2011/12/6 16:34
国道101号のうち、能代から鰺ヶ沢まで日本海沿いを走るルートは、比較的人気のあるドライブコースなので、体験したことがある人は少なくないと思う。
しかし、如何せん長い行程(約100kmある)なので、そのほぼ中間に位置している深浦あたりでは、少々ダレることもある。
そのため、私もこの道を何度も通して走っているが、これまで何とも思わず素通りしていた景色の中に、なかなか他ではお目にかかれないレアな風景があったことに、最近初めて気がついた。
そして、もう本来ならば探索に興じるような時間ではなかったのだが、つい寄り道をしてしまった。
それは、この場所。道ばたに小さな建物があるのは、誰の目にも止まるはず。→
しかし、こんなものを素通りするのは超簡単。
車だとほんとうにあっという間である。
それは、弘南バスの広戸(ひろと)バス停だ。
なるほど、小屋の正体は北国の風物詩であるバスの待合所か。
否である。
こいつの正体は、(勿体ぶるほどではないかも知れないが)
駅だ!
どうだい。 ワクワクして来たろ?
これは新しい!
超・シームレス!
超・バリアフリー!
超・(駅前道路が)短小!!!
こんな景色が車窓からチラッと見えたのに、これまで何度もスルーしていた自分がカワイイ。
いや、これはスルー出来ないでしょ、気付いちゃったらもう終わり。
車のままホームに乗り込んだらキチ○イだが、チャリくらいは全然OK。むしろ私のような輪行ユーザーにとっては、こんなに便利な駅はそうそうない。
そして、残念ながらそんな路線は指定されたことが無いが、もしこの駅に「駅前県道(広戸停車場線)」があったなら、その全長は1m未満であって、間違いなく日本一短い県道になっただろう。
私としては今からでも遅くはないので、広戸駅前の道を県道に昇格させる運動(広戸停車場線県道昇格既成同盟会)をぜひ展開して欲しいと思っている。
え? 改札??
東北にそんなものは無い!!(←言い過ぎ!)
確かにこれは歴としたJR東日本が管理する駅舎であり、ホームである。
JR東日本 広戸駅 Hiroto Station
その証しに、あの見慣れた配色(緑白)の駅名板が、小屋もとい駅舎の壁に無造作な感じで取り付けられていたのである。
国道側に一切窓がないので、駅舎を普通に便所だと思っていた人は、いますぐ謝ってください。
でも、この直前まである歩道が、駅舎のために消えているので、これを「邪魔な小屋」だと思っていたサイクリストは許されます。
駅なめんな!
と言わんばかりに、煌々と灯を点していた小屋、もとい駅舎。
確かにバスの待合所が夜に点灯することはほとんど見ないから、駅の面目躍如たるものを感じる。
しかし、これは本当に駅舎と呼んで良いものなのか。
普通ならばホームの上にある待合室が、ホームが片面で狭く、しかも背後を国道に迫られていて、それを置くスペースが無いために、仕方なく駅入口に移動している待合室のような気が…。
駅舎の定義は知らないが、改札もなければ、出入口もひとつしかないるぞ…。
待合室としてみれば、至って普通の作りをしている。
国道側には敢えて窓は設けらておらず、ことさら旅情を殺ぐことが内容に配慮されている(気がする)。
ただし、実際は壁1枚を隔てて大型車が疾走しているので、車の走行音と、場合によってはその風圧に伴う振動からも逃れられない。
まあ、列車が通り過ぎたときの方が、それは激しいけど。
対して線路側はほぼ全面窓であって、そこにはバラストの上に乗せられたレールと、その向こう側に防風柵を透かして海岸線へと繋がる草原が見えている。
こちらは旅情感のある眺めであって、いま、居眠り運転のダンプカーがカーブし損じて突っ込んできたらオシマイという我が身の境遇も、しばし忘れさせてくれる。
総じて言えば、立地以外はいたって普通の待合室(もうこれは待合室と呼ぶ)であった。
見よ! このホームの肩身の狭さを!
しかし、ここで大好きな道路(国道)と線路に挟まれて幸せ〜などと宣ったのは、きっと私だけではあるまい!
それにしても、この駅からの眺めからは、その利用者像が見えてこない。
強いて言えば、写真にも奥に写っている中規模の工場があることくらいだが、駅の周りに人家は見あたらず、ただ国道を絶え間なく駆け抜ける車のライトが眩しかった。
五能線が閑散としたローカル線であることは言をまたないところであるから、この国道との対比はなかなか鮮烈であ
あっ!
掲示されていた時刻表には無い列車が、かなりの勢いで入線してきたので、狭いホームでちょっと焦った。
しかも、バックから思いっきりされた。
五能線で、広戸駅さまに見向きもせず走り去るのは、それはもうアイツしかいない。
リゾートなんちゃらという名前がついた、某細田氏も好んでいる、五能線らしからぬ優等列車だ。
ヒロトさまを軽んじるとは…、いくらホームが3両分くらいしか無さそうだからって、無視しないでよ。
ビックリするジャマイカ。
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おかげで、地図を見せるのを忘れていた。
←これが広戸駅の周辺の地図だ!
