道路レポート 国道353号清津峡トンネル旧道 最終回

所在地 新潟県十日町市
探索日 2018.11.30
公開日 2019.02.06

瀬戸渓谷の片洞門を往く


7:32 《現在地》

“雪中隧道”と思われる人道サイズの素掘り隧道を完抜し、おおよそ7分ぶりに地上へ出た。
外へ出て最初に目に入ったのは平穏な舗装路、そして大きなトラス橋だった。
目の前の舗装路が旧国道の続きだというのはすぐに分かったが、隧道に入るまでとは状況が一変していた。
そして、探索前に下調べで利用したグーグルストリートビューで見覚えのある場所だった。あのとき「隧道ではないか」と疑った暗がりは、果たして事実その通りであった。

この段階で私は、攻略すべき全長1km弱の旧国道のうち、終盤の750m地点から900m地点までを、雪中隧道というバイパスによって越えた。
隧道の長さは約150mであり、これは旧国道の瀬戸口隧道(全長134m)より僅かに長かったことになる。

チェンジ後の画像、右に見えるブルーシートに覆われた巨大なガレージのようなものが気になって覗いてみたが、中には1台の乗用車が駐車してあった。もとは何か別の用途に使われてた構造物かもしれない。




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隧道北口前の全天球画像である。

瀬戸峡と呼ばれている清津川の短い峡谷はここで終わり、これより下流には両岸に多くの集落が現われる。
旧国道もこれより下流は市道として活躍を続けており、あと100mほどで現国道に合流して終っている。
他方で上流側は、旧道化後に「瀬戸渓谷遊歩道」として利用された区間。穴倉同然の隧道脇に伸びている。
この地点では入口に車止めがあるだけだが、どうせ150m先にある瀬戸口隧道までのどこかで封鎖されている。



《現在地》

この写真のみ時系列を少し無視して、後に現国道側から撮影した旧国道分岐地点の様子である。

上流側は入口からして廃道っぽくて見応えがあったが、この下流側はそうではないので、特別紹介したくなる風景ではなかった。
ただ、私に「廃れた観光地」との烙印をおされてしまった瀬戸渓谷の残り滓(かす)といったら失礼だろうが、度重なる自然災害や観光を取り巻く安全意識の変化によって、使える区間が極端に短くなってしまった「瀬戸渓谷歩道」へ人を呼ぼうという、最後の意思表示である1枚の看板が残されていたのが唯一目を惹いた。

……それはいいんだけど、看板の内容に偽りがあるのはどうなんだ。
歩道まで10mと書いているが、実際は100mくらいある。
20m先と書いている宿泊施設も、川の対岸なのでたっぷり250mは離れている。
現代の車社会において、この差はどうでもいいレベルだが、ならばこそ偽らず書いたらどうだと思う。




(時系列に戻って)1枚目の写真に写っている立派な橋……清津峡橋の上へとやってきた。上流を眺めている。

往路で通らなかった旧国道の片洞門が、強く私を誘っていた。まさか通られないなんて、片洞門自身思わなかったことだろう。
道路好きならばほぼ例外なく、その溢れんばかりの野趣に昂ぶりを覚えるであろう、まさに絵に描いたような片洞門であった。
峡谷が次第にすぼまっていき、道の逃げ場が失われていくという中での緊迫感が堪らない。そのようなバックグラウンドの景色と相乗して、本当に見事と思える片洞門だ。

私の相棒である自転車はいま、閉じかけた扉のようにも見えるあの凄絶なV字峡谷の向こう側に、独り残されている。
当初の予定では自転車で旧国道を完走するつもりだったので、帰路は現国道を疾走するだけでよいはずだったが、瀬戸口隧道の予想外の封鎖のため計画が狂った。

これから片洞門を通過し、もう一度峡谷へ戻る。
そして、越える!
しかし同じ道では面白くない。

だから……




往路でその存在に勘付いてしまった、瀬戸口隧道外の峡谷崖壁に刻まれている、

旧々道と思われる“へつり道”を利用して、

あの最大の難所を越えてみたい!

はっきり言って、ここからだと道らしい道があるようには見えないのだが、

瀬戸口隧道内で3度も行った横坑からの俯瞰では、確かに見えたのだ。



7:34 《現在地》

復路の目的を表明したところで、さっそく行動開始だ。

さっき通り抜けた穴を脇目に、今度は右の道をいく。
車止めが設置されているが、通行止めとは書かれていない。
これが旧国道なのだが、遊歩道として使われた時期の高欄が立ち並んでいるために、あまりそんな感じはしない。

しかし、国道として使われていた時期にも、隣の穴は同じように口を開けていたはずで、無造作に不気味を振りまく黒い穴は、遠方から来た国道利用者にどんな印象を与えていたものだろう。
なかなか強烈な印象があったと思うわけだが、この先のすぐに現われる片洞門と瀬戸口隧道によって、その印象を上書きされるくらいの衝撃を受けたドライバーも多かったことだろう。ここはまさに、酷道というべき道であった。



上流へと向かっているのに、道は緩やかな下り坂。そして下り行く先に強烈な片洞門が見えてきた。この段階で道幅は狭く、車1台分しかない。
国道時代は、いまある遊歩道らしい高欄よりも外側にガードレールが設置されていたようなので、もう少しは広かっただろうが、それでも車同士のすれ違いは出来そうにない。見通しも利かないし、昭和50年代の300番台らしいと思える厳しさだ。

