道路レポート 神津島の砂糠山にある廃道 第2回

公開日 2016.2.26
探索日 2013.4.01
所在地 東京都神津島村

破壊の王者に楯突いて進め


2013/4/1 11:16 (歩行開始から19分後) 【現在地】【現在地(遠望)】

砂糠山への海岸道路、半ば。

「山行が史上最大」の規模を持ったガレ場を横断して進むと、次に現れたのは、先ほどのガレ場とは全く異なった印象を持った別のガレ場。

前のは粒の細かな礫だけが積もった、スキー場のゲレンデのような崖錐であったが、今度のはもっと遙かに荒々しい、巨岩の大雪崩。
ここでうっかり新たな落石に巻き込まれでもしたら、絶対無事では済まないだろう。

しかも、避けようがないので正面から足を踏み入れてみると、これが、全然まだ不安定なのである。
転石多数! 極めて危険な状況!
落石に巻き込まれたら無事では済まないのに、落石を全く起こさずに通り抜ける事は難しいという罠!




巨岩の山に息を遮られる思いがして、喘ぐように見上げると、そこにはもはや原形を留めなくなった山の形だけがあった。
先ほどのような、崩壊地でありながらも数学的には調和の取れた安定の姿(=安息角)はまるで見あたらず、ただ闇雲に崩壊せんとする乱然の姿である。
この道が突いてしまったのかも知れない、山体崩壊という魔巣の大きさに戦慄を憶えた。

ここを“完全に安全に”通りぬける術など、端から存在しないことを理解する(というか思い知る)。
だが、私も進まないワケにはいかないのである。
最もマシそうな波打ち際へと進路をとった。

それから5分後――



――私はまだ、同じ崩壊地の横断を続けていた。

前の崩壊地のように見通しは効かないが、崩壊斜面の規模は同レベルかそれ以上と思われた。
普通は、廃道の所々に崩壊現場があるものだが、ここでは逆で、崩壊現場の所々に廃道が見え隠れするのみだ。それさえも、かれこれ5分の間は見る事が出来ていない。

そして、こうしてしばらく道を見ないと、途端に不安になってくるのだ。この膨大な瓦礫の底で、道がひとりでに終わっているのではないかという不安である。

今の私にとって、この道の存在は、とても大きな意味を持っていた。
オブローダーにとって、道(それも車道であること)があることは、何よりも励みになる。
これが無くなれば、きっと廃墟と化しているに違いない“山上の建物”を求めるという行為は、私にとって一挙に色褪せかねない…。
もう楽でないことが確信出来るだけに、モチベーションを保つのは、道路の存在に拠る部分が大きかった。



11:24

道は、まだ終わってない!

一際と大きな岩の裏に回り込んだところで、しばらくぶりに道が出現!

それは、ほんの僅かな距離だけ現れ、また瓦礫の山へ消えていたのだが、

私の中では燦然と輝く存在だったぞー!! 鋭気を回復!



ここは異世界ですか?

それはさすがに言いすぎだったかもしれないが、少なくとも、私がそれまで36年間を生きてきた国の風景とは、にわかに信じがたかった。
もはや生えている植物までもが、見覚えのない南国種のもののように見えてくる。

このように私の経験を超越した地形は、島の中央に聳える山の中から現れていた。
そして、この山、天上山は島のそのものであり、島の形を究極にまで支配していた。
そこには人類の支配を超越するものがあって、道路はただ打たれる日が1日でも遅いことを願いながら、ほとんど“裸”でいたらしいと思われた。

もしもの話ではあるが、この山の崩壊から身を守れる道路とは、トンネル以外は考えられない。
それも、島の中軸を貫くほどに長大な…新島で我々がやり果せたようなものしかないだろう。



人間が“やらかした”ものではないので、こういうのは“自然破壊”とは言わないのだろうが、ここにあっただろう森にとって、天上山が恐るべき破壊者であることは間違いない。

この地の頼りない緑の有り様は、砂漠のような悪環境に上手く順応した植物といった感じでは、明らかにない。
そうではなく、本来ここに存在していたマツを主軸とした森林が、現在進行形で山腹からはぎ取られ、瓦礫となって海へ流出し続けている状況である。
そう考えなければ辻褄が合わないほど、緑と灰色の境界線はくっきりとしていて、全く順応的ではない。
この山腹の緑は、やがて全て失われてしまうかも知れない。
そしてその事に対し、人間が手を差し伸べることもなさそうだ。

この景観は、われわれ人間が「砂防」として全国で繰り広げている“仕事”を全くに放棄すれば、どういうことになるのかという示唆だろう。
おそらく全国の急峻な山岳地に、このような場所が多数現れるようになるのだろうが、それも含めて本来の自然。
人には危険な、本来の自然の姿である。




さらに数分が経ち、遂に前途の視界が大きく開けた。

あと300mほど海岸線を行き、多幸湾の一番奥まった地点から、今度は急転直下の形勢で一気に“谷”を登り詰める。
それが、地形図に描かれているこの道の形である。

だが、近付いてみて改めて思うのは、とてもじゃないが、あの“谷”は道が上っていけるような勾配ではないということだ。
谷の手前までは、ここからだと護岸の擁壁のようにしか見えないが、しかしきっと道だろうというラインが見えているが、どうやら、それもあそこで終わりのようである。

最後の登攀くらいは自力でやれっていう、ありがたくもなんともない、愛(?)の鞭か…。
“山上の建造物”の利用者も、きっとそうしていたのだろうが…。




標高570mの島最高峰であると同時に、島そのものであると言っても良い天上山に対し、我が目的地の一角に聳える砂糠山は、標高190mと小ぶりである。そしてその山容は、上下でまるっきり様相を異にしている。

