2020/3/4 6:15 《現在地》
おはようございます。
本日の一発目の探索だが、今にも雨が落ちてきそうなどんより空だった。天気予報は芳しくなく、時間が経つほど降水確率は上がる。いつ降り出しても文句は言えない。
ペッカー氏が見せてくれた写真には、謎の穴の背景に堰堤が写っていた。
地形図では、ここから1km上流の芦廼瀬川に、取水用の小さなダムがあるようだ。七泰の滝の300mほど下流である。目指すはこの取水ダムだ。
現在地についても少しだけ説明する。
十津川村を南北に縦貫する幹線の国道168号から、いわゆる酷道的な国道425号を東へ6km遡ったところに、芦廼瀬川沿い最奥集落であるこの小川がある。
国道沿いには数軒しかないので、意識しなければ集落と思われないかもしれない。
国道はここから谷底を離れ、大峰山脈越えの長い登路に入っていくが、そのまま川沿いを行く道が分岐する。
写真は分岐地点で、右が国道(小さすぎる青看が“酷道”感を演出している)、左が川沿いの道だ。
私はこの川沿いの道を自転車で進もうとしている。
分岐には十津川村が設置した案内板があるが、3つある行き先は全て右を指しており、地形図にも滝の記号と一緒に名前がある七泰の滝の案内はない。
村が薦める観光地ではないようだ。当然、“謎の穴”なんて文字があるはずもなかった。
直進すると、すぐに険しい峡谷風景が再開した。
このような風景は、国道168号から小川集落までの国道425号の沿道と変わらない。
道幅もほぼ変わらぬ1車線で、舗装はされている。外見だけなら国道の続きを走っているようである。ガードレールなどの防護施設が少なくなった違いはあるが。
眼下の谷はとても深く、青と白の水面が、50mほど下に時折見えた。
道自体は緩やかな上り坂で、ほぼ等高線に沿って上流を目指す。
この道自体の素性を示すようなアイテムは見当たらず、村道なのか林道なのか、或いはそれ以外かは分からない。通行制限はない。
6:25 《現在地》
出発10分後、分岐から750m地点まで何事もなく到達中。
ここは小さな尾根を回り込む地点で、待避所なのか広場なのか、道が胃袋のように広くなっている。
また、芦廼瀬川の谷幅がぐっと狭まってきて、近づいてきた正面の目線の高さに細長い支谷の滝が懸かっていた。無名の滝だ。
ここの川側の路傍に、コミカルというかサイケデリックな印象的なイラストが添えられた看板が立っていた。
内容はよく見る、上流にダムがあるので急な増水に注意しろというもので、電源開発(株)十津川電力所の名前があった。
上記のカーブを越えるとすぐ、もの凄く切り立った一枚岩の下を横断する場面が現われた。
地形図もこの崖を描いているが、道の表記もここで軽車道から徒歩道へ弱体化する。
だが実際は徒歩道ではなく、舗装路がちゃんと取水ダムまで続いていた。
路上の崖は豪快なオーバーハングだ。
素掘りのままの崖壁と相まって、道の豪快さを際立たせている。
発電所用の取水ダムを終点とする道だけに、生活の道とは印象が違う、機械力による暴力を前面に押し出した地形改変への強い意思を感じた。
モニタ越しに見た“あの景色”は、この岩場の印象と、そっくり繋がっていた。
印象だけでなく、物理的にも間近に来ている。
もうじき現われるぞ、驚愕の穴が!
6:28 《現在地》
“驚愕”の前段階的光景は、既に現われている。
川が近い!
少し前まで芦廼瀬川の河床は50mほども下をチロチロしていたのだが、道は凄まじいペースで詰め寄られていて、既に眼下15mの高さに近づいている。
探さないと水が見えないくらい大きな岩が敷き詰められた河床は、いわゆるゴーロと呼ばれる河川形態だ。
このままの勾配だと道はすぐに追い詰められてしまうだろうが、終点の取水ダムも間近であった。
見えた! 取水ダム施設の一部が!
流れ全体が滝ではないかと思える壮大なゴーロの“岩波”に、道は最後の最後で突き上げられていた。
ここまでの緩やかな勾配が間違いだったと気付いたかのように、急に急坂となって、終点間際のやけくそ気味にダムの高さへ達していた。
直前まで道があった高さを、そのすぐ先で河床が奪っていた。
地図上、ここは滝ではなく、ただの流れだが、路上にいて河床を“見上げる”ようになっているのは、やはり滝ではないのかと天に問いたい。
私は取水ダムに到達。
件の穴の在処である。
もう見えてくるはずだ。
探せ!!! 分かり易いはずだぞ!
見覚えある巨岩!
なんと言う大きさだろう!
私が去年まで住んでいた東京都日野市平山●-●-3にある建物よりもでかいぞ!
そして、この大岩を眺めた者が、漏れなく見つけ出せる位置に、穴発見!
これが驚愕すべき“謎の穴”
ではない。
初見だが、お前の正体は私にとって、ほぼ謎ではない。
お前は、取水ダムを建設する際に、一時的に川の水を通すために掘られた、仮排水トンネルだろう?
大型のダムならば当然だが、砂防ダムクラスでも結構目にする、全く珍しくない穴だお前は。
探してきたのはお前じゃない。
あった。
謎の穴あった。
これが、対岸に見えた穴のように私に冷たくスルーされない理由は、すぐに皆さんにも分かる。
謎の穴が空いている場所は、
普通の地山ではない。
それは、凄まじく巨大ではあるが、
河原に転がっている一つの岩に過ぎない。
このことが最大の驚異点であり、私を心底驚愕させたのだ。
なお、道路で近づこうとすると、ちょうど穴は写真のように見えなくなってしまう。
それは矢印の位置にあるのだが、気付かず通り過ぎる人もいるだろう。
いま、穴の空いた大岩の横を通過中。
道が取り付いている地山と大岩は、一続きではないように見える。
大岩は、あくまでも河原に転がっている有象無象の岩石の一つであるように見える。
そしてその奇抜な立地と相まって……
いや、それ以上に私を驚愕させたことは――
穴が人工の隧道にしか見えないことだ。
……いやこれはマジで人工物でしょ。
“神の穴”は天然物だったけど、今度はマジで…。
これは事件ですぞ! 河原に転がっている大岩に、林鉄っぽい隧道が!