なぜこんな場所に駅があるのか、不思議に思える立地である。
線路が開通したのは昭和9年だが、広戸駅の開業はそれから20年も経った昭和29年だという。
しかし、当時は周辺に家並みがあったかと言われれば、そんなこともないらしい。
というか、本当はこの小広戸川の河口部ではなく、南(深浦側)に300m離れた広戸川の河口部(高田)に設置出来れば、駅名となっている広戸集落からももう少しは便利だったに違いないのだが、それが出来なかったのは、そこの土地が上手くゲット出来なかったからだと思われる。
だから昔から無人であった小広戸川河口部に駅を設けることとなり、そのために線路を移設するのも大変だからと、国道と極めて隣接した狭い場所に駅が「はめ込まれた」のであろう。
国鉄側にそこまでして駅を設けるメリットが大きかったようには見えないから、或いは地元の請願駅であったかもしれないが、詳細は不明である。
なお前後の駅間は、南が深浦駅で3.9km離れているが、北の追良瀬(おいらせ)駅とは2.1kmとさほど離れていない。
このアンバランスも、現在の駅位置が妥協の産物であることを示唆しているように思われる。
カシミール3Dを使って、広戸集落がある台地上から駅の方を眺めた鳥瞰図も掲載しよう。
一帯の特異な地形が見て取れると思う。
国道の方は台地上に上がったり下がったりを臨機応変に繰りかえすが、
鉄道の方はほとんど海岸線を定位置としていて、その事も駅と集落の距離を離しているのである。
広戸を名乗りながら、駅のある場所はとてもその名に似つかわしくない、“狭”戸である。
駅は国道と線路に挟まれているが、線路もまた日本海によって陸に押しつけられるように縮こまっているのであって、線路脇に設けられた防風・防雪・防砂・防波濤の柵も、あまり頼りになりそうではなかった。まあ、いかにも五能線らしい景色である。
なお、現在の広戸集落は、駅から南に1.5kmも離れた深浦台地上に広がっているから、まさに広戸はうってつけの名前だが、そういうところは水利の便が無く、かつては耕作に不便であった。
戦国時代の文書に広戸が「飛浪途(ひろと)」と出て来ている(角川地名大辞典)のは、大昔の集落はやはり海岸線の広戸川や小広戸川の河口部にあって、一帯の他の集落と同じく、漁労に主たる生活の根拠を求めていたのではなかったかと連想させる。或いはこの海岸沿いにあった今の国道の前身である「西浜街道」の厳しい旅路に由来するかもしれない。
(台地上から縄文遺跡が出土している情報もあるが)
少なくとも、この駅名には広戸より「飛浪途」のほうが似合っているし、観光的にもウケが良さそうだ。
広戸駅の最大の特色が、幹線道路との超近接立地であるが、その利点を最大限活かしているのが、バスと鉄道のコラボレーション(大袈裟)である。(ちなみに正式な駐車場は無い、空き地は近くにたくさんあるけど)
おそらく日本中探しても、この駅ほど鉄道とバスの(物理的な)連絡に長けた駅はないだろう。
乗り換えのために通常有る改札や階段といった障壁が、ここには無い。
特に道路の下り車線側にある鰺ヶ沢方面行きの広戸バス停との連絡の速さは尋常ではない。列車から降車する際の扉にもよるが、おそらく5秒くらいしかかからないだろう。
(一方で、上り車線側のバス停へ行くには国道を横断しなければならないが、そこには横断歩道があるわけでもなく、また車もそういう横断者を全く予期していないので、要注意だ!)
欲を言えば、待合所の道路側にも窓が有れば、バスの往来を確認出来るので、その待合所としても共用出来るのだが、流石にそこまで彼らが手を結ぶわけは無いのかもしれない。弘南とJRは敵同士なのだから。
つか、駅に入るなら入場券を買えと怒られかねないな。
しかし、物理的にどんなに駅とバス停が近くても、実際の運行が無ければ全く絵に描いたマシュマロである。
その辺はどうなっているのかを確かめるため、汚ったならしいバス停の時刻表と、小奇麗な駅の時刻表とを、ヨッキれんが仔細に調べ上げ、禁断の共演させたのが左の図だ。
どっちもろくに走ってない仲が悪いなどと書いたが、両者は互いを上手く補い合っているではないか!
つか、期待したような連絡出来るダイヤが全くない!
しかしそれも道理であって、この西海岸の交通は全く南北方面の縦線しかないから、五能線と国道101号のバスとは、運行経路において完全な競合関係とならざるを得ないのである。
はっきり言ってどちらも運行本数はまばらであるが、両者が互いのいない時間を補い合うことで、どうにか共存していることが伺える。
朝はほとんど走らないバスと、日中はほとんど走らない鉄道。
どちらのダイヤも、単体で見ると凄く不便そうであるから、これは過疎交通戦争という、ぎりぎりの世界でのせめぎ合いの結果なのだと考えられる。
…意外に、おもしれーじゃねーか。
というわけで、最初は茶化してたけど、なかなか深いかもしれない広戸駅。
完全に陽が落ちるまでこの駅で列車を待つとかは、旅の時間の使い方としては憧れるレベル。
あと、さしもの国道も寝静まった深夜に、この駅舎で寝てみたい(と思ったのに、駅舎に駅寝禁止の表示が…!)。
【おわり】