上は、恐らく密林だろうという低木が、ほとんど隙間無く地表を覆っているようだ。
砂糠山全体が半島のように突き出た島の南端部であることから、強力な海風の作用によって高木は育つことが出来ないのだろう。
比較的に緩やかな地形と相俟って、低山ながら高原的な景観だと感じる。

対して、下半分あるいは下側3分の2程度までは、落差100mを越える大絶壁の威容を誇っている。島の周囲を取り囲んでいる壮絶な海蝕崖がここにも敷衍し、島の内部に核のように存在する堅い火成岩の大岩盤を露出させている。

そして、私にはこの砂糠山の全体が、妙に薄暗いように感じられた。
理由のひとつは、単に薄雲がその辺りを日陰にしていたことだが、もう一つ別の理由があった。
それは、まるで棚引く黒い層雲のように見える、他ならぬ岩盤の色だった。
この黒い岩盤も、天上山には見えない砂糠山の個性であった。



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高さと黒さで、私を精神的に圧迫してくる砂糠山。

息継ぎ気分で海を見遣れば、そこには間もなく三浦港に入港しようとする中型船の姿が見えた。
見覚えのある姿に目を凝らすと、あれは昨日の私を下田から新島へ運んでくれた神新汽船の「あぜりあ丸」(460t)だった。
てっきり今日はもう船の出入りはないような気になっていたが、すっかりあれを失念していた。

なお、無人の砂浜で背後に大絶壁を背負っていると、「遭難者ごっこ」をしたくなる衝動に駆られた。
無人島で遭難するとか、実際はたまらないだろうが、やっぱりある種の憧れを感じるぜ。




荒涼とした風景の中に置き去りにされ、現在進行形で砂の山に埋没していく海岸道路。
渺茫とした見通しの良さが、どこか人類滅亡後の地上を思わせた。
ここだけを見れば、廃道の中にも穏やかさを感じられるような風景だが、ここに至るのに踏み越えてきたのは、天上山の幅1kmにも及ぶ大崩壊地。
踏破の難易度的には中の中だが、規模としては自己最大の崩壊地だった。

道路的に言えば…
幅1000mにわたる落石災害!

路肩の欠壊は多分無く、全部落石の仕業だと思うので、上記の表現に間違いはないハズ(苦笑)。
丹念に瓦礫を発掘すれば、地下10mとかから道が発掘されると思われる。



11:50 【現在地】【遠望:ここを通って】【遠望:いまここ!】

自転車を降りて歩き出してから1.4km地点。砂糠山の麓まで残りは約200mとなった。
そしてここには、地形図に天上山から多幸湾に注ぐ水線が描かれている。名前の注記は見られないが、川か沢である。
ここまでの経路上で、こうした水線を横断するのは2度目だが、1度目はまるっきり水気が失われていた。

対して今回の沢には、沢山の水が勢いよく道を横断して流れていた。しかも大変に澄みわたっており、思わず口を付けて飲んでいた。
もちろん、美味しかった。




上流を見上げると、そこにはまだ青々と葉を茂らせた森が残っていた。
砂塵の死谷と化していた、前の枯れ谷とはまるで様相が違っていた。
森が水を涵養するというのは、本当のことらしい。

だが、この緑も危ういもののように見える。
なにせ、緑の山陵の向こう側には、天を圧するように天上山の磐座(いわくら)が鎮座して、冷たくこちらを見下ろしている。
かの山の機嫌次第で、ささやかなこの沢も一瞬で息の根を止められかねない。

この地には、明瞭なヒエラルキーがある。
一番下は道路、こいつはもう圧政に耐えかねて死んだ。
中位が森、これもかなり萎れていて、死にかけている。
上位が天上山の磐座で、暴虐の王のように見える。
だが、実際には目に見えない最上位があって、それは山上に集いし神々なのだ。人知の及ばぬ破壊力の核心。地球のエネルギー(火山や地震)。




なんだ、あれは?!



て、鉄塔だ!


道などない断崖絶壁の海岸線に、頑丈な作りをした一基の鉄塔。
だいぶ錆び付いてはいるが、大きく破損している様子は無い。
しかし、現在使われているものでないのも明らかだった。
それに、普通の送電用の鉄塔とは思えない形だ。

むしろ、荷揚げ用のクレーンか、あるいは…、

索道の支柱のような形だ…。

そうだ!
これは索道支柱じゃないか?

ピンとくるものがあった。
なにせ…向いている…。
向いているのだ。私が上ろうとしている、山上の方向にッ!


これは…遂に来たっぽい!

“山上の建造物”の正体に繋がる、重要ヒント!!

到底、無関係とは思えない立地である。シッポを掴んだ!



砂糠山へ通じる谷の入口で、次なる進路への重大なヒントを入手した私。

一方で、ここまで私を励ましながら連れてきてくれた海岸道路は、ひっそりと終焉を迎えた。
(写真に写っている擁壁は、海岸道路の山側の法面で、本来の路面はその下にあるはずだ)

そんな道の最後は、はっきりしなかった。私がこれから上るべき谷が吐き出した大量の瓦礫の山に埋もれたようでもあるし、
その前途を悲観し、自ら終止符を打ったようにも見えた。いずれにしても、これと言った目印の無い終わりであった。

とにかく、もう何処へも続いていないことは確定的に明らかだった。
まるで、釜の底のような周囲の地形が、それを許さなかった。
海岸道路は、その尊い使命をここで索道へと繋いだのだと、そう考える事にした。



こちらを睨むように、海上に屹立する巨大な支柱。



睨まれるは私と、その眼前に峭立するこの“谷”。


良く見ると、錆び付いたワイヤーロープが地を這うように落ちているではないか!

もう、間違いない!

砂糠山には、海岸と山上を結ぶ、“未知の索道”が存在した!