この片洞門の直前、意識していなければ見逃してしまいそうな目立たなさで、小ぶりな横穴が口を開けていた。
さきほど雪中隧道の内部で見送った【横坑】に他ならない。
これだけ下草が落ち着いた時期でもこれである。夏場は緑に隠されるだろうが、吐き出される冷気によって勘付ける可能性があるのも、夏だけだろう。




この先 落石あり 通行止め

片洞門の始まりの地点で、やる気をあまり感じない立入禁止のバリケードが、唐突に現われた。

国道からの分岐地点にも大きな看板が立っていた観光地「瀬戸渓谷」であるが、現状、ここを探勝する遊歩道が解放されているのは、入口からここまでのわずか、わずか70mくらいしかない。

……気の毒だが、これではさすがに観光地としての終焉を感じてしまう。
瀬戸渓谷の険しさも風光も、全てはここからが本番なのだから。





激アツ!!!

遊歩道にも見捨てられてしまったいまだからこそ、戻ってきている。私にとっての熱量!

頭上は塞がれ、川側だけ開いたこの状況は、壮絶な周囲の景観を隠さないだけに、隧道よりも印象的だ。
古来、様々な難所に“片洞門”というものは存在し、それぞれにいろいろの逸話や記録を残している。
この片洞門と瀬戸口隧道も、清津峡の険と勝とを探らんとする旅人たちに、前衛として立ちはだかることで、
強烈な印象を残したのに違いない。こんな景色を越えなければ辿り着けなかったことに私は価値を感じる。



おおよそ旧国道とも思えないような異風の姿を纏って……

瀬戸口隧道、再臨!

クレバスのような穴沢の谷を挟んで向き合う片洞門と隧道の連続に、興奮を禁じ得ない!

これらが連続している瀬戸峡谷核心部において、道路は完全なる人工を余儀なくされている。
地形の活用や摺り合わせといった、甘っちょろいことは全く言っていられない状況。
はなから地形を無視して、半地下や地下にゼロから道を生み出すしかなかったほどの悪地形。
ここがもっとずっと山奥であったなら、永久に道を造ることなど考えられなかっただろう極悪地形だ。
しかし、たまたまここは存外人里と近く、車の通る道が必要とされたから……、凄まじい道が生まれた!



7:37 《現在地》

穴沢に架かる橋(橋名不明)までやってきた。
雪中隧道の南口付近では、片洞門の天井部分が激しく剥離崩壊しており、大量の瓦礫が路上に積み重なっていた。
なおも崩壊は進行中のようである。

天井が崩れてきているというのでは、道路を頑丈なシェルターで覆うようなことでもしなければ、安全を担保できない。さすがにこの状況では遊歩道としての利用を諦めなければならなかったのもやむを得ないだろう。もしもこの崩壊さえなければ、瀬戸口隧道の南口までは引き続き解放されていたものと思われる。




復路は、目の前の瀬戸口隧道ではなく、外の崖沿いにある平場を通行してみたいのだが、往路での偵察によって、ここから直接は辿り着けないことが分かっている。

なので、心の中にワルニャンを隠して、大人しく隧道へ。




7:39 《現在地》

そうしてやって参りましたのは、ここ。
隧道北口から30mほどのところにある「横坑3」だ。
往路の偵察では、ここから隧道外の平場へと到達できる可能性を感じていたのだが……。




写真でも肉眼でも、とても見えにくいのだが、横坑の3mほど下、かなり水面に近い高さに、人がようやく歩けるくらいの狭い平場が存在している。

端から見れば、この横坑から外に出ようとすること自体が常軌を逸した行動であろう。
だが、平場への到達可能性と、探索後に戻って来られる可能性という両方を考えれば、ここが王道だ。

目指す平場は、ここ以外の二つの横坑からも見えていたので、それらが一連の道として繋がっていることは、ほぼ間違いないと思う。そのくらいの確信がなければ、ここから下りてみようなんてことは思わなかっただろう。そもそも私の趣味の中心にあるのは“車道”であって、“徒歩道”ではないのだから。だが、それでも捨て置けないくらいの興味をここに感じてしまったのだから、仕方ない。

OK! let's 逸脱!




灌木のしなやかで強かな幹を頼りながら、後ろ向きになって慎重に下った。

もの凄い急斜面ではあるが、灌木のおかげで難しくはなかった。

ものの数秒で、私の足は固い平らな地面を捉えた。



V字の底に近いとこ、おおよそ道などありそうにない。

ここは端から見ればトンデモナイ場所なのだが、足元の平らさは、どう見ても道っぽい。

問題は、ここを前に後ろに、歩けるかどうか。



うしろ(下流側)

いい景色。

でも、等速直線運動で走り去る水面を永く見てはいけない。目が回りそうになる。

そして、こちらは探索の進行方向と逆なので、わざわざ行く必要は薄い。でも意外に歩けそうだ。




まえ(上流側)

やべぇの一言に尽きる。

なにしてんの俺。

なんでこんなとこ歩けると思ったの。

高さ的に、墜落しても死なないだろうけど、流されるでしょこれ。


帰ろうかな。