道路レポート 奈良県道187号福住上三橋線 不通区間 第2回

所在地 奈良県奈良市〜天理市
探索日 2017.12.03
公開日 2019.11.27

ちょっと寄り道からの、本番へ!


2017/12/3 8:20 《現在地》

前回最後に辿り着いた十字路を、直進するのが県道の未成バイパス、右折するのが旧来の県道なのだが、左折すると、県道とは全く関係ないものの、100mほどで、この場所へ来ることが出来る。

ここは、名阪国道の真横だ。
それも、難所であるΩカーブ附近。

普段こんな近くで自専道を生身のままに体験することがないため、高速で行き交う車列には、大袈裟でなく圧倒される迫力を感じた。
このような道路の熱を間近に体感できる場所を見つけた、その嬉しさと興奮を伝えたいがための、寄り道レポートである。

前置きはこのくらいで、私を心底から滾らせた名阪の風景を、動画でご覧いただこう。




この映像、私の脳内には草競馬のBGMが再生された。

3車線ある上り坂を、並列、或いは抜きつ抜かれつ、我先に駆け来る、車、クルマ、くるまの流れ!

私が行こうとしている廃の狭路とは対極にある、圧倒的な生きた道の迫力が、渦巻いていた。

これが道だ!



特に立入りを制限されていない側道だが、ここは当サイト読者の一部の層には、
特に強い価値が感じられる空間ではないかと思う。

もし、森林浴や海水浴のように、“現代道路浴”という楽しみ方があるとしたら、
きっとここは優れた舞台となるだろう。興味のある人は、訪れてみて欲しい。




9:35 《現在地》

たっぷりと熱にあてられた私だが、ここへ来た本来の目的を思い出し、8:38には再び十字路へ戻ってきた。

それから、今度はここから左へ曲がって、県道未成バイパスの終点まで行ってみた。
読者諸兄も興味あるところだと思うが、この区間については机上調査の成果が足りず、満足なレポートを書けそうにないので、紹介の機会を改めたい。
未成バイパスを終えて、三度ここへ戻ってきたのは、9:35だった。

最後は、県道187号福住上三橋線の不通区間へと進む。
この写真では、目の前の十字路の正面にある道がそれで、これにて十字路の四方を制覇することになる。
前回来た県道は右の道なので、それからすると十字路を右折して進むのが県道(バイパスに対する現道)の順路だ。



これがその入口。

特に通行を規制するものはないが、いきなり香ばしい狭さだった。
ここまでも比較的に狭い県道ではあったが、それは1.5車線を基調としたもので、どんなに狭い場所でも幅3mを下回ることはなかった。

それが、ここでいきなりこんなギリギリ軽トラサイズの舗装路になる。
少し前の名阪の6車線道路を見たギャップもあって、余計強烈に感じる。

それに、十字路を右折するのが県道だという案内物が、現地には全くない。
このこともトレースを難しくしているが、地理院地図では直進の未成バイパスとこの道が共に県道の表記になっている。そして、ここが確かに県道であることは、後の机上調査で確認できた。

では、参る。 本番スタート。




入ってすぐに、道幅に負けない巨大な看板が、なぜか道路に背を向けて立っていてびっくりした。だが、近づいて納得。
これは、名阪国道に向かって掲げられた看板だったのだ。
そりゃそうだよ。この県道に看板を出しても仕方がない。

グーグルストリートビューで名阪国道の車窓を見ると、このように(→)。看板の内容を確認することが出来た。

しかし、看板はよく見えるが、その背後に県道があるのは全く分からない。
静止画でこうなのだから、走っている車からだと、まず気付く人はいないんじゃなかろうか。
でも、皆さんは知ってしまったわけだ。この看板の裏に県道ありと。この後の展開と一緒に、記憶してやって欲しい。




名阪側からいくら県道が見えなくても、こちらからは丸見えである。
性能の高いカメラを使えば、ドライバー一人一人の表情まで記録できるスポットだろう。
ここから名阪の流れを観察するのは、いろいろなクルマを見られるし、飽きないのだが、
さっきも側道(写真右端に見える)から堪能したので、先を急ごう。

名阪を特等席から見られるだけが、この県道の魅力じゃないって、証明したい。




県道は、名阪に対して、ちょっと落差がある側道みたいな位置に存在する。
名阪に切り取られた法面の法肩ギリギリを通り抜けていて、とても窮屈だ。
おそらく、名阪の建設によって少なからず旧来の道形とは変化しているはずだが、もし旧道があったとしても、既に名阪の路上に消えてしまっているだろう。

道が狭いだけでなく、全く逃げ場のない地形のため、余計に窮屈に感じられるが、一応ここに待避スペースが用意されていた。
とはいえ、この広さでは、お互いの協力があっても、普通車同士のすれ違いは、かなり困難だろう。
ちなみに、大型車も特に通行規制はないが、まあ当然無理である。

なお、まだ十字路から100mしか来ていない。




9:39 《現在地》

十字路から150m。小さな畑があった。
一見、とても長閑な景色だが……

クルマで来たら、悶絶スポットだ。

舗装の幅自体は、これまでと変わっていないかもしれないが、路肩に余裕がないので、脱輪が許されない。
舗装された部分の両側が平坦な地面なら、少しくらいはみ出しても問題ないが、この状況だと一発アウトになりかねない。
しかも、カーブである。
この先のクルマの操縦では、車輪を舗装から出さない高度な技術が要求される。

私はこんなところを絶対にクルマでは走りたくないが、それでも轍はあった。畑仕事の出入りがあるのだろう。きっと軽トラだ。




うほー!!

振り返って悶絶! 良い景色だ!!

