隧道レポート 秋山郷の切明隧道(仮称) 第4回

所在地 長野県下水内郡栄村
探索日 2012.06.25
公開日 2013.06.18

切明隧道(仮称) 〜この隧道は●きている〜



2012/6/25 8:29 《現在地》

洞内の第一印象。

ボロボロ。

反対側の坑口は落盤閉塞しているわけだが、さもありなんと言った感じである。
さすがに現役とは一線を画する老化具合であり、廃隧道特有の土とカビが混ざった匂いが充満していた。

コンクリートの壁面は随所で著しく白化しており、激しい地下水の浸潤に晒されている。
肉眼で確認できる亀裂もあるが、白化している部分もそれに準じる亀裂の在処を示しているのだ。
そして、洞床は水深10cm程度の水没状態。その左端に僅かに陸があったので、そこを進むことに。



内部から見ると、この北口もけっこう“やばい”状態であることが分かる。

妙に小さな坑口に見えたのは、下と横から崩土に埋没しつつあったためだった。
そしてそれ以上に”やばい”のは、右側(谷側)の側壁に目で見て分かるほどの歪み(膨らみ)が生じている事だろう。

――圧壊

そんな南口の最期が目に浮かぶ光景だった。


やはりこの隧道、

……やばそうである……。



左端の陸地を進むと、数枚の木札が打ち捨てられているのに出会った。

そのうちの1枚を水中から救出してみると、そこには「8号B渓流取水口 中津川第一発電所」という文字が。

内容からして元々ここにあったものではなく、文字通りの「場所」に取り付けられていたのであろう。
そしてそれはおそらく、ここへ来る途中で出会った不自然な清水と関係している。

「中津川第一発電所」とは、まさにこの隧道建設のきっかけとなった発電所の名前である。
今は東電の元で稼動している中津川第一発電所は、ここから約18kmの下流にあるが、切明に設けられた取水口と同発電所上部の調整池を結ぶ長大な地下水路の建設は、同発電所建設工事中の最大の難関であったといわれる。
そしてそれは、切明を終点とする工事用軌道敷設の目的にも他ならなかった。

工事用軌道用として生まれたこの隧道も、後にはその目的から離れて一般道路用に転用されたらしいが、廃止後には再び“古巣”に戻ったのか、はたまた偶然か。
いずれにせよ、この隧道をしてこの立て札(の残骸)とは、巡り合わせの妙を感じさせる光景だった。





う……

入洞から50mほどで、唐突に素掘となった。
そのこと自体はさほど珍しい展開ではなかったが、その素掘の壁面の、“地球の肉”を思わせるような赤さには、ギョッとした。

同じ素掘の壁でも、玄武岩や安山岩の黒いゴツゴツした風合いや、粘板岩や砂岩が見せる灰色の平板な質感は見慣れている感じがする。
しかし、この赤さは正体がよく分からない、レアなパターン……。

それだけに、私は抗い難い恐ろしさを憶えた。
未知の廃隧道へ一人踏み込む時の心細さだけは、幾ら経験を積んでも一定以上“慣れる”事は無いらしい。
それは多分、人が闇に対して感じる本能であって、克服が出来ないものなのだ。
まして、今回は出口のない闇だと分かっているだけに……。




未だかつて見たことがないほど鮮やかな色味を持った壁面。これまでが白いコンクリートの壁だっただけに、余計際立って異様だった。明らかに壁面の上と下とで色合いが違っているのも、なんか気持ち悪い。

先ほどまでの美しい森の地表からは想像もつかないグロテスクな地下の光景に、やはり大半の生物にとって「地下は適さない」という自然界のリアルを感じたのだった。

そして相変わらず洞床が水浸しであることは、前進の障害とまではならないまでも、心落ち着かない不安な気持ちにさせる効果は十分だった。
そして、この隧道は私という探索者の進入をあまり歓迎していないのではないかという、そんな妄想を抱いた。

弱気の虫は徐々に心を蝕みはじめ、隧道の中の私の存在を小さくしていった。




水が溜まった坑道をさらに50mほど進むと、再び壁の様子に変化がみられた。

今までのグロテスクな色味は姿を潜め、地層の模様がよく観察出来る粘土質へ変わった。
壁面から剥離したと見られる崩土が路盤に積み重なり、水の深さに浅深をつけている。
手元の灯りだけが頼りである洞内では、こういう足元の悪さがストレスを倍増させる。




