隧道レポート 大多喜町の共栄隧道 前編

所在地 千葉県夷隅郡大多喜町
探索日 2011.2. 9
公開日 2011.2.12

遂に見つけた! いつか見た隧道!

皆さんは、こんなことをしたことはないだろうか。


ネット上で、一度見たら忘れられないような、奇抜な姿をした隧道を見る。

そしたら、敢えてその場所を積極的に調べようとせずに、

何度か訪問している内にいつか見つかるだろう」 …と、放っておく。



基本的に、道に限らずあらゆる地物は時限付きなので、あまりこういう先送りの泰然主義は、オブローダーとしての成果主義とは相容れない。
しかし何となくそれでも良いかなと思えるような隧道が、いくつかある。

例えば房総半島のように全体が箱庭的であり、しかも自宅からは近く、繰り返し行くことになりそうな場所。
さらに廃道ではなく現役の道だったりして、そこそこ自力でも見つかりそうなものの場合。
それはサブイベント的な楽しみ。
「いつか出会えるかもしれない景色」として、頭の片隅においておく。

今回はそんな隧道のひとつで、しかもとびきり奇抜なヤツに、遭遇することが出来た。



ぶっちゃけ、もう知っている人にはインパクトがないと思う。
このタイトルだけでもう分かってしまった人もいるかと思うが、あまり長いレポートにするつもりはないので、お付き合い願いたい。
初めて見る人ならば、絶対に驚けるはず。



ちなみに肝心な場所は、

【ここ】

おっきな地図で見ると、





2011/2/9 9:28 

これから紹介する隧道とは別の目的を持って、この辺りをウロウロしていた私。
天気はあいにくの雨で、しかもとても冷たい雨。
秋田で雪が降っても自転車に乗っていた私だが、冷たい雨というのはまた違った苦しさがある。
グローブ越しでもかじかむ指先に顔をしかめつつ、たどり着いたのは、一本の橋とその先に口を開けた、控えめなトンネル。

もともと興味がなかったので、ここに来て初めて知ったのだけど、どうやらこの辺りは養老渓谷という観光地の一部らしい。
特に紅葉の時期には大勢の観光客が訪れるらしいけれど…




橋の上から見る渓谷は、全てがくすんでいるようで、人影など全く見えない。
浅い水面も今は雨粒に小さな波紋を浮かべるばかりで、自慢の水鏡を曇らせていた。

あいにくの光景…。

そう思ったが、もしあたりに大勢の観光客がいて車通りも激しかったら、このあとの遭遇は別の形になっていたと思われる。
私が静かな気持ちでいられたからこそ、私が一番ドキドキ出来る形で“出会えた”のだ。




これがその、問題のトンネルだ。

しかしこの時点では、なんら変わったものには見えない。

また、ここに来るまで特に何かを予告するような表示もなかった。
予告といえば、坑口の傍らに「高さ制限3.4m」の標識があるくらいで、これとて特別なものとは言えまい。

確かにこの道が国道であるなどといえば、なるほど“酷道的”な景色かも知れないが、残念ながらここは単なる大多喜町の町道であって、何も珍しいと思うようなものはないのである。

なお、トンネル前は十字路だが、右は旅館に突き当たり、左は砂利敷きの空き地(駐車場?)で行き止まりだ。




なんかの心霊写真本みたいだが、なぜかデジカメで撮影しようとすると、洞内の照明が緑色になってしまう。
どんなメカニズムなんだろう? 不思議だ。
しかし肉眼では普通に白い照明が、壁に白く反射しているだけである。

1車線幅とそれに合わせた高さをもった控えめなコンクリート坑門だが、その奥の坑道は、確かにちょっとだけ変わっていた

そんなに長い隧道ではあり得ないのに、反対側が見通せない。
しかもその理由がカーブではなく(確かに出口部分はカーブミラーが必要なほど曲がっているが見通せないほどではない)、起伏なのだ。
長いトンネルならばよくあることだが、こんなに短いトンネルで、これだけはっきりと“拝み勾配”がつけられているのは不思議だな…と思った。

しかし、その事に理由がある とまでは、まだ思っていなかった。




で、このトンネルには扁額もちゃんとある。

御影石に陰刻された題字は、「共榮トンネル」。
「榮」という字は「栄」の旧字体なので、本稿タイトルを含め、以後は新字体で表記したいと思う。

しかし、旧字体が自然と用いられるほど古い隧道なのかと言われれば、そうでもないようだ。
昭和45年3月竣工」だそうであるから。

旧字体は、扁額としての見“栄”えの問題…かな?




雨は止んでいない。
さっさと隧道に潜り込んでしまっても良かったはずだが、なぜか私はここであまのじゃくになった。

前述の通り、坑口前には左右に道が分かれていた。
そして、私はなんら目的を持たないまま、左の空き地へチャリを進めていた。
結果的にそこで廃道を見つけるが、あると思っていたわけではない。
ほんの少し予感があったとすれば、過去のいくつかの経験による…。

坑口近くがクイッと曲がっているトンネルには、そうなる前の“直線時代”の坑門が別に存在することがある…。白石トンネルとか、神無月隧道とか…)




はっきり言おう。

「確実に何かある」と確信した決定打は、他ならぬお前だ。

何気ない駐車場の一角にぽつねんと佇む小さな立札に書かれた、「行き止まり」と「立入禁止」のマーク…。

こういうものがあると、道ならぬ場所にも道を感じてしまうのが、オブローダーの性である。

自然と私の中に一筋の道が現れる。
こうしてラインを引いてしまえばあまりにもあからさまだが、実際には相当に気づきにくい立地だと思う。
たいていは、一度隧道に入った後で初めて気づくのではないか。(どうせ気づくわけだが…笑)

ちなみに自画自賛じゃないですよ? 呼ばれたんですよ。




9:31

うんうん。 これは… あるな。

“直線時代”の旧坑門が、多分出てくるんだろう…。わくわく




行き止まりだ。

はじめは素堀だった周囲の壁が、コンクリートを吹き付けたものに変わったあたりから、本当の意味で予感は確信に変わっていた。

そしてまもなく前方を塞ぐ壁が現れると、そこに坑口の存在を信じて疑わなかった。

今はまだ、視界を遮る笹のせいではっきり見えないが…。

足元に障害物出現。
路上にあるべきではない謎のコンクリート製障害物だが、それがなんなのか考えることよりも今は、右にこれを躱して坑門に肉迫することを優先した。




キタ!

と思った瞬間の

言いようのない

違和感!


思っていたのとは、少しだけ違う景色。
確かに坑門が現れたが、なるほど…これは変態だ。




ここで初めて気づく。


いつぞや見たアレは、ここだったのか… と。



出会っちゃった…。




トンネル on トンネル!!