令和4(2022)年5月に当サイト掲示板へ未婚の父氏が投稿された情報をもとに、このミニ探索を行った。
場所は、千葉県白井市(しろいし)の市役所前にある、その名も「市役所入口交差点」である。
以前探索した未成ラインプウェイの近隣で、同じ千葉ニュータウンの一角だ。
掲載した地理院地図の通り、この市役所入口交差点は、3本の県道が集まる複雑な形状をしているが、その「現在地」の近くに、地図に描かれていない“変なループ”があるという。
さっそく見ていただこう。
2024/3/26 14:35
先ほどの地図の「現在地」の位置から、市役所入口交差点方向を見ている。
複雑な交差点だと書いたが、そのことが青看からも分かると思う。
複雑な内容を記すためか、青看自体も道幅と比べてずいぶん大きい印象だ。
いまいる道が県道59号だが、この県道をそのまま進みたい場合は、交差点をいったん右折してからすぐに左折するという、2段階の運転操作が必要だ。
とはいえ、そのこと自体は、この青看でちゃんと把握さえしていれば難しい訳ではない。
この交差点に集まる他の2本の県道についても、青看の内容通りに進行可能だ。
問題の“変なループ”はこの青看に描かれていないが、もし無理矢理描くとしたら、次の図のようになる。
こんな変なものを馬鹿正直に描かなかったのは、青看としては間違いなく正しい判断である。
実際に今から、この“変なループ”へ迷い込んでみたいと思う。
安心してほしい。わざわざ行こうとしなければ、迷い込むことはない。
交差点方向へ少し進んで、青看の直下まで来ると、県道59号は右へS字カーブを描いている。
交差点はS字を終えて再び直線となったところに待ち受けている。距離にして170mほど先である。
私が余計な書き足しをした青看を思い出してほしいが、変なループへ行くには、このS字カーブへ入ってはいけない。
入らずに、頑張って直進してみよう。
ちょっとだけ直進とは違った動きになってしまうが、このようにS字カーブの始まりの辺りから直進方向に伸びる道がある。
これが“変なループ”へ通じる道だ。
間違って入るような道ではないと思うが、わざわざ「この先行き止まり」の案内板が設置されている。
一緒に掲載されている矢印は、Uターンしなさいという意味か? それとも? ……意味深だ(笑)。
なお、オブローダー的に“うずうず”するので書いてしまうが、この直進していく道の由来は県道59号の旧道である。
交差点の改良によって行く先を失ってしまった旧県道が、今回の道の正体だ。
それ自体は全く珍しいものではない。
旧県道に入った。
「この先行き止まり」の看板がもう一度現われた。
路面は打ち替えられていると思うが、車道部分の幅は現道より狭く、いかにも一昔前の下総台地に沢山あった2車線ギリギリ県道の趣がある。
路傍に目を向けると、右には砂利敷きの駐車場があり、その向こうに現道のS字カーブがある。この旧道からも一応出入りが出来るが、出入口の轍は薄かった。
一方、左側には食堂があり、県道59号からこの食堂の駐車場に出入りすることが、旧県道が封鎖されず維持されている分かりやすい理由だと思う。
……あと、探索者の個人的事情に関わる話で恐縮だが、
雨が凄いよ。
当然のようにいつもの自転車スタイルでの探索だが、首からデカい一眼レフカメラを提げて土砂降り道路を撮ってるのは、住人からどう見えてるんだろうね。以前同じことをしていてパトカーに職質を受けたことは1回2回ではないので、今回も嫌な予感がする。できるだけ早く終えようね。
きっ きたぁ。
旧道の最後は、交差点にぶつかって行き止まりになる代わりに、小さな転回路になっていた。
こうして言葉にしてしまうと違和感がないし、道路の行き止まりの処理としてはむしろ妥当に感じるかもしれないが、我々の身の回りにある道路の行き止まりの景色をパッと思い出してみてほしい。大抵は転回路なんて用意周到なものはないと思うぞ。1車線の道路はいうに及ばず、2車線や4車線であってもそうだ。
駅前などのロータリーとか、あるいは近年増殖している環状交差点なども転回路といえば転回路だが、本当にただ道路の終点に用意されている転回路というのは、“激レア”とまではいわないが、ありふれてるわけではない、ガチャなら「R+」くらいの道路風景だと思う。
いいですね。 好きです。
次は実際の走行風景をご覧いただこう。(↓)
実演者は、珍しく私だ。(他の車を待ちたかったが、来る気配がなかった…)
2車線の道路幅にほぼほぼ収まっている、過去に見た憶えがないくらい小さな転回路だった。
14:39 《現在地》
旧県道の末端にある極小の転回路その全景。
特に通行規制はされていないが、大型車などは曲がりきれない車もあると思う。
進入側の車線がカラー舗装されているのは、減速を促すためだろう。
転回路単体でも愉快な眺めだが、すぐ背後に4車線の道路を含む巨大な交差点があるのが、余計に面白い。
忙しく変わる信号を合図に感情のないストップ&ゴーが延々と繰返されている巨大交差点。そこ喧騒からわずか数メートル、歩道ひとつ分だけの間隔を空けて、今日はまだ私しか使っていなさそうな転回路があるのだ。
