道路レポート 青森県道256号青森十和田湖自転車道線(十和田市区間) 第4回

公開日 2015.12.04
探索日 2014.11.12
所在地 青森県十和田市

狂気の非常停止施設、再び


笑激の“小腸区間”をどうやらこうやら抜け出すと、相も変わらずあって無きの如き緩やか勾配のサイクリングロードは、ゆるゆると小刻みにカーブしながら北東の方向へ走った。

まるでそれが約束事であるかのように、全く誰とも出会わない。
この道は決して封鎖されている訳でも、通行止めという訳でも無いのにである。
それに、どこまでも続く路面には落ち葉ばかりが遊んでいて、歴戦を伝えるタイヤ痕はもちろん、ゴミのひとつも落ちていない。
いくら利用者のマナーが良くなったとはいえ、子供達のフィールドでもあるサイクリングロードだ。
ここまでゴミのひとつ落ちていないというのは、不自然に思われた。

全てを総合すると、この道は開通したまま、多くの人に見逃されてきたという事実だけが、私に伝わってきた。



2014/11/12 11:18 《現在地》

あまり変化の無い風景を一定の速度で流していくと、突如、高低差のある風景が行く手を阻んだ。そこに待っていたのは、久々の階段だった。

間近に迫った正面のコンクリートブロック上に道の続きを見たとき、有名な童話「アリとキリギリス」(wiki) におけるキリギリスの末路を思い出した。
「いきなりこんな高低差を目の前に突きつけられて、“階段”というサイクリングロード上の悪手を取らざるを得なくなるくらいならば、延々と続いていた緩やかすぎる坂道をあとほんの少し急にするだけで良かったんでは?」  …なんて思う。

とはいえ、この辺りまで来ると私もいよいよ、この道の設計者は「わざと」やっているという事を理解していた。
設計者の脳内にあったのは、自転車に乗って走る部分の勾配は限界まで緩やかにすること、だけだろう。自転車はスピードを出して走ると爽快であるなどという「基本的な事柄」は、全く無視されたとしか思えない。あるいは、わが国のサイクリストは速度を自分では調整できないと、そう見くびられたのだろうか。



だな、おい!

今まであった10の階段は全て同じ緩やかな勾配で作られていたと思うが、この11番目だけは明らかに特異で、その辺の横断歩道橋を思わせる急さがあった。
これまでの階段がどれも緩やかだったから、足弱の子供でも自転車を押して登りやすいように配慮したのだと勝手に納得していたが、11番目で突如裏切るあたり、実はなにも考えていなかったのか(苦笑)。
ちなみに段数はやはり16段で、それが2セット。この段数には拘りがあるのかも知れない。

なお、この11番目の階段の上には珍しく、これまでの階段ではほぼ全てに備えられていた「U字パイプの車止め」が無かった。
撤去されたとかでは無く、設置された形跡も無かった。

その理由は、すぐに分かったが…(↓)




11番目の階段を登りきって15mほど平坦路を進むと、舌の根も乾かぬうちに12番目の階段が現れたのであった。
今度の階段は16×2の構成で、前半の16段は緩く、後半の16段は急であった。
もう急さについては、何でもありと言うことか。

そしてこの12番目の階段の上には、見馴れたU字パイプの車止めがしっかりと見えており、なるほどと納得した。
つまり、11番目の階段の上に車止めが無かったのは、「2つの階段の間には15mくらいしか平坦路が無いんだから、自転車に跨がったりしないよね」という、ある種の信任があったと見るべきだろう。

…認識が甘すぎるぞ…!
私なら間違いなくこの区間でも乗る(現に乗った)し、もし下りだったら、そのまま11番目の階段の中央スロープを乗車して下ったことだろう。
サイクリストとは、少しでも多くの乗れる場所を探し求めているものなのだ!



また出た!! 「非常停止施設」。

前があったので、もしやとは思っていたが、本当にまたありやがった。

シチュエーションは前とそっくりである。
12番目の階段の上が拡幅されており、その道の中央に四角い“砂場”がある。
もっとも、前もそうだったように、砂場に砂は全くない。
長年降り積もった落ち葉が土を育て、土が雑草を育てていた。
悲しい悲しい贋物花壇である。




← 正気か?!

