これほど、鬼気迫る坑門の姿というのは、これまで見たことがなかった。
最近は特に、色々な廃隧道を見て、入ってきたが、それぞれ、荘厳であったり、気品があったり、味があった。
しかし、ここはもう、呪わしいほどに朽ちている。
二度と出られないのではないかと、そう思わせるほどに、恐ろしい。
「なんだ、またいつものパターンかよ。煽りやがって。」とか思うかもしれませんが、ここは怖い。
なんか、心霊的とかそういうのともちがくて、純粋に、穴の様が怖い。
しいて言うなら、ここと、あの笹立と、そして、大切疎水道。
これ、いまのところ、自身の三恐(強?)。
それにここ、未だ入ったって言う人の話を聞いたことがなく、もちろんその姿を見るのも初めてなんで、余計に怖い。
崩れた坑門は狭く、笹立の坑門がそうであったように、屈みながら下ってゆく展開。
ここはとにかく泥地で、既に手足はぐちゃぐちゃ。
懐中電灯で底を照らすも、瓦礫の山しか見えない。
しかし、浅くは無い様だ。異様に寒いし…。
はっきり言おう。
ここ、面白くないよ。
入る前から断言。
しかも、この感想は、遂に最後まで変らない。
降り立った洞床から、3mほど上の入り口を見上げる。
こういう隧道って、なんか圧迫感ある。
出られないんじゃないかって言う恐怖も。
まずは、ここで一休止し、暗さに目を慣らす。
どうせ貫通できる見込みはないのだから、荷物はここにおいてゆく。
泥地では体重が少ないほうが有利だ。
30秒、1分…
2分。
よし。いけるとこまで行ってやる。
内部の空間は、意外と広く驚いた。
入り口はああだったが、幅も3mくらいあるし、天井が高い場所もある。
ああ、天井が高い場所は、崩壊しただけか。
しかし、ミニサイズとはいえ気動車が走っただけはある。
隧道の規模は、想像以上に大きかった。
そして、想像以上に、荒廃していた。
内部は、一面瓦礫の山。
それ以外表現のしようが無い。
壁も、天井も、支保工も、なにもかもめちゃくちゃに混ざり合って散乱している。
興奮はしない。
ただ、さめざめと、怖い。
支保工の跡意外には、特に人為的なものは何も無い。
そういえば、ごみが無い。
そうだ。ごみが無い廃隧道は、珍しい。
誰も来てないんだ ここ…。
当然のことだが、話し相手もなく、黙々と進む。
足元は泥地で、長靴の脛の辺りまでどっぷりと沈む。
道の真ん中付近は長い池になっており、時折滴り落ちる雫の音が、洞内至る所から響いてくる。
全く先に明かりはない。
それどころか、この小さな灯りでは、3m先しか見えない。
一体どこまで進めるのか??
あまり、進みたくないぞ。ほんと。
振り返ると、既に入り口から漏れる明かりは点のよう。
100mくらい来たのだろうか。
地図上で想定される延長は、約400m。
依然続く瓦礫の山に、精神的な疲労が足を重くする。
そして、何か心に焦りのような物が去来する。
振り返って、今にでも引き返したい衝動だ。
引き返したい!
もはや、写真を撮る為だけに歩を進めていた。
大丈夫。危険はそう無い。
足元は悪いといえ、転倒するほどあわてちゃいない。
慎重ではちゃんといる。冷静だ。
むしろ、全く熱くなれない。
瓦礫の間には、所々水面が顔を見せている。
下っているのか?
徐々に道に占める水面の割合は増えてきている。
そして、洞内への侵入から約8分後の7時16分、自身の終点にたどり着いた。
そこから先は、地底湖だった。
懐中電灯の明かりでは、その奥にあるものは照らせなかったが、少なくとも、反射から50mは水面が続いていそうだ。
その所々には、折れた支保工が突き出して見えたが、もはや、洞内のどこにも、歩ける場所はなかった。
深さは、30cm以上。
やった! 終了だ。
ほんとうに、安堵した。終わってくれて。
振り返ると、もう、出口が殆ど見えていなかった。
しかし、その写真は、なぜか撮影していなかった。(気が動転していた?)
慎重かつ、速やかに戻る。
帰りは早かった。
生還間近!
坑門の外側一帯は泥と湿地と斜面ばかりで、懐中電灯をしまったり一休みしたりしにくい場所だったので、坑門が間近に見えるこの場で 休息。
「ふーーっ 」 なんていって、足元に目をやると…。
何ですかーコレ!!
懐中電灯の明かりでデフォルメされており、何がなんだか分かりにくいと思うが、5cm四方の四角形の頂点の位置に微妙なくぼみが…。
それが、良く見ると、一帯の土の上にいっぱい。
どうみても、人の足跡じゃないよー。
でも、大きいよー。
べ、 べべ ベア?
何なのよコレ!!!
即脱出!
坑門の前を、てみじかに探索してから帰路に付くことにした。
坑門から30mほど離れて振り返って撮影したのがこの写真。
奥の斜面に坑門がありますが、見えますか?
ほとんど見えませんね。
でも、あるんです。
目立たないけど。
更に50mほど、深い残雪の上を難儀しながら進むと、ますます雪は深くなってきた。
そこは、やっと少し見通しが利く場所だったが、よくみると、軌道跡は湿地帯となっている模様。
今は雪の下だが、背丈よりも高い葦に隠されるであろう夏場は、近付くことすら容易でないだろう。
だいぶ前に、この先4kmほどは人家がないと書いたが、人家ではないがあと1kmもいけば、近年開通した秋田中央広域農道にぶつかるはずだ。
その場所は良く通るが、こんな隧道のことは考えても見なかった。
もっとも、そこから見えるはずもないが。
これ以上は進むのを止めた。
引き返しに入る。
帰りに、坑門近くの軌道跡にて発見した、なにか。
雪に覆われ、全体像は不明だが、なにか、軌道に関係した物かもしれない。
相当に古そうだ。
なんだろう。
このあと、再び坑門の前を通ったが、今度は覗きもせず、さっさと山を越え、来た道へ戻った。
もう一度だけ言おう。
この隧道は、つまらない。
私を含め、廃道ファンや隧道ファンの期待するような、風情といえるようなものはなく、ただただ凶悪な形相の穴があるのみ。
すくなくとも、わたしはもう、一人では行きたいと思わない。
黒川の製油用軌道の隧道
竣工年度 1910年代? 廃止年度 1930年代?
延長 推定 400m 幅員 3.0m 高さ 2.0m
一方の坑門は埋められており現存しない。
内部は極めて荒廃している上、広範に渡って水没しており、進入は困難。
竣工年度 1910年代? 廃止年度 1930年代?
延長 推定 400m 幅員 3.0m 高さ 2.0m
一方の坑門は埋められており現存しない。
内部は極めて荒廃している上、広範に渡って水没しており、進入は困難。