しかも、想像以上の用意周到さを誇っているのか、妙にしたり顔である。(←それはお前の印象だろw)
転回路の中心で棒立ちになっているバカ者がいた。
なお、転回路は車道部分だけにあり、旧道に附属する歩道はそのまま交差点に通じている。
歩道経由で進入した、市役所入口交差点。この喧騒、忙しさ、まさに道路の晴れ舞台。
(チェンジ後の画像) ほぼ同じ位置から右を見る。
同じ材料で作られているとは思えないくらい閑散とした路面が広がっていた。
(転回路を走る車のヘッドライトが交差点上のドライバーに道路位置を誤認させないためだと思うが、転回路を隠すように黒いフェンスが設置されているのがまた、世間体を気にして転回路を隠しているみたいな変な感じに…笑)
巨大交差点に役目を奪われた哀れな旧道の片割れが、交差点の反対側にも見えていた。
向こう側のそれは、隣接する病院の敷地内通路のような姿で、歩行者専用道路と化していた。
あくまでも車道として生き続けたいと願うのならば、この転回路の方が恵まれた余生かも。 ……道の気持ちは分からんけどね。
以上、白井市役所入口交差点に隣接して存在する“変なループ”より、ヨッキれんがお伝えしました。
ちょっと窮屈そうではあるけど、なかなか“かわいい末路”でしたね。
@ 令和元(2019)年 | ![]() |
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A 平成20(2008)年 | |
B 平成13(2001)年 | |
C 平成8(1996)年 | |
D 平成元(1989)年 | |
E 昭和55(1980)年 | |
F 昭和50(1975)年 | |
G 昭和41(1966)年 |
ズラズラズラズラーーッ! と一挙に歴代8枚の航空写真で交差点の変遷を見てみよう。
@令和元(2019)年版、ほぼ探索時の状況と変わらない。転回路もはっきり見える。路上に車は見当らないが。
A平成20(2008)年版、転回路がまだ県道として真っ当に活躍していた最末期。S字カーブの新道がほぼ完成しているが、解放前のようだ。交差点南西側の病院はまだない。
B平成13(2001)年版、白井町が市制施行して白井市になった。交差点の状況はAと変わらない。S字カーブの新道が作られ始めている。だいぶ時間を掛けて開通まで漕ぎ着けていた事が分かる。何か難航する理由があったのか。もしあたとして、転回路と関係があるのか。残念ながら、そのへんの込み入った事情はしらない。
C平成8(1996)年版、交差点から南へ通じる県道192号白井停車場線の4車線道路が建設中だ。この頃の市役所入口交差点は、2車線の県道59号と4車線の県道189号が斜めに交差するだけのシンプルな交差点だった。
D平成元(1989)年版、交差点の様子はDとあまり変わらないが、周辺の緑がまだ多い。白井町役場の新庁舎が当地へ移転完成したのもこの頃だ。
E昭和55(1980)年版、交差点を東西に走る県道189号千葉ニュータウン北環状線が2車線暫定供用中である。この道路は千葉ニュータウン計画の三大幹線街路の一つとして、昭和54(1979)年の街開きと同時に供用された(ただし現在も一部未開通区間あり)。交差点の南東角にある大きな建物は電電公社のもの(現NTT)。
F昭和50(1975)年版、交差点がまだない!
G昭和40(1965)年版、県道59号市川印西線、旧名「木下(きおろし)街道」が下総台地を貫いている。古くは利根川水運と江戸を結ぶ重要な交易路として、あるいは鹿島詣での参詣路として、はたまた銚子沖から鮮魚を送る“なまみち”として、大都会の豊かさを支える大幹線だった。
やがて“変なループ”と呼ばれることになるとは思いもしなかったろう、おおよそ60年前の原色風景である。
最後に、白井市が公開している「白井市道路線網図」を確認したところ、今回探索した旧県道の部分が市道に認定されていることが分かった。
路線の種類は、1級市道、2級市道、その他市道の区分がある中の「その他市道」、路線名は白井市道04-162号線というようだ。
ちなみに、図示された市道の線形に、末端の転回路は反映されていない。
これは、転回路のカーブに沿って道路の中心線が指定されているわけではないからだろう。あくまでも道路区域内の区画によって作られた転回路なのだと思う。
これも掲示板からの受け売りだが、都市計画法施行規則の第24条第5号で、「道路は、袋路状でないこと。ただし、当該道路の延長若しくは当該道路と他の道路との接続が予定されている場合又は転回広場及び避難通路が設けられている場合等避難上及び車両の通行上支障がない場合は、この限りでない」
と定められているそうだ。
いくつかの例外(その道を延長する計画があるとか、車両の通行上支障がない場合とか)を除けば、都市計画区域内の道路は“袋路状道路”(≒ブツ切りで終わる道路)であってはならないのだ。
この場所が全国に範を示すべき大規模ニュータウンの一角ということも、旧県道の行き止まりに転回路が“ちゃんと作られた”理由なのかもしれないね。