探索開始から3時間、基本的にずっと上り続けてきた印象はあったが、
はじめてその登行が、風景として報われた。

これは、奈良盆地……だな。 初めて見下ろすが、これが古の都の在処……。
この県道の誇れる車窓! とても魅力的!! この道がどんな歴史を紡いできたかは
まだ知らないが、決して歴史の浅い道でないことは、ずっと肌が感じている。




私が好きな名阪が、どんな景色の中にあるかを、外から見たい。
その試みは、今回の探索におけるサブタスクだったが、既に十分な成果を得た。

とにかく、対比の妙がすばらしい。
県道と名阪を、こうして同時に眺める対比が面白い。
奈良盆地と大和高原を結ぶ二つの道の競演だ。
かたや大型タンクローリーが爆走する5車線の国道、かたや自転車1台を止めただけで遮断されてしまうような県道である。

この二つの道が、単純の新旧道であっても面白かっただろうが、おそらくそんなことはなく、名阪は県道の存在など歯牙にもかけず、もっと大きな国家の視座から、ここに設計されたのだろう。
地上と地中と空中を自在に巡る雄大なΩカーブなど、この県道とは別次元の力の入りようだ。
五ヶ谷ICという小さな接点を除けば、県道を隅へ追いやって開通した。

ただ、両者は計画段階では無関係であったとしても、もしも名阪がここに開通しない歴史があったとしたら、県道バイパスはちゃんと開通していた可能性が高かったようにも思う。




小さな畑の脇を抜けると、今度こそ山へ。
一気に登り始める。道が狭いだけでもキツいのに、急坂ぶりも相当来ている。

こんなのが、その辺の畦道だったらまだしも、県道である。
それも、通行止めではないというところに希少性を感じる。
もしここにヘキサの1本でも立ててあったら、人気を得ただろうが、奈良県はそこまで暇ではないらしい。

ちなみに、狭隘区間に入ってからは、県名が入ったデリニエータや用地杭のような、県道を示唆するアイテムも未発見だ。
やっぱりただの畦道じゃねーのかと疑ってしまうような風景が、距離はさておき、凄い密度で続く。




部分的には15%近いと思われる、これまででは随一の急坂。
道幅はいくらか広くなったが、大量の落葉と、山から出た水で、全体に泥濘んでいるトラップ付き。
おまけに、濃い緑の照葉樹が枝葉を低く垂らしていて、視界をだいぶ遮っている。
バイクや自転車で下ってくることを想像すると、簡単に転倒できそう。
真冬は凍結することもあるだろう。

ここで急に登って、転落するとシャレにならない高さになってきたせいか、ガードレールが現われた。
最後の良心なんて言葉を大袈裟に使ってみたくなる展開だ。
まあ、ここに本当の良心があるとしたら、それは少し道幅が広いことだろう。



ガードレールの向こうに、さっきの畑を見下ろすように振り返っている。
こうして一気に高度を上げていく。
名阪も追いかけてはきているが、この小回りだけは真似できまい。

度肝を抜かれた軽トラサイズギリギリの狭さは、こちらから見ても強烈だった。
ここいらで、“いつもの軽トラ”が現われやしないかと期待したが、さすがにここまでは来てくれなかった(笑)。




短い急坂を登り切ると、今度は凄い急カーブ!

悪線形なら、なんでもあるなここ。

曲率半径5mくらいしかなさそうな180度転回の急カーブで、道はこれまでの明るかった眺望面を離れ、鬱蒼とした日陰面へ。

急カーブ故の大きな内輪差で、山側路肩のギリギリに轍が刻まれていた。もうタイヤで法面を削りかねない近さだ。
そんなタイヤ痕がごく新しいことも、見逃せないポイント。案外、毎日のように通行する車両があるのか。



薄暗い森の道になった。

しかし、またしても、路肩が危うい。
廃道じゃないのに、路面を隠す落葉が多すぎて、印象が廃道っぽい。
そのせいで、余計に道幅が狭くなってしまっている。
路面清掃をしてくれないのか、奈良県は。
県道なのに。 封鎖もされていないのに。




景色の変化が早い。明るくなった。
フェンスの向こうには、名阪国道の高い法面。また法肩の狭路だった。

大きな空の下に、この道が登っている山の上が見えた。
奥の大きな鉄塔が見える尾根が高峰山(標高632m)で、この道が越えていくのも、あの峰の一角だ。
稜線が天理市との境で、越えればさほど高低なく県道の起点、福住町に達せる。
とにかく、山を登りきるところまでが、この攻略の最大の関門であろう。
ちなみに現在地の標高は420m前後。



ツタまみれの路肩フェンスの向こうを覗くと……、あれれ?

なんか、思ったよりも名阪との高低差が広がっていない…。
短いとはいえ、ずいぶんな急坂だったと思ったのに、名阪を突き放せていなかった。

これは、まるで小動物と大型獣の歩みの違いだ。
県道がせっせと短い手足を動かして稼いだ高度だが、勾配が全く安定しないせいで、重厚長大な名阪の直線的かつ一定の登り方に、敢えなく追いつかれそうになっている。

ちなみに、ここから見えた巨大な警告看板も、Ωカーブの緊張感を伝えてくれる、私の大好きなアイテムだ。
ここに限らず、エンジンブレーキ使えみたいな看板が昔から大好きだ。道路が利用者に緊迫感を抱かせるアイテムは、ぜんぶ好き。道路も我々の命のために必死になってくれてるんだなって。




9:46 《現在地》

名阪を横断する大きな高架橋が近づいてきた。

県道はこの道と丁字にぶつかり、前回の十字路から約500m続いた、狭隘な一本道が区切られる。

もし、クルマで不用意に入り込んだ人ならば、ここが助かる最後の逃げ道。

ここから先は、私みたいな自転車であっても、無事では、すまなくなる。