今回は、林道だ。
「山行が」では、ここんとこかなりご無沙汰だった林道ネタである。
名は、ソッケ林道。
あ、待って。
名前だけの一発ネタだと思った人、待って!
ちゃんと、廃道だからサ。
寄っていってよ、ちょっと。
国道341号線における、田沢湖町から鹿角市への80km近い山越えルートの前半は、ほとんどダム湖の景色である。
生保内から続く集落が尽きると、間もなく長いトンネル二本が現れる。
2本目のトンネルを出ると、エメラルドブルーの湖が左に現れる。
これが、鎧畑ダムの作る秋扇湖。
さらに、ダム沿いを橋の連続で進むと、ひときわ巨大な玉川大橋を経て、再び車窓はトンネルの連続を迎える。
そして直後、さらに広大な水面が目の前に現れる。
玉川ダムの形成する宝仙湖である。
この先、国道は延々10km近くこの湖の縁を走ることになる。
平成元年に多目的重力式コンクリートダムとして完成した玉川ダムは、県内最大のダムである。
その貯水量2億2900万立方メートルは、2003年末の時点で日本第5位を誇っている。
堤体に立って湖面を見渡せば、その広がりの大きさに息を呑むだろう。
右岸には国道が点々と橋を繋いでおり、その先は霞んでいる。
天気の良い日ならば遠く八幡平の麗峰を見通せるが、今日のように雲が低い日の眺めは黙らせるような迫力がある。
視界は鈍色の雲と水面に挟まれ、若干の息苦しさを感じながらも視線を遠くに遣れば、そこに立ちはだかる黒い峻峰。
その双耳峰は「男神山」と「女神山」という。
県内で見られる景色の中では、私の好きなものの一つだ。
ダム堤体上の道は一般車通行止だが、歩行者まで制限するものではない。
対岸にはベンチの設けられた小公園もある。
ここを渡ることが、ソッケ林道へのアプローチとなる。
すなわち、もう既に自動車は不可だ。
100mを見下ろす堤上を渡ると、この小公園にたどり着く。
私は、てっきりここは行き止まりだとばかり思っていたのだが、地図にはこの先、ダム湖に沿って進む道が描かれている。
また、一部の地図には、ダム湖を渡る唯一の橋である男神橋まで繋がって描かれている。
これが通れるならば、一部だが走り飽きた国道を迂回して進めることになる。
それで今回、行き止まりの林道でないならばと、突入を企てたわけである。
うおっ。
確かに、タイル敷きの公園の隅に、コンクリの斜面に隠されていて見つかりにくい道があった。
ここに一足先に気が付いていた「
自己満足の世界」の照井さんは、たいしたものだ。
ただ、彼が午後4時も回ってから進入した真意は図りかねるが…。
まあいい。
そこが彼の良さなのだ。
さて、ここまで既に2回の通行止ゲートを越えている。
一度目はダム堤体上で、もう一つは上の写真のものだ。
いずれも、抜き差しが人力で可能な簡易な物ではあるが、敢えて突破してくる轍はない。
と、いつもならそう言いたいところだが、今回は違った。
なんと、轍が、しかも新しそうな轍が、所々に残されていた。
しかも、明らかに4輪の物だ。
再びゲート。
これで三度目だ。
ここまでは、入り口から500m足らず。
しかし、既に廃道寸前というか、路盤はしっかりしているのだが、下草が伸び放題である。
しかも、この日は生憎の雨がちで、タップリの雨露がサワサワする私の下半身を濡らしつつあった。
3度目のゲートの先に、果たして轍は?!
なんと、まだ轍は続いている。
わざわざ三度もゲートを持ち上げて突破してきたドライバーには、一体どんな目的があったのか?
湖面とはつかず離れず、国道とは対岸を走るこの道は、ダム関連道路なのだろうか。
特に沿線にダム関連施設がある様子はない。
また、少なくとも現在は林道として管理されており(通行禁止という管理状況だ)、まともに利用されている気配はない。
通常の林道と異なるのは、徹底的な法面のコンクリ補強くらいか。
ダムに土砂が落ちて堆積することを嫌ったのだろう。
下草が伸び放題なのは不快だし、濡れ行く下半身に悲しみと憤りを覚えつつも、まあ路盤自体がしっかりしているので、結構坦々と走れる。
気になるほどの勾配もないし。
また、コンクリが随所随所に「バリッ」と施工されていて、冗長になりがちな湖畔の道にメリハリを付けている。
1kmほど進んできた地点で、ちょっと広場だった形跡。
かつては、普通の砂利敷きの林道だったようである。
ダムの管理上の理由からか、一般車の通行を禁止したことで、こんなに藪となってしまったのであろう。
施工自体は、勿体ないほどに、しっかりとしている。
舗装さえすれば、快適なダム周回路になるかも知れない。
…と言う感想は、ここまでで、おわり。
広場の先、様相が一変する。
一見しては、藪が心持ち深くなったかな、と言う程度なのだけれど、実際に踏み込んでみると大違いだ。
いつの間にやら頼みの綱の轍も消えており、路面には石ころやら木片やらが散乱し始めたのだ。
その不安定な路面が、藪で覆われ見えない足元に広がっているのだから、チャリには恐い道である。
歩くにも、この藪の濃さだと、相当に不快だろうが。
写真には、遠くに男神橋が写っている。
あそこが、今回のレポの終着点である。
轍が消え、藪状況が一気に悪化した理由が分かった。
道が不通となる人為的でない理由が、そこにあったからである。
なるほど、これか。
私は、荒れの原因が分かったことに納得すると同時に、これを越えれば路面状況が復活する可能性が期待できる崩落点を、好意的に見た。
チャリを押し、または担いで、慎重に挑む。
まずは倒木が第一の障害であり、
間髪入れず、路盤全体の消失した沢。
これが、第二の障害だった。
幸い、えぐり取られた沢には水がなく、幅もないので簡単に突破できた。
これを越えても、期待したほど路面状況は改善しなかった。
むしろ、堅い土の路面は苔生し、相当に長い期間通行者がなかったことを感じさせる。
この辺りは、やや登り基調で、ソッケ森からダム湖へ急激に落ち込む斜面を巻いている。
ソッケ林道の名もこの森の名から来ているが、そもそもの由来は、分からない。
ソッケって、なんだ?
