く、青看なしでは区別が付かないくらいだ。
ここで写真なぞ撮っていては、いまに外の信号が変わってしまうだろうが、ここはチャリの機動性を武器に少し滞留してしまおう。
この分岐は、素通りするには如何にも惜しい。
ナンダ あの穴!
県道側から分岐地点を見ると、そこには普通に国道を走っていたのでは気付きづらい穴が!!
こんな話は聞いていないぞ。
当然、こちら側から交差点に来た人なら誰しも目にしているとは思うのだが、地図にもない分岐だ。
洞内三叉路かと思ったが、実は十字路?!
…マジっすか!
そうそう。
標識を見て貰えばお分かりの通り、県道側からだと山梨方面への左折が禁止されている。
故に、一旦秩父側の坑口から出て、そこであの広い駐車場を使ってUターンする必要があるのだ。
無論、その時もまた信号待ちとなる。 うへ〜…
(別の道もあるのだが、現在は通り抜けが禁止されている←詳細は次回)
まあ、この洞内の狭さでは、普通車だって切り返し無しで左折できるか分からない位だから、こうせざるを得ないのだろう。
少なくとも私のエスクードでは曲がりきれない狭さと角度だ。
隧道内分岐地点にある、もう一つの横穴。
その入口は他の路面よりも1mほど高くなっており、しかも鉄格子で塞がれていた。
中へはいることは、出来ない。
だが、行き止まりはすぐ奥に見えていた。
大体奥行きは5mくらいだろうか。
コンクリートの行き止まりの壁の手前には、貯水槽のように見える函型の物体がある。
天井には蛍光灯がひとつあるが、消灯していた。
どうも、この設備はダムに関する何かであるようだ。
出入り口は泥がコンクリートの上に分厚く堆積しており、普段は人の出入りが全くないようだった。
本来進むべきは国道だが、この隧道の全てを体験すべく、脇道に逸れることにした。
隧道内が起点の県道278号へ、左折。
ちょっとだけ行って、引き返してこよう。
というわけで、今回はここまで!
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