10:09 双葉町 森合橋
前田川という、空を映して動かない小さな川を渡って双葉町へ。
長閑な田園風景と川に始まった双葉町の県道391号は、約5km先で原発に終わるはず。
どんな景色の変化があるのか、いまから楽しみだ。
橋を渡ると、道はやや広くなって田んぼの中を南下する。
この場所に、初めてフルスペックのヘキサ(県道標識)が現れた(ただし進行方向反対向き)。
少なくとも、旧道やバイパス未開通区間では初めて見る。
終点から17km地点。相双建設事務所にどんな心境の変化があったのだろうかと思うが、よりによってバイパス開通で早々と県道降格した区間に設置するなんて…。
森合橋から約400mで、水路のような小さな流れを再び橋で渡る。
橋の先は大字が郡山に変わる。
そして、橋名は「増田橋」。
昭和初期を感じさせる重厚な欄干と親柱だが、銘板曰く昭和13年3月の竣工とある。納得。
永久橋が珍しい時代に架けられている事を思えば、平成になってようやく県道指定されたこの道であるが、結構由緒深いのかも。
増田橋から220mで、双葉町に入って最初の直角曲がりが現れる。
当然のように“彼女”がナビ。
右折が正解だ。
ちなみに、彼女の定位置としてこれまで最も多いのが、交差点を示す警戒標識の柱に取り付けられているこのパターン。
マジでどうでも良い知識だが。
この交差点に反対側から来ると、ご覧の看板有り。
妙に余白が多く、俳句を書いた短冊のような標語。
そのせいで、既にスピードを出しちまっているドライバーの目にはとまりにくい。
それによく見ると、もうこの道には“アトミックパワー”が入注されはじめている!
こういうのも企業としての「地域貢献」の一環なんだろうけれど、行政が作ったもの以上にお堅い感じの字面が、いかにもそれっぽい…。
ぶつかった道は2車線だったので、県道391号も2車線になった。
本当に、ただそれだけ。
県道になってから変わったことと言えば、随所にこの目立たない標識が追加されたくらいであろう。
一旦は西に進み始めた県道だが、77mで今度は左折し、南進を再開する事になる。
なお、“彼女”の定位置として、電柱も結構見るパターンだった。
ちゃんと曲面の電柱にフィットするように、標識自体も曲面になっているこだわり。
遮るもののない田んぼの中の直線を、900mほど南進する。
この区間では、約500m東側に新たに作られた県道のバイパスが平行(まさに平行)している。
当然その様子も見て取れるわけだが、こちらと同じで、全くと言っていいほど通行量がない。
ちょっと過剰整備ではないかと思ってしまう。
一方で約1.7km西側に国道6号が並行しているのだが、そっちは建物に隠れていて見通せない。
しかし、見なくても2車線いっぱいにクルマが溢れている6号線が想像できる。
隣にこんなに空いている道があるなんて、地元ドライバー以外は知らないだろう。
山際にぶつかると、そこに十字路がある。
珍しく彼女の姿が見えないが、ここは直進なので問題はない。
これまで何度も同じような景色を見てきたが、また砂丘性の小さな岡を登るのだろう。
そして、また下って田んぼが始まるに違いない…。
10:19 《現在地》
上ること350mほどで、中島という岡の上にある集落に出た。
岡の上を横切る町道にぶつかるので、またちょっとだけ県道は“間借り”をすることに…。
ナビ江ちゃんに従って、右折だ。
さっきは田んぼの中だったが、今度は岡の上の住宅地で、さっきと全く同じような屈曲を描く県道。
すなわち、右に折れて町道に入り、130m先を今度は左だ。
律儀に辿っているバカバカしさが、むしろ心地よい。(なんて言ってられた、このころはまだ(笑))
10分くらい前に予想したとおりの展開。
直前に登った分だけ下ると、また田んぼが現れた。
そして、次の山際まで真っ直ぐ進む。
もうパターン入った?