私はもうこの道の事では驚かないだろうと思っていたのに、また驚かされた。
そして今の叫びが出た。
この景色を見て、正気の沙汰では無いと思ったからだ。

もうこの写真だけで気付いた人も多いだろうが、自転車に乗らない方のために説明しよう。
12番目の階段の上に「非常停止施設」があったことは、既に伝えた。
そしてそこから30mほど平坦路を進むと、今度は13番目の階段が待ち受けていたのだが、それを見た瞬間に私は上記の声「正気か?!」を上げてしまったのである。

この道の設計者の思惑が、全く理解できないのだ。
これまで再三現れたU字パイプの車止めからして、階段は自転車を降りて通行する設計であるはずだ。
にもかかわらず、その階段を降りた所に「非常停止施設」の看板があって、それから30m平坦路を走った先に「非常停止施設」がある。
これはどういうことなのか。
設計者は、いったいどういう状況でこの非常停止施設が活用されると想定したのだろうか。
「13番目の階段の途中で無理矢理に乗車して下っている最中、ブレーキが効かなくなった人」の為としか考えられないのだが、それでも30mの平坦路で普通に止まるだろ…。グニャー



13番目の階段の下から見下ろす、12、11番目の階段を含む

いかにも無理矢理臭い九十九折り。

明治車道みたいな朗らかさの中で、要所では突如現代土木の牙を剥くあたり、地味にうざがられてそう(←自然から)。



13番目の階段も16×2の構成で、どちらも急階段だった。
そしてこれを登りきったところにも、ちゃんとU字パイプの車止めが鎮座していて、この階段の下にある「非常停止施設」の存在意義を限界まで痩せ細らせていた。

プッ アハハハハ

駄目だ。油断すると吹く。ダメwww

……ともかく今回の一連の階段群で、再び“階段県道”としての記録樹立に向けて大いに前進出来た意義は大きい。
推計ではあるが、ここで階段の累計段数は356段となった。
あの有名な“階段国道”が352段とされているから、それよりも遙かに距離はかかったが、記録を抜いたのである。
比較対象を知らないので、私の中で単一の都道府県道および国道における階段段数の「暫定日本一」だ(笑)。



さすがにもう、驚いてあげないんだからね!

3度目の「非常停止施設」の跡を冷ややかな目で見つめる私。
表情はぜんぜん冷ややかさを演出できておらず、異様にホクホクしていたのは、ナイショである。

そしてさも当然のように、3度目のそれもまた、何のためにあるのか全く以て理解に窮する立地であった。
長い長い平坦路の先にある非常停止施設。
そもそも、砂場の終わりがU字パイプの車止めだという時点で、緊急事態にある人間の心理的に、自ら突っ込んでいく気にはならなさそうだ。
ついそれを避けて、左右の広い隙間から階段へファイナル・ダイブを決行しそうだ。



11:25 《現在地》

久々の階段連続地帯を終え、「ふぅ」と満足げなため息を吐き出すかのように現れた、3度目の看板&休憩所である。
ちなみに、満足げだと思ったのは私が想像する設計者と、それを心から楽しんでいる私だけで、普通に八甲田山を目指した人はウンザリ顔になっていても不思議は無い。

そのくらい、進んでねぇッ!!

もうかれこれ7.5kmくらいは進んだ気分だが、実際に進んだのは4.0kmで、7.5kmというのは残距離の方だ。
相変わらず疲労は平坦地ばかり4km走ったのと大差ない程度だが…。

…とはいえ、一応は風景的にも進展は感じられる。
気付けば頭上の空は高原的な広がりを感じさせつつあるし、疎林と笹藪の雰囲気も何となくそれっぽい。
全体の上ではまだ半分も来ていないらしいが、高原地帯の始まりは遠くなさそうだ



と思ったのは、勘違いでした。

ここからまた高原までが、ダラダラ長げーのなんの…。



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高原へのロング・ロング・ウェイ


11:28 《現在地》

3箇所目の休憩所を境に階段はなりを潜め、極めて緩やかな道が再開。
そのまま300mほど進むと、なんと、トンネル!?

…というか、これは立体交差ですな。
上にあるのは以前に一度平面交差した市道である。
簡単な作りのボックスカルバートであり、贅沢とは言わないであげよう。
ちなみに、インターチェンジはありません。




無名の地下道。
幅3m、高さも3m弱。長さは8mくらいか。
かなり正方形に近い断面を持っていて、短いくせに圧迫感がある。
また、この部分の路面は、どこにも増して綺麗だった。
内壁も同様であって、落書きなどのイタズラも皆無。まるで未成道だな。
実際、1年に3人くらいしか通ってなかったりしてな……(案外マジで)。




