ミニレポ第248回 千手山公園の旧隧道 前編

所在地 栃木県鹿沼市
探索日 2019.12.05
公開日 2019.12.19

珍しい? 特殊鉄道の旧線トンネル


いつも楽しみに「山行が」拝見しています。
早速ですが、栃木県鹿沼市の「千手山公園」というところで、“鉄道の廃トンネル”と思われる物件を見つけたので報告します。
有名物件だったら失礼しました!
読者様からの情報提供メールより

先日、当サイト読者のShingo Hakamata氏から、このような情報提供が寄せられた。

千手山公園で、“鉄道の廃トンネル”を見つけた?

千手山公園(せんじゅさんこうえん)は、右図の通り、栃木県鹿沼市の中心部にある公園で、同じ市内を東武日光線やJR日光線といった鉄道が通っているが、少し離れているし、附近で路線の付け替えが行われたという話も聞いたことがない。

だが、この公園には確かに“鉄道の廃トンネル”が存在している。
私も現地で確かめてきた。





2019/12/5 15:53

千手山公園へは初めて来たが、正門から園内を見上た第一印象は、“お山の遊園地”。
こんなに小さな観覧車を見た記憶は当分なかったが、廃墟でないことは、動いているんだから間違いない。
(あとで知ったが、この日、観覧車は業者によるメンテナンス作業中だった)
ちなみに入園料なんてものは必要なく、遊具に乗る人だけが料金を払うシステムである。

昔、それなりの規模以上の地方都市には、こんな感じのローカル遊園地があったと思う。
多くの市民に愛されるも、交通機関の発達によって全国的規模の遊園地に客を奪われ、
住人に惜しまれながらも閉園するよりなかった、ローカル遊園地の典型的と思える景色が、
人口9万6千人、さつきと園芸土で知られる鹿沼市の中心地に、いまなお息づいていた。




遊園地、鉄道。

これらのワードの組み合わせから、皆さん察せられたと思うが、ここにある“鉄道の廃トンネル”というのは、公園の遊具として存在しているいわゆる遊園鉄道に関するものである。

だが、勘違いをしてはいけないのは、この遊園鉄道……その名も、“おとぎ電車”というのだが、それ自体は健在なのである。

右図は公園の入口に掲げられているイラストマップで、おおよそ2万7千平方メートル(東京ドーム0.6個分)という微妙な広さに、300本のさくらと1000本のツツジを持つ園内を、ギュと盛りだくさんに描いてあるが、いわゆる遊園地的な遊具は3つあることになっている。
それが、入口に立った時点で見えていた小さな観覧車と、そして、おとぎ電車、さらに、ジェットスター(回転式の遊具で“ジェットコースター”ではない)である。

おとぎ電車はちゃんと健在で、園内を大きく8の字でぐるり周回するようなレイアウトが描かれていた。
途中にトンネルも描かれているが、廃トンネルらしいものは見当たらなかった。

とりあえず、近づいてみることにしよう。



園内に入るとひときわ目立つ山小屋風の三角屋根が管理棟で、その隣には、おとぎ電車をはじめとする園内にある乗りもののチケット(乗りもの券)を販売する売店があるが、どちらも開いていなかった。
私が訪れたのは平日の午後4時前だったが、「ご案内」と書かれた看板によると、冬期間は午後3時半に営業を終了しているらしい。
とはいえ、こうして園内をぶらつくことは出来るので、探索するには営業終了後だったのはラッキーだったろう。

ちなみに、園内の3種類の乗りものは全て1回50円で利用することが出来る。
この価格設定も、数十年間も時が止まっているような感じで、懐かしい気分になった。




ここにあるポスターによれば、おとぎ電車の乗り場は「お千手山(おせんじゅさん)駅」というらしい。

先ほど見た案内板では、駅は一つだけしかないはずなので、わざわざ駅名を付けて区別する必要はなさそうだが、そこはやはり雰囲気作りの一環だろう。
現に私も、駅名があると知って、ちょっとテンションが上がった。




案内の矢印に従って、さらに階段を上る。

どうやら、千手山公園のおとぎ電車は、この山にとってはかなり上の方、おおよそ7合目くらいの高さにあるようだ。
まあ、この山の麓から見た落差自体がせいぜい60mくらいでしかないうえに、ここから見えない山の北側は、山頂部も含めて新興住宅地に呑み込まれてもいるようだった。
それでも、公園内の風致は良好に保たれていてる。

階段を上りきると――




せんろ発見〜!