いや…。
次はこう見えても、原子の火が灯る山である。
またタラタラと登って岡の上に着くと、4車線の道が唐突に現れて、進路をぶった切った。
もっとも、我らが県道391号。
しぶとさと世渡りのうまさだけは一級品。
どんなに強い道にぶつかられたって、無くなったりはしない。
見て欲しい。ナビ江ちゃんを。
左に折れてすぐに右。そう言っているじゃないか。
4車線の道だって、当然“乗りこなす”のである。
「ちょっと借りますよ〜。」
それにしても、この道の広さは何だ?
国道のバイパスなのかってな具合だが、これでも町道だと言うから驚く。
いや、失礼。
別に町道に4車線の道があっても良いんだけど、それは通行量があってのことでしょ。
いったい何のための4車線なのか非常に疑問なのだが、とりあえず県道391号では唯一の4車線区間である。
そして、次の写真に注目。
右と同じ地点に立って撮影したものだ。
ただし、今度は進行方向側を向いて。
県道391の4車線区間は、100m足らずで終了なのである。
ますます4車線の意味が分からないが、ここで4車線をスパッと打ち切っている道こそ、浪江町で分かれたきりだった県道バイパスであった。
堂々たる青看には、誇らしげにヘキサと行き先が掲げられているが…。
4車線+2車線+2車線の合計8車線が捌かれる交差点のくせに、信号もない。
信号は無くても困らない。
だって、クルマがとにかく通らないんだもの…。
突然蜃気楼のように現れては、あっという間に消滅してしまった4車線の道。
潮風だけが走り抜ける、広大な交差点。
南相馬市と浪江町の、どこか慎ましさを感じさせる整備状況に較べて、双葉町はなんかおかしいぞ。
そう思っていたら、やっぱりだよ…。
レポートを書いている矢先に、こんなニュースが報じられているじゃないか。
財政難:町長、自ら「無給」に 福島・双葉
福島県双葉町の井戸川克隆町長は16日、来年1月からの3カ月間、自身を実質的に「無給」とする条例案を町議会へ提案した。月給を5万6000円とし、住民税や健康保険料などを天引きされると、ほぼ0円になる。理由は財政難で、町は来年度適用の自治体財政健全化法で「早期健全化団体」になる見通し。全国町村会は「不祥事による返上はあり得るが、財政難での報酬ゼロは聞いたことがない」と話している。
町条例で定める町長の月給は76万6000円だが、財政難で50%カット中のため、現在は38万3000円。条例案は18日に可決される見通しで、4月以降は改めて検討するという。井戸川町長は「町のため、できるだけのことをしたい。トップの責務として、ささやかでも改善に努める必要がある」と話した。
双葉町は福島第1原発の交付金で潤い、下水道や「ハコモノ」を整備したが、最近は維持費などから財政状況が悪化。昨年度の実質公債費比率は県内最悪の30.1%だった。
引用:毎日新聞 2008年12月16日 http://mainichi.jp/select/seiji/news/20081217k0000m040044000c.html
(下線は筆者による強調)
町長の前代未聞の無給は立派だが、「双葉町は福島第1原発の交付金で潤い、下水道や「ハコモノ」を整備したが、最近は維持費などから財政状況が悪化。」というのでは、まるで子供。
4車線の道とか、2倍も維持費かかるんだからやめておきゃ良いのに…。
「原発マネーウハウハ!!」なんてやってるから、こうなるのである。
つうか、この町長さんは平成16年に当選したばかりなので、他人の尻ぬぐいかよ…。立派な為政者だ。
無人の交差点を後に、バイパスを取り込んだ県道をさらに南下する。
それから300mほど進んだ辺りからだった。
あたりが、何とも言えぬ、重苦しい空気に包まれたのは。
道が二手に分かれる。
ナビ葉ちゃん(浪江町にかけて「ナビ江ちゃん」だったので、今度は双葉町にかけてみました)曰く、左が正解と言うことだが…。
