道路レポート 国道229号雷電海岸旧道群 カスペトンネル旧道編

所在地 北海道岩内町
探索日 2018.04.26
公開日 2019.10.24

雷電海岸の国道229号旧道群を全て制覇せんとするロング探索、次なるお相手は、カスペトンネルの旧道だ。

親子別と雷電温泉を隔てるカスペノ岬を潜るトンネルだが、なぜかトンネル名からは「ノ」が落ちている。
これらカスペやカスペノといった耳慣れない名の由来は、やはりアイヌ語なのだろうか。江戸時代の古い文献には見られない地名なので、違うかもしれない。
例えば、北日本一帯でカスベと呼ばれている食材の「エイ鰭(ひれ)」に由来する可能性。これを青森県では「カスペ」と呼んでおり、かつてニシンを追って青森県出身の漁師が多く住みついたといわれる岩内地方だけに、無くはない説な気がする。
もとは「カスペノ岬」ではなく「カスペの岬」だったからこそ、トンネル名から「の」が落ちたのではないかと、そんなことを考えてみたのだ。

ずいぶんと地名の話に脱線してしまった。
カスペトンネルは、北海道開発局のサイトによると、全長638m、平成11年度竣工である。
これは、現在雷電海岸で使われている7本のトンネル(鳴神トンネル〜磯谷トンネル)の中で2番目に古い。
前回探索した弁慶トンネルの旧道と比べると、8年ほど早く廃止されたようだが、果たしてその差はいかほどのものか?

とはいえ、この区間もさほど難しい探索にはならないだろう。
だが、この区間が終わってしまえば、後に残るのは……最難関と予想される雷電岬の区間だけである。




カスペトンネル旧道の静と動


2018/4/26 5:58 《現在地》

ここは、弁慶トンネル(1048m、平成19年竣工)の南口直前だ。
探索の流れとしては、前話の前半から続いていて、自転車に跨がった私は、この新しいトンネルを走り抜けようとしていた。

脱出!

(チェンジ後の画像)
弁慶トンネル南口を振り返ると、絵に描いたような旧道分岐シーン。
この奥がどうなっているかは、前話の後半部分を見て欲しい。

この海側に並んでいる金属のフェンスは、おそらく波飛沫が路上へ吹き上がるのを防止するためにあるのだろう。
完全に旧道の海側1車線を犠牲にしているで、当然、旧道時代にはなかったものだ。



私は、旧道時代の名残を一つでも見つけたいという気持ちから、フェンスの裏側へ行ってみたのだが、この判断は正解だった。
旧道時代のガードロープが、撤去されず錆びた姿のままそっくりと残っていた。

発見はそれだけに留まらなかった。
見過ごしてしまいそうなコンクリート製の祠が、海を背に建っていた。中を覗くと、少し窮屈そうに、一体のお地蔵さまが安置されていた。
野仏は風化が酷く、もう表情も何も分からないし、身体も真っ二つに割れてしまっていた。

立地としては、交通安全のため現代になってから安置されたもののようでもあったが、この風化ぶりはどうだろう。
もっと古いものに違いあるまい。
来歴が気になるが、路傍の石仏にありがちな素朴さは、手掛かりを与えてはくれなかった。




弁慶トンネルを出ると、このような景色のところへ、バーン!と出る。

旧道時代とは違って、今は長いトンネルの合間に飛び飛びで風景が展開するようになったから、
初めて通行するドライバーにとっては、衝撃的な車窓を受動することに、余り時間が与えられない傾向があると思う。
この方向へ進むドライバーが、“鬼の爪”みたいな刀掛岩を目にするのは、弁慶トンネル突入前の【一瞬】に続いて、
ここが二度目で、はじめて少しだけ長い時間、正面に威容を見続けられるシーンとなる。

行く手の険悪に、戦慄を覚えぬものは無かっただろうこの地名を、親子別(おやこべつ)という。



親子別。
この恐ろしく真に迫った地名は、最新の地図からほぼ抹消されている。
地図からは、目の前に見える小さな橋の下を流れる川の名(親子別川)に残るだけだ。
しかし、橋に銘板はないし、先ほどのウエントマリのように、バス停に地名が残っているということもない。

現在の親子別は、国道沿いに1軒の廃屋があるだけで、集落ではない。
だが、昭和6(1931)年の地形図を見ると、数軒の家屋が川の両側に並んでいる。小学校があったウエントマリよりは小さな集落だった。

岩内の街へ通じていた海岸沿いの歩道も、ここまで来ていた。だが、これ以上海岸線を南下することは無理だったのか、左折して親子別川の谷へ入っている。その先には、山中を通る本道“雷電山道”が待っていた。海岸道と山道の合流地点にあったのが、朝日温泉だった。

今日も、ここから朝日温泉へ登る車道が分岐しており、看板が出ていた。温泉までは約4kmの道のりで、400m近い高低差があるようだ。



6:02 《現在地》

トンネルに挟まれた親子別の明り区間は、約300m。
車ならばあっという間、自転車でもそうだった。
早くも次なるトンネル、カスペトンネルが行く手に迫った。

扁額以外は全く装飾的要素がなかった弁慶トンネルと違い、カスペトンネルの坑門は、最近各地でよく見るモザイク模様っぽい凹凸コンクリートで装飾されていた。
とはいえ、華美な印象はなく、シンプルだ。




