道路レポート  
仙岩国道 工事用道路 その2
2004.2.1



生保内川林道 続き
2003.11.14 8:25


 林道は、生保内川を挟みJR田沢湖線と平行している。

田沢湖線は、かつては北東北の山間を駆けるローカル線の一つに過ぎなかったが、秋田新幹線開業後は一転、秋田の正面玄関口となった。
どう見ても周りの景色に似つかわしくないモダンなこまち号が、滑るように駆け下ってゆく。
仙岩国道以上にその鉄路には橋とトンネルがひしめく。

写真は、走り去るこまち号を振り返って撮影。



 行く手には、朝日が昇る。

この先、つとめて直線的に沢を登る線路と、その蛇行に素直に従う林道とは、幾度と無くクロスする。


 少し進むと、今度は林道が最も川寄りとなり、すぐ傍の築堤の上に線路が走る。
見上げると、その向こうには空色のアーチ橋が見える。
これは、仙岩国道に掛かる橋の一つで…、失礼、名前は失念した。

 仙岩国道には狭い範囲に異なる形式の橋が多数存在する。
トラス橋にアーチ橋、ラーメン橋、まるでそれは、橋の見本市。
歴戦の技術者たちが、その技を競いあいながら、百尋の沢や千尋の崖に様々な橋を架け渡したかのようだ。



 再び線路の下をくぐる。
林道には、自動車の轍があり、保線作業などに利用されている。
しかし、決して路面状況は良くない。

 路肩が脆くも川に抉られている。
この先、このような場所は繰り返し現れる。

徐々に徐々に、道は破局に近づいていた。



 林道が、小さな谷を渡るとき、ふと左を見上げると、そこにはいつも橋が見える。
まるで、空に架かる橋のように、それは遠く、高い。
どんどんどんどん、国道と林道の距離は、離れている。

私は不安になる。
これほどの高さの差を埋める工事用道路は、果たしてどんな道なのだろうか。
楽な道では、ないだろう。
たとえ、荒れていなくとも、だ。


 林道の起点から約3km。
相変らず林道は所々決壊しつつも続いてきた。
そして、突然広い場所に出た。
確か、以前4月に来たときには、ここら辺で引き返した。
それは、時間が無かったことと、残雪が極めて深かったためだ。

ここから先は、初めてと探索となる。



 広場があると言う時点で、少し怪しいと思ったが、案の定だった。

林道は、広場のすぐ先でご覧の有様。
土砂崩れにより路幅の半分を失い、乗用車の進入を拒んでいる。
降り積もった落ち葉が、廃道らしさを強調している。

工事用道路というのが、一体どこから分かれているのか、分からない。
どういう目印があるかという情報も無い。
廃道と化した林道の奥から分かれている工事用道路などというものが、廃道で無いわけも無く、もう、この時点で廃道確定。
そんなイヤーなムードに包まれた。
実際、見つけられなかったら、しゃれにならない。


見つけちゃう
8:36

 林道はだらだらと続いているが、もういい加減、このあたりに分岐があるはずなのだが。
この写真の場所から、更に30mくらい進むと、再び広場があった。
そして、広場に立って私は思った。
さっき写真を撮った場所(すなわちココだ!)が、
なんか、怪しくなかったか?

それでは、恒例(?)の『QUIZ★廃道を探せ!』のお時間です。
左の写真のどこに、廃道があるのでしょうか?

答え合わせは、マウスを写真にあわせてね!
…つまらない?



 わたしとて、信じたくはなかった。
いくらなんでも、こんなに荒れ果てているとは!

しかし、そこには確かに道らしい地形があり、それは林道から別れ上部へと続いているように見えた。
これが、工事用道路なのか?
それとも、ただの作業林道の跡なのか?

その答えは、実際に進んでみる以外に知りようがなかった。
いよいよ、行動開始。
もちろんチャリは、捨てていくことにした。(ごめんなさい、しょっぱなからこれでは…)


入っちゃう
8:37


 入った途端これ。

さすがに、これは道ではないのでは?

そういう疑問が、頭をよぎる。
毎年の豪雪によって、地面ギリギリに押しやられた、まるで鞭のような細い枝達は、私の足を容赦なく絡み取る。
非常に歩きにくく、体力を消耗する。
その上、視界は極めて不良であり、どこへ向かって歩いているのかさえ、よく分からない。

道を誤ったのか?!



 気弱になる私だったが、それを励ますような発見があった。
それは、足元を覆う落ち葉に半ば隠された側溝のコンクリートであった。
全体像はつかめないものの、確かにここには側溝がある。
やっぱり、道なんだ!
しかも、側溝完備とは…それなりの道だ。

冒頭に紹介した、工事用道路の在りし日の立派すぎる写真が、ちらついた。


 側溝の発見からは、気丈になりいつもの様に強引に進んだ。
背丈よりも高く生長し冬枯れした植物を、蹴りや突きで砕き、倒し、蹂躙しながら進んだ。
出来るだけ音を出し、熊の脅威を寄せ付けず、雄叫びを上げんというほどの勢いで臨んだ。

ここが愛する仙岩国道の工事用道路なのだ。

そんな高揚感が、困難を、楽しみに変えていく。
そして再び、側溝のような痕跡が現れた。
それは、一般に見られる“コ”の字型のコンクリートブロックではなく、土の滑らかな窪みにコンクリートを吹き付けただけの、極めて簡素なものであった。

写真の道とは、少しイメージが違う…。
でも、工事用道路という背景を考えれば、これこそ妥当だろう。
ますます、面白くなってきた。



 林道から離れ歩くこと100mほどで、すっかり景色は谷底から一転した。
対岸に見えるのは、田沢湖線の志度内信号所だ。

私がここにいる間にも、20分に一度くらいはこまち号が駆け抜けていった。
こんな山間なのに、違和感がある。



 そして、いよいよ工事用道路はその本来の目的のため、沢を離れ著しく上り始める。
めざすは、国道の現道、板谷橋付近である。
地図上の高度差は150m以上。
眼前の垂直にも近い斜面には、その現道の姿は見えない。
断続的なトンネルで山中を通過しているためだが、代わりに斜面に見えるのは、本工事用道路の九十九折と、そのコンクリート吹き付けの広大な法面である。

そして、この景色は初めて見たはずだが、なぜかそんな気がしない。

どこかで、見たような気がするのだ…、特に、あの法面が…。




 そうだ。

あの写真の場所だ!!

比べて見ると、やはり間違いない。

すると、あの“つるはし”標識も、この辺にあったはずなのだが、見当らない。
往時の写真にはガードレールや、普通の側溝なども写っているが、現在は何も残ってはいない。

 ただその地形だけが、数十年の時を越えて、

      すこしずつ真実を、語り始めた。





その3へ

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