これが、千手山公園おとぎ電車線だ。

目の前に飛び込んで来たのは、柵の中に敷かれたせんろ。
8の字形のレイアウトだが、いま見えているのはその西側に相当する部分だ。

唯一の乗り場(お千手山駅)は、せんろの向こうに見えている青い屋根の建物だが、
入口は内側だけに面しているので、乗車のためには、せんろを渡らなければならない。

営業時間外なので乗ることは出来ないが、私が探しに来た“廃トンネル”はまだ見つかっていない。
まずはレイアウト全体に確かめることにする。その第一歩として、駅へ向かうことにした。




「駅」へ行くために「踏切」を渡る。
警報器はあるが、遮断棒はない踏切だ。
なぜか道路上にコーンが置かれていたが、立入禁止などの表示はなかった。

ここではじめて敷かれているレールを間近に見たが、小さくとも本物チックなレールだった。
このような遊園鉄道や庭園鉄道の類では、多少加工した鉄板や鉄棒、L字鋼などをレールの代わりに使っていることもあるが、ここにあるのは細くともちゃんとしたレールだった。
そのことでまた、私の中のポイントがアップした。

踏切を渡ると道は二手に分かれていて、左へ行くと青い屋根の「駅」へ、右へ行くと観覧車方面へ通じている。



踏切内に立って右を見ると、8の字レイアウトの特徴的な構造物である、せんろの平面交差を20mほど先に見ることが出来た。
普通鉄道では滅多に見られない平面交差だけに、レールの交差部分がどのように処理されているか興味深かったが、これについては後ほど別のアングルから検証するので、いまはスルーだ。

平面交差の奥には、ボックスカルバート状のトンネルが見えた。
観覧車方面へ通じる道路と交差している構造物で、案内図では【山岳トンネルのように表現】されていたが、実態は、土被りを全く持たない、四角い断面の地下道に過ぎなかった。
残念ながら、減点1だな。

なお、トンネルは営業時間外に車両を留置しておく車庫としても使われているようで、悪戯防止のためか、出入口両側に施錠された扉が閉ざされていた。
車両は蒸気機関車を模したバッテリーカーである。



これが、おとぎ電車線の唯一の駅、「お千手山駅」の全容だ。

プラットホーム全体が屋根の下にあり、ちゃんと駅の全体がせんろよりも高く作られているのが、本物チックだ。
ただ、ここには「のりば」という案内表示しかなく、駅名板など、せっかくの駅名が分かるものがないのが残念だ。
改札的なものもない。




営業時間外も、駅構内へ自由に立ち入ることが出来る。
駅寝も可能だろうが、夜風を防ぐ手立てはない。
市街地よりも高い場所にあるので、冷えそうだ。

この駅の雰囲気、なんかいい。
プラットホームがあるだけで、駅っぽさが段違いだ。野天で乗せられるのとはわけが違う。



もっとも、ホームと言っても、その高さは本当に可愛らしい。
階段の段差程度であるから、大人は転落事故を心配する必要はなさそうだ。呑んだ帰りとかに便利そうである。

営業時間外とはいえ行儀の良い行動ではないが、せんろに降りたついでに、軌間を測定させてもらった。
ただ、うっかりスケールを忘れてきてしまったので、歩幅での簡易計測である。

軌間の測定結果は、おおよそ40cmとなった。
おそらくこのせんろの正確な軌間は、世界最小の実用軌間とされる15inch(インチ)/381mmだと思う。かの有名な細田軽便鉄道と同じ軌間である。
また、使われているレールは、これもおそらく日本工業規格〔JIS〕に準ずる最小のレールである6kg軽レールだと思われる。これも細田…略。

加えて、枕木、バラスト、レールの固定方法なども、本物の鉄道を相当忠実に再現しているように思われ、私の中のポイントがうなぎ登りだ。





!!!

あそこに見えるのは?!





廃トンネル、発見!!!


オイオイ……

なんか…、思っていたものより……




ぜんぜん本物っぽい!!

現在使われている方の【トンネル】よりも、遙かに本物チックじゃないか!

使われている材質とか、構造が、本物の山岳トンネルと変わらないように見えるし、
アーチ部分の模様はおくとしても、上部の玉石練り積みの部分なんて、特に本物っぽいぞ!
…いや、本物の土留めだろこれ。 土被りゼロじゃないだろこのトンネル! 

このトンネルの本来の外観の本物っぽさもさることながら、廃トンネルとしての要素は、
さらに真に迫った感じになっていた。封鎖のされ方や、苔生した様子なんかは、本物と何ら変わるところがない。
ほんもの……鹿沼の子どもたちは、こんな本物を見て育つのか! オブローダーの英才教育地は鹿沼だった。




トンネルは、“現在線”の腹付け線のような位置に存在している。

普通の鉄道でもよく見る新旧線の位置関係だが、普通、新旧はこれと逆だ。

新線にトンネルが建設され、険しい旧線が廃止されるのが通常パターン。
だがここは反対に、旧線の大半を占めるほどの長大トンネル(全長おおよそ1000cm)が廃止されている。

それはさておき、この手の遊園鉄道が施設の廃止と共に廃止となるのは珍しくないだろうが、
このように路線の一部だけが廃止され、しかもその遺構が残されているのは、どのくらいレアなんだろうな。

少なくとも、軌間381mmなんていう超狭軌な鉄道の廃トンネルを見るのは、人生初だ!(笑)



おおお!

反対側の坑口が、踏み込めそうだ!!



※求む!情報!
このおとぎ電車線のトンネルが使われていた時期や、廃止の経緯など、何でも構いません。
皆様がご存知の情報がありましたら、教えて下さい!

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