旧道は、今回も簡単に見つかった。

隠すつもりもないようだが、地形図からは完全に消去された旧道だ。
入口は、縁石などで現道の車道部分から完全に分断されており、バリケードなどなくても車は出入りできない状況になっていた。
弁慶トンネル北口のように、遊歩道化している様子もなかった。

今度の旧道の長さは700m前後で、ここからもう見えている小さな岩場の岬(カスペノ岬)を回り込めば、ほどなく終わる。
相変わらず道幅が広く、廃道として難しい区間ではないと思ったが、奥に見える路上の様子が……なんかヤバい感じが…。



入ってすぐ、道幅の全幅を塞ぐ、鉄条網付きフェンスバリケード。
一応、南京錠で施錠された通用扉があるので、解放する準備はあるようだが、
激しい海風の影響か、さほど古いはずのないフェンス全体が錆び始めていて、
解放の経験無く扉ごと倒壊してしまいそうな雰囲気があった。

自転車と一緒にワルった。



カスペトンネル旧道に、第一歩を記す。

廃止が平成10年代と新しいだけあって、やはりゆったりとした道幅を持っている。
線形も悪いところはないし、土砂災害の問題さえなければ、バリバリ現役で活躍していたはずだ。
海を眺めながら自転車で探索するには爽快な旧道で、つい速度をあげたくなるかもしれないが、
絶対に油断は禁物である。特に薄暗い時期に探索する場合は、注意!!



すぐ先の路面に、こんな馬鹿でかい大穴が!

何があっても不思議ではないのが廃道だとしても、綺麗な路面に突然こんな大穴が空いているのは、さすがに予想外だし、驚かされる。

穴は深く、うっかり飛び込めば、無事では済まない。
なにせ、直接見えてはいないが、この穴の底は海底近くにまで続いているはずだから。

このような穴が出来た原因は、路盤を支えている土砂が、路肩の擁壁の下を通って、海へ流出してしまったことにある。
いかに頑丈な擁壁を作っても、波浪の影響で擁壁と岩盤の間に隙間が出来ると、こうなってしまう。
海岸道路や川沿いの道路でしばしば見られる崩壊の形態だが、真に恐ろしいのは、舗装があると、下が空洞になっていてもなかなか発覚せず、突然通行人を巻き込んで陥没する場合があることだ。
そういう意味で、穴が露出しているだけ、平和かもしれない。

よく見ると、この崩れた場所は、ちょうど舗装の打ち直しが行われた場所のように見える。コンクリートカッターの刃痕が残っているし、舗装の切断面が直線的だ。
おそらく、ここでは現役時代に同様の陥没が起こり、修繕を行ったのだろう。
その古傷が、廃道化後、再び開いてしまったのではないだろうか。



路面、滅茶苦茶!

ここでは路肩の擁壁が大々的に破壊されていて、路面は山側のわずか1mほどを残して、失われていた。

美しい海岸線の道が一変するほどの、恐ろしい波濤の地獄が連想された。

道幅が十分に広くても、この地では十分な抵抗になっていないことが、驚異だった。




破壊と静寂の対比が、魅力的だった。

誰も踏まなくなった路上の轍には、昨日の雨が長い水鏡となって静止していた。
傍らのガードレールが消えたために、この地が持つ真の眺望が引き出されていた。

平静の中にある狂乱も、荒廃の中に残った平穏も、そのギャップに廃道の醍醐味がある。
ただ荒れ尽くせば燃えるというのではないし、ただ人を排しただけの平和も退屈だ。

オブローダーの至福を、味わった。




今度は、路上の一画がAバリで囲われていた。
その内側には、パッチワークのような補修の痕が見られた。

この場所では、何があったのだろうか。
バリケードがあるのは、何故なのか。
廃道になってから補修されたのだろうか。

そういうことを、一つ一つ考えながら、想像を巡らせながら歩くことが楽しい。
そこに、道が生きていた時間と、死んでしまってからの時間が合作する、混沌とした廃道の印象が生まれてくる。




6:07 《現在地》

旧道に入った時点で見えていたカスペノ岬の突端に、早くも迫った。
くの字に海岸線が曲がっていて、道はそこをなぞって滑らかなカーブを描いているが、外側にある岬の突端に隆々とした岩礁があって、ワンポイントになっている。

北海道の探索開始から今日で4日目、昨日の雨を境に、風が出るようになった。
まだ波には大きな影響が出ていないが、天気予報を見ると、明日はかなりの高波が予想されるらしい。
明日では、今日これからの探索は、ますます成功しがたかっただろう。今日で良かったと思える成果を、期待したい。



海風が強く当ってくる。冷たい風に当てられていると、それだけで弱気になる。
風がやってくる先に聳立する雷電岬の険悪が、私を無言にさせる。
昨日のスケールを遙かに上回る、尋常ではない険しさが見える。
カスペノ岬は、私を戦慄させるためだけに用意された舞台のようだった。

もう逃げられない! 強敵の目前に立ち尽くしている気分になるが、この先には、
あの目に見える地獄までのわずかな間隙を埋めるような、“最後の休息地”がある。
RPGなら、ラストダンジョン前の最後の村だ。村人がよく骸骨になっていたりする……。