その35国道458号線 肘折トンネル 旧道2003.6.5撮影
山形県最上郡大蔵村 肘折



 国道458号線の大蔵村・寒河江市間に存在する十部一峠。
今回は、「その34」で紹介した地点から少し進んだ、大蔵村肘折地区に眠る旧道を紹介しよう。




 広々とした高原的な景観が気持ちのよい湯の台牧場の道。
2車線の立派な道に立てられた国道の標識(=おにぎり)も、どこか誇らしげだ。

何も事前知識のないドライバーならば、こんな景色のまま、寒河江に抜けられると思うんだろーなー(笑)。
国道だものナ、そりゃ、油断もするよねぇ。



 牧場を過ぎて少し行くと、いきなり急な下りが始まる。
これが、銅山川の底に位置する肘折温泉に向けての下りの始まりである。
シケインのようなヘアピンカーブを交えつつ、先ほどまでの高原然とした景色が嘘だったかのように猛烈に下る。

…大きな峠を目前にしてこんな風に下るとき、いつもチャリ乗りは泣いているものだ。
目指す峠との高度差は、下るたびにどんどん大きくなっていくのだ。
これ以外に道がないと分かっていても、なんとなく、自分で自分の首を絞めているかのような気持ちにさせられる。
そして、早く下りが終わり、再び上りに転じることを祈るのだ。



 祈りが通じ、現道の下りはトンネルを迎え終了となる。
これが、1990年に竣工した肘折トンネル(延長595m)である。
このトンネルが開通した為に、小松淵と呼ばれる銅山川岸の絶壁を避けて肘折温泉へ通じるようになった。

手持ちの地図には、トンネルを介さない旧道が描かれていた。
トンネルの延長が示すとおり、何キロもあるような長い旧道では無いのだが、まあトンネルでは面白みもないだろうということで、かるーい気持ちで、右手に見える旧道へと立ち入った。
それが、あんなに大変な思いをするとは…。



 旧道に入ると、尚も下りが続いているが、そのことよりも、砂利道なのが気になった。
13年くらい前までは現役の国道だったはずの道が…
…あれ、この国道458号線は、かなり最近になってやっと認定された路線だったような気が…。

調べてみて納得。
この砂利道は、そもそも県道時代の旧道であったことが判明。
国道458号線が指定を受けたのは1992年で、それ以前は山形県主要地方道「新庄大江線」だった。



 現地ではすっかり国道の旧道だとばかり考えていたが、確かに道幅は広く取られていたようだ。
道の山側には、叢に隠されつつあるが、コンクリートの擁壁が延々と続いていて、かつて主要道路だったことを感じさせる。
緩やかだが下りが続いており、しかも、進むにつれ、路面はますます頼りなくなってきた。
よく見ると、轍は二本ではなく、なぜか3本ある。
こんな旧道を走る物好きなライダーが他にもいるのだろうか?



 分岐から300mほどで、いよいよ道は怪しくなってきた。
路面には砂利もなく、土がむき出しである。
下草は刈られており、道の全幅が広かったことは分かるのだが、通り抜けできるのだろうか??
これほど短距離で急激に路面が悪化すると言うことは…。



 ぎゃーーーー。


なんとなく予感はあったが、しかし、ほんの15年足らずでこんなにも道は廃れる物か。
どうして、ここまでの道は一応管理されている感じがあったのに、いきなりこうなるのか分からないが、どうせこんな風になるのなら、最初からこうであってほしかった。
それならば、こんな道に入っては来なかったはずだから…。

どう考えても、これは無茶だろ。
引き返すか……。
しかし、たった数百mでも、下ってきた道を戻るのは気が重い。
ただですら、引き返すのは嫌いなのに。

えーーい!



 場違いな奇声を発しながら(実話)、チャリごと叢に突撃!
そこは、叢がさらにビルドアップした、林であった。
こいつは、強烈だ。
強烈過ぎる。

強烈過ぎるだろ、マジで。
もう、チャリを方向転換することもままならない。
全身を使ってここを切り抜ける。




 視界はほぼゼロ。
朝露に濡れた草木を掻き分けて進むと、あっという間に全身がぐっしょりと濡れた。
不快だ。
足元には、路面と思われる物は何も見えない。
ただ、緑がある。

やばいなー、これ、どうすんの?




 少しでも進みやすそうな、叢の薄そうな場所を狙って突き進む。
すると、ラッセル代わりに利用していたチャリの前輪の先に、思いがけず空間が現れた。


  おわっ!    が、崖だ。





 いつの間にか、路肩ぎりぎりに来ていたらしい。
遥か眼下には、雪解け水を集めて濁流と化したような銅山川の流れ。
このあたりの切り立った断崖を“小松淵”というらしいが、私はこのとき、その只中にあった。

どうなってしまうんだ、私。
ほんの500mほどのトンネルを迂回するだけの、かーるーい気持ちで入っただけだったのに(涙)。
何ゆえ、こんな場所で命のやり取りをせねばならんのだ。
この旧道、マジ死ねそう?!





2003.10.28作成
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