インターチェンジは無いのだが、無理矢理近くの斜面を歩いて登って、市道に出てみた。

相変わらず市道は、モーターパワーを期待しての激しい山登りに励んでいた。
今の私がこの道を自転車で走ったら、普段以上に「辛い」と感じてしまいそうだ。過剰な甘やかしは、サイクリストをダメにするぜ…。

ちなみに、この前に市道と自転車道が交差した地点からここまで、稼いだ高度は共に90mだが、これに要した平面上の長さは、市道が約800mで自転車道が2500mと、おおよそ3倍の差がある。
また、自転車道は90mの高低差のうちおおよそ30mを階段でクリアしたことを考えると、如何に他の部分が緩やか過ぎるかが分かるだろう。
2.4kmの距離で60mの高低差と仮定すると、平均勾配は2.5%=25‰と、まるで鉄道の幹線級だ(笑)。
廃線跡をサイクリングロードにする例は多いが、そんなものを全く新規に作りやがった。



そこそこ車通りがある市道の3m下に埋まっているのに、簡単な斜面で行き来できるのに、
県道はこの有り様ですよ。

自然の同化作用によって、“現役県道”が静かに略奪されつつあったが、それに抗う人もないようだ。



市道の西側に入り込んだ自転車道は、再び一人きりになって我が道を行く。

この辺りに家族連れサイクリングをエキストラでも良いので配置したら、そのまま観光パンフに使えそうだ。
とりあえずキモチイイといえばキモチイクなってきた。相変わらず緩やか過ぎるので、下りはもどかしいだろうが。



私が少しだけ見直したのは、ここに至りようやく眺望が十和田八甲田の誇らしいレベルになってきたからだ。
おそらくアスピーテの特徴であろう伸びやかな十和田の山容が、今まで邪魔をしていた手前の丘陵の上に見えるようになった。
風景佳。である。



さらに高原へ近付いた証しなのか、林相の変化が起きた。
広葉樹林からカラマツ林への変化。
おそらくこの純林は植林によるものだと思うが、路上に積もった落ち葉も、まるっきり北国らしいものになった。
相変わらず不人気ではあるようだが、全線がこんな風景の中をこんな風に走れるように作られていたら、だいぶ違った未来があった気もする。


11:38 《現在地》

そして、4度目の休憩所。
終点から5.1km地点とあり、前回の休憩所からは1.1km来たことになる。
この間は、階段も変なものも無く、おおむね理想的なサイクリング・ロードであった。
ここまで緩みまくっていた私の表情も、ようやく道を素直に追い求める普段の流れを思い出し、それなりの締まりを見せつつあったことだろう。



それでも勾配の緩やかを貫くために迂回する事だけは徹底しており、もうすぐそこに高原地帯の縁と思える明るい空が感じ取れるのに、“小腸の道”を思い出させる九十九折りが再開したのは、もどかしかった。

それと、どういう訳か、おそらくカラマツ林に入った辺りからだろうか、路面に四輪車が入っている形跡があった。
管理車両なのかもしれないと思ったが、その理由は、これから数分後、長かった高原への坂道がひとまずの終わりを迎えるところで明らかとなった。

車窓が薄く引き延ばされていたような、この道の風景に、恐らく一度きりの、

最大の変化の場面が訪れる。





11:41 《現在地》

八甲田の高原に“登”達!

この瞬間の爽快な解放感は、なるほど、のろのろじわじわと登らされた事に対するカタルシスとして相応なものがあった。
高原は一面の牧場であり、それゆえに地形の変化と風景の変化が決定的にマッチしていた。
正面に聳える北八甲田の核心部を占める山々も、凛として風景に軸を与えていた。
谷底の焼山交差点から上り始めてから、おおよそ100分の後に辿りついた別天地。
こればかりは、単に国道を走っていたのでは味わえない境地であった。

すこぶる、良い気分だ。



良い気分に水を差すほどでは無いが、ここでも道路管理上の瑕疵であるかも知れない事例を発見してしまうのは、本路線が成せる天然の技か。

なんとこの交差点(相手は市道で一般車も通る)の自転車道側には、なんら自転車以外の進入禁止を示す標識や車止めが設置されていないのである。

ここまでをふりかえっても、最後の階段以来車止めはなかったし、自転車専用道路を示す標識も見ていないが、常識的に考えて、この区間の全体がそうであると考えるのが普通だろう。
一切、分岐も無かったのだし。

か、階段にクルマを誘い込む、狂気のワナだったのか…?

そして次回は残りの区間を全て一気に紹介してしまうつもりでいる(追記;結局あと2回になりました)が、平和ではない。
それだけは、言っておく。