振り返ると、既に入口は直接見えなくなっていて、コンクリートの内壁に反射した緑の光が見えるのみであった。

地形図でも洞内がカーブしている事は分かっていたが、最初のコンクリート区間は直線だったので、素掘の区間が微妙に右方向へ曲がって来ているようだ。




8:34 【洞内図】

入口から150m近くは進んで来ただろうか。
推定されず全長の概ね中間地点である。

ここは灯り無しでは一歩も動けぬ地の底だが、前方に再びコンクリートの巻き立て区間が見えてきた。
また、この巻き立ての始まる地点で、進行方向がカクッと右へ折れているように見える。
おそらくここを過ぎれば、振り返っても入口の光は完全に目に届かなくなるだろう。
(グネグネした廃隧道は、直線であるそれの5倍は心細いという独自研究がある)
そしてもう一つ嫌だったのは、閉塞を象徴する水蒸気が洞内に充満し始めた事である。
光が無ければ決して目には見えない白い靄が、私の身体に絡みつく…。

気付けば入洞開始から5分が経過していた。




ここまで多少ビクつきながらも、廃隧道に関しては一応、「百戦錬磨」を自称する私である。

とりあえず順調に「完全攻略」への道を歩んでいると思っていた


 の だ が …

新たなる恐怖が、足元に忍び寄っていた。


この浅い水の…… 中……に…





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赤い“もずく”か、或いは“毛細血管”のように見えるものが…。




びっしりと!!

超・超・超!びっしりと!!!


え? え? なに?  これなに?

生き物?? 植物???

が…

害は無いよね? 襲って…こないよね…?




そして、この得体の知れない水中生物(植物?菌類?)は、

私が奥に進むにつれ、その異形ぶりをさらに増していった。

これはまだ、始まりに過ぎなかった!




ちょっとちょっとちょっと…!

……なんなんだよこれは。

浅い水面下における“何か”の密生度が凄まじいことになっており、
既に水の底が見えない状態になった。
壁の色よりももう少し赤白い何かが、洞床のプールを占領している…!




フラッシュを焚かずに水面すれすれを撮影したのが、この写真。

なんとも気味の悪いことに、水中で飽和した“それ”が、

水面から白い芽のような突起物を、空中へ向けて無数に伸ばし始めていた。

まるで、この隧道の全てを支配しようと試みるかのように…。



…この隧道に付きまとう “恐怖” という情報の正体は…まさか…?





フザケルナ!!

渡してなるものか!!

この隧道は、我々、

人間のものだ!!

異形の何かに渡しはしない!!

今、思い出させてやる。

この隧道を可能な限り平然と通行する事で、誰の支配地であるかを教えてやるぞ!! こんな“謎のひも”如きに、俺や隧道は負けない!



“奴ら”が呼吸しているせいなのか…?!

“奴ら”が現れてから、急に洞内の曇りが酷くなった気がする。
そして、はじめのひんやりとした空気が今は少し澱んだような、生ぬるいものに変っている…気がするのである。

“奴ら”で完全飽和状態となった水溜まりを、文明の利器である自動車…いや、せめて自転車で踏み荒らしたい衝動に駆られつつ、ジャブジャブと歩行していくと、その水深が徐々に浅くなってきた。
並行する中津川の河川勾配に倣うように、洞内は南から北へ登る片勾配になっているのだろう。

水の中でしか長くは生きられないらしい“奴ら”の世界は、まもなく終るのだ…。

あははははh…。




ヘッドライトが欠けのない巨大な円錐を空中に描き出すほどの濃霧であるため、
フラッシュを焚いて撮影すると、乱反射してホワイトアウトに近い写りになってしまう。

それを避けるべく、ヘッドライトの明りだけで撮影しようとすると、
今度はこのように、写る範囲がとても狭くなってしまう。
実際の肉眼での見え方を感じていただくには良いと思うが…。


この写真は、ピンポイントで一体何を写そうとしたのかが、


お分かりいただけただろうか?




8:39 【洞内図】

横坑出現!


小さな横坑は、“魔窟”と呼ばれるような隧道にはつきものであるが…

“奴ら”の海から分岐する横坑には、

“奴ら”の……。





おうぇ…



これ…………

やっぱ、入んないと駄目かナ…?


……まあ、入るんだけどサ。

どうにも気後れしちゃう、なんかエグい穴だ。

よく見るまでもなく、“毛”のようなものが沢山天井からぶら下がってるし…。







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