「大貫海浜橋」という名前は私が仮に付けたものだが、
まもなく実物を目にした皆さんは、
この命名に作為的なものを感じてしまうと思う。
というか、この橋が架かっている場所の名前を書いてしまうと、その時点でメッキははげてしまうのだ。
なんの脈絡もないが、とにかくここを左折する。
看板があって、「大貫海浜児童遊園地」とかいてある。
大貫海浜児童遊園地にあるから、「大貫海浜橋(仮)」である。
…ブラウザは閉じないでね。 もちろん、“タブ”もね。
これが、大貫海浜児童遊園地だっ!
ひゅー……
…いざ、入園!
事件現場みたい…。
死
屍
塁
塁
死屍累々。
この公園遊園地には、生きた遊具はないのだろうか。
異様な気配が辺りに漂っている。
すぐ背後は海なのに、渚の音も聞こえない。
周りには人がいるのに、この公園だけが無視されている?
生きた遊具を探して、せまい園内を彷徨う。
それは、
あらわれた。
まるで、
わたしを、
待っていたかのような
一本の吊橋。
今まで数多くの吊橋を見てきたが、
主索と橋板が一体になっている形式は、初めて見る。
これは遊具に過ぎないけれど、
太古の昔、人類が最初に編み出した吊橋も、この形式ではなかったろうか。
明らかに傾いている。
男として生まれてきたからには、
渡らなければならない橋がある。
たとえ、命を懸けることになってもだ。
主塔と橋台を兼ねる櫓に、無言でよじ登る。
そして、全長10mほどの世にも美しいカテナリー曲線を俯瞰する。
この高さゆえ、潮風が耳腔に音を立てた。
たまらずに目を閉じると、
母の顔が目蓋に浮かんだ。
オブローダーに、手向けのことばをかけるものはいない。
自己責任の四文字が、重くのしかかった。
しかし、目蓋の母はにっこりと笑った。
私は静かに目をあけ、定められていた一歩を踏み出した。
完