ついさっきまで4車線だった道が、もう1車線ですか…。
この交差点。
どこか日本っぽくない風景だと思ったが、それはデルタ形交差点であることと、道の左側に現れ始めた鉄柵が異質な雰囲気を醸し出しているからだろう。
なお、この先は大字が郡山から、細谷に変わる。
うーん。
何とも物々しい雰囲気。
原子力発電所が近いから、こんな景色になっているのだろうが、見たところ、二重の鉄柵の向こう側も森である。
当然だが、何か臭いがあるとか、音がするとか、そう言うことはない。
目をつむれば、静かな野山である。
でも、この雰囲気はなんか気圧される。
県道を走っている限り何にもやましいことはないわけだが、余りにも通行量が少ないせいか、既に不審者としてマークされているのではないかというような疑心暗鬼にとらわれた。
柵の所々に掲げられている警告文。
周辺監視区域
立入禁止
東京電力株式会社
(福島第一原子力発電所)
やっぱり原発っつうのは、神聖にして侵すべからざる領域なんだな。
だって、厳重さが自衛隊の駐屯地以上だもの。
私が昔住んでいた近くに「秋田火力発電所」があって、周りに柵は巡らせていたけれど、建物はすぐそこに見えていたし。
東京ドーム77個分もの広さがある敷地には、正面入り口の他にいくつかの裏口がある。
県道脇にも、そのうちの一つがあった。
標識だけを見れば、いまの時間は立入は禁止されていないものの…。
当然のように、守衛所付きのゲートが待ち受けていた。
もちろん、私にはこの奥に行く用事なんて無いわけで、県道から一歩も踏み出しはしないわけだが。
引き続き左側に原発の敷地を見ながら、県道はやや下り基調となる。
道の両側の刈り払いが妙に徹底している。
何か、ゴルフ場の中を通っているような雰囲気もある。
辺りには、全く人気はない。
公道かと疑いたくなるほど、通行量も少ない。
見えた!
あれが原発!!
「シムシティ」ではずいぶんお世話になったが、生で見るのは初めてだ。
フェンスが少し遠のいて、代わりに田んぼが現れた。
その田んぼ越しに、約1km離れた原発の施設が見えたのである。
見える範囲では火力発電所との違いは分からないが、昭和39年の1号炉発電開始以来、現在は6号炉までが稼働しているという。
あの静まりかえった箱の中で、禁断の原子の光が燃えているのだろうか。
建物のこの色合いは、模様?
まさか、戦時中に日本軍が色々な施設に施した迷彩のような意味では無いよね?
木漏れ日をイメージしたデザインだとしたら、この施設にこれ以上のミスマッチはないように思ってしまうが、真相は聞いてみないと不明。
いずれにしても、気持ち悪い。
背景に原発があると、何を撮影しても物語性が醸し出されてしまうような…。
冬だから耕作されていない田んぼと、荒れ果てたハウスの残骸を前景にすると、なんか重いぞこれ。
一つだけ実ったまま放置されたトマトが、怖い。
のんびり草をはむ牛たちも、ドキュメンタリーかニュース映像みたいに見えてくる不思議。
しかし、県道391号は淡々と続いているんだな。
確かに原発はそばにあるけれど、道自体はどこにでもありそうな景色のままだ。
人家こそ無いけれど、人の営みは色々と垣間見れるし。
拍子抜けとかそう言うんじゃなくて、原発を特別なものと見ていた自分の視野の狭さを気づかされた感じがする。
秋田や東京に住んでいると、原発は遠く離れたものだけど、暮らしのそばにある場所もあるわけで。
何となく負い目のようなものを感じた事が、2年経ったいまでも思い出される。
10:42 大熊町境
双葉町としては最後の大字だった細谷は、原発のイメージだけで終了。
この何の変哲もないカーブが、大熊町との境である。
反対側から来ると、双葉町の標識が立っているのでわかりやすい。
原発を傍らにしてから既に1.3kmほど進んできたが、大熊町に入ってからも、それはもう少し続く。
長い県道391号の中でも“唯一ここだけ”のものがある大熊町へと、次回はアタック!