小又大滝 断崖隧道  前編
用途不明…謎の隧道
秋田県秋田市 上新城
   私の住む秋田市の東半分は、太平山を頂点とする深い山岳に支配されている。
そしてそこには、隅々まで林道が張り巡らされている。
まだ少年だった私が、チャリの面白さと林道の奥深くへと分け入る興奮を覚えたのは、これらの林道のおかげであり、その意味で我が山チャリ発祥の地といってよい。

今回の舞台、上新城は小又沢上流に伸びる小又林道も、それら若き日の旅の一ページを、いや、それ以上を彩った思い出の道である。
しかし、次第に行動範囲が広がるにつれ、地元の山々である太平山地から、他へと興味が移って行ったのも自然な流れだっただろう。
そして、初めての山チャリから10年目の秋。
再びこの地に私の目を向けさせる、衝撃の情報がもたらされた。
情報提供者は、FTDティーさん。
以下に、その衝撃的なメールの一部を抜粋して紹介させていただきたい。

 上新城のトンネル(廃モノ含む)が3つほど紹介されてますよね!
私、上新城に大親友がいまして、よく山にも入ったりしてるんですけど、その友人の情報によると、まだ見ぬトンネルが上新城に存在するという話なんすよ!
場所は小又大滝付近、滝の上の林道の対岸から、滝の下に抜けるトンネルらしいです。
友人も偶然発見したらしく驚いてました。
林道は知っての通り封鎖されてますが、ぜひ山チャでレポートしていただきたい!

 小又大滝は、私にとっては『なつかしい』という気持にさせる、そんな場所になっていた。
もう、かれこれ5年以上は近付いていない。
しかし、通算するともう4回は探索している。
もちろん、隧道があるというのは初耳であり、これまではただ、林道探索のついでに滝も鑑賞したという程度だ。
それでも、隧道の存在は、俄かには信じがたい。

…いや。
信じがたいというのは嘘で、何か引っかかるものは、たしかにあった。
そうだった、思い出した。
かつて滝を見たとき、「あそこにはどうやっていくのだろうか?」と不思議に思った場所があったのだ。
もう、すっかりとそんな事は忘れていたし、まさか隧道があるなどとは思いもよらなかった。
無論、私の記憶に在る“アノ場所”と、今回の隧道が関連する物なのかは、分からない。

ただ、猛烈に興奮した。
もう、これはすぐにでも探索するしか無いと思った。

そして、情報をご提供頂いた次の休みに、早速行動を起したのである。
以下は、謎の隧道の発見にまつわる物語である。




 
 2003年9月25日。
午前5時30分過ぎ。
前夜からの雨が残る生憎の天気。
しかし、今日を逃せば一週間延期せざるを得なくなる。
これまでにない近場ということもあり、躊躇無く“決行”である!

写真は、自宅から最短経路で約8kmほどの上新城保多野地区。
この先幾度かの三叉路があるが、何れも太平山の前衛を成す山々を終点とする林道である。
ここはいわば、一帯の林道たちの総起点といえる集落だ。




 さらに進むこと4km余り。
ここまで何度かの分岐を経つつ、平坦な田んぼの中を選んできた道も、いよいよ逃げ場がなくなってくる。
ここは上新城最奥の集落である小又。
写真に写る三叉路は、左が白山(しろやま)を経て畑の沢林道へ至る道。
右が、今回目指す小又大滝のある、小又林道方面である。
前方にそそり立つ山並みは、太平山東前衛山地の中心的な存在である無名峰(標高527m)である。
小又林道は、この山と別の無名峰(標高627m)との間の鞍部を目指す、約12kmの長いピストン林道である。
大滝は、その中盤に在る。




 小又集落の最後の民家の手前、小又沢一号橋の欄干に昔は無かった予告板が設置されていた。
内容はご覧の通りで、林道は入り口で封鎖されているという。
訳は、ゴミの不法投棄の防止の為という。

一時期、この林道を舞台にした悪質なゴミの投棄が問題化し、結局林道は封鎖されたのだった。
当時は地元紙にも取り上げられるほどのニュースだったのだが…もう3年くらいは経つだろうか。
封鎖後初めてここに来た。



 集落から1kmほど、徐々に狭まる沢合いの田んぼのなかをグネグネと進むと、林道の入り口にたどり着く。
小又沢3号橋より先、突如急な登りが始まると共に、砂利道となる。
橋の竣工年度を見るに、昭和40年代に開設された林道らしい。
山に近付くにつれ小康状態にあった雨が再び地面を打ち始めた。
カッパは持参してきたが、できればお世話にはなりたくないものだ。
それに、沢の増水が心配だ。
きっと目指す隧道は沢を歩渉せねばたどり付けぬ場所であろうから、水量が心配なのだ。



 砂利道になっても200mほどは普通に進むことができたが、即席の広場の先にゲートが設置されており、(このゲートは昔からあった気がする)しかも封鎖されている。
二輪車なら容易に脇を通り抜けることができるが、それは問題ないのだろう。
なにせ、不法投棄は2輪車の積載量には似合わない。

ひとまず、問題なく侵入できたので、ホッと安心した。
残念ながら自動車で探索したい向きは、ここから滝まで片道5kmほど歩いていただくよりほかは無い。
事前に警察などに連絡すれば通行の許可が下りる可能性もあるが。



 この先、小又沢は水量に見合わない深い峡谷を削っている。
余りにも崖が深いためか、林道はしばし谷底を迂回し水面から50mほどの高巻きを強いられる。
勾配はきついが、封鎖されている林道とは思えないほどの立派な整備状況だ。
もっとも、未舗装未改良林道に違いは無く、路面がよく締っているというだけなのだが。
もしや、定期的なパトロールがあるのかもしれない。

次々に懐かしい景色が現れ、疲れは全く感じない。
ひんやりとした空気も肌に心地よい。
ただ、やや大粒の雨が本降りになったので、カッパを着用する羽目になった。


 小又林道のこの高巻き区間は約3kmほどのアップダウンだが、なんともいえない風情を感じる。
先ほどの写真では、沿道に聳える巨大な黒松。
そして、左の写真もそのすぐ先であるが、こんどは山桜の古木が、まるで並木道のように沿道に続いている。
春先、里の桜が散った頃に白い可憐な花を咲かせる桜並木の美しさは、一度見ただけで忘れられなくなる。
実際これが人工的に植えられた物なのか、それともたまたま自生しているのかは、分からない。
ただ、林道入り口までの道の途中には古い鳥居が目立つ神社があり、他にも沢山の庚申碑が見られる。
林道の脇にも、このもう少し先には「秋田市合併記念植樹」と刻まれた立派な石碑が残る。

ここには、ただの行き止まりの林道とは思えない、何か神聖な物を感じるのである。




 最も谷底から離れる場所が峠である。
足元を覗き込めば目も眩むほどの緑の断崖。
まるで窓のように木々のきれた先を見ゆれば、仁別との間をへだつ長い稜線から、小さな樹海のような谷底までの連続的な景色が一望され、全くもって感動的である。
雨に煙る緑の美しさも特筆モノである。


 そして、この山中に、まだ見ぬ隧道が眠るという。

  次回、いよいよ、発見!!!




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2003.9.28