道川の手押軌道隧道 その3
泥濘の廃隧
秋田県秋田市 上新城


 南隧道の南側坑口は、やはり埋められていた。
つぎに、この小山の反対側、南隧道の北側坑口へ向かった。




 南隧道が貫いていた山は、非常に小さなものであるが、なかなかに険しく、しかも足元が滑りやすいので反対側に迂回するのに難渋した。
しかし数分の後には、反対側にたどり着いた。

 写真の左側に写るフェンスは、秋田自動車道のものである。
さらにその左側上部に、かすかに道路端のガードロープが見えている。
先ほど見てきた南側坑口の直線延長線上の位置を目指し、さらに藪の中を、フェンスに沿って上ってゆく。
距離は無いが、笹に混ざってトゲトゲのタラボが生えていたり、ノバラ(これもトゲトゲだ)が生えていたりと、何かとチクチクする。

 



 坑口の目印はすぐに見つかった。
というのも、高速を挟んで対岸の山に、北隧道の南坑口に続く切通が、ご覧の通り目立つからである。
その延長線上に、目下探している南隧道北坑口があるはずなのだ。
この場所から、すぐに高速右手の山の中に歩を進めた。



 早速、それらしい切通が表れた。
さらに近付いてみる。




 すぐに、かつて坑門があったであろう場所は、発見できた。
しかし、事前の情報の通りだが、埋められていた。
そして、この小さな穴の中にも、南坑門で初めに見た太目のパイプが通っていた。
 僅かに水を通わせるパイプ。
そして、この写真に写る、穴を守るように建つ比較的新しそうな木の擁壁(とても40〜50年前のものとは思えない)。
これらを見た私の推測は一つになった。
 このパイプは、そもそもの製油用手押軌道とは無関係のものではなかろうか?
むしろ、農業用の通水を考え通されたものと思える。
たまたま、隧道を埋めた後の、柔らかな土の部分を穿つ様に敷設されているのかもしれないが、直接これが手押し軌道の遺構であるようには思えない。




 むしろ、南側坑口で後から見た、細いパイプこそ、手押し軌道に関係した遺構のように思える。
岩盤の不自然な露出といい、しっかりと密閉されたパイプといい。

 私が見たパイプとの関係を証明するものは何も無いが、やはり徳光氏によれば、隧道が廃止される直前の時期には、軌道に平行してパイプラインでの送油が行われていたとも言う。
正確には、初め手押し軌道を設置した企業はパイプラインでの送油に切り替え、代わりに小さな地元企業が軌道を利用したという。
そのパイプラインが、先ほど見た、あのパイプではなかったろうかと思うのだ。



 これで、南隧道の探索は終了だ。
残念ながら、既に隧道は埋められ、通行はおろか、進入することも叶わなくなっていた。
しかし、もともとここにあった隧道が、現在なら確実に切通にされていたであろうほど小さな、短いものであったことが、現地の探索で十分に感じられた。




つづく

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2003.4.6