その35−2国道458号線 肘折トンネル 旧道 後編2003.6.5撮影
山形県最上郡大蔵村 肘折



 国道458号線の大蔵村・寒河江市間に存在する十部一峠。
その入り口である肘折トンネルには、旧道が存在している。
1990年までは現役だったはずのその道は、余りにも無残な姿をさらしていた。




 かつて路面のあった場所は尋常でなく豹変していた。
当時ここを利用した方によれば、なんと舗装されていたというが、俄かには信じがたいほどである。
既に雑木林が根を下ろし、路盤など存在していない。
部分的に地面が見えている場所にしても、アスファルトなど見えず、土砂やら瓦礫やらが覆い尽くしている。

そして、それでもここがかつて幹線道路であったことを物語るように、山側のコンクリートの擁壁はしっかりとしており、近代的な設計である。
さらに、写真に写る擁壁に寄り添うような鉄骨は何であろうか?
擁壁の補強なのか、それとも??



 一体この現状はどう説明すればよいのか?
この荒廃ぶりは、わずか廃止後15年かそこらで自然にこうなったとは考えにくいのではないか。
一体何がこの旧道に起きたのか?

これは、あくまで私の想像に過ぎ無いのだが、さきほどの不自然な鉄筋といい、この写真に写る擁壁上部のやはり不自然な“筋”といい、ここに現役当時は相当長いスノーシェード(兼ロックシェード)があったのではなかろうか?
それが、廃止後どのような経緯によるものか測りかねるが、撤去され、またそれと同時に、そのスノーシェード上に溜まったいた土砂やら、根を下ろしていた植生やらも一緒にここに放置されたのではあるまいか。

あなたはどう推理されるだろうか?



 突如、右手の銅山川の方向の視界が開けた。
路面を覆い尽くしていた執拗な叢を脱出したようである。
そして、眼前にひろがる景色に、思わず歓声を上げた。
ちょっと前まで、原始のままの小松淵の威容がそこにあったと思っていたのに、なんと、今そこに見えているのは、集落である。
しかも、決して小さな集落ではない。

まさか、これほどの山中に、しかもあんな谷底に、このような隠れ里そのもののような街があったとは…。

ああ、なんかファミコンのRPGで育った世代としては、なんか燃えるシチュエーションである。



 道はここで二手に分かれる。
一方は右手に別れ集落から登ってきている一車線の舗装路に合流しているであろう道。
きっと、これが肘折温泉に至る旧道であろう。
もう一方の道は、山肌に沿ってさらに真っ直ぐと進んでいる。
こちらが、旧国道、いや、正確には国道昇格前の旧県道であろう。
いずれも廃道の様子だが、温泉には用が無いので直進する。



 分岐点にて、今越えてきたその道を振り返る。
とてもじゃないが、こちらから入って行こうとする者はいないだろうな…。
そんなすさまじいばかりの密林である。
それに、その廃道に覆いかぶさるように緑の触手を伸ばす山上の森も、なんともいえない圧迫感をこの景観に与えている。
緑に呑まれず、辛うじてそこに道があった痕跡となっているのは、法面のコンクリートだけである。



 分岐点より先の道は、だいぶマシになる。
とはいっても、今までが酷すぎたのであって、日なたを中心に叢化はかなり進んでおり難度は低くない。
妙に真新しい雪崩・落石防止用の擁壁が左手に写っているが、ここが肘折温泉街の直上の斜面であるせいだろう。
これが道を守るためのものではないであろうと言うことは、まもなく、はっきりすることになる。



 旧道の道路敷きの7割ほどを堂々と占拠する巨大なコンクリートの擁壁。
こんな物が本当に用を成すのか謎だが、街を見下ろす斜面に異様な威容を晒している(洒落ではない)。
もちろん、これでは旧道を通れるわけも無い…すくなくとも、四輪車では。




 真新しいコンクリートの壁の前に立つと、視界を遮る物は何もなく、眼下の温泉郷から、遠く世界の果てのように聳える残雪の稜線…月山までが、一望の下にある。
それは、絶句するほどに見事な眺めである。

この一帯は「肘折カルデラ」と呼ばれている火山地形であり、温泉が湧出しているのも不思議は無い。
素人目にも明らかに円形と分る盆地に、ここがカルデラ地形であることが、素直に理解される。



 さらに少し進むと、路面に何か埋められていた。
1m四方くらいのコンクリート塊のような物であるが、これも地盤の安定のための策なのか?
この場所に達すれば、やっと苦しかった旧道も終わりである。
写真を見てもらえば分るように、分岐点からここまでの道もそれなりに厳しかった。




 全長2kmにも満たない短い旧道は、肘折トンネル南口手前の広い駐車スペースに於いて現道に吸収される。
しかし、通過には約20分を要した。
その間、殆どチャリは役に立っておらず、むしろ重い荷物であった。
ひたすらに苦しい旧道ではあったが、現道ではトンネルによって何の感動もなく辿りついてしまう肘折温泉が、何倍も魅力的に演出される道ではあった。

こういう部分でも、旅情というのはだいぶ違ってくると思うが、如何か。

…ちょっと、結論への持って行き方に無理があったか(笑)




 おまけだ。

現道さらに100m進むと、信号も無い十字路に突き当たる。
思わず直進しそうになるが、十部一峠に至る国道は左、肘折温泉に降りる県道は右である。
では直進は…?

青看には、見る者を威圧する「通行止め」が描かれている。
これは、行ってみるしかあるまい。





 十字路のすぐ先でご覧の通り閉鎖されている。
しかも、封鎖のバリケードもかなり草臥れている。
これは、何年もの間放置され、深い雪に押しつぶされた雰囲気である。
緩やかな右カーブと、広々とした2車線幅の切り通し。
明らかに、新道のようであるが。




 バリを超えると、そこは廃道の様子。
というか、工事が中断されて久しい様である。
もう、これは放置されているといってよいだろう。

これは、どうも肘折温泉へと向かう県道(主要地方道57号線)の新道のようである。
この先銅山川を渡って肘折温泉入りするのであろうが、そこはどうも未着工らしい。
たしかに、接続している国道のこの先の峠までの状況を考えれば、この県道だけが立派でも余り意味はなさそうだ。
はたして、再びこの先に槌音が響く日は来るのだろうか?




2003.11.9作成
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