ふたたび沢を渡る場面で決壊しており、路盤の大概が失われていた。
これが、第三の障害である。
いや…写真を撮ってないだけで、もっとあったのかも知れないが、まあ、チャリだったら根性だけで突破できるような障害ばかりだ。
廃道ファンには、オススメできるかも知れない。
まあ、あんまり嘗めて取り組むのも危険だと思うが。
ただ、雨上がりや、雨の日はオススメできない。
この日が正にそうだったが、既にパンツまで濡れてしまった。
雨合羽などあってもほとんど無駄だし。(汗で濡れるか、藪に引っかかれて穴が空いて終わり)
ダムから2kmほどで、「ソッケ林道」とだけ書かれた、素っ気ない標柱が現れた。
あ、引いた?
やると思った?
ここには、かなり大きな見慣れぬ木が生えていた。
写真奥に、その太い幹が写っている。
なんだろう、この木。
うわー (←無感動な声)
なんか、いつもなら
完全廃道! などと奇声を発しそうな場面だけど、なんかテンション上がらないし。
何でだろうかと考えてみると、まず比較的新しい林道だということ。
歴史の浅い林道が廃道でも、ちょっと萌えられないなぁ。
むしろ、ちゃんと下草刈れよなって、イライラしてくる。
そして、藪が濡れていて、とにかく不快なこと。
こんな日は、藪は駄目だね。
なんか痒いよ。
どこまでも身勝手な考えに終始する私は、廃道で心が荒んでしまったのか。
このままでは、廃道の無法者となってしまいそうだ。
そんな荒んだ私の走りの前に現れたのは、一人のオヤジだった。
オヤジは、どこまでが道なのかも判然としないような路傍の藪で、一心にフキを刈っていた。
この雨の中、合羽姿でフキを刈るオヤジ。
オヤジは、私がチャリに跨って通り過ぎるのを、まるで絵に描いたような目を丸くした顔で見ていた。
オヤジの通った後の廃林道には、50mおきくらい毎に、ご覧のようなフキの束がまとめて置かれていた。
帰りに回収して帰る魂胆なのだろう。
もろ、轍に置いてあるから、哀れオヤジのフキは、悉く私の轍に踏みにじられたのである。
「ごめん、オヤジ。」
藪が深くて、避けられなかったよ。フキ。
妙に和む、私だった。
フキオヤジをすれ違ってからも、廃道は長く続く。
まさかオヤジがこんなに歩いてきたとは…。
しかも、フキなど国道の脇にもごまんと生えていたように思えるけど…。
写真の切り通しが、ソッケ林道の最高所である。
ここからはやや下り基調となり、置くに見える男神橋を目指す。
ダムから4km弱。
遂に最後の難関だ。
この巨大な倒木の先には、フキオヤジのものらしい車が停まっているのが見える。
進路を崖際に求め、藪を掻き分けて進む。
ここで、雨脚が強まる。
心配なのは、デジカメが濡れないかだけだ。
もう、この廃道で体の方はびしょ濡れだった。
道を埋めた倒木の連なりには、フキが生い茂る。
ここを汗だくで突破したら、やっと廃道は終わる。
そこに停まっていたオヤジカー。
全開!
余裕綽々で、全開!!
いくら山中でも、この全開ぶりはどうだ。
思わず、車内に置いてある「エメマン(未開封)」に私の悪心が鎌首をもたげた。
オヤジ、車開いてるぞ!全開だぞ!!
ここから男神橋まではさらに2kmほど。
次第に轍ははっきりと現れ、じき通常の林道となる。
この辺りには、明通沢という標柱が道路脇に立っていた。
写真の切り通しが名前の由来なのかな、とも考えたが、真偽は不詳。
しかし、立派な切り通しだ。
トンネルになってもおかしくなかっただろう。
間もなく舗装路となり、そのまま男神橋が現れる。
これを渡れば、国道とぶつかるT字路である。
その正面が、男神山だ。
以上。
素っ気なく終了。